第258話 重荷
前話第257話 あらすじ
庭のあちこちに穴を掘り、上エ地少年はいなくなった愛犬ジローを探していた。
そんな上エ地少年に、父ががっかりする、と嘆く母。
上エ地少年は、母、犬のジローをどこに埋めたのかと問う。
勉強をしないから人にあげたと答える母。
しかし上エ地少年は、誰ももらうはずがない老犬のジローを父親が処分殺したのだと怒りを爆発させるのだった。
父の元に向かう前、上エ地少年は鏡に映った自分の顔を見つめる。
上エ地少年の額の右側には「犬」と刺青が彫られていた。
狼狽する父親を見て、ニヤリと笑い、刺青だから消えないと上エ地少年。
愕然とする父親を見て、上エ地少年は噴き出し、笑い始めるのだった。
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目立つ場所に立ち、金塊は誰も手に入れられない、と叫ぶ上エ地。
上エ地の身体には刺青人皮の原型をわずかに残し、追加で大量の刺青が彫られていた。
金塊は誰も手に入れられない、と楽しそうに笑う。
その場の皆、何も見なかったかのように上エ地から目を逸らす。
無反応な彼らに戸惑う上エ地。
鶴見中尉は、24枚全て集めなくても暗号は解ける、と確信を主張する。
失望した上エ地は、煙突状の建物から足を滑らせる。
必死にバランスをとるが、あえなく高所から落下してしまう。
上エ地の顔は、かつて自分が父親にさせた表情と似ていた。
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消火活動が続く中、工場の建物の中にいた杉元とアシリパは
、二階まで降りて窓から逃げる方針で行動を指示する。
土方から預かっている数枚の刺青人皮を、水の上に落として濡れてしまう。
杉元は、門倉の背中に刺青人皮らしき模様が透けていることを発見していた。
背中だけのスジ彫りだと答える竹ノ内。
門倉の刺青は集団脱獄後にのっぺら坊に極秘で作らせろと言われた結果彫られたものだった。
「こいつが24番目に彫られた最後の暗号だ」
濡れたシャツ越しの背中の刺青を見せつつ、門倉が答える。
第257話の感想記事です。
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第258話 重荷
杉元たちを救出に向かうのは……
牛山はオルトログの死体を台車に載せて運んでいた。
走りながら、第七師団が来ていると土方たちに警告する。
土方が牛山、都丹、夏太郎に速やかに撤収すると指示して現場から逃げていると、後ろから白石が走って付いてくることに気付く。
杉元たちを見失ったと言う白石に、牛山は杉元を見た建物を示す。
その建物の上の階の窓からは煙がもうもうを出ていた。
杉元とアシリパは門倉に方向を確かめながら、建物から脱出しようとしていた。
たぶん…、と自信がなさそうに答える門倉。
煙で充満している建物の中を急ぐ杉元たちだったが、扉を開けば黒煙が上がり、どこに逃げたら良いかわからなくなっていた。
杉元は、口元を覆い、床に座って咳き込むアシリパに、鉢巻を濡らして口にあてるよう指示する。
「杉元ー!! いるのか!?」
アシリパは杉元と共に外から聞こえる白石の声に反応し、白石に出口はそっちかと問い返す。
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出口はこっちだと建物の入り口から声を張る白石。しかし煙がひどく、すぐに咳き込んでしまう。
「下がってな 白石由竹」
現れたのは海賊房太郎だった。
「俺が探しに行く」
海賊は「無理だ」と言う白石に、白石よぉ、と切り出し、悠然と答える。
「幸せは天から降ってこねえ 死物狂いで掴みにいくんだ」
白石は杉元は不死身だから自力で脱出してくる、と海賊を説得を試みる。
「死なねえよ」
絶対の自信を感じさせる態度で海賊が続ける。
「これは語り継がれるボウタロウ王の英雄譚の一場面に過ぎないからな」
上体を逸らしながら、思いっきり胸に空気を取り込む海賊。
口をパクパクさせて、ダメ押しの酸素供給を行ってから煙が充満している建物内へ悠然と進んでいく。
白石は杉元に海賊に位置を知らせるために、声を出し続けろ、と叫ぶ。
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裏切り
杉元たちは煙の少ない方向へ、ビール工場内を逃げていた。
杉元たちとは別の建物内に入っていた菊田特務曹長は、前方から歩いてきた人物にピストルの銃口を向ける。
そしてその人物が尾形であることを確認すると、二人は互いに何事もなかったかのようにすれ違うのだった。
煙から逃げていた杉元たちは、とうとう行き止まりに行き当ってしまっていた。
戻ろうとした時、そこに海賊が現れる。
「ボウタロウ……」
朦朧とした状態でアシリパが呟く。
「お前助けに来てくれたのか…」
アシリパに手を差し伸べる海賊。
海賊はぐったりしたアシリパの体を抱えると、そばにあったスコップを握り、杉元の頭をスコップが折れるほど強く殴りつける。
折れたスコップを拾い、海賊を背後から殴る門倉。
しかし海賊はすぐさま背後の門倉に向けて蹴りを繰り出し、門倉を吹っ飛ばす。
ビール製造容器に強かに背を打ち付けた門倉の体から、無数の刺青人皮が散らばる。
刺青人皮に視線をやる海賊。
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その隙を突いて、口元を布で覆った杉元が銃剣を海賊に向けて突きだす。
銃身を手の甲で動かす海賊。
軌道を逸らすことで右肩に銃剣が刺さり、杉元が放った銃弾もまた同時に海賊の右肩に傷を負わせる。
続けて海賊の顔に向けて銃剣を突き出す。
銃剣は、体をわずかに横にずらした海賊の右耳を根元から切り裂く。
しかし海賊は全く動じることなく、冷静に杉元を見据えて、杉元の腹に前蹴りを放つ。
床に転がった杉元は咳き込むばかりで立ち上がることが出来ない。
(体が動かねえ)
その間に海賊は門倉の持っていた刺青人皮を集めて、アシリパを抱えたまま部屋から脱出しようとする。
杉元は這いつくばりながらも、アシリパの矢筒の紐を掴んで海賊の足を止める。
しかし海賊は冷静にアシリパの肩から矢筒を外すと、速やかにその場を後にするのだった。
建物内で何が起こっているか知る由もない白石は、ただただ入り口から杉元たちの名前を呼び続けていた。
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説得
海賊は白石がいる扉とは別の位置にある出口から外に出ていた。
ヒュウ、と一気に空気を吐き出していると、アシリパが扉の取っ手を掴んで、このまま海賊にさらわれることを拒否する。
杉元……と朦朧とした意識で呟くアシリパに、海賊は冷徹な視線を向ける。
「蝦夷共和国なんて考えてる連中と山分けしてたら俺の夢は叶わない」
「『アイヌのため』なんて重荷は下ろしちまえよ」
杉元は必死に階段を降りながら、アシリパの名を呼ぶ。
杉元の声が聞こえるか? とアシリパに問いかける海賊。
「殺しても良かったんだぜ 今まで生き延びられたのは運が良かっただけだ」
「そのまま運良く金塊を見つけられたとして 杉元はずっとアシリパのそばにいてくれるかな?」
「金塊なんて俺が全部奪ってやるよ」
そう言いながら、海賊は扉の取っ手からアシリパの手を離そうと腕をゆっくりと引っ張る。
「杉元に目的が無くなればずっと一緒にいられるんじゃないのか? 村へ帰ってふたりで幸せに暮らせばいい」
アシリパの手が取ってから離れていく。
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感想
タイミングを見計らっていた海賊
煙で思うように身動きがとれない、杉元たちにとって最悪のタイミングでの海賊の造反。
長時間の潜水が出来る驚異の心肺機能を持つ海賊にとってみれば最高のタイミングだ。
まさか海賊の特技がこの局面で活かされるとは……。
不意打ちの形で杉元が先制攻撃を受けたのを目の当たりにした門倉の状況判断は早かった。
海賊が杉元を殴った際に折れたスコップを拾い、海賊を殴りつけた。
その門倉に対して蹴りで反撃している間に杉元は態勢を整えて、海賊を銃剣で一刺し&銃撃。
海賊が銃身を手の甲で叩いて軌道をずらしたため、惜しくも海賊の肩に負傷を負わせるに留まった。
海賊が冷静過ぎる。普通に戦っても強いのに、地の利がある状況では海賊の独壇場になって当然だった。
しかし杉元も完全不利な状況下で海賊に着実に銃剣による攻撃を浴びせている。煙さえなかった……、と思うばかりだ。
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あまりにも多き過ぎるアドバンテージを維持したまま、海賊は動けなくなった杉元と門倉を置き去りに、アシリパさんと門倉の持っていた刺青人皮を抱えて脱出したと……。
ただ、海賊が杉元と門倉に留めを刺さなかったのは普通の悪役とは違う所だと思う。
そのまま放置でも煙にまかれて死ぬと思ったのかもしれないけど、確実なのはとどめを刺す事だった。しかし海賊そうしなかった。それは何故なのか。
海賊はラストでアシリパさんに、金塊を自分が全部奪い、目標をなくした杉元と村で一緒に幸せに暮らせばいい、と言った。
アシリパさんから暗号解読の鍵を聞き出すためのエサとして生かしておく必要があると感じたのか。
それとも海賊なりの情なのか。
このまま杉元はアシリパさんをさらわれてしまうのだろうか。せっかく樺太から連れて帰って以来、ずっと一緒にいたのに、また離れ離れになってしまうのか……?
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尾形と菊田
尾形と菊田特務曹長が普通にすれ違った。
宇佐美上等兵は元々尾形が気に入らなかったこともあって、少し前の話のような死闘が繰り広げられた。
菊田とも、宇佐美上等兵との戦いとまでいかなくても、互いに威嚇し合ったり、或いは一戦交えるところまでいってもおかしくないと思う。
しかし全くの無風だった。互いの存在を認知しても当たり前のようにスルーするのみ……。
尾形はともかく、菊田に関しては、仮に他の第七師団の仲間がこの場にいたら、果たして尾形をスルーしていただろうか?
菊田は、自分が中央政府のスパイであることを有古一等卒に告白している。
そんな菊田と当たり前のようにすれ違う尾形……。
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これまで尾形が金塊争奪戦に参戦した、その目的ははっきりとは見えてこなかった。
どの勢力に属しているのか不明だった尾形だが、今回のことで菊田と同様にバックに中央政府がいる可能性が出てきた。
ただ、仮に中央政府の意向を受けて尾形が動いているとしても、そこに独自の動機が全く絡んでいないとは思えない。
尾形の魅力は底知れないミステリアスなところだと思う。
それが中央政府の言うがままに動いていただけでした……、となると、ちょっと寂しいかな……。
尾形の行動は中央政府とは関係なく、実は菊田自身と同盟関係を結んでいる可能性も考えてみた。
だが、尾形はともかく菊田は尾形とは違ってあまり個人としての意思がわからない。よって今は可能性を考えるのみに留まった。
うーむ。情報量が多い。わずか20ページそこそこの中にこれほどまで詰め込めるとは……。
この先が気になる……というところで次の話が読めるのは再来週か……。
こんな気になる状態のまま待つのは辛いけど、その分、楽しみだ。
以上、ゴールデンカムイ第258話のネタバレを含む感想と考察でした。
第259話に続きます。