第197話 ボンボン
目次
前話第196話 モスのあらすじ
お菓子
杉元はニヴフが何か作業をしているのを見て、アシリパにその意味を問う。
魚の皮を鞣しているとアシリパ。
その作業は子供の仕事なのだ付け加える。
ニヴフはハムマスと呼ばれる皮なめし器を使用して靴、服、鞄を作るために魚の皮を大量に使うので、たくさん必要なのだろうと作業があちこちで行われている理由を推測するのだった。
そして、満面の笑みで魚の川の帽子を被っている杉元に、似合うぞ、と声をかける。
さらにニヴフの女性が魚の皮を使った伝統料理を作る工程を見せてもらえることになった杉元たち。
煮込んだ魚の皮を潰して、コケモモ、ガンコウランを混ぜ、アザラシの油で味付けをしたものを外気で冷やして固める。
そうして出来たのは冬限定のお菓子で、「モス」と呼ばれているそうだとアシリパが説明する。
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「もすッ!!」
すかさず声を上げたのは鯉登少尉だった。
みんなでモスの味を楽しんでいる最中も、うふふ、と笑いながら「もす!」と満足そうに呟く。
その様子を見て、ごきげんですね、と声をかけたのは横になっていた月島軍曹だった。
父親の鯉登少将のことを思い出したと鯉登少尉。
アシリパを奪還するという先遣隊として良い結果を残せたことを父上に報告できるのが嬉しい、と噛み締めるように呟く。
それに対し、誇らしく思ってくれるはず、と月島軍曹。
「鶴見中尉殿もさぞかし喜ばれるでしょう」
鯉登少尉は喜色満面で月島軍曹に振り返る。
そして上機嫌でモスを寝ている月島軍曹に食べさせようとする。
しかし雑によそわれたモスは月島軍曹の右目に落ちる。
月島軍曹は手を使わず顔面を必死に動かして口元まで運ぼうと、モスと格闘していた。
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ニヴフの女性が何かを棒ですり潰しているのを見て杉元は、それは何の料理なのかと問う。
傷薬を作っていると答えたのはエノノカだった。
それは海岸に生えているシロヨモギと呼ばれる植物であり、ニヴフではそれを傷に塗って治すのだという。
「でもあっちの人 草だけじゃ治せない」
みんなの視線が目に布を巻かれて体を横たえている尾形に集中する。
「医者をここに連れてこなくては」
杉元の一言に、鯉登少尉が反感を示す。
密入国者であり、日本兵の自分たちが亜港に戻ったら通報される可能性がある以上、果たしてそんな危険を犯してまで尾形を助ける必要はないはずとの鯉登少尉の主張を、アシリパは黙って聞いていた。
しかし杉元は月島軍曹に視線を向けて、きちんと医者に診せた方がいいだろ、と自分の主張に同意を求める。
それを聞いて、鯉登少尉は口を噤むのだった。
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ニヴフの格好をすればロシア人に見分けはつかないという杉元の主張が通り、一行は亜港の医者の家に来ていた。
患者が一杯だからと断られてしまうが、杉元は全く譲らない。
「ほっとけば死ぬから来てくれ カネなら(鯉登が)たくさん出す そう伝えてくれ」
「(日本語か?)」
医者の指摘に驚き、固まる杉元。
「(私は日露戦争へ行った)」
「バレちまったんなら話は早いぜ」
杉元は開き直って、医者に銃口を向ける。
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その頃、登別では……
療養所の一室でのんびりしている宇佐美上等兵と二階堂。
今日もまた、菊田特務曹長が山へ有古一等卒を探しに行ったと宇佐美上等兵。
宇佐美上等兵は、あの夜の戦いから既に4日が経過しており、有古一等卒の生存を絶望的だとみていた。
宇佐美上等兵は鶴見中尉に電報を送ったのかという二階堂の問いに、うん、と答える
鶴見中尉が登別に来るが、有古一等卒は死に、自分は脚を負傷、さらに囚人は逃がしたと徐々に興奮していく。
「はあああ~ また叱られてしまうッ!!」
興奮が最高潮に達し、目をカッと見開く宇佐美上等兵。
そして居ても立っても居られない様子で畳の上をゴロゴロと転がる。
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一軒のアイヌの小屋に有古一等卒は世話になっていた。
アイヌの女性はイポプテと有古一等卒のアイヌ名を呼ぶ。
女性の後から現れたのは菊田特務曹長だった。
「よぉ有古…生きてんなら教えろよ 心配したぜ」
「お待ちしておりました」
そこには都丹庵士から剥がした刺青人皮があった。
木で四角の枠を組み、人皮をその内側に設置し、各辺から紐で引っ張ることでピンと張られ、見事に刺青が一枚の地図のような状態になっている。
菊田特務曹長はその異様な物体を見て、刺青を剥がしたことに関して説明を求める。
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有古一等卒は都丹庵士の死体の刺青が正中線で途切れていることに気づき、それが獣の皮同様、剥げという意図が込められているのに加えて、山奥だったので死体を担いで運ぶのは大変だったからその場で剥いだのだと説明する。
そして、宇佐美上等兵らによる手柄の横取りの可能性もあったので、菊田特務曹長が探しに来るまで村に身を隠していたのだという有古一等卒の答えに菊田特務曹長は満足そうな笑みを見せる。
都丹の銃について問われた有古一等卒は、雪崩に埋まってしまったため、戦利品は刺青人皮とこれだけです、と菊田特務曹長にスカーフを手渡す。
「よくやった有古 すべて完璧な判断だ」
スカーフを首に巻く菊田特務曹長。
「俺たちは登別温泉で無駄にした時間を取り戻せる」
「鶴見中尉殿にこれ以上ない手土産が出来たんだからな」
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医者
杉元たちは医者を連れて尾形や月島軍曹の元に戻っていた。
月島軍曹は上体を起こし、医者に診てもらっている。
「(お前たち日本の兵士か?)」
その問いに対して月島軍曹が答える。
「(連れ去られた女の子を取り返しに来た 回復したらおとなしく日本へ帰る)」
医者は尾形の様子を見て、重傷なので清潔な場所、つまり自分の病院に運び、手術する必要があると提案する。
「ダメだ ここでやれ」
その提案を突っぱねる鯉登少尉。
「(彼を助けたいんだろ?)」
医者は一切引かず、語気を強める。
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それを受けて杉元は医者の提案を了承する。
「おい杉元 いい加減に…」
勝手に決める杉元を咎めようとする鯉登少尉の言葉を、凄絶な表情を浮かべた杉元が遮る。
「尾形にはいろいろ聞くことがある まだ死なせない」
鯉登少尉はそれ以上杉元の決定に反対することはなかった。
「『ロシア軍に通報すればせっかく治療したのが無駄になる』だとさ」
月島軍曹は、医者が自分たちを通報する意思がないことを説明する。
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雪が降りしきる中、杉元たちは犬ぞりで医者の家に向かう準備をしていた。
そりに体を横たえた尾形をきちんと紐でそりと一緒に括りつける。
それを確認して、出発だ、と号令をかける杉元。
すかさず鯉登少尉が杉元に問いかける。
「尾形を救ったとしてあいつが改心して本当のことを話すなんて期待してるほどおめでたくはないよな?」
杉元は振り向いて鯉登少尉の質問に答える。
「救いたいのはあいつじゃねえ」
橇の上、杉元の前にはアシリパが座っている。
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第196話 モスの振り返り感想
鯉登少尉と杉元のズレ
今回のタイトルを見て、すぐに鯉登少尉の父、鯉登平二海軍少将のことを思い出した。
でもニヴフのお菓子のことだったのね……、と思っていたらやっぱり鯉登少尉が反応してて笑った。
鯉登少尉はアシリパを助けたことで見事に任務を果たした。
彼にとってうれしいのは、父親に良い報告が出来ることもそうだが、何より鶴見中尉に喜んでもらえるであろうということ。
喜色満面でウキウキしている鯉登少尉に笑ったわ。
しかし一仕事終えたと安心したい鯉登少尉に反して、杉元は自分たちの敵である尾形を救うことに躍起になっている。
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それを鯉登少尉は明らかに不快に思っているようだ。
別にお互いに仲が良い組み合わせというわけではなかったはずだけど、このズレが何か問題に発展しなければいいな……。
でもアシリパを助けて一件落着、北海道へすぐに戻るのかと思ったけど、こんな感じの展開になってくると、樺太で、もうひと悶着くらいありそうな感じがしてきた。
このまま尾形を治療して、何事もなく北海道へ戻るような穏やかな展開になるとは思えない。
キロランケがいればロシア政府から刺客が来るんだろうけど、彼は既にこの世にいないからそれはない。
どさくさに紛れて離脱していったソフィアはどうかな?
……うーん。ダメだ。予想がつかない。
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都丹退場
やはり都丹庵士は死んでいた。
有古一等卒に皮を剥がれた状態のまま、山奥で雪にまみれているのかな……。
ひょっとしたら生きているかもと思っていたけど、まぁ、あの雪崩を受けて生きている方がおかしいもんな……。
しょうがないとはいえ、独特の戦法でかっこいいキャラだっただけに残念だわ……。
その代わりに存在感を示し始めた新キャラの有古一等卒はかなり優秀な人物だとわかった。
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刺青が剥がす前提で彫られていることをすぐに見抜いたことはアイヌだからこその観察眼(いや、マタギもそれに気づくか?)。
そういえばアシリパも比較的早く刺青人皮の意図に気づいていたっけ。
さらに、宇佐美上等兵たちに手柄を横取りされないことまで考えて、村で菊田特務曹長を待つという適切な判断力。
この冷静さは敵になったら恐ろしいと思う。
銃の収集家の菊田特務曹長と合わせてアイヌの軍人有古一等卒。
この二人が今後、物語にどう関わっていくのか期待したい。
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救いたいのは
杉元が鯉登少尉と意見を衝突させてまで、つい先日まで敵として追っていた尾形の命を助けることに必死なのは、すべてはアシリパのためだ。
アシリパは尾形に散々嘘をつかれて、何が真実で何が嘘なのかが分からなくなってしまっている。
尾形に真実を告白させて、アシリパの心を救いたいということか。
あとはキロランケ亡き後、アシリパを誘拐した犯人側とし話が聞けるのは尾形だけだし……。
白石はアシリパと一緒にいただけで、キロランケと尾形の思惑は知らないかなな……。
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杉元が尾形を死なせまいとしているのは、彼の命を思いやってというよりはアシリパを救いたいという執念のためだ。
でも、そんな杉元の無意識の中に、純粋に尾形のことを助けたいという想いもまた密かに紛れ込んでいると思いたい。
尾形を仲間だと思いたい杉元の複雑な心情がある気がするんだよなぁ……。
尾形から話を聞きたいのは読者も一緒。
果たして杉元たちは何事もなくこのまま尾形を救うことが出来るのか?
196話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
第197話 ボンボン
<消えた尾形
杉元たちは尾形が治療が終わるのを医院の敷地で待っていた。
やがて医者が報告にやってくる。
できるだけのことはしたものの、明日の朝までもたないと言って、医者は再び医院の中に戻っていく。
医者を見送るアシリパは寂しそうな表情を浮かべていた。
どうするかと谷垣の問われ、鯉登少尉は、待つ、と即答する。
杉元は何かを決めたように一人頷くと、医院に入っていく。
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「杉元?」
白石は杉元に問いかける。
なんとか助けられないか頼んでみる、と答える杉元。
杉元は尾形や医者がいる部屋のドアを開ける。
そこにはベッドに横になっているはずの尾形の姿はなかった。
ベッドの下には医者が血を流し倒れている。
窓は解放され、カーテンが風に揺れている。
「尾形が逃げた!!」
叫ぶ杉元。
杉元は医院の外まで急いで走り、アシリパに叫ぶ。
「尾形が逃げた!!」
杉元は白石と谷垣と一緒に、尾形を包囲するために素早く行動していた。
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尾形の居場所
その頃、鯉登少尉は手術室で血を流して倒れている医者に声をかけていた。
「生きてるか? しっかりしろ」
床にうつ伏せに倒れていた医者は、鯉登少尉の背後に視線を向け、何かを呟く。
鯉登少尉の背後には開いたドアがある。
そしてその陰に、看護助手の喉元にハサミを突きつけて立つ尾形の姿があった。
鯉登少尉は振り向きざまに尾形にピストルの銃口を向けていた。
「〇〇〇〇!」
ロシア語を発する尾形。
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「(この女を刺すぞ! その男を殴り倒せ!)」
医者は尾形の言葉に従い、鯉登少尉の頭を殴りつける。
不意打ちを食らって、床に倒れこむ鯉登少尉。
尾形は鯉登少尉の持っているピストルを足で踏みつけ、拾い上げると倒れている鯉登少尉の頭に銃口をつきつける。
「(ボンボンが)」
鯉登少尉を見下ろす尾形。
鯉登少尉はうつ伏せになったまま、視線だけを尾形に向ける。
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14歳の鯉登少年が会ったのは……
回想。
鹿児島。
鯉登は学校のグランドでエンジン付の三輪車を乗り回していた。
その様子を止めもせずに、校舎の中から教師や子供たちが見つめている。
スゲー、と驚く子供たち。
「鯉登どんところん次男坊じゃ」
教師は呆然として呟く。
「あんボンボンめ」
そのまま学校の敷地内を出た鯉登は、学校の外でも三輪車を走らせていた。
その時、ちょうど石垣の四角から姿を現した男と危うくぶつかりそうになる。
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鯉登は急いでハンドルをきって、三輪車を止めるが、男は尻もちをついてしまう。
「すみもはん」
素直に謝罪する鯉登。
「怪我はあいもはんか」
男は飛び出した私も悪いと言いつつ立ち上がり、お尻を払う。
「まさかこんなすごいのが走ってくるとは」
特に怒ることもなく、鯉登に対して親しげに声をかける。
「面白い乗り物だね 君のかい?」
父がフランスの知り合いからもらったものだ答える鯉登。
それを聞き、勝手に乗り回してるの? 叱られない? と男が問う。
「がられもはん(叱られません)」
鯉登は即答する。
「そう…」
男は鯉登に問いかける。
「ところで西郷隆盛さんのお墓はどう行けば良いのかな」
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鯉登は男に対して、お詫びに案内すると言って、三輪車(ドディオンブートン)の車輪のシャフトに男を立たせ、道を走り出す。
登り坂で、二人乗りのために速度があまりに遅いため、馬の方がいい、と呟く鯉登。
男が答える。
「馬は急な下り坂は走れない… 帰りは速いさ」
案内を終えた鯉登に男は礼を言いながら包みを開く。
「景色がいいから一緒に食べよう」
ひとつ手に取り、鯉登に差し出す。
「月寒(つきさっぷ)あんぱんです」
「月寒とは何でごわすか?」
あんぱんを食べながら問う鯉登。
男は、あんぱんを作っている土地の名のことだと答える。
そしてその流れで鹿児島では何が美味しいのかと訊ねる。
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鯉登は、うーん、と一つ唸ると、桜島大根やろうかね、と答える。
そして何かを思い出したように手に持っているあんぱんを二つに割り、齧っていない方を墓に備える。
「どなたのお墓ですか?」
男は手を合わせている鯉登に訊ねる。
「兄さあです」
鯉登は兄を、母に似て色白なため桜島大根のようだとからかったが、一度も怒ることがなかった優しい兄だったと振り返る。
「オイが死ねば良かった」
「話してごらん?」
男、鶴見中尉が鯉登に話の先を促す。
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第197話 ボンボンの感想
悪役尾形
今回の悪役っぷりはすごかったな……。
自分を治療してくれた医者を傷つけ、看護婦にハサミを突き付ける。
まさに悪役だ。
杉元の頭を撃った時から尾形は裏切り者であり、敵になったと言えるんだけど、自分はそれでもまだ尾形は最終的に杉元たちの元に戻るのではないか、いや戻って欲しいと思っていた。
でも今回で何となく、それはもう無理なんだなと感じた。
杉元たちと尾形が組むことはもうないだろう。
今回の尾形は悪すぎる。重傷を負い、いよいよなりふり構わなくなってきた感じ。
虎は傷を負った個体が一番怖いと聞く。
果たして傷を負った「山猫」の尾形はここからどうするのだろう。
尾形は今回、窓を全開にして、ドアに隠れることで見事に杉元を欺いた。
やはり尾形はしぶとい。
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鶴見の目論見
鶴見中尉は一体何をしに鹿児島に来たのだろう?
まさか本当に西郷隆盛の墓前に参じるために来たわけではないはずだ。
仮説として考えているのは、鯉登少将の助力を得るためかな。
鯉登少尉を手下にすれば、海軍で権力を持つ彼の父親を自分の味方にできる。
鶴見中尉が網走監獄を攻めた際の鯉登少将による監獄の砲撃は、つまりそういうことなんじゃないか?
果たして尾形はどうなるのだろう。
以上、ゴールデンカムイ第197話でした。
コメント
尾形を仲間に なんて微塵もないでしょう。
アシリパさんが尾形を死なせたことにしたくないだけ。
コメントありがとうございます!
確かに杉元はアシリパさんのことしか考えてないですね。
尾形の命が朝までもたないと聞いた時にアシリパさんが浮かべた悲しそうな表情は、自分が尾形を殺してしまったことに対する後悔だったのかと気づきました(今さらw)。
個人的にもう一度尾形が杉元一行に加わってくれたらなと思ったんですが、今回の尾形の様子を見るに、もう杉元たちと行動を共にすることはないだろうなと感じました。
尾形が本当にもうわずかしか命が残っていないなら、アシリパさんが殺したことになってしまう前に杉元自身で尾形を始末しそう。