第193話 登別温泉
目次
前話第192話 契約更新のあらすじ
証言
真っ暗な雪山で下駄を履く人間という話を聞いた宇佐美上等兵。
雪下駄の存在や、夜の暗闇に目が慣れていただけで、そのどこが変な話なのかと笑い飛ばす。
そして再び自分の局部に流れ落ちてくる湯を当てる体勢に戻っていく。
「僕は忙しいんだッ」
菊田特務曹長は、その人間を目撃した本人である有古一等卒の話を聞くように促す。
有古一等卒は、なぜ怪しんでいるのかと不思議がっている宇佐美上等兵、二階堂に向けて、下駄の音がしたのに雪上に残された足跡がわら長靴だったこと、そして妙な柄の服を着ていたことを証言する。
二階堂から服について詳しい情報を訪ねられた有古一等卒は、よく見えなかったことからその質問に答えあぐねていた。
「あんたら戦争終わってからずっとここでのんびりしてたから ボケたんだ」
不敵な表情で菊田特務曹長と有古一等卒を見上げる二階堂。
コラコラ二階堂、と宇佐見上等兵が有無を言わせぬ圧力を込めた表情を浮かべて二階堂を諫める。
菊田特務曹長と有古一等卒は特に気分を損ねた様子も見せず、二階堂と宇佐見上等兵のやりとりを眺めていた。
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四人は療養所に移動しても雪山で見た人間の話題を続けていた。
そもそもなぜ山奥の温泉にいたのかと訊ねられた有古一等卒は、そこがアイヌしか知らない秘湯であると答える。
有古一等卒がアイヌであると知った宇佐美上等兵は、目撃した人間はアイヌの文様がある着物を身に着けたアイヌである可能性を挙げてみせる。
しかし、アイヌの服であればわかる、とそれを否定する有古一等卒。
按摩のマッサージを受けながらじっと会話を聞いていた菊田特務曹長は、自分はその話が妙に気になったと呟き、按摩に話を振る。
「按摩さん 知らない?」
按摩は都丹庵士だった。
額や眉間に大きな傷が残っているものの、菊田特務曹長の背中を慣れた手つきで圧迫している。
「アイヌの変わった文様の服ですか? さあ…今度見かけたら教えますよ」
その冗談に、あはっ、と笑う宇佐美上等兵。
「言うねえ」
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似てる
杉元たちは亜港の近くにあるニヴフ民族の集落に来ていた。
アシリパ、エノノカ、チカパシは現地の同年代の子供たちと交流している。
カヌン・イクルという犬を繋ぐための竿には、何匹もの犬が繋がれている。
ケラフという、丸太で作られたニブフ民族が夏に住む家を見て、エノノカはウイルタにはカウラ、樺太アイヌにはサハチセという夏の家があると解説する。
それを聞いて、自分たちはひとつしか作らない、とチカパシ。
エノノカはさらにウイルタの冬の家はトナカイを飼っているため建てやすい、アウンダウという動物の革の家であること。
さらに樺太アイヌとニヴフの冬の家は同じような穴を掘って土で作る方式だと説明を続ける。
樺太アイヌの冬の家はトイチセ、ニヴフ民族の冬の家はトラフといった。
ニヴフの子供たちの着ている服がウイルタと似ていると気づくアシリパ。
「わたしたちはちょっと違ってちょっと似ている 北海道にいたら知らなかった」
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トラフの中
杉元たちはトラフの中にいた。
尾形と月島軍曹は寝台に寝かされ、部屋の中央の焚火を杉元、鯉登少尉、谷垣が囲んでいる。
谷垣は、なぜ尾形がキロランケと組んでいたのか、と疑問を口にする。
「この男が少数民族の独立に共感するとはおもえないが」
本当に、ただ純粋に金塊が欲しいだけなのか、と鯉登少尉。
「そうであって欲しいね」
杉元が呟く。
「気兼ねなく殺せる」
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月島軍曹の提案
「スヴェトラーナ」
そばに立っているスヴェトラーナに話しかける月島軍曹。
月島軍曹は、島を出たいという気持ちも、娘の安否を知りたい両親の気持ちもわかると前置きすると、自分が帰りに両親に届けるための手紙を書いて、その上で岩息についていく形で大陸へ渡るようにと指示する。
「生きていることさえわかれば真っ暗なそこからは抜け出せる」
約束する、とスヴェトラーナ。
続けてスヴェトラーナは、島から逃げることばかり考えていたと告白し、監獄で会ったソフィアのように強くなって首都サンクトペテルブルクで成り上がると宣言する。
「金持ちになって両親を呼び寄せるわ!!」
その後、岩息とスヴェトラーナは大陸で大冒険を繰り広げるのだった。
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道は同じ
トラフの外に出た杉元はアシリパに、お婆ちゃんに元気な姿を見せなきゃな、と話しかける。
それに対し、コタンに戻ることを鶴見中尉が許さないのでは、とアシリパ。
杉元はアシリパの言う通り、刺青人皮の暗号を解くまでは離さないだろうが、逆に言えばアシリパに求める役目は暗号解読のみだと言い、土方歳三よりはマシだと続ける。
ウイルクが土方に協力させる目的で金塊を残したのでは、とアシリパがさらに疑問を口にする。
「あのときアチャから何か聞いたか?」
杉元は撃たれる直前に、のっぺら坊から聞いていた。
(アシリパは山で潜伏し戦えるよう……育てた 私の娘は…アイヌを導く存在…)
「いや何も…」
無表情で答える杉元。
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アシリパは、金塊を発見することでウイルクの死の真相がわかるかもしれないと呟いて、これからも鶴見中尉に協力して刺青人皮を収集するのかと杉元に問いかける。
従うつもりはない、としながらも、杉元は刺青人皮を全て取られた以上、現状で一番金塊に近いのは鶴見中尉なので、まずは金塊を見つけると答える。
「じゃあまだ道は同じだな 私たち…」
そうだな、と杉元がアシリパを見返す。
「相棒の契約更新だ」
(金塊を見つけてすべて終わらせる)
(アシリパさんをこの金塊争奪戦から解放するんだ)
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第192話 契約更新の振り返り感想
月島軍曹の折衷案
「生きていることさえわかれば真っ暗闇な底からは抜け出せる」
月島軍曹の言葉が重い……。
月島軍曹は鶴見中尉から消息不明の幼馴染であるいご草ちゃんが実は東京で良い家柄の男性に嫁いでいったと聞かされて心が救われた経験を持っている。
そもそも佐渡島という閉ざされた環境で育った月島軍曹は、悪童として島民から忌み嫌われ、唯一の肉親である父からも虐待を受けていた。
いご草ちゃんとのささやかな会話以外に全く居場所がない。
だからこそ、周囲に人がおらず、まるで孤立したような生活を送る両親の元から逃げ出したいスヴェトラーナの気持ちがよくわかるんだな。
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もちろん大切な人の生死が不明な状態で姿を忽然と消されてしまった両親の気持ちもわかる。
自分はスヴェトラーナは燈台に帰すとばかり思っていたけど、それだと基本的には以前と何も変わらないことになる。
だから月島軍曹のセリフを聞いて、そうか、こういう手もあるのか、と感心した。
手紙を書いて両親に無事を知らせて、尚且つスヴェトラーナの新天地行きを応援する。
見事な折衷案だと思う。
やはり月島軍曹はゴールデンカムイの良心だと思った。
しかしいご草ちゃんの話を思い出すと、実は鶴見中尉が言っていた、いご草ちゃんが嫁いでいったという話が全くの嘘だったという可能性がどうしてもついてまわるんだよなあ。
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もし鶴見中尉が嘘をついていたことを知ったなら、月島軍曹は一体どれほどの精神的ショックを受けるのだろう……。怒り狂うどころじゃないだろう。
まだ鶴見中尉が月島軍曹に言ったことが全くの嘘だと確定したわけではないが、どうもあの描き方だと、既に亡くなっている可能性の方が遥かに高い気がする。
もしそんなことになったら、月島軍曹は奈落に落ちる。
そして一気に鶴見中尉への憎しみが瞬時に膨れ上がり、大規模な爆発を引き起こすことは間違いない。
そんな時が来なければいいんだが、その結末を見てみたい気もする……。
あと、スヴェトラーナと岩息の大冒険をぜひ読んでみたい(笑)。
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新キャラ
前回の菊田特務曹長に引き続き、有古一等卒というアイヌ出身の兵士が登場した。
これまたなんといういい男。
身体や顔つきもそうだけど、顔に受けた傷がより有古一等卒の猛者っぷりを象徴しているような気がしてしょうがない。
どうやら暗闇の雪山で目撃した”男”は、あの背中を見る限りでは刺青人皮を持つ囚人のようだ。
次の囚人が出てきたはいいけど、杉元たちも土方たちもその場にいない以上、恐らく新囚人と向き合っていくのはこの第七師団兵たちのみになるようだ。
あと、犬童による頭部への一撃で死亡していたかと思われた都丹庵士がなんときちんと生きていた。
按摩としてかなり業務に慣れていたように見えた。
都丹庵士は、今回の件にはどう絡んでくるのだろうか。
もし動くとしたら、土方サイドの一員としてだろう。
この療養所に土方から第七師団に向けて差し向けられた刺客なのか?
もしそうだとしたら土方の情報網がどんだけすごいんだろう……
そもそも、果たして一癖も二癖もありそうな囚人から、見事に刺青人皮を奪うことができるのか。
192話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
第193話 登別温泉
ばけもの川の話
杉元たちはニヴフに伝わる「ばけもの川」という怪談を聞いていた。
昔、ばけもの川と呼ばれる川で釣りをしていた男は、遠くから人が近づいてきたのに気づいて全裸になる。
そしてお尻に炭で目を描いた尻を化物に向けて股の間から覗き込むように見ることで、化物を恐怖させたのだという。
以来、化物が現れることがなくなった、という話を聞いて、杉元は、この話の教訓をアシリパに問う。
悪いことをするやつは自分を見られるのが怖い、と答えるアシリパ。
アシリパは白石がトイレのために外にいった隙に、杉元のお尻に目を描いて、入口に向けることで帰ってきた白石を脅かそうとしていた。
しかし白石も杉元と同じく目を描いたお尻を向けた状態で入室する。
お尻に描いた目でにらめっこ状態になる二人を谷垣、鯉登少尉、そして横になっていた月島軍曹も無表情で見つめていた。
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下駄の男を探る菊田特務曹長
登別温泉で楽しそうにじゃれあう二階堂と菊田特務曹長。
菊田特務曹長はさりげなく、網走を脱獄した囚人に彫られている刺青の模様を訊ねる。
しかしその問いに、見たことない、と二階堂は頭を振るばかり。
湯から上がった菊田特務曹長は有古一等卒に、下駄の男について聞くために、有古一等卒の村まで行くようにと命じる。
菊田特務曹長は宇佐美上等兵や二階堂に遅れをとっていることを感じていた。
鶴見中尉とまたお供するため、手土産が欲しいところだと呟く。
宇佐美上等兵は宿舎で按摩からマッサージを受けていた。
そこに二階堂が、あのふたりを連れて網走に戻るのか、と訊ねる。
鶴見中尉が網走を離れるのでどこかで合流と答える宇佐美上等兵。
宇佐美上等兵は、按摩の指圧があまりにも雑なので、それを注意する。
すいません、と謝る按摩。
仕事を終えた按摩は都丹庵士と車座になっていた。
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暗い部屋で、話し合うと都丹を合わせた3人の男たち。
宇佐美上等兵をマッサージしていた按摩は、宇佐美上等兵と二階堂が鶴見中尉のそばにいたらしいことを報告する。
貴重な情報源だ、ともう一人の仲間が評価する。
そして、菊田特務曹長、有古一等卒に関して、自分たちの正体が気づかれる前に消すべきだ、と主張するのだった。
しかし、冬は雪明かりで明るいため、次の新月まで待つ方がいい、と都丹庵士。
仲間は、自分たちが湯治場にいられなくなれば、土方に第七師団の情報を流せないので、グズグズしていることはできないと反対する。
そして、そもそも自分たちの正体がバレそうになっているのは、兵士に姿を見られた都丹の落ち度だと指摘を受けた都丹は、うーん、と唸りながら今後の行動を考えるのだった。
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戦闘開始
怪しい下駄の男が目撃された山奥の温泉、カルルス温泉は、アイヌからはペンケユと呼ばれていた。
下駄男の出現をを待ち伏せる菊田特務曹長。
その頃、有古一等卒は自分の村で下駄男に着いた聞き込みをしていた。
ペンケユを見張っていた菊田特務曹長は、下駄の音が近付いていくるのを耳にする。
有古一等卒の聞き込みを受けて、女性が答える。
「(服の文様ではない… あれは入れ墨だ)」
菊田特務曹長は、灯りを手にしているものの、あれこそが有古一等卒が見た下駄の男だと確信し、拳銃を向けて呼びかける。
「そこの男…!! ゆっくりと上着を脱いで見せろ」
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下駄の男、都丹庵士は何も答えることなく灯りを消すと、周辺一帯が一気に闇に包まれる。
すかさず菊田特務曹長に向けて拳銃で狙いをつける都丹。
周辺が闇に包まれた瞬間、菊田特務曹長は何かを目から何かを外していた。
発砲する都丹。しかし菊田特務曹長は素早く反応して銃弾をかわすと拳銃で反撃する。
自身の横を掠めていく銃弾を感じ、都丹は、自分を待ち伏せていた襲撃者が、暗闇に目が慣れているのをその動きで察知していた。
都丹の仲間らしき二人の自分を取り囲もうとしていることに気づいていた菊田特務曹長。
「てめえら全員見えてるぜ」
まぶたに眼帯をした菊田特務曹長は、両手に持った拳銃をそれぞれに向けて呼びかける。
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第193話 登別温泉の感想
下駄男の正体判明
菊田特務曹長が山奥で見た下駄男の正体は都丹庵士。
第七師団の動向を探る+湯治中だったらしい。
そもそも都丹はよく生きてたよなあ。
網走監獄でのあの負傷はね……。
杉元ならともかく、あれは普通なら死んでもおかしくない傷だった。
でも生きていた。
土方が方々手を尽くしたのかな。
網走監獄に乗り込む前から土方への忠誠を見せていたし、それがより強くなったのか。
第七師団の湯治場で按摩として働きつつ、第七師団の動向を探るというのは実はかなり貴重な人材だと思う。
目が見えないから、まさかスパイであることはおろか、戦闘もこなすとは思われていない。
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その狙い通り、宇佐美上等兵も二階堂もペラペラ不用意に情報を出しまくっていた。
彼らのような目が見えない按摩たちがまさか優秀なスパイだとは思わないよなぁ。
でもそれが宇佐美上等兵や二階堂の人間らしいところといえばそうなのかもしれない。
闇の中で力を発揮する都丹と、菊田特務曹長の二丁拳銃の対決。
暗闇を味方につけることで都丹は強敵足りえたわけだけど、今回は菊田特務曹長に眼帯で対策をされていた。
今のところ、数的な優位は都丹だけど、闇の中に慣れていない敵に対して自在に動けるという都丹の優位性もまた菊田特務曹長が消しているため、この勝負は一体どうなるのか?
……と、思ったけど、正直、菊田特務曹長が勝つような気がするなぁ。
来週はこの二人による戦闘が本格的に開始となる。
楽しみ~!
以上、ゴールデンカムイ第193話のネタバレを含む感想と考察でした。
194話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。