第71話 職人の鑑
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「アラ誰か来たみたいよ」と女性。
「いいよ座ってて僕が出る」
ノックに応じて江渡貝が出る。
「はい…何か御用ですか?」
「お早うございます」ドアを開けるとそこにいるのは鶴見中尉。
「こちらで剥製を扱っていると聞いてやってきたのですが 江渡貝弥作さん?」
「………ええそうです」
「あ…では中へどうぞ! たくさんありますので」
鶴見中尉普通に礼儀正しい。
こういう人が大きな野望のために自らの狂気を上手く使ってるからカリスマ性が出るのかも。
鶴見中尉は館に来た理由を話しながら飾ってある剥製を褒める。
江渡貝はそれに丁寧に答える。
「失礼ですが、ここで商売をやるほど夕張に剥製の需要が?」
会話普通にうまい。ある方向に向けて会話の内容を誘導しているような印象……。
何これ(笑)。笑えるんだけど。
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続けて、奈良生まれだが、剥製作りに適している土地だから北海道に引っ越してきたことを鶴見中尉に話す。
「……夕張へはおひとりで?」
「いえ母がいます あいにく腰を悪くして奥へ引き篭ってまして……」
「いえいえお構い無く……」
「良い剥製を作るには何より新鮮な素材…」
「つまり新鮮な死骸が必要というわけですね」
剥製の匂いを嗅ぎながら江渡貝に確認するように話す鶴見中尉。
「仕事に対するあくなきこだわり……職人の鑑ですな」
「いえいえありがとうござ……」鶴見中尉に肩を叩かれて、その手にはめられた手袋に目がいく江渡貝。
「江渡貝くぅん」
「キミの落した手袋を届けにきたよぉ」
こりゃあ怖い。江渡貝怖かっただろうな。
鶴見中尉は普通にしゃべっているだけでもその異様な風貌から威圧されてしまうだろう。
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「あら何の音かしら」
「様子がおかしいね」
「見に行った方がよくないかい?」
「あら大丈夫よおおげさね」
「弥作さん怪我しなかった?大丈夫よね?」
「何でもないよ 剥製を落としただけだ」振り向いて声のした方に叫ぶ江渡貝。
「…………」その様子を冷静に見つめる鶴見中尉。
明らかに動揺している江渡貝。
一見まともな人間に見えるけど……。
前日の夜、我々を撒いたつもりでいたかと窓を覆うカーテンを開ける鶴見中尉。
「逃げたフリをしてここまでつけてきたんですよ 江渡貝くぅん」
江渡貝の館のそばにある建物から双眼鏡で動向を伺っている月島軍曹と二階堂。
夕張の医師が数か月前の炭鉱事故で刺青人皮らしきものを体に入れている炭鉱夫が亡くなり、その死体が墓地に埋められたが、月島が墓を掘り起こした結果刺青人皮を持つ死体は存在しなかった。
人体で剥製を作る墓荒らしの江渡貝が持っている可能性が高いと見て鶴見中尉は江渡貝の館を訪ねたのだった。
剥製職人である江渡貝が刺青人皮を持っているかもしれないと踏んで訪ねたわけだ。
江渡貝の館を取り巻く条件も剥製に使用する死体が手に入りやすい環境だということを示している。
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「何を言ってるのかさっぱりわからない もう出て行ってください!!」傍らにある剥製作りの道具の刃物を手に持つ江渡貝。
「墓から夜な夜な死体をエッチラオッチラ掘り起こし…皮を剥いで江渡貝くんがこの手袋を作ったんだね」
捕まるんじゃないかと戦々恐々とした様子を隠せなくなってきた江渡貝。
江渡貝としては気が気じゃないだろう。
相手は軍人なんだから最悪死すら覚悟していたとしてもおかしくない。
「………はい?」拍子抜けた様子の江渡貝。
その縫製技術の高さを褒めまくる鶴見中尉。
「……僕を捕まえにきたのでは?」
「墓荒らしを捕まえるのは私の仕事じゃない」
「ぷー」江渡貝、笑って手袋の素材は豚の皮であって人間ではないと話す。
シャレのつもりだったが、最高の技術をもって作ったと続ける。
そして江渡貝は、墓場に行ったのは仕事で出た廃棄物を捨てるためであり、手間を惜しんで埋葬されていない墓穴に捨てたことがバレたのかと思ったと告白する。
「わかりました!そこまで気に入ってくださっているなら差し上げましょう 同じものがありますので持ってきます」
奥に引っ込む江渡貝。
「殺して家探しすりゃ良くないですか?」月島に問う二階堂。
「鶴見中尉に殺すつもりがあったなら玄関開けた時点で殺してるさ」
江渡貝ほっとした様子。
捕まるんじゃないかと思っているところにそんなことしないよと言われたら誰だって安心する。
これは、鶴見中尉の人心掌握術の一環なのか?
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「うん!ちょっとね」と返す江渡貝。
「弥作さんのあんなに明るい声は久しぶりだわぁ」
「僕の仕事をあんなに理解してくれるひとは初めてかもしれない とても嬉しいよ」嬉しそうな江渡貝。
「でも今日会ったばかりのひとだろ」「すぐに信用するのは良くないよ」
「そんなことないよ 弥作さんの人を見る目は確かだ」
「いや少し慎重になった方がいい」「そんな事言ってるから友達がいないんだ!」
「ちょっとやめてよみんな」言い争いになりかけているのを止める江渡貝。
そこへドアを開けて入っていく鶴見中尉。
「みなさんこんにちは」
やけに住人が多いような……。
「これも豚皮で作った剥製かね江渡貝くん」
動じる事無く江渡貝に問う鶴見中尉。
(…殺せ)
(見られたぞ殺せ)
(皮を剥いで)
(殺せ殺せ)
(剥製にしちまえ)
江渡貝は人の手をつなぎ合わせて作ったマスクをかぶり、鶴見中尉の開けたドアの死角から鶴見中尉を刃物で狙う。
どんなホラーだよ。
実はワイワイ話していた住人らしきひとたちは全て剥製で誰も生きてはいなかった。
聴こえていた声は江渡貝の幻聴で、鶴見中尉はずっとその違和感を感じていたということか。
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