第265話 鍵穴
前話第264話 あらすじ
月島軍曹の馬の背に飛び乗ったソフィアはアシリパが入っていると思しき大きな袋を確保する。
馬を撃ち殺した勢いで、地面に転がりつつも、袋を抱えて守るソフィア。
電柱に勢いよく頭をぶつけてしまい、頭部が血塗れになってしまうが、構わず袋の中身を確認する。
しかしそこにアシリパの姿はなかった。
向かって来た月島軍曹を殴って吹っ飛ばすが、気を失いその場に倒れてしまう。
鶴見中尉たちはうつ伏せに倒れたままのソフィアの元に集結していた。
鶴見中尉は、ソフィアがキロランケの仲間だとして、情報を引き出すために捕虜にすることと、本来の目的地である月寒の兵営までは行かず、近くでアシリパをかくまうことを決めるのだった。
アシリパは鶴見中尉の乗る蒸気ポンプ車に載せられていた。
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鶴見中尉の乗る蒸気ポンプ車を追って走り続ける杉元。
房太郎に代わり、車を運転する白石が杉元を拾うが、操作が覚束ないことから全く加速しない。
杉元は、白石から海賊が最期の言葉を聞いて、菊田の後ろ姿を思い出していた。
(ノラ坊…お前 故郷はどこだ?)
「……」
そして白石は、海賊が得ていたというアイヌの情報を聞き出せていることも杉元に報告する。
その頃、鶴見中尉達は教会で、旭川からの応援が来るまでは隠れることを決めていた。
月島軍曹からソフィアの所持品の中にあったウイルク、キロランケ、ソフィアの映った写真を見た鶴見中尉は、それがかつて自分が撮影した写真であることに気付く。
鶴見中尉の額から脳汁が伝っていく。
第264話の感想記事です。
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第265話 鍵穴
鯉登少尉の鶴見中尉への不信を指摘する月島軍曹
鯉登少尉、月島軍曹、菊田特務曹長は、馬で分かれた3人の第七師団兵が到着していないため、探すべく行動を開始する。
その3人を倒した土方たちは、引き続きアシリパを救い出すべく第七師団を探していた。
二人のパルチザンはソフィアが連れて行かれたところへ向かう。
鯉登少尉は、鶴見中尉がソフィアが持っていた写真を見た際の反応が気になっていた。
ソフィアと何を話すのかが気になった鯉登少尉は、勝手口から鯉登少尉が向かったソフィアとアシリパを換金している部屋に近づいていく。
その部屋のドアの前には月島軍曹がしゃがみこんで耳をそばだてていた。
そんな月島軍曹に、鶴見中尉をコソコソと嗅ぎまわる気かと詰め寄る鯉登少尉。
しかし月島軍曹は、鯉登少尉こそ「鶴見中尉殿を信じる私を信じろ」と言っておいてあなたが信じていないと言い返す。
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勝手に決めつけるなと言う鯉登少尉に、月島軍曹は静かに指摘する。
「じゃあなんでさっき鶴見中尉殿を相手に普通に話せたんですか」
今までは鶴見中尉に対しては早口の薩摩弁だったにも関わらず、それがすっかり治ってしまっていた。
それは自分でも気付かない内に鶴見中尉から心が離れているのではないか、と月島軍曹は鯉登少尉に自覚を促す。
部屋の中から鶴見中尉が二階堂に外で教会を見張れと指示する声が聞こえて、言い争いをやめる鯉登少尉たち。
鯉登少尉と月島軍曹は机の陰に隠れていた。
鶴見中尉が部屋の外に出て、誰もいないか確認している様子に、部下に聞かれたくない話でもするのだろうかと鯉登少尉と月島軍曹。
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「はぁ?」
長谷川写真館での銃撃戦の際、ソフィアは自分とキロランケ、ウイルクの映っている写真を記念に拝借していた。
意識を取り戻したソフィアは、目の前で椅子に座っている鶴見中尉と、自分が後ろ手に縛られていることに気付く。
隣には自分と同様に拘束されているアシリパがいる。
鶴見中尉はアシリパに猿轡をしている彼女の鉢巻を頭に付け直し会えて良かったと言うと、続けて隣のソフィアにも声をかける。
「あなたとはいつか再会できると思っていたよ」
「オマエ誰だ!!」
挑みかかるように問うソフィア。
「無理もないか お互い変わってしまったものな」
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「あれから…十八年? 私を思い出せるかね?」
ソフィアが持っていた写真を取り出し、ソフィアに見せる鶴見中尉。
「ゾーヤさん」
まだピンと来ていない様子のソフィアに鶴見中尉は続ける。
「私の家族のことも忘れてしまったかな?」
「あいにく写真もすべてあの日 燃やしてしまってね」
「彼女たちが生きていた証となるものはこの指の骨だけだ」
そう言って、鶴見中尉は手のひらの二つの小さな骨を見せる。
「娘のオリガと 妻のフィーナ」
部屋の外、ドアの前で鯉登少尉と月島軍曹はじっと耳を澄ませている。
「長谷川 サン?」
驚愕するソフィア。
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「覚えていてくれてありがとう」
鶴見中尉の額から汁が垂れていく。
アシリパは鶴見中尉の持つ写真の中の人物にウイルク、キロランケがいる事に気付く。
「鶴見中尉殿に妻と娘が?」
鯉登少尉はそう呟き、ふと隣の月島軍曹に視線を送る。
月島軍曹はこめかみに毛感を浮き出させて、怒りの表情を漲らせていた。
「はぁ?」
鶴見中尉はソフィアに、キロランケの遺品からソフィアが亜港監獄でキロランケとやりとりした手紙を持っていると言って、自分の知っていること、ソフィアが手紙で知ったことをすり合わせて、アシリパに全て教えようと提案する。
「誰がアイヌたちを殺したのか どうしてウイルクは殺されなければならなかったのか」
「この子の『痛み』を私たちで取り除いてあげよう」
外は雨が降り始めている。
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感想
月島軍曹の生粋の怒り
今回も見所が多かった……!
今回何よりも印象的だったのは、月島軍曹の鶴見中尉への抑えきれそうにない怒りの感情の発露の瞬間だろう。
こめかみに血管を浮き上がらせた月島軍曹が、
「はぁ?」
と思わず吐き出してしまったそれは、あまりにも生々しい、月島軍曹の生粋の感情だった。
これまで淡々と、真面目に鶴見中尉の手足となって動いていただけに、そんな彼にこのような感情を抱かせてしまったことは鶴見中尉の失策だったと言える。
鶴見中尉はそうなることを恐れて、ソフィアに正体を明かす前に念入りに部屋の外の様子を確認していたのだろう。
しかし失敗した。いくらなんでもこれが鶴見中尉の人心掌握の一種とは到底思えない。
この話を聞く前に月島軍曹が鯉登少尉に言った「すでに鶴見中尉から心が離れているのではないか」という指摘が、完全に自分自身にも突き刺さっている。
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鶴見中尉には妻と娘がいて、今もその形見として彼女たちの指の骨を大事に所有していた。
月島軍曹は、鶴見中尉がいご草ちゃんのことを利用して自分を操っていることに薄々気付いている。
それでも「鶴見劇場を最前列、かぶりつきで観たい」と理由付けし、鶴見中尉の元で働くことを自分に課していた。ドン底から鶴見中尉に拾われた恩も感じていたのかもしれない。
しかし鶴見中尉が妻と娘への想いを大切にしていることを知った月島軍曹は、彼が自分のいご草ちゃんへの想いを一切配慮することなく、単に自分を操る道具として扱っていることについに我慢が出来なくなったのだと思う。
「鶴見劇場を最前列、かぶりつきで観たい」という、これまで鶴見中尉に従っていた理由では、もはやこの怒りを抑えることは困難になっているように見える。
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鯉登少尉、月島軍曹が離反?
いくらなんでも、あの真面目で冷静な月島軍曹がこの場で感情に任せてこの場で反旗を翻すことはないだろう……と言いたいけど、恐らく今が一番怒りが高まっている時だ。次回いきなりドアを破って鶴見中尉を攻撃してもおかしくない。
おそらくこの場ですぐに行動を起こす可能性は低く、引き続き鶴見中尉の話を盗み聞きして任務に戻るのだろうけど、それは鶴見中尉にとっては近くに爆弾が仕込まれたのと同じだ。
何かもう一つきっかけがあれば、月島軍曹から攻撃を受けてもおかしくない。
何より、鶴見中尉はそれを自覚していない。だから対策もできない。
これは第七師団の鶴見中尉体制瓦解のきっかけになり得る。
まだ、月島軍曹が行動を起こしたら、鯉登少尉が即座にその動きに連動して追随するというような状態にまではないと思う。
鯉登少尉は今回、月島軍曹から「鶴見中尉への不信を抱いている」と指摘されて心を揺らされているが、まだ今回の月島軍曹ほどではない。
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しかし鯉登少尉の鶴見中尉への心酔は解けている。月島軍曹と同じ状態になる可能性はある。
おそらく鶴見中尉は鯉登少尉の自分に対する不信に気付いている。鯉登少尉に対して何らかのリカバリーを行う可能性はあるけど、もしかしたら鯉登少尉を死地に仕向けるようになったりするかもしれない。
仮にもしそうなって、鯉登少尉が鶴見中尉の意図に気付いたなら、鶴見中尉への不信感は今回の月島軍曹に近い怒りにまで成長すると思う。
何にせよ、鯉登少尉と月島軍曹が第七師団から離れる可能性が現実味を帯びてきたように思う。
杉元たちと共闘することになったら熱いなー。先の展開が楽しみだ。
以上、ゴールデンカムイ第264話のネタバレを含む感想と考察でした。
第266話に続きます。