第64話 悪魔の森のオソマ
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「うちの馬が何頭も襲われている」マグカップを片手に話すダン。
「従業員もモンスターを恐れて退治する人間がいない」
「そいつの死体で持ってくればアザラシ皮の服を30円で返す」
「も…もんすたー?」と白石。
「エディーさんッまた出ました!!」牧場の従業員が慌てて知らせに来る。
「たった今馬の悲鳴がッ!!」
ヒグマを退治してさらに30円払うってのは高くないか。
ヒグマを倒すというのは命をかけることなんだから、せめてただで譲ってほしい。
ましてやモンスターなのだから。
「この足跡は…」アシリパが足跡を見ながら考える。
「あそこになんかいるぞッ」白石が指をさす。
「アイツだ…ツ あれがモンスターだ!!」
森の中、何か妙な影が動いている。
「怪物なんかじゃない」アシリパが冷静に否定する。
「ヒグマだ… 赤毛のヒグマが馬を背負ってる!!」杉元が言う。
妙な影はヒグマが獲物である生きた馬を背負っている様子だった。
こんなの実際に見たら恐怖で体が固まる。
これは何も出来ないわ。
「シライシどけッ」銃を構える杉元。
「わっ」白石がよろけてアシリパに寄りかかってしまう。
「わああっ」アシリパが白石の尻に圧し潰される。
その際、白石がアシリパの弓を掴み、ぐにんとしならせる。
「ギャーッ」
潰されながら叫ぶアシリパ。
「ケツーッ!!」
白石は何をしてる(笑)。
しょうがないやつだなぁ。憎めないけど。
「クソッ」悪態をつく杉元。
「怪物ってあの赤毛のヒグマのことだったのかよ」
白石が怪訝な顔で続ける。
「しかし何やってたんだ? あのヒグマ」
「馬を襲い……ときには首を折るなどして完全には殺さず」ダンが続ける。
「前足を両肩に背負い馬に自分の後ろ足で歩かせることで運ぶ獲物の重量を半分にする」
「あのヒグマはそうやって森の奥へ連れて行って食べるのだ」
「頭は良くてもヒグマはヒグマだ」
「この取り引き受けてやる」アシリパがダンに向けて言う。
「アイツを斃したらアザラシの服を返してもらうぞ」
馬を背負うようにして運んでいたのはそういうわけがあったんだなぁ。
頭が良く、一筋縄ではいかないのをうかがわせる。
赤毛の爪を手のひらに乗せて言う。
「去年の秋に指ごと吹き飛ばしてやった」
「ゆび?」とアシリパ。
「そう……さっきの足跡には足の指が全部あった」ダンが続ける。
「去年の夏には片目を撃ちぬいた」
「それなのに先週うちの馬を食った赤毛のモンスターには両目があった」
「私があの赤毛のヒグマをモンスターと呼ぶのは指を吹き飛ばそうが眼を撃ち抜こうが元に戻っているからだ」
「奴は不死身だ」
「不死身のヒグマだ」
「斃せるものなら斃して来い」
ダンが言うくらいだからよほどヤバい相手なのがわかる。
果たして斃すことなどできるのか?
「銃もないのにワイワイついてこれられても足手まといだ」
「クーン」と白石。
「この森を南へ出ると誰も使っていない農家がある」
「勝手に休んでもかまわんだろう」従業員が言う。
「キロちゃん一緒に行ってくれる?」キロランケに言う白石。
白石かわいそうだけどあまり戦力にならないのは確かだ。
「じゃあどうするつもりだったんだ?」アシリパが言う。
「アメリカ人も殺して服を奪うのか?」
「あのアザラシの服はフチたちの花嫁衣装だ」
「あの服はせめて血で穢したくない」
アシリパにこう言われたらヒグマを退治するしかないよね。
なんだかんだ言って杉元はいいやつだから。
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「一か月くらい前にあんたくらいの中年の男が訪ねて来なかったかい?」と杉元。
「いやあ~どうだろうな 俺もついひと月前からこの牧場で働き始めたばっかりでね」
「へえ~…ここへ来る前は?」
「俺は流れものさ ひと月前は札幌にいたよ ススキノには行ったことあるかい? いいところだったぜ」
「へぇ~~~」相槌を打ちながら肩の銃を下ろす杉元。
なんか銃を撃てるように準備しているように見えるんだけど、これはヒグマを撃とうとしているというよりはむしろ……。
「どうしたの?」
(またウンコかなぁ)
「いいから早く見てみろこれ」
(あのはしゃぎ方は絶対ウンコだ)
「こんなのわたしも初めて見たぞ」
(おや? ウンコじゃない?)
「ヒグマの止め糞だ」
木についているヒグマの糞を指さしながらアシリパが続ける。
「肛門に詰まっていたオソマの栓が飛んで抜けたんだ」
「あそこから飛んでこの木に当たってる」
「こんなに遠くに飛んでるのは初めて見た」
「ん やっぱウンコかぁ~~…」
「ヒグマは冬ごもりをする準備で乾いた木の皮しか食べなくなって肛門に栓ができる」
「春になって穴から出てきたら岩苔とかフキノトウとか食べてそのオナラで栓を吹き飛ばす」
「杉元が寝てる時のオナラよりすごい勢いのオナラでな!」
木についている止め糞を棒きれでグリグリするアシリパ。
「え? ヤダ…オナラしてた?」と杉元。
アシリパさんは何を言ってるんだ。そして何をやってるんだ(笑)。
ア〇レちゃんみたいだな。
「アイヌのウパシクマ(言い伝え)では…鮭の筋子を潰して塗ったような赤毛のヒグマは性格が悪いと言われてる」
赤毛を拾いながら言うアシリパ。
「嬢ちゃん ヒグマに詳しいね」と従業員。
「指がまた生えてくるヒグマなんているのか?」
「聞いたことがない」杉元が続ける。
「でも……ヒグマは山刀で顔を半分に割られても反撃してくるし」
「撃たれても時間が経つと弾が身体の中で粉になる」
「ヒグマには不思議なところがまだたくさんある」
「出来ることなら会いたくねえぜ」
ヒグマはとんでもないモンスターなんだな。
対人間なら致命傷でも熊はまだ余裕があるんだ。
一撃で仕留めることが出来ないと危機に陥るんだな。
白石が家に指をさす。
勢いよく振り返るキロランケ。
「え? なに?」
「なんだ 驚かせんなよ」
そこには馬がいた。
「さっき赤毛に襲われてた馬だ」とキロランケ。
「こいつは赤毛の獲物だ!」キロランケが馬を連れていく。
「執念深いヒグマは必ず自分の獲物を取り戻しに来るッ」
「ええ!? じゃあそんな馬置いてけよッ」と白石。
「俺たちは熊と戦える武器なんてもってねえんだぞ!?」
「うるせえッ 殺されちまうってわかってるのにほっとけるかよッ」
キロランケかっこいい。
主人公っぽいよなぁ。
「あ……赤毛…」
普通の人間ならこれで人生が終わる。
さてどうなる。
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