第275話 東京愛物語
前話第274話あらすじ
アシリパはある女の話を杉元に語りだす。
ケネというハンノキの赤い汁で染めたアットゥシの糸で一着丸ごと縫われた着物を着て雨の中で作業していた際、腰にある斧と着物が接していた部分が茶色く変色していたのだという。
アシリパは、そうなるのはアットゥシではなく、アットゥシに含まれていたケネが溶け出し、体温に触れた結果ではないかと考えていた。
その話を覚えていたアシリパは、誘拐されている最中、朦朧とした意識の中で、水に触れた刺青人皮が金属の窯に触れて、黒く変色したものとそうでなかったものとがあることに気付いていた。
良作を凌駕すべく、材料からこだわったという熊岸の言葉を思い出し、革のなめし方にもこだわりがあるならば、ケネを使っていた可能性があるとアシリパ。
雨の中、線路上に散らばる刺青人皮の中に、変色したものとそうではないものがあると確認したアシリパは、有古一等卒が鶴見中尉に持たされてきた刺青の中に変色したものが3枚、変色しない本物の刺青人皮が2枚あると喝破していたのだった。
そしてアシリパは、暗号を解く鍵はじぶんにあると確信する。
「狼に追い付くという意味のアイヌ語 ホロケウオシコニで間違いない」
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鶴見中尉がホロケウオシコニというキーワードを知ったことで、急がなければ先を越されると牛山は懸念する。しかし一方、鶴見中尉はまだ暗号が解けてなかった。
杉元は鶴見中尉達を出し抜くため、海賊房太郎が遺したアイヌが最初に金塊を隠したという場所に、土方たちと一緒に汽車で向かうことを決めるのだった。
杉元たちは刺青の暗号を解くべく、広いスペースがある一等車両の床で刺青を広げていた。
「俺らだけの特等席だな」
白石に声をかけられた瞬間、杉元の脳裏にロシアへの出征前に、菊田特務曹長との会話した時の記憶が甦る。
「俺は地獄行きの特等席だ」
杉元に振り返る菊田特務曹長。
「忘れてくれ 花沢勇作のことも全部忘れろ」
第274話の感想記事です。
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第275話 東京愛物語
1901年、天然痘が広まるのを恐れた村人につけられた火により、杉元の自宅が炎上。家。家族を失ってしまった杉元は、心配する寅吉に東京行きを告げる。
東京にやって来た杉元は、ご機嫌で街を練り歩き、調子に乗って街中で踊ったり歌ったりしていた。
杉元は制止にやって来た学生たちを10人を相手に、一歩も引かない大立ち回りを演じる。
そこに、左手にはご飯、右手にお箸を持った菊田軍曹がやってくる。
菊田は杉元を拘束している候補生たちに、やめるよう指示してから、杉元をどこかへ連れて行くのだった。
菊田が杉元を連れて来たのは町中の食堂だった。
菊田から、なぜ喧嘩したのかと問われ、杉元は、向こうが睨んできたと答える。
「くだらね…ノラ犬かよ」
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その呟きを聞き、ノラ坊とは何かと問う杉元。
菊田は、自分の地元にあった野菜『野良坊菜(んらぼうな)』というものがあるのだと答える。
「それで? 俺に何して欲しいんすか?」
菊田軍曹は自分の目的を話し始める。
それは花沢勇作の替え玉になり、見合いをして欲しいというものだった。
勇作の父は聯隊旗手になることを望んでいるのに対し、死亡率が高い旗手を止めさせたい母が結婚相談所で見つけた金子花枝子という華族女学校に通う女性を勇作にあてがい、なし崩し的に旗手を務める条件となる童〇を奪わせようとしていた。菊田軍曹はそれを止めようとしていたと説明する。
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菊田軍曹は花沢閣下からこの任務を受けていたのだった。
頭を丸刈りにして、候補生の制服に着替えた杉元を見て満足そうに、うん、頷く菊田軍曹。
「似合ってるぜ やっぱりノラ坊の顔には品がある」
「軍隊に入れば飯には困らないですかね?」
杉元からの何気ない質問で、菊田軍曹の脳裏には弟らしき人物のことを思い浮かべる。
金子花枝子とのお見合いまでに、菊田から食事のマナーを叩きこまれた杉元。
いざ本番当日を迎え、食事の時間になり。杉元の前に並べられた食事。それらはみな、杉元が全く学習していなかった洋食だった。
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感想
最近は重く、シリアスな内容が続いているから、こういう軽めの話は久しぶりだと感じる。
杉元と菊田特務曹長の出会いってこんな感じだったんだな。
上司と部下という感じはしなかったから違和感があったけど、こういう思い出を共有しているのであれば札幌ですれ違った時の杉元、菊田、互いに親しみが根底にあるような反応になるよなぁと思った。
二人がこんな感じの関係だったのであれば、二人がこうやって過ごした時間は、振り返ればお互いにとても良い思い出になっていることだろう。
杉元が入隊した部隊の上官だったら、ノラ坊、菊田さんという呼び方はちょっとフランク過ぎる。
でも今回の話のような出会い、そして関係性であればそれにも納得がいく。
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杉元からしたら当時の軍曹時代の菊田は、単身上京して誰も頼る人もなかったところに現れた、面倒を見てくれる良い兄貴分だったようだ。
そして菊田にとって杉元は、もちろん勇作の童〇を防衛するための人員だ。しかし仮にその任務が無かったとしても、きっと杉元のことを気に入って、面倒を見たのではないか。特に明確な根拠もなくそう思ってしまうくらい、二人の関係性、そして相性はとても良さそうに見えた。
それに、菊田は杉元と自分の弟を重ねて見ている。
頭を丸めさせて軍服を着せた杉元から、軍隊に入れば飯には困らないですかね、と聞かれた時、菊田軍曹が瞬時に脳裏に思い描いたのはおそらく弟だろう。菊田のことを兄ちゃんと呼んでいるし、間違いない。
今回は冒頭を除けば終始明るい回で良かった。
次回は洋食のマナーを知らず、テンパっている杉元がもっと見られるのか
楽しみ。
以上、ゴールデンカムイ第275話のネタバレを含む感想と考察でした。
第276話に続きます。