第137話 呼応
第136話のあらすじ
正門で合流する白石、キロランケ、アシリパ、谷垣、インカラマッ、牛山、夏太郎。
のっぺら坊を連れにひとり教誨堂へと向かった杉元を追おうとするアシリパをキロランケが止める。
インカラマッは雪下ろしの為に登る梯子を使って屋根の上から周囲を見回す。
教誨堂では土方に胴を斬り上げられ床に跪いた犬童が土方にもたれ掛かっていた。
犬童は土方のポケットの辺りを掴み、破れたポケットからアシリパの写真が落ちる。
介錯を促す犬童に従い、土方は犬童の首を皮一枚を残して斬り落とす。
その頃、杉元は危機が去るまで潜んでいた床下から這い出し、そこで偶然のっぺら坊と邂逅を果たす。
のっぺら坊に、アシリパから預かっていたマキリ見せ、その反応からのっぺら坊が父親であることを確信する杉元。
杉元は金塊の在り処を問うことはなく、何故アシリパを金塊を得るためのピースにし、戦いに巻き込んだのかを問い質そうとする。
のっぺら坊はアシリパをあらかじめ山で潜伏して戦えるように仕込んでいたのだ明かし、アイヌ民族を導くための旗印としていたのだと杉元に告白する。
アシリパをジャンヌダルクのように担ぎあげ、アイヌの独立運動の勢いを高めようとしているのかと怒る杉元。
のっぺら坊のアイヌ民族を想う気持ちを立派だとしながらも、アシリパにはアイヌの風習に従い、幸せに暮らして欲しかったという杉元にのっぺら坊は穏やかな視線を送るのだった。
のっぺら坊は視界の端、屋根の上に見覚えのある着物――インカラマッを発見する。
インカラマッもまた同時に赤い囚人服と杉元を発見。
地上のアシリパたちに呼びかけ、屋根の上に上がったアシリパはのっぺら坊に向けて双眼鏡を確認するのだった。
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第137話
幼いアシリパとウイルクが雪山の中の林で熊を観察している。
「木を見て森を見ず」という和人の言葉があるが、ぼーっと森を見ているだけでは見ていることにはならない、木も森も観察するんだ、とアシリパに諭すように教えるウイルク。
アシリパが遠くの山のふもとに赤毛のキムンカムイ(熊)を発見した、と声を上げる。
そこに体が大きく強そうな熊が近づき、ケンカになると予期するが、そうはならずに熊は互いに睨み合うだけで離れていく。
「大きい熊はもうあそこへ戻ってこない」
アシリパは、その言葉を発した傍らのウイルクに不思議そうな表情で振り返る。
先ほどの赤毛の熊のものらしき足跡を見つけたアシリパ。
アシリパは赤毛の熊を追いかけるかとウイルクに問いかける。
「あの赤毛は明日の朝8時30分にここを通る」
さも当然のように言うウイルク。
「待ち伏せよう」
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ウイルクとアシリパ
翌朝8時30分。
ウイルクの持つ時計の針が8時30分を示したのと同時に赤毛の熊が姿を現したのに、どうしてわかった? と驚くアシリパ。
ウイルクはここが赤毛の通り道であり、足跡を見れば毎日何時に通るかわかるのだと説明を始める。
赤毛の熊と睨み合っただけで離れて行った大きい熊は大人しい年寄りであり、他の熊の縄張りには近づかないのだという。
アシリパは説明を聞きながら、ウイルクを驚いた表情のまま見上げている。
「アシリパ おまえが斃しなさい」
ウイルクがアシリパに命じる。
その言葉に従い、熊から見えないよう、一人で木の陰に隠るアシリパ。
だがアシリパは一人で熊と戦う心細さから、アチャ? とウイルクに振り向く。
しかしウイルクからは返事は無く、アシリパの耳に、カフッカフッ、という熊の声が近づいてくる。
「ブオオオッ」
アシリパを発見した赤毛の熊が立ち上がって雄叫びをする。
アシリパは素早く矢を弓につがえ、赤毛の熊の左足に放つ。
矢を食らった赤毛の熊は悲鳴を上げる。
アシリパはその間に赤毛の熊から身をかわす為に木に駆け上る。
直後に赤毛の熊がアシリパを捕まえようと立ち上がり、木の上のアシリパに向けて伸ばした手が木の皮をバリバリと削る。
「フッ!! フッ!!」
興奮した様子の赤毛の熊。
アシリパは木の上でしゃがみながら冷静に赤毛の熊の動きを観察し、隙をみて、その樹上に向けて伸ばした手に大き目のマキリを打ち込む。
アシリパは必死な表情で、何度も何度も打ち下ろす。
赤毛の熊は口から泡を吐き、地面に勢いよく崩れ落ちる。
「毒がまわった」
荒く息をつきながら仕留めた赤毛の熊を見下ろすアシリパ。
戦うアシリパの傍で、銃を片手に控えていたウイルクが姿を現す。
「おめでとうアシリパ 恐れず動きも正確だった」
ウイルクはアシリパを抱き上げる。
「まだこんなに小さいのに立派に戦ってヒグマを斃してしまった」
アシリパはウイルクに抱き上げられたまま何度も拳を両手の小指側でウイルクの顔を殴りつける。
「はははッ すまない」
されるがままのウイルク。
「だが自慢の娘だ」
ウイルクはアシリパの頬にブチュ、とキスをする。
「ヒゲがクサイッ」
変顔で嫌がるアシリパ。
「アシリパ」
アシリパに笑顔を向けるウイルク。
「私の娘…」
その表情に、現在の、双眼鏡を持つのっぺら坊がオーバーラップする。
「お前はアイヌの未来…」
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のっぺら坊=ウイルクが確定。しかし意外な告白。
双眼鏡を持ったまま、アシリパが屋根の上で立ち尽くしている。
その隣には横目で心配そうにアシリパを見つめるインカラマッ。
「どうだ? アシリパお前の父親か?」
屋根の登ってきたキロランケがアシリパの背中に向けて叫ぶように問いかける。
「アチャだ」
アシリパは涙を浮かべて呟く。
「間違いなくウイルクなのか?」
再び叫ぶキロランケ。
屋根の上からのっぺら坊を真っ直ぐ見下ろすアシリパ。
のっぺら坊――ウイルクは、そのアシリパを杉元から受け取った双眼鏡で覗く。
(アチャ…どうして…?)
目を閉じ、さめざめと涙を流すアシリパ。
ウイルクは双眼鏡でそのアシリパの様子をじっと眺めている。
「アシリパさん…あんたが父親だと確認したか?」
ウイルクの隣で、杉元が息を弾ませながら問いかける。
「どんな顔してる?」
泣き続けるアシリパ。
ウイルクたちを横目で見ながら、インカラマッがアシリパから双眼鏡を受け取ろうと手を伸ばす。
「アイヌを…殺したのは私じゃない………」
ウイルクが屋根の上のアシリパを見ながら呟く。
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凶弾。そしてそれを放ったのは……。
「……ああ?」
短く問い返す杉元。
「アシリパに伝えろ…」
ウイルクが言葉を続ける。
「金塊…」
シュパアアッ
ウイルクの左前頭部を銃弾が撃ち抜く。
「あ…!!」
双眼鏡を覗いていたインカラマッが声を上げる。
杉元はウイルクを見つめるのみ。
ウイルクは目を開いたまま、地面に崩れ落ちていく。
「ウイルクが撃たれたッッ」
インカラマッが声を上げる。
え? とアシリパが顔を上げる。
シュパアッ
今度は、崩れ落ちるウイルクを抱きとめようとした杉元の左前頭部を銃弾が撃ち貫く。
仰向けに倒れる杉元。
「杉元ォ!!」
アシリパが叫ぶ。
ジャキィィン
銃から排莢する尾形。
ウイルク、杉元を狙撃したのは尾形だった。
一切感情を排した目でターゲットを見据えたまま、右手で髪を撫でつける。
「アシリパちゃん いますぐ逃げなさい」
インカラマッがウイルク達に視線を向けたまま隣のアシリパに向けて忠告する。
「これで金塊の謎を解く鍵は…あなたの中だけに存在する…!!」
アシリパは流した涙を拭いもせずインカラマッを見つめる。
「みんながあなたを巡って殺し合いになる!!」
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感想
リアルで「ええええええっっっ!!?」って声が出た(笑)。
ウイルクが死ぬのは物語の進行としては何となく予想の範疇だったけど、まさかその直後に杉元がウイルクと同じくヘッドショットを受け、しかもその射手がよりによって尾形……。
尾形のここに来ての裏切り、というより、この機を待ち構えていたということなのか……。
比較的仲良く杉元たちと同行していただけに尾形の裏切りは衝撃的だった。
何となく、もう尾形は杉元たちの心強い味方であり、冷静で頼れるスナイパーのポジションを確立していたと思い込んでいたなぁ……。
読者としては、ウイルクを一撃でヘッドショットし、その直後に杉元もまた頭を撃ちぬくという手練れとなると尾形を連想して覚悟しなくてはいけないけど、見開きでの尾形の登場は全く予想外で衝撃的過ぎた。
第七師団の名も無き兵士が撃ったんだとばかり思ってた……。
考えてみれば久々の登場だった。元々の役目としては狙撃技術でみんなのバックアップ担当だったはず。
それまで何の動きもなかったけど、初めて見せた目立った動きがこれか……。
元はと言えば尾形は敵だったし、そもそも尾形の行動の動機が他のメンバーに共有される様子が一向になかった時点で裏切りの可能性は想定するべきだったのかもしれない。
アシリパに向けて、チタタプ、って言ったり、徐々に尾形の心は氷解していったと思っていたんだけど……。
これはあまりにも予想外過ぎた。よりにもよって、この場で……。
そしてウイルク被弾の後、間を置かずにウイルクと同じく頭部に被弾した杉元。
これ致命傷じゃないの……?
主人公だし、そりゃ最終的には生きてるんだろうけど、この被弾箇所はヤバイ。
頭部に銃弾を受けても生還する例というのは、実は普通にあるらしいけど、杉元は本当に復帰できるのかな……。
これはすごい展開になってきた。
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あと、のっぺら坊がやはりウイルクだった、と確信し、さめざめと泣くアシリパが悲しかったなぁ。
その様子を静かに望遠鏡で眺めるウイルクの胸中も辛いだろうな。
きっと、自分がアイヌ大量殺戮の犯人なんかではないという告白を直接アシリパにしたかったんだろうと思う。
でも、ウイルクは尾形によって殺され、さらにウイルク自身による告白を受けた杉元もアシリパにそれを伝えることもできずに沈黙してしまう。
無念だろうな……。
結局、網走監獄にやってきたアシリパの心には、アイヌ大量殺人犯ののっぺら坊がウイルクだということが完璧な事実として刻まれてしまっただけの結果になった。
直接会えれば全然違った結果になったのに……。
アシリパを手中に収めることが金塊を得る為の方法となってしまったであろう今、いよいよ戦況は次のステージに上がった。
アシリパを狙いに第七師団にせよ土方にせよ手を尽くして来るに違いない。
最近出てこないけど、刺青人皮も重要。
刺青人皮が全て集まってもその謎を解くための鍵が必要で、それがのっぺら坊、ウイルクであり、そしてアシリパだった。
アシリパは自覚はないんだろうけど、きっと刺青人皮全てが集まったら何かを思い出すんじゃないだろうか。
アシリパだけ捕まえればOKではない。
刺青人皮と、その解法を知る人物のその両方があって初めて金塊への道が見えるんだと思う。
解法を知ってるのはアシリパ以外にもいる可能性も排除出来ないと思うんだけどどうだろう。
アイヌ大量殺人の犯人をウイルク本人が否定している以上、真犯人がいるわけで、その人物が知っているとかないのかな?
金塊を巡る戦いはこの話以降、ステージが一段上がると見て良いと思う。
戦いは激化する。
謎がさらに謎を呼ぶ展開になってきたし、楽しみ。
とりあえず、今は杉元の安否が心配。次でそれが分かる。
以上、ゴールデンカムイ第137話のネタバレを含む感想と考察でした。
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コメント
えええええええ…
えええええ……
尾形…
すっかり好きになっちゃった後だからキッツいわ
ですよねー。
自分も尾形好きなんでショックです……。
こんなことがあっても仲直り……なんて展開は無理があるかな……。
杉元は自分に敵対する相手には容赦が無いし、尾形はこんな性格だからもうずっと袂を別ったままになるんじゃないかと思ってます。
しかし、読めなくなった今後の展開に期待ですね。