第266話
※第265話のみ。第266話はヤングジャンプ発売後に更新予定です。
前話第265話 あらすじ
ソフィアが持っていた写真を見た鶴見中尉の反応が気になっていた鯉登少尉は、鶴見中尉が向かったソフィアとアシリパを閉じ込めている部屋に向かう。
その部屋のドアの前には、既に月島軍曹がこっそりと耳をそばだてていた。
鶴見中尉をコソコソと嗅ぎまわる気か、あなたこと、と言い争う二人。
月島軍曹は鯉登少尉に指摘する。
「じゃあなんでさっき鶴見中尉殿を相手に普通に話せたんですか」
鶴見中尉に対する早口の薩摩弁が治ったことは、鶴見中尉から心が離れているのではないか、と月島軍曹に言われ、はっとする鯉登少尉。
鶴見中尉は外に出て教会を見張るようにと二階堂に指示し、さらに鶴見中尉自ら部屋の外に出て誰もいないかどうかを念入りに確認する様子に、部下に聞かれたくない話なのかと違和感を覚えていた。
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意識を取り戻したソフィアに、いつか再会できると思っていた、と鶴見中尉。
オマエ誰だ!! と挑みかかるように問うソフィアに鶴見中尉は穏やかに返す。
「無理もないか お互い変わってしまったものな」
「あれから…十八年? 私を思い出せるかね?」
鶴見中尉はそう言って、ソフィアが持っていた写真を取り出す。
「ゾーヤさん」
まだ気付かないソフィアに、鶴見中尉は手のひらの二つの小さな骨を見せる。
「娘のオリガと 妻のフィーナ」
「長谷川 サン?」
目の前に現れた男が、自分が知る長谷川だと気付きソフィアは驚愕していた。
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部屋の外でその会話に耳を澄ませる鯉登少尉と月島軍曹。
「鶴見中尉殿に妻と娘が?」
鯉登少尉は呟き、隣の月島軍曹を見る。
月島軍曹は静かに、しかし湧きだして来る怒りを堪えていた。
「はぁ?」
鶴見中尉はソフィアに、キロランケの遺品から得た手紙の情報と、自分の知っていること、ソフィアが手紙で知ったことをすり合わせ、アシリパに教えようと提案するのだった。
第265話の感想記事です。
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第266話 小指の骨
1897年
1897年、鶴見中尉と月島軍曹はウラジオストクに来ていた。
鶴見中尉からウラジオストクという言葉の意味を問われた月島軍曹は答える。
「『極東を支配せよ』……です」
ウラジオストクがロシア唯一の不凍港で、年間を通じて使える軍港であることから、ロシアのみならず日本にとっても重要拠点で、戦争になれば占領が必要だと中央に強く進言していると鶴見中尉。
「日本人か?」
月島軍曹に、現地の老人が話しかける。
老人から、ハセガワという6年前に行方不明になった男を知らないかとロシア語で問われた月島軍曹。しかしまだロシア語を勉強中だった月島軍曹は辞書を開いてゆっくり話すように頼むのだった。
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「妻と娘の遺体が……」
老人が話を続ける。
月島軍曹はいつの間にか鶴見中尉が姿を消している事に気付く。
鶴見中尉を探して少し歩く月島軍曹。
鶴見中尉は全焼した屋敷の前に立っていた。
月島軍曹は、建物の崩れ落ちた看板のロシア語表記がハセガワ写真館だと気づく。
「さっきの老人が言っていた名前だ 日本人がこんなところで写真館を……」
そして先ほどの老人が、妻と娘がどうのといっていたと言って、お知り合いの方ですかと問いかける。
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いいや、と鶴見中尉。
「ウラジオストクの日本人街なら何千人も在留邦人がいる」
「日本人街から離れて店を開く変わり者がいたんだろう」
ハセガワ、と繰り返し呟いていた月島軍曹は、鶴見中尉に訊ねる。
「たしか鶴見中尉殿の母君の旧姓もハセガワでは? 新潟の墓参りにお供した時に……」
記憶力が良いな、と鶴見中尉。
「新潟にはよくある名字だ」
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個人的動機
月島軍曹はドアの隙間から部屋の中を覗きながら、過去の鶴見中尉とのやりとりを思い出していた。
(あのハセガワは鶴見中尉のことだったのか……)
鶴見中尉はソフィアとアシリパを前に、50年前、一部の過激なアイヌたちは砂金を大量に集めて何を企んでいたのかと話を続ける。
アイヌたちは帝政ロシアの海軍大佐から軍艦や武器弾薬を横流しさせて、幕府に対して蜂起を計画していた。
しかし取引寸前にロシア側の取引をする軍艦がウラジオストク沖で客船と衝突。取引相手全員が海に没してしまうという事故、1867年の「ロシア軍艦カバレラ事故」が起き、アイヌは支払いのために用意していた金塊の使い道を失っていた。
ウイルクはその宙に浮いたアイヌの金塊の行方を追って、北海道に来た。それが今回の事件の始まり、と鶴見中尉。
アシリパは隣のソフィアに、ソフィアやウイルク、キロランケが日本語を教えてもらったロシアの写真館の人は鶴見中尉だったということなのかと問いかける。
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俯き、微かに震えるソフィア。
脳裏では、フィーナに見守られ、オリガを恐る恐る抱いていた時のことを思い出していた。
ソフィアは目の前に鶴見中尉が迫ってきている事に気付く。
鶴見中尉は右手で小さな骨を弄んでいた。
「あの日……秘密警察の目的は私だけだった だが妻が手配書を拾わなければ戻って来なかった」
「もっと言えばあなた達が私の写真館を選んでいなければ妻と娘はウラジオストクで殺されずに済んだかもしれない」
鶴見中尉の手中にある骨を凝視するソフィア。
月島軍曹と鯉登少尉は、部屋の中から聞こえて来る話に耳を傾ける。
そして月島軍曹は、『日本繁栄のため極東への領土拡大』は『戦友たちが眠る土地を日本にする』という目的だったはずと思い返し、ひとつの可能性に至る。
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(鶴見中尉の本当の目的とはまさか…『妻と娘の眠るウラジオストクを日本にする』という個人的な弔いではあるまいな?)
鶴見中尉は引き続きソフィアに話しかける。
「妻と娘のこの世での役目は何だったのか この骨に聞かせてあげて欲しい」
そして亜港監獄からユルバルスとやりとりしていた手紙には北海道で何が起きたか書かれていたはずだとして、フィーナ、オリガの犠牲の上にソフィア達が何を得たのかを教えてくれないかとソフィアに問いかける。
鶴見中尉の質問に、いまさらそんな話を聞いて何の意味があるのかと月島軍曹。
ソフィアは大粒の涙を零して答える。
「ユルバルスの手紙…『ウイルク 変わってしまった』」
「『アシリパ生まれたから』」
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事故
杉元と白石は何とかビールの宣伝車を走らせて、鶴見中尉たちが潜伏する教会をつきとめていた。
アシリパを助けるべく突入するか? という白石に、杉元はこちらは銃一丁のみで不利であることや、教会内に何人敵がいるか不明であることなどから、土方たちを増援として呼ぶことを提案する。
白石は、救出を急がないと鶴見中尉が暗号の解き方を拷問で聞き出すかもしれないと心配していた。
それに対し杉元は、拷問して聞き出す情報はあてにならないとして、鶴見中尉であれば時間をかけて追い込むはずと推測する。
樺太での鶴見中尉の異常性を挙げ、わかんねえぜ、と言って杉元の顔を見る白石。
杉元が必死に自分を抑えている様子を見て、白石は、そうだよな、と考えを改める。
「今すぐにでも飛び込みたいのは杉元の方だよな……」
土方たちに援軍を頼む方針で固まった二人は、車を指導させる。
ドンッ
柱にぶつかり、勢いよく車から飛び出す白石と杉元。
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感想
鶴見中尉の動機が妻と娘の個人的な弔いのためだったのではないかと疑い出した月島軍曹、そして鯉登少尉。
次回の鶴見中尉とソフィアとの会話の流れによってはまた変わるのかもしれないけど、少なくとも今回までの話の時点ではすでに鶴見中尉から離れつつあった二人の心は、より決定的になものになったといってよい。
自分たちは、戦友たちのためという崇高な理念で動いていたはずなのに、鶴見中尉の私的な目的のために利用されていたとしたならとても許せないと思う。
個人的には、あくまで裏のテーマとして、妻と娘のためという私的な目的、動機が紛れていても構わないと思う。むしろそれは目的達成のための助けになるとすら思うんだけど、鶴見中尉に、言わば命を託していると言っても良い月島軍曹たちにとっては、私的な目的が主目的だとしたら気が気じゃないというのは良くわかる。
何しろ鶴見中尉はこの話をする上で、近くに誰もいないかどうかを確認している。それが、月島軍曹と鯉登少尉にとってはより鶴見中尉の話の中に垣間見えた私的な動機に、より真実味を見いだしてしまう原因となったのではないか。
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鶴見中尉としては、お題目としていた戦友たちのための領土拡大という目的も嘘ではないのかもしれない。
しかしこの状況で今すぐ月島軍曹と鯉登少尉に問い詰められたとしたら、仮にそのように言葉を尽くして説明したとしても信じてもらえないを鶴見中尉は感じていたからこそ、人払いをしたはずだ。
妻と娘の犠牲の上に何を得られたのかとソフィアに静かに問う鶴見中尉の様子からも、月島軍曹と鶴見中尉は疑念を深めているに違いない。
この二人が離反するとしたら、杉元陣営か、あるいは土方陣営につくようになるのか?
少なくともこの二人は、もう以前のように鶴見中尉に忠実に尽くすことはできないだろう。
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月島軍曹と鯉登少尉の今後の動きに注目したい。
そして、妻と娘の犠牲の上で何を得たかと問われたソフィアの答えが気になるな……。
ユルバルス=キロランケからの手紙にあったという、アシリパが生まれてからウイルクが変わった、という内容。
良い話のような気もするが、鶴見中尉にとっては、妻と娘の犠牲に対した意味はなかったという非常に残酷な話の流れになりそうで怖い。
一方、杉元たちは鶴見中尉たちが身を寄せている教会をつきとめていた。果たしてアシリパさんを救い出せるのか。
以上、ゴールデンカムイ第266話のネタバレを含む感想と考察でした。
第267話に続きます。
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