第281話 函館のひと
前話第280話あらすじ
鶴見中尉は、菊田特務曹長に一本の煙草を見せる。
それは菊田がスパイ活動の報告の為、使用していたものだった、
菊田はそれを中央の人間に回収してもらうべく、わざとベンチの足元に落としていた。
しかしそれを回収したのは宇佐美上等兵の息がかかった爺だった。
煙草の巻紙にびっしりと情報が書かれているのを菊田に見せつける鶴見中尉。
「これは宇佐美上等兵の手柄だ」
菊田は不敵な笑みを浮かべる。
「あなたもお終いです 鶴見中尉殿 必ず殺されますよ」
言いたいことは分かっている、と鶴見中尉。
鶴見中尉は、情報の受け渡しで菊田特務曹長の生存が確認できない場合、中央が第七師団を制圧しにやって来ると読んでいた。
スポンサードリンク
菊田特務曹長を撃ったのは、自分たちが退路を断って何としても金塊を手に入れるという決意の号砲だと宣言する。
「俺が言ってんのは中央のことじゃねぇ あんたを倒すのはノラ坊さ」
菊田からの意外な言葉に固まる鶴見中尉。
「ノラ坊?」
「地獄行きの特等席……俺にとなりを空けておきますよ」
菊田はそう言って、胸元から素早く二丁の拳銃を取り出す。
ドンッ
菊田特務曹長の頭を撃ち抜く月島軍曹。
「鶴見中尉殿のとなりは私の席だ」
鶴見中尉は各地の部下に暗号が示している場所へ一刻も集まるよう指示を出していた。
「武器弾薬を軍馬に満載して不眠不休で来いと!!」
一方、杉元たちもまた、鶴見中尉達と同時に暗号を解いていた。
スポンサードリンク
刺青人皮の前で困惑する杉元たち。
「この線…ほかの線を突っ切ってるこの線だ… みんなわかるか?」
アシリパが示した、刺青人皮の模様の中にある、どこにも交わらない太い線は、複数の刺青人皮との組み合わせで星の形を作っていた。
それは明らかに函館の五稜郭を示していた。
よりにもよってここか、と土方。
「面白くなって来たなぁガムシン」
門倉はふと思い立ち、胸元から出した自分の背の刺青人皮の写しを、床に置かれた刺青人皮の上に置く。
「あ…ここピッタリ」
それを見た全員が、心の中で全く同じことを考えていた。
(有っても無くてもいい!!)
汽車は、ちょうど目的地となる函館への到着していた。
第280話の感想記事です。
スポンサードリンク
第281話 函館のひと
到着
函館に到着した杉元たちは停車場でイカ焼きを食べていた。
イカをアイヌ語でなんというのかという問いにアシリパはエペッペッケと答える。
「枝のように分かれているという意味だ」
それ聞いて杉元は目を輝かせる。
「『運命の枝分かれ』…なんかそんな素敵なウエケペレ(昔話)がイカにはありそうだね」
なんにもない! と即答するアシリパ。
「イカに全然興味無いから!」
イカ可愛そう……と杉元。
永倉は、歩きながら食え! と怒り気味に先を急ぐよう促す。
五稜郭に到着した杉元たち。
大きさを気にする杉元たちに土方は堀を一周すると1.8キロ、星を横一直線に横切る場合は約550メートルだと答える。
スポンサードリンク
「五稜郭って何なんだ?」
アシリパに問われた永倉は、函館奉行所という既に取り壊されてしまった江戸幕府の頃の役所が星の中心にあったと説明する。
役目としては、ロシアからの防衛や欧米との外交、そして蝦夷における政治を担う場所だと永倉。
「城を守るために土で持った防護壁だけが今も残されている」
その解説に土方が続く。
「そしてわれわれ幕臣が官軍と戦った最後の地 函館戦争の大舞台だ」
土方歳三はここで死んだとされておりますよ、と永倉。
「兵どもが夢の跡 五稜郭で我々の夢は終わり そしてまた五稜郭から新しい夢が始まる」
牛山は明治30年(1897年)までは陸軍の練兵場として使われていたが、今は無人と、ここまで来る途中で聞いたという話を説明する。
「町からは離れていて周りに民家もないので普段は誰も寄り付かないそうだ」
スポンサードリンク
それを聞いた杉元は、無人だとしても陸軍がいた場所に金塊を隠すとは、と感嘆する。
「灯台下暗しと言うべきか とにかく大胆不敵だぜ」
のっぺら坊がどこから金塊を運んだのか、と疑問を口にする都丹庵士。
「そもそも金塊はどこにあった?」
白石がその質問に答える。
「海賊房太郎がアイヌの爺さんから得た話によればここから南西へ7キロ」
海賊房太郎は最期、白石に情報を遺していた。
「函館山のロシア領事館だ」
スポンサードリンク
金塊の保管場所
金塊の位置を知る老人キムシプを伴って、ウイルクたちはロシア領事館の前に来ていた。
キムシプはシロマクルから金塊があそこにあるんだなと確認され、金塊を運びこむ際に自分もいたと答える。
アイヌは金塊でロシアから軍艦カレバラを購入しようとしていた。
しかしウラジオストク沖にて、取引相手のロシア将校ごと沈没してしまう。
記録によれば船の行き先は小樽だった。
「あの街に金塊が集められていたのだと考えていたが 単に寄港するだけだったのかもしれない」
ウイルクたちは領事館に侵入する為に、裏手に回っていた。
キムシプは話を続ける。
「ロシアの領事もカネに目がくらんで武器の横流しに協力していたんだ 沈んだ軍艦には領事も家族も乗っていた」
ロシア政府には後ろめたい行動だったからカレバラの乗船記録には載らなかった、とウイルク。
「日本との関係悪化もあり代わりの領事が来ることはなくロシア領事館は今日まで閉鎖されていた」
スポンサードリンク
キムシプはウイルクたちを図書室に誘導する。
図書室の壁を金槌で壊すと、そこには地下へと続く階段がある。
領事が消えた後、自分たちがこの壁を作ったとキムシプ。
「この地下室を知っているのは俺以外みんな死んでしまった」
外に誰かいる!! とラッチがウイルクたちに報告する。
銃を構えて音のする方向へ一人で向かうウイルク。
「音之進には死んでもらうしかなか」
灯りの点いた部屋の中では、誘拐された少年鯉登音之進を救う話し合いをする鯉登父と鶴見がいる。
夜が明ける。
スポンサードリンク
鯉登父、鶴見が二人乗りで自転車で急な坂道を駆け下りていくのを確認して、ウイルクたちはここが安全な隠し場所ではないと理解するのだった。
地下へ降りていった一行は、辿り着いた場所で、保管された”それ”に松明の灯りをあてる。
「ウェンカムイにみんな殺された」
キムシプが呟く。
ウイルクたちは照らされた”それ”を呆然と眺めていた。
「……?」
ウイルクが何かに気付く。
「これは…おいキムシプ…! これはどういう事なんだ?」
スポンサードリンク
「おや?」
暗号を解く前に、海賊房太郎からもたらされた「函館」という情報なしには刺青人皮の文様から星の形は連想できなかっただろうと土方。
急いで探すぞ、と永倉。
白石は永倉を、さっきから焦り過ぎだと諫めようとする。
「札幌からここまで13時間だぜ!? 房太郎のおかげで奴らを出し抜けた それどころか鶴見中尉は暗号を何日も解けないかもよ?」
ふと気配を感じたのか、振り返る白石。
「おや?」
そこには完全装備をした、複数の軍人がいた。
スポンサードリンク
感想
夢
五稜郭に辿り着いた杉元たち。
いよいよ金塊を手に入れるのかと思いきや、兵隊たちが登場……。
そんなに簡単にはいかないよな~。
読み手としてはあっさり手に入れてもらうよりは、苦労してもらう方が嬉しいんだけど。
ラストの兵隊たちはさすがに鶴見中尉たち第七師団兵だとしたらあまりにも到着が早過ぎると思うので、それは違うとは思う。
だけど、現在のような観光地でもあるまいし、何故五稜郭にいるのかと不審に思われることは必至だろう。
ただでさえ個性的な風貌の面々だしなぁ……(笑)。
杉元たちはこのピンチをどう切り抜けるのか。
早く続きが読みたい……。
しかし、土方と永倉は、まさかこの期に及んで五稜郭に来ようとは思っていなかったようだ。
函館戦争を戦い、敗れた土方、そして永倉もまた新政府軍に負け続けた。
蝦夷共和国の夢破れた五稜郭で、今、五稜郭から見つかるであろう金塊で再び新国家建設の夢を描こうとしている。
彼らからしたら運命を感じざるを得ないだろうな。
しかしもし金塊を見つけたら、おとなしく杉元・アシリパ・白石と分け合うことになるのだろうか。
このまま杉元一行と土方一行の混成グループが金塊を見つけたとしても、二つのチーム間で最後の戦いがあったりするのかな……。
スポンサードリンク
海賊の最期の情報
暗号が示している場所が五稜郭だと気付けた決め手は、海賊房太郎が最期に白石に託した情報だった。
白石だけではなく、札幌まで一緒に旅をしてきた杉元やアシリパも、海賊が望んだように彼の名を語り継いで欲しい……。
めっちゃくちゃ良い仕事してる。海賊のヒントがないと五稜郭を連想できていたかどうか。
海賊の情報がなかったら、五稜郭に行き着くまでの時間がかかって、鶴見中尉たちが先に到着していた可能性は高い。
その場合、五稜郭は金塊が見つけ出されるまで第七師団によって封鎖されていたのではないか。
アリの子一匹通さない防御態勢で、とても金塊を見つけにいくことなど出来ないだろう。
杉元たちが先に到着できたのは、金塊を手に入れるために非常に意味がある。
金塊を探そうとしている矢先に兵隊たちと遭遇する羽目に陥ろうとも、金塊争奪戦において杉元たちはまだまだ第七師団より優位な位置にいると思う。
このチャンスを・アドバンテージを活かせるか?
スポンサードリンク
金塊……ではない?
ロシア領事館……。
どこかで見た事あったなと思ったら、20巻収録の鯉登少尉の過去のエピソードだった。
誘拐された鯉登少年をどう救うか鶴見中尉と鯉登父がロシア領事館で話し合っていた時、ウイルクたちもそこにいたのか……。
キムシプの案内で金塊が保管されているという地下室に向かうウイルクたち。
壁の先に地下室があるなんて、キムシプたち壁を作った当事者でなければとてもわからないだろう。
しかし地下でウイルクたちは思いもよらぬものを見たようだ。
そこにあったのは金塊ではなかったということなのだろうか?
光を放つ何かを見つけたように見えるが、果たしてその正体は何だったのか。
スポンサードリンク
ウイルクたちが松明の光を金塊らしきものにあてる直前のキムシプの「ウェンカムイにみんな殺された」というセリフに関係がある?
ここで人間を殺すことを覚えた凶悪なヒグマが出て来るのか……。
何かに気付いたウイルクがキムシプに「これはどういう事なんだ?」と訊ねた際のキムシプの表情が冷徹というか、なんとも意味ありげだ。
確実に言えることは、ただそこにわかりやすく金塊がある、ということではなさそうだということ。
一見、金塊に見えたけど、良く見たら実際は違っていたということなのか?
うーん。気になる。
以上、ゴールデンカムイ第281話のネタバレを含む感想と考察でした。
第282話に続きます。