第253話 父の汚名
目次
前話第252話 あらすじ
サッポロビール工場内。
杉元を発見し、激高する二階堂。
鯉登少尉がいち早く杉元にサーベルで襲い掛かる。
初撃が巨大な酒樽を直撃し、ビールが噴出。
それをまともに顔に浴びる鯉登少尉。
二階堂は腕に装備した仕込み銃で杉元に発砲する。
二対一で不利な状況にある杉元の元に、アシリパが駆けつける。
アシリパは態勢を立て直そうとしている杉元の盾になるように立っていた。
二階堂は我を忘れて杉元を再び銃で撃とうとしていた。
しかし月島軍曹が、アシリパに弾が当たることを恐れて制止するのだった。
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鯉登少尉は杉元の銃の銃身を持って銃弾をかわし、サーベルで襲い掛かる。
鯉登少尉と揉み合いになっている杉元に対して、二階堂は悲鳴に近い叫びを上げる。
二階堂を落ち着かせようとする月島軍曹。
その時、菊田特務曹長は、樽の上の死角から杉元を狙っていた。
しかし発砲直前、牛山が樽を押しバランスを崩すのだった。
衝撃を受けた樽から大量のビールが流れだす。
杉元と鯉登少尉はビールを顔面に浴び、大量に飲んでしまうのだった。
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完全に泥酔し、ふらつく杉元に二階堂が襲い掛かる。
しかしひらりと身をかわす杉元。
床に流れるビールに足を取られ、杉元、二階堂、月島軍曹は転んでしまう。
「うい~!!」
鯉登少尉は完全に酔い潰れていた。
アシリパは、ビールに流されていった杉元を探していた。
そのアシリパを、菊田特務曹長はひょいと担ぎ上げてビール工場を出る。
しかし菊田特務曹長はアシリパに矢毒が盛られた矢尻を鼻に突っ込まれ、人間なら即死すると脅されて足を止めるのだった。
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菊田特務曹長は両手を上げて、アシリパに、七人のアイヌがどうして殺されたのかを知りたくないかと訊ねる。
アシリパが興味を示したので、菊田特務曹長は、事件当時現場を調査し、遺体と遺品を回収したのは自分たちと答えるのだった。
物見の塔からアシリパと菊田特務曹長が向かい合って立る光景を見ていた尾形は、宇佐美上等兵がアシリパを発見して接近していることに気付く。
鶴見中尉と話すといい、と菊田特務曹長の説得は続く。
父親に何が起きたのか知ることは、金塊の在り処より知りたいことではないか、と言われ、アシリパは反論できない。
菊田特務曹長、さらに宇佐美上等兵が近づいていることから、もはやアシリパが鶴見中尉の手に渡ることは確実だと判断した尾形は、アシリパに照準を合わせる。
その時、尾形の右側に勇作の霊が出現する。
思わず仰け反るのと同時に、全く予期しない方向から飛んできた弾が尾形の銃に弾が当たる。
銃に当たった場所は、1秒前まで尾形の頭があった位置だった。
尾形は弾が飛んできた方向に視線をやる。
ヴァシリは初撃を外してしまい、次の攻撃をすぐには継続出来ずにいた。
尾形が呟く。
「手練れの狙撃手だ…」
第252話の感想記事です。
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第253話 父の汚名
工場に逃げ込んだ犯人を追う
土方、夏太郎の元に駆け寄る都丹、永倉、有古一等卒。
土方は、犯人は? という都丹の問いに、工場内に逃げ込んだと答える。
犯人の顔が外国人であったことから、刺青脱獄囚に間違いないと続ける土方。
都丹は、牛山たちのいる方向で別の揉め事が起きていると報告する。
「ジャックを確保して急いで撤退する」
工場に向かう土方。
犯人は手負いなので血痕を探すようにと指示するのだった。
偶然、弾の回避に成功した尾形は死角に隠れたまま、狙撃を受けた銃の調子を確認していた。
「中の撃針がやられた」
尾形は宇佐美上等兵が落としていった三八銃が同じ位置にあるかもしれないと考えて、物見の塔から降りていく。
勇作の霊に驚き、身を引かなかったら撃たれていたと尾形。
勇作が自分を助けたのかと考えるも、そこまでお人好しではないだとう? と考えて物見の塔の梯子を降り、宇佐美の銃の元へ駆けていく。
「俺の邪魔をするつもりか… 悪霊めが」
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アシリパの選択
大量のビールが撒かれた工場内で、杉元たちは完全に酔っぱらっていた。
ジャックを捕まえるんだと外に出ようとする杉元に、二階堂が足の仕込み銃を発射しようとする。
しかし足の仕込み銃の銃弾は床に当たり、二階堂はその反動で一回転するのだった。
ビール瓶で殴りかかろうとする鯉登少尉だったが、転んで手放してしまい、月島軍曹の頭に直撃させてしまう。
ビール塗れになっている自分の銃を拾い上げ、銃の内部に入り込んだビールを強く吹いて水抜きを行う杉元。
アシリパを探しに工場の外に出る。
アシリパは菊田特務曹長に矢を引き絞った状態にして向けていた。
菊田特務曹長の話を嘘やでまかせではないかと問いかけるアシリパに、菊田は一つ質問をする。
「アイヌの金貨を見たことがあるか」
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菊田特務曹長は驚いた表情のアシリパを見て、知ってるようだなと話を進めていく。
金貨はアイヌたちの遺品から見つかったことを挙げて、すぐ盗まれてしまうような金貨を発見できたのは最初に現場を調べた人間にしか不可能だろうとアシリパに問いかける。
菊田は、金貨を見ていたからこそ、アイヌの埋蔵金の存在を確信できたと続ける。
「『アイヌたちが持ち寄って集めた砂金でつくられた金貨だ』と鶴見中尉は言っていた」
そして刺青人皮の文様から、金貨はのっぺら坊が作ったものだと言って、鶴見中尉であればもっと他にも知っているとアシリパに付いてくるよう説得する。
「親父さんが本当にアイヌを殺したのかどうか教えてやる」
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しかしアシリパは番えた矢を下ろそうとしない。
「アチャの汚名を返上することよりもアチャから託されたアイヌの未来を優先させる」
そう言って、菊田特務曹長の説得を跳ねのけるのだった。
「金塊を放棄しなければお前の周りの人間はみんな殺されるんだぞッ アシリパッ」
それを受けてアシリパは、いまさらそんな話か、と拒絶する。
アシリパの背後からそっと迫る宇佐美上等兵。
しかし門倉が宇佐美の背にタックルをかますのだった。
「嬢ちゃん逃げろッ あんたが捕まったら一番困る」
逃げるアシリパ。
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工場に逃げ込んだアシリパ
「門倉部長~」
宇佐美は右手に持っていた銃剣を門倉に振り下ろす。
「このアバズレ!!」
地面に転がり、ギリギリでかわす門倉。
そのまま転がってきた門倉を慌ててジャンプしてかわす菊田特務曹長。
工場に逃げ込むアシリパを追う菊田だったが、アシリパから放たれた矢をかわすために足を止める。
「小賢しい娘だぜ」
アシリパが入っていった工場の入り口に立ち、中を窺う。
門倉は宇佐美上等兵の追跡から逃げていた。
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宇佐美上等兵が落としていった銃を拾おうとした人物がヴァシリに頭部を撃ち抜かれる。
撃たれたのは尾形に金を握らされて動いていた、金塊争奪戦には何の関係もない男だった。
尾形からすれば未だに位置が特定できない狙撃手であるヴァシリが弾を込めている一瞬の間に、尾形は走って宇佐美の銃を回収して建物の中に逃げ込むのだった。
何度も撃ち損じたな、と笑う尾形。
「機会はそうそう巡って来るもんじゃねえぜ」
ヴァシリはフンフンと鼻を鳴らして、次の狙撃の機会を窺う。
土方たちは瓶の製造ラインがある工場に侵入していた。
何者かの存在がいることを土方たちに警告する都丹庵士。
有古一等卒は床に血痕を発見していた。
オルトログは手から出血していた。
物陰に潜み、工場に入ってきたばかりのアシリパを密かにつけ狙う。
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感想
アシリパさんの決意
アシリパさんは菊田特務曹長のアイヌの金貨の話を聞き、俄然、彼の見た事件現場の話に説得力を感じていた。
鶴見中尉であれば自分よりもさらに重要性も精度も高い話が聞けると誘惑されるアシリパさんだが、しかしその話に乗ることなく、ぴしゃりとそれを跳ねのけて見せた。
本当は何を置いても父を含むアイヌの死の真相を知りたいだろうに……。
アシリパさんが菊田特務曹長、そして鶴見中尉から事件についての話を聞くよりも、アイヌの未来を優先させたことには感心すると同時に辛くなった。
彼女に限らず、どんな人間であっても、自分の気持ちを圧し殺したり、我慢しなきゃならないことがある。
しかしアシリパさんの抱えているものは、一人の少女が耐え忍ぶにはあまりに重過ぎる。
アイヌの未来を託されているという重責に必死に応えようとしているアシリパさんには、ただただ潰れないで欲しいと願うのみだ。
その大きな精神的な支えとなっているのは、やはり杉元なのだと思う。
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アシリパさんは、追いかけてくる菊田特務曹長に矢を射かけてみせた。
その矢は菊田特務曹長に当たることなく、彼の手前で地面に刺さる。
アシリパさんの狩猟における弓矢の腕前から考えれば、それはミスというよりは、菊田の手前に落ちるように、当たらないように力とタイミングを調整して狙って矢を放った結果なのだという解釈の方がしっくりくるように思う。
しかし、このまま金塊争奪戦で戦いを続けていれば、いずれ敵に向けて一直線に矢を放たなければその場を切り抜けられない場面に直面するだろう。
自分だけではなく、杉元や白石などの仲間が今まさに死のうとしている場面を目の当たりにすれば、アシリパさんの性格上撃たざるを得ないように思う。
これまでアシリパさんは、この血生臭い金塊争奪戦において、杉元に対して不殺を呼び掛けてきた。それは自分が人を殺さないという決意に裏付けられていると思う。
実際、アシリパさんはこの激しい金塊争奪戦において、まだその手を汚していない。
ただ、父から託されたアイヌの未来を守ろうとするなら、金塊を手中に収めようとするなら、いつか選択と決断の時はやってくるだろう。
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敵を殺害した所でアシリパさんの純粋さ、清廉性は一切毀損されることはない……、と言いたいが、やはり人を殺してしまうというのは、もう決して戻ることが出来ない所に足を踏み出したことになると思う。
もしそうなったとき、杉元はそれを自身の敗北と感じるだろう。
逆にアシリパのそういう部分に勇作の面影を見ていた尾形は嗤うかな? しかし内心では密かに失望していたりするのかも……。
ヒンナヒンナしていただけの一人のアイヌの少女が、いよいよ殺し殺される関係性の中に身を投じていくことになったら、特にこの金塊争奪戦への協力を求めた杉元の抱えるであろう罪悪感は半端ないだろう。
何より、アシリパ自身がぐっと死に近づく。
アシリパさんを色々な意味で守れるのは杉元しかいない。
しかし札幌でのバトルロイヤルは既に始まっているのに、杉元は完全に酔っぱらっている(笑)。
銃の内部に入り込んだビールを水抜きする程度の頭は働いていたし、大丈夫かな。
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VSオルトログ
やはり自身が凄腕スナイパーなだけあって、尾形の立ち振る舞いは見事だ。
先に補足され、さらには銃も破壊された状況からの戦闘開始。
明らかに不利な状況だったはずなのにもう尾形は新しい銃を手に入れた。
二度目の狙撃を受けたことで凡その方角も把握できていると思う。
ヴァシリがもう一発狙撃して、尾形がそれを乗り切ったなら、尾形はばほぼイーブンの状態に持ち込めそうだ。
そしてオルトログとの戦いも始まろうとしている。
それも、先にオルトログに対して戦いを仕掛けた土方たちではなく、アシリパさんの身に危機が迫っている。
果たしてアシリパさんは無事この局面を切り抜けられるか?
真っ暗な中での追跡だし、都丹庵士が活躍するのかもしれない。次号が楽しみ。
以上、ゴールデンカムイ第253話のネタバレを含む感想と考察でした。
第254話に続きます。