第203話 似顔絵
目次
前話第202話 狙撃手の悪夢のあらすじ
白石の足掻き
銃弾の飛んできた方向へ向けて杉元が駆けていく。
狙撃を避けるために犬橇の陰に身を隠していた月島軍曹が、杉元の行動に気づく。
鯉登少尉は、自分たちを狙っている尾形が、杉元のことを見落とすことに疑問を抱いていた。
月島軍曹は脚を撃たれた白石に手当のために自分でこちらに来るように指示する。
白石は止血のために、自分で負傷個所を布で縛って圧迫していた。
アシリパは谷垣に、犬橇を押して狙撃を防ぎつつ白石の元へ行こうと呼びかける。
「アイツを助けなきゃ…!!」
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谷垣は、狙撃手が尾形ならば、狙いはアシリパだとその提案を却下する。
しかし、それでも助ける、と言うアシリパに、来るな、と白石が叫ぶ。
白石は犬橇を引く犬に向けてお菓子をチラつかせて呼ぼうとする。
しかし犬が白石の元に行かないよう、エノノカとじいちゃんが犬を抱きしめるようにして止める。
「俺より犬がだいじかッ!!」
犬を弾避けにしようという目論見が叶わなかった白石は早々に次のターゲットを見つけていた。
電線にとまっているカラスを呼び寄せるために、口噛み団子用の米をばら撒く。
しかし寄って来たのはスズメだった。
「んぐう…カワイイ」
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連携作戦
スズメと戯れている白石を、狙撃手は双眼鏡でじっと観察していた。
狙撃手は、白石のことを覚えていた。
(「間違いなくあの場にいた」)
かつての記憶を辿る。
狙撃手――ヴァシリは、以前戦って敗れた尾形が出てくるのを待っていた。
(「出てこい 私は死ねなかったぞ」)
(「あの時の続きをしよう」)
月島軍曹は、犬橇から軍帽だけをチラつかせて狙撃手の注意を引いていた。
その様子を見た谷垣は、からかって遊んでいるのかと問いかける。
「こちらに注意を向けさせ続ける…連携作戦のためにな」
誰との? とアシリパ。
月島軍曹は狙撃手の優位は相手の射程範囲外から攻撃できることと前置きし、気づかないうちに敵に距離を詰められるのは怖いだろう、と続ける。
「ましてやそれが不死身の杉元なら悪夢だ」
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直接対決
杉元は狙撃手のいる建物に入り、素早く階段を上がっていく。
その気配にヴァシリは敏感に察知していた。
まるで草むらに熊が潜んでいるように、背後の襖の先にいるなにか狂暴なものが自分に飛びかかろうと様子を窺っている。
杉元もまた、襖を開けた先に敵がいることを確信し、銃に銃剣を装着する。
杉元は銃で敵と撃ち合うよりは、まずは相手に一発撃たせて、次弾を装填している内に敵の懐に飛び込んで白兵戦で確実に敵を無力化しようと考えていた。
(尾形…俺の手でカタをつけてやる!!)
襖が開くと同時に、ヴァシリが銃弾を撃ち込む。
杉元に当たったかと思われたが、それは杉元が用意していた姿見だった。
事前に立てていた作戦通り、杉元は一気に部屋に飛び込む。
接近戦への備えをしていたヴァシリは、杉元にピストルを向ける。
ドゴッ
しかし杉元はすかさずヴァシリの顔目がけてさきほど購入した味噌の入った桶を投げていた。
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モロに味噌桶を食らいのけぞるヴァシリ。
その隙に杉元はヴァシリの持つピストルを銃身を打ち付けて払い落とす。
「誰だよテメェ」
尾形ではないことに気づきつつ、杉元は仰向けに倒れたヴァシリの喉元目がけて銃剣を突き出す。
ヴァシリはその一撃を味噌桶を盾にして何とか防ぐと杉元と距離をとるために急いで部屋から逃げる。
(「距離だ 距離がさえあれば私は負けない…」)
しかし杉元は左手で襖をぶち抜いてヴァシリの胸倉を掴むと、銃剣をヴァシリの顔目がけて襖越しに何度も突き刺す。
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ヴァシリは顔をそらして銃剣による襖越しの連続突きをギリギリでかわしていた。
しかし杉元の攻撃は止まらなかった。
持っていたヴァシリの襟を怪力によってぐいと引き寄せると、肩車の要領で畳に投げつける。
そして仰向けに倒れたヴァシリの腹の上に乗ると、銃剣を振り下ろそうとする。
その時、掴んでいた襟元に見えている紙に描かれた絵に気づく。
「なんだよこれ…」
その紙を取り出す杉元。
「お前が描いたのか?」
その絵は尾形の似顔絵だった。
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第202話 狙撃手の悪夢の振り返り感想
杉元VSヴァシリ
やはり犯人はヴァシリだった。
尾形に撃ち抜かれた顎のあたりを布で覆っていた。
どうなってるんだろう……。悲惨な状態になってるのかな……。
どうやらヴァシリは尾形へのリベンジのために杉元たちを狙ったようだ。
白石を撃ったのは、尾形と戦った時に一緒にいたため。
月島軍曹や鯉登少尉は、街で白石と一緒にいるところをヴァシリに見られていたということらしい。
杉元が白石たちと別行動していたのは僥倖だったんだな。
そしてヴァシリにとっては不幸だった。よりによって杉元の接近を許すとは……。
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やはり杉元強いな~。
敵のいる部屋に飛び込む前のわずかな時間で、白兵戦で相手を無力化する方針を瞬時で決められるその決断力がすごい。
自分なら襖越しに銃を撃ちそう……。それだと運良くヴァシリに当たればいいけど、当たらなかった場合窓から外に逃がしたり、逆に襖を挟んで撃ち合いになったりして事態が長引いた末に逃がすという最悪の結果もあり得る。
それならリスクを取って部屋に飛び込んで、白兵戦で早々に決着をつけようと考えたということだろう。
見事にヴァシリを制圧した。
しかし杉元がヴァシリの襟元から尾形の似顔絵を見つけたことで、彼に止めを刺す流れが変わった。
ここから話がどう進んでいくのか。
まさか同行する流れになったりするのだろうか……。
202話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
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第203話 似顔絵
ヴァシリと杉元の会話
馬橇で通りかかろうとする親父に向けて、こっちに来るな、と必死で呼びかける鯉登少尉と月島軍曹。
状況が全くわからない親父は馬橇でゆうゆうと月島軍曹たちの前を通過する。
それを見て、狙撃手の攻撃を誘うために帽子を掲げる月島軍曹。
しかし帽子が全く無傷なことから、杉元が見事に狙撃手の元に辿り着いたことで狙撃を止めたと判断するのだった。
「どうやら杉元が行ったようだぞ」
その言葉を受けて、思わず駆けだすアシリパ。
(杉元…!!)
ヴァシリを制圧した杉元は、彼の胸元にあった尾形の似顔絵を何枚も畳の上に並べる。
そして尾形の居場所や襲って来たのは尾形からの依頼なのか、とヴァシリに問う。
日本語がわからないものの、杉元の言わんとしていることを察したヴァシリは自分の似顔絵を描いた紙と尾形の絵を何度かぶつける仕草をしたあと、自分の似顔絵を手放してみせる。
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「なるほど」
杉元は彼が尾形と戦って負けたこと、尾形を探していることを理解する。
ヴァシリが白石の似顔絵を指でトントンと指して見せたのを見て、白石と一緒に行動していた尾形も一緒にいると思って襲ってきたのだと察した杉元は、この二人は関係ない、と白石とアシリパの絵を尾形の絵から引き離す。
そして尾形の絵に拳を振り下ろす。
「悪いのはこいつだ!!」
自分と同じように、尾形の絵に拳を振り下ろすヴァシリに杉元が声をかける。
「そうだいいぞ」
杉元は自分が尾形に頭を撃たれたことを説明する為に絵を描き始める。
しかし描き上がった絵は上手なヴァシリの絵とは程遠いクオリティだった。
杉元は下手な絵を見せながら、尾形がキロランケと組み自分とのっぺらぼうを撃ったと日本語で説明する。
ヴァシリは杉元の下手な絵と自分で描いた蜘蛛の絵を並べる。
杉元が描いた頭を撃ち抜かれた絵は、ヴァシリには蜘蛛に見えていた。
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杉元は、違う! と否定し、再び別の下手な絵を描き始める。
それは目に矢が刺さった尾形の絵だった。
杉元は引き続き日本語で、アシリパの矢が尾形の目を射ったこと、尾形の死でアシリパを汚したくなかったから自分が彼の目をえぐって助けたと説明する。
「アシリパさんが見ている世界に俺もいると思うとなにか綺麗なものになった気がして救われる」
その言葉を、既に到着していたアシリパはふすま越しに聞いていた。
「杉元なにやってんだ!?」
アシリパのあと、少し遅れて到着した谷垣たちが見たのは、まるで子供のように畳に寝転がってお絵かきに興じる杉元とヴァシリだった。
ヴァシリを含めて、杉元たちは外に出ていた。
アシリパはヴァシリを、国境でキロランケを狙ったロシア兵と説明する。
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「(この男は死んだ)」
月島軍曹はキロランケの似顔絵を見せながらヴァシリに説明する。
「(この男も逃げて行方はわからない)」
左手にある尾形の似顔絵を手放す。
「(我々は子供を取り返しに来ただけだ 皇帝殺しには無関係だ)」
白石は松葉杖をついていた。
まず話しかけずにいきなり人の脚を撃ち抜いたヴァシリに向けて怒りを爆発させる。
「なんか言うことねえのかよ!! ロシア語には謝罪の言葉は無いのかねぇ」
ヴァシリは何も答えず、口元をマスクのように覆っている布を開いて見せる。
白石は露わになったヴァシリの下顎を見て、ひ~、と悲鳴を上げる。
傷のせいでうまく話せないらしい、と杉元。
「はやくロシアに帰れ バカアホ」
ヴァシリに捨て台詞を吐く白石。
その後、犬橇が出発する。
ヴァシリは、遠くなっていく杉元たちの犬橇を立って見送っていた。
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ヴァシリの意外な行動
杉元たちを乗せた犬橇は快調に進んでいく。
その後方からヴァシリが馬に乗って追跡してくるのを見て、白石が不安そうに呟く。
「皇帝殺しの仲間だってまだ疑ってんのかな? キロちゃんが死んだのも嘘だって…」
しかしアシリパは、アイツはキロランケに興味がない、とあっさりと否定する。
その根拠は、似顔絵がキロランケの手配書の裏を使って描かれていたためだった。
そのアシリパの主張を受けて、自分達と一緒にいれば尾形に会えると思っているのか、と白石。
杉元は、ヴァシリが尾形と自分のどちらかが死ぬまでやり合うつもりなのだろうと彼の心境を推察していた。
「『死んでないなら負けてない』って」
犬橇は雪原をひたすら進む。
尾形がまた戻ってくると思うか? と杉元に問うアシリパ。
杉元は、アシリパが暗号を解く鍵ならその可能性はあると答える。
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アシリパはその答えを聞いて少し沈黙したあと、尾形が自分を殺す素振りも見せたと切り出す。
「本当に金塊が欲しいんだろうか…」
「引っ掻き回して遊んでるだけなのかもしれねえな」
杉元たちはスヴェトラーナからの伝言を伝えるために燈台守の夫婦の元に立ち寄っていた。
夫婦はスヴェトラーナからの手紙を読み涙する。
月島軍曹たちが夫婦と会っている間、杉元とアシリパは燈台で会話を交わしていた。
杉元はすべての真相を知っているはずのソフィアを探すために大陸に行きたいが、アシリパを連れ戻すのが最優先の月島軍曹たちや、アシリパをフチに会わせて元気にするために来た谷垣には無関係だと考えていた。
アシリパは、キロランケと同じく大陸で仲間を集めて日本へ渡る計画を持っていたソフィアは大陸に逃げる人ではないと確信していた。
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ソフィア北海道へ
ロシアの日本海沿岸の港町。
岩息はコートを着た大勢の丸坊主の男たちを前に、その中の一人を殴り倒していた。
「お前ら引っ込んでな!!」
岩息を倒そうと騒ぐ男たちを制して出てきたソフィアだった。
咥えタバコの煙を鼻から吐き出す。
「来いよ あたしがこいつらの親分だぜ」
男たちの間でソフィアコールが上がる。
「すみませんが男性だけにしてくれないか?」
そんな岩息の言葉を受けて、ソフィアはタバコを吐き捨てて呟く。
「やさしい男嫌いダヨ みんな死ぬカラ」
ソフィアの右フックの直撃を食らう岩息。
今度はソフィアの左ストレートが岩息にクリーンヒットする。
ソフィアからの続けざまの攻撃を受け、思わずよろめく岩息。
しかしその表情は強者との邂逅の喜びに輝いていた。
「世界は広い!!」
本格的な殴り合いに邪魔だとばかりに、胸を露出するソフィア。
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「手加減出来ませんッ」
岩息がソフィアの顔を殴りつける。
しかしすかさずアッパーを返すソフィア。
岩息の顔は跳ね上がる。
互いに一歩も退かない拳の応酬を前に、男たちは異様な盛り上がりを見せ始めていた。
突如、周囲に銃声が響く。
撃ったのはスヴェトラーナだった。
そこまでにしてソファア!! と天に向けていた銃口を今後はソフィアに向ける。
「その用心棒を壊されると私が困る」
殴り合いを終え向かい合って会話するソフィアと岩息。
ソフィアは岩息を勧誘する。
「ガンソク 気に入った ワタシ一緒にコイ」
それに対し、自分たちは西のロシアの首都に行きたいのだと岩息。
「たくさん人がいれば強いヤツもたくさんいる」
「ソフィアはこれからどこへ?」
スヴェトラーナの質問に、ソフィアが答える。
「私達の希望と復讐のために北海道へ」
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第203話 似顔絵の感想
新たな同行者
ヴァシリ、まさかの杉元たちの仲間入り?
確かに初登場時から印象的なキャラだった。手ごわそうな雰囲気があったし、何よりかっこよかったもんなー。
しかし意外な道連れだわ。
尾形に会うためには杉元たちに同行するのが最も効率的だと判断したのか。
まさか樺太で尾形と決着がつくとは思えない。
おそらく尾形との勝負は北海道へと持ち越すと思う。
そうなるとヴァシリは北海道にもついてくるってこと?
最終的には杉元たちに同行していた頃の尾形よりも杉元たちと仲良くなってそう。
今後、杉元たちとどんな関係性を構築して、どんなキャラ付けがされていくのか楽しみだ。
今のところ足を撃ち抜いた白石との関係性が深いか?
ここから白石との仲がどう進展していくか個人的に注目したい。
第一印象が最悪だと、あとは良くなるだけ。少なくとも漫画などのフィクションの中では……。
現実は最悪なまま何の進展もなく終わるけど(笑)。
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杉元の想いを聞いたアシリパは……
ヴァシリに向けて杉元が言った、尾形を救った理由をアシリパが襖越しにばっちり聞いていた。
こんなの杉元をさらに好きになっちゃうじゃん。
それと同時に、何人もの人を殺してきた杉元が自分をアシリパとは対極の汚れた人間だと認識しているのを改めて感じて辛くなった。
杉元が戦わなければならなかったのは彼自身に特に落ち度があったわけではない。
ただ必死に生き延びるために勝って生き延びてきただけなのに……。
杉元の言葉を聞いたアシリパは複雑な表情をしていた。
アシリパは杉元が自分を大切に思ってくれていることへの喜びよりも、杉元が自分を汚れた人間だと思っていることが辛いんじゃないかな。
以上、ゴールデンカムイ第203話のネタバレを含む感想と考察でした。
第204話に続きます。
204話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。