第256話 篤四郎さんの一番
目次
前話第255話 あらすじ
ビール工場の火災を受け、たちまち野次馬が集まる。
その中で、上エ地は一人、テンションを上げていた。
官憲が蒸気ポンプでの放水による消火活動を行う中、上エ地は工場周辺に土方や海賊たちがいることに気付き、はしゃいでいた。
ここしか無い、と声を弾ませる上エ地の視線の先にははしご車がある。
オルトログの脚をストゥで殴りったアシリパ。
その場にうずくまるオルトログを置いて、その場から去ろうとするが。アシリパはオルトログに毛皮を掴まれ、足止めをされてしまう。
「愛し合って生まれた子供? 嘘ダ!! あの女と…同じことを!」
離せ! と抵抗するも、アシリパには逃れられない。
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かつてオルトログは近寄ってきた汚れた娼婦から、自分と王族が愛し合って生まれた息子があなた(オルトログ)であることと、もし自分の子なら痣があるはずだと言われていた。
その言葉通りであれば、自分は本当に娼婦の息子だと思ったオルトログは大きな衝撃を受ける。
娼婦から生まれた事実を認めないオルトログ。
ついに彼は自分が処女から生まれた神の子だと称して、街の娼婦を殺し続けることになるのだった。
アシリパは手を離さないと毒の付いた矢尻で刺すとオルトログに手を離させようとしていた。
しかしオルトログは手を離さない。
自分はは処女の母から生まれた神の子だと言って、アシリパにナイフを向けようとする。
しかし明らかな危機が自分の身に迫っても、アシリパには毒の付いた矢尻をオルトログに突き立てることができなかった。
アシリパの脳裏には尾形の右目を奪った光景が思い浮かんでいた。
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そこに杉元が颯爽と現れる。
杉元はアシリパに、そいつは俺の仕事だろ? と言って、オルトログと対峙するのだった。
「何が『処女』だこの野郎 気持ち悪い理由で殺しやがって 人殺しの風上にも置けねえぜ」
「誰から生まれたかよりも何のために生きるかだろうかッ」
オルトログの素早い刃が杉元を襲う。
しかし杉元はいち早くオルトログの腹部を銃剣で割いていた。
さらに間髪入れず、オルトログの喉に銃剣を突き刺すと、彼の体を蹴って窓を突き破る形で下に落とすのだった。
落ちたオルトログのすぐそばにいた牛山は彼が連続殺人犯だと理解し、オルトログの頭を踏み潰す。
宇佐美上等兵は尾形の顔を何度も殴りつけていた。
彼は形の自分に対する『安いコマ』発言に怒り心頭だった
宇佐美上等兵は尾形の銃から弾を薬室から全て抜く。
尾形はすぐに腰にある入れ物から弾を出そうとする。
しかしそれよりも速く、宇佐美上等兵は尾形に一本背負いを見舞っていた。
背を打ち、這いつくばる尾形。
宇佐美上等兵は動けない尾形を言葉で煽っていく。
「ほらな……銃が使えなきゃお前は何も出来ない!!」
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尾形は這ったまま、宇佐美上等兵に気付かれないように口に弾を咥えていた。
「商売女の子供の分際でッ 誰に向かって安いコマとかぬかしてるんだ!?」
言いたいことを言って、納得したように頷く宇佐美上等兵。
その間に、尾形は銃の薬室に弾を補充することに成功していた。
宇佐美上等兵が尾形に留め刺そうと銃剣を振り上げようとしたの瞬間、いち早く銃に弾を込めた人間が尾形は銃口を背後の宇佐美上等兵に向ける。
バンッ
尾形が放った一発が宇佐美上等兵の腹を貫く。
第255話の感想記事です。
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第256話 篤四郎さんの一番
逃げる宇佐美
宇佐美上等兵は尾形に腹を撃ち抜かれ、階段を転げ落ちていく。
その間に銃に弾薬を補充する尾形。
追撃しようとするが、宇佐美上等兵は血痕を残してその場から去っていた。
宇佐美上等兵は鶴見中尉に報告すべく、身体をくの字に曲げ、苦しそうにしながら階段を必死に下りる。
上エ地は梯子の上で火災の現場であるビール工場に向けて放水している消防士のホースを引っ張っていた。
梯子が後方に倒れ、円柱状の建造物の壁によりかかる。その梯子を登っていく上エ地。
建物から出た宇佐美上等兵は馬を見つけていた。
「誰から生まれたかよりも何のために生きるかだろうがッ」
杉元がオルトログを窓から蹴り落とす。
その音に反応した尾形は、視界に馬に乗って逃げる宇佐美上等兵を捉えていた。
窓ガラスの一部を割り、そこから銃身を出して宇佐美を狙う。
「安いコマかどうかそんなに不安ならお前の葬式で鶴見中尉がどんな顔をするのか見たらいい」
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達人技
馬に乗った宇佐美上等兵の姿が建物の死角に逃げていく。
しかし尾形は構えを解かない。
尾形は杉元が割った窓の先にある窓をじっと見つめる。
尾形が発砲した銃弾は杉元のいる部屋を通り、窓から抜けて、馬に乗って逃げている宇佐美上等兵の胸を正確に貫くのだった。
馬上から崩れ落ちる宇佐美上等兵を抱き留めたのは鶴見中尉だった。
見つめ合う宇佐美と鶴見。
「鶴見中尉殿」
頭の包帯を外しながら、ありがとよ、と宇佐美上等兵に礼を言う尾形。
「お前の死が狙撃手の俺を完成させた」
尾形の右目に入っていた義眼が目から飛び出す。
「おっと」
すかさずキャッチする尾形。
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退場
宇佐美上等兵は今にも意識を失いそうになりながら、胸元から門倉から奪った刺青人皮を鶴見中尉に手渡す。
よくやった、と宇佐美上等兵を褒める鶴見中尉。
宇佐美上等兵は朦朧とする意識の中、血塗れの手を鶴見中尉の顔に伸ばしていく。
鶴見中尉は宇佐美の小指を口に含み、ブツッと噛み千切る。
「これで私達は一緒らすけ 時重くんは私の中で一番の友として生き続けんだれ」
しっかりと宇佐美の目を見つめながら声をかける鶴見中尉。
安らかに目を閉じる宇佐美上等兵。
「嬉しくて…いっちゃいますがね 篤…四郎さん…」
沈黙する鶴見中尉。
脱力した宇佐美上等兵の体を黙って抱える。
宇佐美の虚ろな目が、命が失われたことを物語っていた。
その頃、上エ地は円柱状の建物の上に立っていた。
「さァ 寄ってらしゃい見てらっしゃい 皆さまご注目~!!」
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感想
宇佐美上等兵の最期
宇佐美上等兵退場。
初登場時はここまでパーソナリティが深堀りされるキャラクターとは思わなかった。
どこまでもイカれた奴だったけど、こうして物語から退場してしまうと何ともいえない喪失感がある。それだけの存在感があった。
鶴見中尉の胸の中で死ねたことは、せめてもの救いだろう。
幼少期から憧れた鶴見中尉から一番の友として認めてもらえたことで、宇佐美上等兵は満足して死んでいった。
鶴見中尉からしたら宇佐美上等兵は便利な手下の一人くらいの思い入れしかなかった、と感じてしまうような痛ましいシーンになるのかなとちょっとだけ不安だったのだが、そんなことは一切なかった。
宇佐美上等兵を撃つ直前の尾形のセリフも中々泣かせる。尾形なりに、きちんと彼の価値を認めていたのか……。
宇佐美上等兵が命がけで鶴見中尉に手渡した、土方陣営から奪った刺青人皮。鶴見陣営は宇佐美上等兵という忠実かつ有能な人材を失って、果たしてこの金塊争奪戦でリードしたと言えるのだろうか。
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スナイパーとして完成した尾形
そして宇佐美上等兵の死と引き換えに、尾形はスナイパーとして完全に返り咲いた。
それどころか以前よりもその腕は向上している。
杉元の部屋を経由して、死角となっているはずの宇佐美上等兵の身体、しかも心臓を撃ち貫くという驚愕のテクニックを披露してみせた。
建物で死角となっている位置から、馬で逃げているターゲットの心臓をわずかな隙間から正確に撃つとか神業にも程がある……。
利き目であったはずの右目を失ったというのに、左目がそれ以上の力を発揮した。尾形の一撃は、まさにここしかない一瞬を捉えているということに他ならない。
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おそらく尾形には、以前は鼻てなかった一撃だったのだろう。だからこそ宇佐美上等兵を仕留めた一撃が、狙撃手としての自分を完成させたと確信したわけだ。
この碧眼のスナイパーが、もはや作中随一のスナイパーであることに疑いの余地はない。
この後、ヴァシリと勝負することになるのだろうが、この覚醒尾形が敗けるシーンが全くイメージ出来なくなった……。
もしかしたら宇佐美上等兵を死に至らしめた一撃を放つ前の尾形とだったら、ヴァシリは伍して戦うことも出来たかもしれない。一度は敗北したにも関わらず、はるばる札幌まで尾形を追い駆ける執念はヴァシリを以前より強くしていたように思う。
しかし碧眼でのスナイプに開眼した尾形は、成長したヴァシリすら苦にしないのではないだろうか。誰にも止められないモンスターの誕生だろう。
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上エ地の無邪気な悪意
消火活動を阻害して、はしごをジャックしたウエジ。
一体彼は、高所に登って何をやらかそうとしてるのか。
こいつの無邪気な悪意は無差別に人を巻き込む。
戦闘能力はそこまで高くはないが、溢れ出る悪意は作中でも一番ではないかと感じる。
これまでウエジの悪意は杉元たちにそこまで大きな被害を与えなかった。
しかし何かとんでもないことが起こりそうな予感がする。
果たしてウエジの悪意はどのような形で結実してしまうのか。その被害者は……?
以上、ゴールデンカムイ第256話のネタバレを含む感想と考察でした。
第257話に続きます。