第233話 飴売り
目次
前話第232話 家族のあらすじ
娘
無事出産を終え、愛しの我が子を胸に抱くインカラマッを谷垣が涙を浮かべて見つめている。
「よく頑張ってくれたな…」
赤子を抱く谷垣。
「おお…立派なイ〇モツだ…」
それはヘソの緒の残りです、とインカラマッ。
「俺に娘が…!!」
谷垣はブヒィッと泣き出す。
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月島軍曹は、ビンタで気を失っていた兵士の目を覚ます。
兵士は谷垣とインカラマッを追ってコタンまでやって来ていた。
鯉登少尉は兵士に、鶴見中尉には黙っておくのでインカラマッが逃げたことは漏らさず、これまで通り問題なしと報告を続けるように命令するのだった。
家の外で立っている男を二度見して、それが谷垣だと気づくオソマ。
「…谷垣ニシパ?」
「オソマ…元気だったか?」
オソマー、と友達に呼ばれて、谷垣を置いて駆けだすオソマの姿を、谷垣は複雑な笑みを浮かべて見守っていた。
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指の骨
月島軍曹は、かつて樺太で鶴見中尉が自分たちを騙して利用していたのではないかと気づいた鯉登少尉が自分に諭されてこれまで通り鶴見中尉に従うことを誓ったことに関して、あれは本心か、それとも単なるあの場だけの誤魔化しだったのかと問う。
どちらでも好きに解釈しろと鯉登少尉。
そして鯉登少尉は続けて、鶴見中尉が私欲や権力欲を行動の動機とするくだらない人間には到底思えないとして、月島軍曹に鶴見中尉の本当の目的に心当たりがひとつもないのかと問いかける。
「『本当の目的』などそんな物は無いかも知れません…」
月島軍曹はかつて部屋の中でテーブルの上に置いた大小二つの指の骨を触っている鶴見中尉の姿を目撃していたことを思い出す。
「指の骨を見たことがありますか?」
「誰の指の骨だ?」
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月島軍曹は、関係無いかもしれない、と話を閉じようとする。
「『同胞のために身命を賭して戦う』それが軍人の本懐だ! そうだろ月島」
鶴見中尉と、その隣に立つ兵の顔の上に自分の顔写真を貼り付けた写真を見つめる鯉登少尉。
「お前の鶴見中尉に対する姿勢は健康的ではない」
鯉登少尉は笑顔で続ける。
「私は鶴見中尉殿を前向きに信じる 月島はその私を信じてついて来い」
そんな鯉登少尉の言葉に笑顔を見せる月島軍曹。
鯉登少尉は写真から自分の顔を剥がしてハサミで加工した後貼り付け直したものを月島軍曹に見せる。
「こういうことだ月島…!」
意味がわかりません、と月島軍曹。
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出発
一週間後、谷垣はインカラマッと娘と一緒に馬でコタンを出発しようとしていた。
鯉登少尉は谷垣達に、谷垣とインカラマッには逃げられたことにするから他の兵士に出くわさないように南へ向かえと助言する。
鯉登少尉に謝意を伝えるインカラマッ。
そして月島軍曹にいご草ちゃんについて、千里眼で見えたものを報告しようとする。
月島軍曹は手のひらをインカラマッに向けて短く言い放つ。
「必要ない」
コタンを出発する谷垣。
谷垣はインカラマッと、彼女が抱いている娘の顔を見ながら複雑そうな表情で呟く。
「またフチに助けられた オレばっかり…」
インカラマッは何も言わず、谷垣の顔をじっと見つめていた。
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札幌に集う
菊田特務曹長と宇佐見上等兵は札幌に到着していた。
菊田特務曹長は、自分たちはあくまで斥候であり、鶴見中尉が札幌にやってくるまでは一般人に紛れて変装し、行動は慎むようにと宇佐見上等兵に釘を刺す。
もたもたしていたら逃がしてしまうという宇佐見上等兵に、菊田特務曹長は、土方たちも札幌に来ている可能性がある以上、自分たちだけでは対応できないためだと答えて宇佐見上等兵に行動の抑制を促すのだった。
「うおうッ 見ろよキラウシ小銭が落ちてる」
宇佐見上等兵に背を向けてしゃがみこむ門倉。
宇佐見上等兵は網走で死んだはずの門倉の声が聞こえた気がした、と辺りを見回す。
門倉は一銭を拾い無邪気に喜ぶ。
門倉とキラウシは宇佐見上等兵や菊田特務曹長と肉薄していたことに全く気付いていなかった。
今日だけはツイてるなお前、とキラウシ。
土方と尾形も札幌に着いていた。
尾形は、今札幌は連続札通り魔殺人事件を追う大勢の官憲や花街に遊びに来た月寒の師団の兵士たちがおり、鶴見中尉たちが来ていてもおかしくないと呟く。そして土方たちに、また物売りに変装してみてはどうかと促すのだった。
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海賊房太郎に近づく
杉元たちは空知川流域のアイヌの集落に来ていた。
変な刺青があり、砂金の話をする怪しい和人が来なかったかというアシリパの問いに、コタンのおじさんは歌志内の炭鉱の方でそういう男を見たという話を聞いたと答える。
海賊房太郎だと確信する杉元。
おじさんは続ける。
「そいつは『物売り』でアメかなんか売ってたそうだよ」
歌志内にある炭鉱の町。
扮装をして飴を売る歌を楽し気に歌う男がいる。
味見をしてみるかと少年を呼び寄せた男が、彼の手に乗せたのは石炭だった。
「アハッアハッアハッッ!!」
戸惑っている少年に指を指して笑う男。
「その顔ッ!! いい顔するねッ」
失望した表情の少年に謝りつつ、男はお詫びに飴より良いものをあげるからと森の方へと少年を誘うのだった。
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第232話 家族の振り返り感想
葛藤を乗り越えた鯉登少尉
鯉登少尉の成長っぷりが素晴らしいな。
月島軍曹にとってもそれはうれしいに違いない。
鶴見中尉の真の目的が私欲を満たすためではないとした鯉登少尉の見立ては正しいと思う。
だからこそ鶴見中尉の真意は見えないながらも、鶴見中尉を前向きに信じると爽やかに言い切った。
ただ、その境地に至るまでには葛藤があっただろう。
鶴見中尉の鯉登少尉や月島軍曹の大切な人を利用する狡猾さを知っても尚、いかに軍人とはいえ、上官だからと従い続けることに苦悩するのは当然ではないか。
鯉登少尉は自分自身と真正面から向き合い、この結論に至ったのだと思う。
そんな鯉登少尉の成長を実感したのもあって、月島軍曹は良い笑顔を浮かべていたのだろう。
その直後、自分の顔上半分を鶴見中尉の隣の兵士(月島軍曹なのか?)に貼り付けるというイマイチ理解不能な写真加工に対して「意味がわかりません」とシンプルな突っ込み食らってるのは笑ったけど(笑)。
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……いや、マジで鯉登少尉の真意がわからない。何が言いたかったのか(笑)。
登場時から鶴見中尉に対して示していたような敬意を内包した行為であることは確かだろう。
まあ、鶴見中尉を尊敬し、崇拝してきたことが全て間違いだったとは思いたくはないよな……。
あと、どうやらインカラマッは月島軍曹の想い人であるいご草ちゃんの現在について千里眼で確認できたようだ。
しかし月島軍曹はその結果を知ることを拒んだ。
これは鯉登少尉の「私を信じてついて来い」という言葉を受けてのものかなと思った。
月島軍曹は、もう鯉登少尉にとことんついていくことを決めた。
だから今さら、いご草ちゃんが鶴見中尉の言うように生きていてどこかに嫁に行っていたとしても、あるいは月島軍曹が恐れていたように、たとえ死んでしまっていたとしてももはや関係ないという意思の表明だと自分は受け取った。
今回のことで鯉登少尉はもちろん、月島軍曹もまた一つ自分の気持ちに整理をつけることが出来たのではないか。
今更だけど、鯉登少尉と月島軍曹って良いコンビだよなあと思う。
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鶴見中尉の目的
鶴見中尉の持っていた指の骨は大きいものと小さいものが一つずつあった。
これはおそらく、かつてロシアで長谷川幸一という名でスパイとして活動していた頃の妻フィーナと娘オリガの指の骨であろうと推測できる。
フィーナとオリガは、ロシア国内に潜伏している日本のスパイ長谷川幸一をロシアが排除しにやってきた戦いで命を落とす。
もしこのフィーナとオリガの死が鶴見中尉の行動の動機と強く関連しているなら、日本、ロシアに限定せず、自分や妻、娘の運命を翻弄した国という得体の知れない敵へのカウンターなのか? 何かそれだと大雑把過ぎるけど、それくらいしか思いつかない……。
鶴見中尉くらいのキレ者だから、常人には計り知れない大きな目的があると思う。
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鯉登少尉が、鶴見中尉は私欲で動いている感じはしないと言っていた。
でも動機の根本にはフィーナやオリガの死という私的な想いがあるのかな?
もしそうだとしても、人が何かを志すのはまず私的な動機であることの方が自然だと思うから、全然おかしくはない。
もし金塊を手に入れて北海道を独立させたとして、その後は日本はもちろん、ロシア、さらに周辺国の中国や朝鮮も呑み込もうとしているのだろうか?
それは一軍人が抱くにはあまりにもでかすぎる野望だ。
それがフィーナとオリガのこととどう繋がるのかわからない。しかし少なくとも北海道独立によって日清戦争後に報われなかった軍人を救うという目的の一つは達せられるのか。
月島軍曹が目撃した指の骨から色々と妄想したが、いつか鶴見中尉の真意がわかる時が来る。その時を楽しみにしたい。
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谷垣再参戦フラグ?
家族を得て感涙に咽ぶ谷垣……! 良かったなあ。
フチの元を去る際、谷垣の顔に笑顔はなかった。
笑顔どころか、ただただ悔しそうに「またフチに助けられた オレばっかり」と言っている。
そしてその顔をじっと黙って見上げているインカラマッ。
これは谷垣の金塊争奪戦というかフチのためにアシリパを守る戦いに再参戦するフラグではないか。
インカラマッと娘の住処を見つけてしばらくしたら、おそらくインカラマッからそれを切り出すような気がする。
谷垣はインカラマッと娘を放っておくわけにはいかないと断るが、結局はインカラマッに説得される。そんな未来が見えるかのようだ。
このまま退場することはないだろう。
だが、すぐに戦いに戻ってくるとも思えない。
杉元やアシリパの窮地に駆け付ける。そんな最高の再登場シーンを待とうと思う。
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集合
いよいよ次の激戦の舞台となる札幌に役者が集った。
菊田特務曹長、宇佐見上等兵、土方、キラウシ、門倉、そして尾形……。
ここに切り裂きジャックをモチーフとした囚人が混じることで果たしてどんな展開になるのか。
今から楽しみ~。
そして杉元一行もまた海賊房太郎に近づいている……と思ったら、何だか別人の気配が……。
飴をダシに子供を暗がりへと誘い込むヤバそうな人物……。
いかにも怪しさ満点なこいつは、果たして刺青囚人なのだろうか。
232話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
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第233話 飴売り
囚人探し
炭鉱の町、歌志内にやって来た杉元たち。
物売りに扮した囚人がいると聞いていたが、杉元には凶悪な犯人である海賊房太郎が物売りをしているイメージが全く湧いていなかった。
杉元から物売りをする囚人についての心当たりを訊ねられた白石は、無いと即答する
杉元はタコのおもちゃで客寄せをしながら飴を販売している男に話しかける。
「タコの飴売りさん 飴買うからさ ちょっと服脱いでくれる?」
「なんでだよ」
飴売りに問われた杉元は、見たいからと真剣に答える。
「どんな〇首してんのかなって」
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金をもらって、その対価として飴を渡すのに加えて、タダで〇首を見せろというのか、と飴売り。
飴はいらないからと返す杉元に飴売りがキレる。
「俺の〇首はそんなに安かねえよ!!」
アシリパはその様子を何とも言えない表情で見つめていた。
白石は杉元は話しているのとは別の飴売りに、いきなり桶で水をかけていた。
着替えた方がいい、と服を脱がそうとするが、肘打ちを食らう。
杉元と白石は、二人の飴売りから商売敵が嫌がらせに来たのだと完全に誤解されてしまい、その場から逃げだすのだった。
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顔に入れ墨
転がっていく鞠を追いかける少年。
鞠が軒下に入っていく。
少年が鞠をとろうと軒下を覗き込むと、暗がりから白石が登場する。
「坊や…変な入れ墨がある物売りを見たこと無い?」
男の子は、あっちにいたよ、と即答する。
白石はトロッコの線路上を歩いている男に後ろから声をかける。
振り向いた男は、顔を紙で覆った非常に怪しげな人物だった。
男は飴売りの口上を述べつつ、白石の注目を集める。
次の瞬間、男が出したのは飴ではなく、首から下げた木箱の上部から覗かせた人形の顔だった。
白石は、変わった入れ墨をしていると話を聞いたと飴売りに訊ねる。
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へぇ見てみたいもんだね、と杉元。
飴売りは顔の紙をめくる。
その顔は無秩序に彫られた入れ墨で覆いつくされていた。
飴売りに気圧され気味になりながらも杉元は、それが全て入れ墨なのかと問いかける。
自分で彫った、と返す飴売りに白石は若干引いていた。
「なんだよ…変な入れ墨ってこのことだったのか」
がっかりした様子で呟く杉元。
飴売りは杉元の表情を観察していたかと思うと、やがて耐えきれなくなったかのように笑いはじめる。
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白石は飴売りを無言で見つめる。
時間をとらせてすまない、と杉元。
杉元は、既に自分たちが探した徳富川にはてがかりがなかったので、次は沙流川かと次の方針を話し合っていた。
殺人事件で騒ぎになっている札幌の方に先に向かう手もあると話し合う杉元と白石。
アシリパは二人が話しているのを少し離れた場所から見つめていた。
「若山の親分のがっかりした時の顔もいい顔だったな~」
自分の横を通り過ぎた飴売りの呟きを聞いて、アシリパは若山親分のことを思い出していた。
素早く飴売りを振り向く。
「……!? 若山の親分って…」
勢いよくトロッコが走り始める。
「金塊は絶対に見つけられないよ~~」
トロッコの中から飴売りがそう言ったのを聞いたアシリパは即座に、今の飴売りを探せ、と杉元たちに声をかける。
杉元たちは飴売りを探す。しかし姿を見失っていた。
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埋蔵金に近づく
徳富川の近くのアイヌの村で、海賊房太郎は老人の元を訪ねていた。
「もう三俵もってこい」
海賊は同行させていた部下に米俵を家の中に運び込ませていく。
そして海賊は、昔、アイヌが埋蔵金を隠した場所に関して御兄上様が関わっていたというあなたならば知っていると噂を聞いたと老人に話を切り出す。
老人は埋蔵金の場所に関して、どこかの悪党が兄たちを殺した上で移動させ、隠したと聞いており、そこに行ったところでもう見つかることはないだろうと答える。
しかし、それでも構わないから教えてくれという海賊に老人は、しってる、と答える。
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それまで黙っていた部下は海賊に、この老人の話について信頼性はどのくらいのものなのかと質問する。
しかし海賊は部下の質問には答えず、老人への質問を継続する。
「…ところでその前にその埋蔵金はどこの川で獲れたものか聞いたことはあるかね?」
いくつかの川から獲れたと聞いている、と言って、老人はおもむろに川の名を挙げていく。
「徳富川 空知川 沙琉川 知内川」
老人の話を聞きながら、海賊房太郎は平太を思い出していた。
(アイツが鑑別した産地とピッタリ同じだ…)
笑みを浮かべて老人に再度訊ねる。
「で…その砂金はどこに集められたんだ?」
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第233話 飴売りの感想
謎の飴売り
この飴売り、やはりヤバイ奴だった……。
顔に入れ墨彫るにしても、もう少しデザイン考えろよ……。
額の大悪……大に点がついてどこか犬を連想させるような不思議な字だったけど、あまりにも異様だから全体的な感想としては怖い。
前回、林に子供を誘い出した後、何があったのか……。
あの子供は生きているのか?
だが飴売りはただの変人というわけではなかった。
若山親分、そして金塊のことにも言及している以上、この飴売りが囚人である可能性がかなり高まったと思う。
白石が、物売りの囚人に心当たりがないと言っているのが気にかかる。
しかしそのあと、全て囚人のことを知っているわけではないと言っていたからしょうがない。
この飴売りは人をおちょくるのが好きなようだ。
しかし底知れない不気味さもを感じている。
いざ戦いになったら思わぬ攻撃を仕掛けてきそうだ。
そして現在同時進行中の海賊房太郎、通り魔殺人と鶴見陣営、土方陣営が揃う札幌編とで、一体話が繋がっていくのかどうかも気になる。
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強敵の風格 海賊房太郎
飴売りは油断のできない敵っぽいが、海賊房太郎がもっと強そうだ。
凶悪な殺人犯であるにもかかわらずアイヌの老人への丁寧な話し方……。
脅して話を聞きだすよりも、味方につける方が確実だと判断したのだろう。
米を何俵も与えるおは、情報を喋らないと損だと思わせる方法として有効ではないか。
暴力的なだけではなく、スマートに交渉をこなすその様はまさに仕事が出来る男だ。
海賊房太郎は第4の勢力としてカウントしても良いと思う。
これは一筋縄ではいかない相手だわ。
何より、杉元達よりも数歩先を歩いている。
このお爺さんをいち早く見つけて、話を聞くことができたのは、彼の優秀さを表していると思う。
今のところは海賊房太郎が埋蔵金の隠し場所探しレースで一歩も二歩もリードしているように思える。
しかし杉元たちはこのままでは終わらないだろう。
果たして杉元たちは海賊房太郎に追いつけるのか。
以上、ゴールデンカムイ第233話のネタバレを含む感想と考察でした。
第234話はこちらです。