第139話 樺太へ
第138話のあらすじ
森の中、永倉が銃を構えて移動している。
その途中で永倉が発見したのは第七師団兵2人に前後で挟まれ、ホールドアップしている家永の姿だった。
息を潜め、木の陰から見つめる。
ウイルクに引き続き、杉元が撃たれた場面を目撃してしたアシリパは、キロランケに担がれながらも必死になって杉元たちの元へ行こうと暴れる。
そして白石と谷垣はウイルクと杉元が撃たれたことを知り、谷垣は釧路での恩がある、とアシリパの代わりにウイルクと杉元を救うことを決意する。
谷垣は、まだ二人を撃った射手が狙っていることを見越して、その射線上に入らないように杉元とウイルクの体を抱きこむようにして射手の死角に入り、脱出に成功する。
正面玄関に行くと、そこには地面に横たわるインカラマッ。
インカラマッは、尾形が撃つ直前にキロランケが合図を出していたと証言する。
舟のところで谷垣を待つアシリパと白石。
白石たちの元にやってきたキロランケ。
キロランケはインカラマッが情報を流していた裏切者だと白石とアシリパに嘘を吹き込む。
その後にやって来た尾形は、谷垣は鶴見中尉に捕まり、杉元とウイルクは死んだとアシリパに伝える。
生き残った杉元は病院のベッドの上でおにぎりを食べていた。
杉元の生来の回復力、そして拷問で人体実験を行ってきた家永の確かな手術の技術が合わさった結果だった。
重症のインカラマッは苦しそうにしながらも、キロランケ達は樺太へ向かったと言う。
尾形、キロランケ、白石、アシリパの樺太に向かう為、港で舟を乗り換えていた。
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第139話
網走監獄。
火は消えているが、まだ白い煙がたちこめている。
全焼して梁と柱だけになった舎房跡から第七師団によって焼死体が運び出される。
山の上からその光景を見下ろす永倉。
地下に潜む
教誨堂の地下室。
牛山が、ウイルクが入っていた牢屋の内側でランプを囲んで腰を下ろしている。
自分たちの網走での動き把握されていた事から、コタンにいた永倉たちは捕まったかもしれない、と呟く牛山。
夏太郎はそのそばに立って、鉄格子を掴みながら牛山を見ている。
「いやぁ~地下室があったんすね」
見つけられませんでした、と、夏太郎と同じく牛山の傍らに座る門倉が呟く。
都丹庵士の具合はどうだ、とランプを片手に立っている土方が問いかける。
「自分で息はしてるぜ」
牛山が、隣で仰向けに寝ている都丹庵士に視線を送りながら答える。
「こいつも頑丈な男だ… 死なねぇだろ」
「俺たちが餓死するのが先かもな」
土方は、もう2、3日して地上が片付いたら兵士たちが減るのでそれまで辛抱しろ、と返す。
「いよいよの時は夏太郎を殺して食べるか」
夏太郎を見つめる牛山。
あんたまで俺を食べようってのか!? と若干青ざめながら突っ込む夏太郎。
ランプで照らしながら地下を探索する牛山と土方。
牛山は、あっちの部屋に水があった、と土方に報告する。
土方は、壁一面に情報を整理するスペースを発見する。
網走監獄内のどの舎房にどの囚人がいるかを囚人の名前が書かれた札を使って整理されている。
「これは…犬童が?」
牛山が呟く。
一際大きな札に「門倉タヌキ」と書かれている。
そこから、やはり大きな札に書かれた「土方歳三」に向けて矢印が伸び、矢印のすぐそばに「情報」と書かれている。
土方はこれらの情報から、犬童が自分を網走へとおびき寄せるために脱獄囚の情報も集めており、自分たちの持っていない脱獄囚の新しい情報もあると分析する。
牛山は、自分たちが集めていた刺青人皮を全て持っていた永倉が捕まったならば、残りのまだ誰も持っていない刺青の内、1枚でも多く集めて暗号解読を防がないといけないと呟く。
網走は徒労に終わったかと思えたが最後に小さな光が見えた、と土方。
「ここを出て南へ向かうぞ」
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不敵に笑う尾形
樺太に着いたアシリパ、キロランケ、尾形、白石。
「なぁアシリパちゃん……」
消沈した様子で腰を下ろすアシリパの隣にしゃがみ、白石が問いかける。
「誰が杉元たちを撃ったのか門の上から見えたか?」
アシリパは黙ったまま首を左右に振る。
その様子を無言で見つめる白石。
一方、鶴見に拾われた杉元たち。
ベッドに仰向けになったインカラマッが苦しそうな様子で杉元とウイルクが撃たれた時の状況を説明している。
ウイルクと杉元を狙撃した時の発砲音は照明弾を打ち上げる轟音にかき消されて分からなかった、と言うインカラマッ。
鶴見はインカラマッのベッドのすぐそばの椅子に座ってそれを黙って聞いている。
「あんな狙撃が出来るのは尾形百之助しかいねぇ」
頭を包帯でグルグルに巻いた杉元は、谷垣のそばで松葉杖を使って立っている。
「撃たれた瞬間…あいつを感じた」
杉元は目を鋭くする。
場面は再び樺太の漁港。
キロランケは、杉元まで撃つ必要があったのか? と傍らの尾形に問いかける。
「のっぺら坊が父親だと確認された直後に杉元が何か言葉を交わした」
尾形が表情を変えずに語り出す。
金塊の在り処か…アシリパしか知らない暗号を解く鍵か…あるいはアンタのことか、とキロランケ。
杉元はのっぺら坊を盾にして体の中心を隠したため、頭の端っこを引っ掛けるように撃ち抜くしかなかった、と尾形。
追加射撃しようにも谷垣の邪魔によってそれは出来ず、しかも杉元を撃ったのは30年式「不殺銃弾」だと続ける。
「ひょっとしたら生きているかもしれんぞ」
不敵に笑う尾形。
「アシリパも奪われて今頃不死身の杉元は怒り狂ってるかもな」
「尾形もキロランケもぶっ殺してやる」
ベッドに腰かけた杉元が殺意を滲ませて呟く。
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回想
杉元のベッドの傍らの机に向かっている鶴見中尉。
「辺見和雄…二瓶鉄造や…姉畑支遁まで…」
上半身に刺青人皮を羽織った状態で、他の刺青人皮を抱きしめている。
「よくぞこいつらを捕まえたな」
杉元に視線を投げる。
杉元は鶴見の言葉を無視し、キロランケ達が樺太へと渡ったという根拠を鶴見中尉に訊ねる。
鶴見中尉は説明を始める。
「待ちなさいッ」
アシリパを脇に抱えたキロランケ、そして白石をインカラマッが呼び止める。
「あなたさっき屋根の上から…」
冷静になろうと努め、顔を強張らせたインカラマッがキロランケを指さす。
「アシリパを連れて行けッ この女は危険だッ」
キロランケが白石に向けて叫ぶ。
白石はキロランケに言われた通り、アシリパの手を掴んで走り去っていく。
「信じないでッアシリパちゃん キロランケはさっき…」
アシリパに向けて必死に呼びかけるインカラマッ。
「黙るんだ!!」
キロランケはインカラマッの首元にマキリの刃先を突きつける。
「よくもウイルクを…」
インカラマッは顔一面に憎しみを湛えてキロランケを睨む。
二人の体が折り重なる。
インカラマッの腹部にキロランケのマキリが刺さっている。
「刺すつもりは…」
狼狽するキロランケ。
インカラマッはきつく目を閉じ、口をぎゅっと結ぶ。
肚に深々と刺さったマキリの柄を自ら握り、キロランケに回収されるのを防いでいる。
自分が死んでも犯人が分かるよう証拠を残すためにマキリを離さなかった。
キロランケは倒れたインカラマッを見下ろしながら呟く。
「何とかしないと…俺たちは大国に飲み込まれてしまう……」
インカラマッはうつ伏せに倒れたまま、どうしてウイルクは殺されなければいけなかったの? と問いかける。
その目には涙が光る。
あいつが変わってしまったんだ、とキロランケが答える。
「金塊の情報を古い仲間たちに伝えにいくはずだったのに…」
正門が開く音に反応するキロランケ。
杉元の体を肩に抱えた谷垣が姿を現す。
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協力
鶴見中尉はのっぺら坊が7人のアイヌを殺害の後、金塊を少量持って樺太へ向かう途中で捕まった、と説明を続ける。
金塊の一部持って行ったのは、確度の高い情報であることの証明の為であり、それで本隊を動かすつもりだったと分析する。
そして、アシリパという重要な鍵を手に入れたキロランケは、極東でゲリラ活動をしていた時の仲間と合流する可能性が高いという鶴見中尉。
「パルチザンにアシリパが確保されると厄介だ」
「オレを使え」
杉元が端的に要求する。
「あんたらだけで行ってもアシリパさんは信用しない」
「アシリパさんを確保して刺青人皮の暗号が解けたら二百円俺にくれ」
俺も行きます、と谷垣。
まだ怪我が完治していない杉元の身に何かあった時、自分が必要になる、と付け加える。
「アシリパが信用してるのは俺たち二人だけのはずです」
インカラマッはいいのか? と杉元。
「必ず戻るからそれまで死ぬのは許さんと伝えた」
眠るインカラマッを見つめる谷垣。
その身体からムッワアアアアッと蒸気が立ち上る。
網走監獄の後片付けが残っているからまだここを離れられないという鶴見中尉。
樺太へ少数精鋭の「先遣隊」を送ると続ける。
「月島軍曹と鯉登少尉!! お前たちが同行しろ」
きえええええッ、と猿のように叫ぶ鯉登少尉。
その隣に無表情で立つ月島軍曹。
鯉登少尉は月島軍曹に耳打ちする。
「『どうして私が鶴見中尉殿から離れなければならないのか』と」
月島軍曹は耳打ちされた鯉登少尉の言葉を鶴見中尉に伝える。
「父親である鯉登閣下の頼みだ」
鶴見中尉の言葉に鯉登少尉はグンニャ、と脱力し、膝を折って仰向けに倒れる。
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樺太へ
黒煙を吐きながら駆逐艦が海を行く。
甲板に立つ杉元。
銃床を甲板に立てるように銃を持ち、遠くを見つめている。
杉元どん、と杉元に声をかけたのは鯉戸少将。
「『可愛い子には旅をさせよ』のつもりですか?」
死体で返ってくるかもしれませんよ、と杉元は鯉戸少将に問いかける。
いつ死んでも覚悟は出来ちょる、と鯉戸少将。
鯉登少尉は鶴見中尉の写真を見ながら涙ぐんでいる。
息子の鯉登少尉――音之進は指揮官になると決まっているため、大勢の若い命を預かる責任がある。
自ら進んで困難に立ち向かうことで指揮官にふさわしい男に、と言う鯉登少将。
花沢中将が切腹する際、鯉登少将は、息子の勇作が最前線で死に、「愚かな父の面目を保ってくれた」という手紙をもらう。
自分たちの世代が起こした日清、そして日露戦争によって大勢の国民の息子が戦地に送られた。
そんな中、自分の子供だけ可愛いからと言って危険から遠ざけることは、戦死してしまった子供の親に申し訳が立たない、と鯉戸少将は続ける。
「のっぺら坊も…そげな父じゃったんだとオイは考えちょる」
杉元は、鯉登少将の横顔を見つめる。
「アイヌに『戦って死ね』とうながすったればまず我が子供を先頭に立たすっとが筋じゃっど…。」
鯉登少将は確信をもって続ける。
「娘ば利用しようちして育てたんとは絶対違どと思うちょります」
杉元は被っていた帽子を持ち上げる。
頭にはプロテクターが巻かれている。
「アシリパさんに伝えなきゃいけないことがたくさんある」
樺太に到着します、と乗組員の報告が響く。
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感想
前話から3週間。長かった……。
まず、キロランケにはインカラマッを殺す意思は無かったことが分かった事にちょっとほっとしたかな。
キロランケは好きなキャラなので、今後、杉元と再び手を取り合う可能性は残っていると思いたい……。
杉元まで狙撃した尾形に関しては全くそれに罪悪感を抱いている様子が見られない事に悲しくなりつつも、悪としての魅力を感じてしまった。
今後、尾形はとりあえずパルチザンと合流するであろうキロランケと行動を共にするのだろうか。
誰にも組しない孤高のスナイパーである尾形は、今後どう動くのか……。
キロランケは、大国――帝政ロシアに飲み込まれるのを恐れている様子から、行動の動機ははっきりと見える。
しかし正直、尾形に関してはあまり分からないんだよなぁ。
金に目が眩んだというのはあり得ない。
金塊を追う、というよりも、金塊を得ようと動いている奴らを翻弄しているという印象がある。
どの勢力にも組せずに状況引っ掻き回して、まるで混乱を引き起こす事を楽しんでいるかのようだ。
第七師団を裏切り、杉元達をも裏切った。
長距離狙撃という凶悪な能力も相俟って、まさにゴールデンカムイ作中におけるジョーカーとなりつつある。
今後の動向にますます注目したい。
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杉元たちにキロランケの裏切りを知らせるため、逃げるキロランケの足を止めるため、ウイルクを殺された恨み。
インカラマッを行動に駆り立てた理由は複合的だと思う。
杉元と違い、インカラマッはすぐには回復しないだろう。
暫く見れないかもしれないと思うと寂しい。
インカラマッを見つめる谷垣の体からムワアアと湯気が立ち上ってたのには笑った。
すっかり谷垣専用の演出になってる感がある。
登場するたびにどんどんムキムキの筋肉が強調されていくけど、ぜひこのままセクシー路線を貫いてほしい。
冒頭の土方たちの動きの今後も気になる。
まず都丹庵士は生きていたということに驚き。
すっかり死んだと思っていた。
回復に時間がかかりそうだし、頭部にもろに鉄球の直撃を受けて後遺症が出てもおかしくない傷だと思うからやはり杉元の様に戦線復帰はすぐ、というわけにはいかないだろう。
そもそも、不殺銃弾による頭部の端への銃撃だとしても治療を受けて割とすぐに活動できる杉元が異常すぎるんだよなぁ……。
土方が新しい刺青人皮の情報を得たということは、次なる変態の登場も近いだろう。
杉元たちが行く樺太へ逃げた囚人がいてもおかしくないし、網走から南に向かった土方たちが囚人と戦うのも面白い。
個人的には、久々に牛山の戦いが見たいところ。
あと、永倉が土方たちの刺青人皮を全て預かっているようだけど、土方たちと合流できるのか。
案外、次号であっさり合流している事があるから考えてもムダか。
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最後の鯉登少将と杉元のやりとりがいい。
鯉登少将は大勢の部下を預かる人間として、かなり人として出来てるなぁと思った。
樺太で息子である鯉登少尉が死ぬかもしれないという杉元の質問に、ゆくゆくは指揮官となるその時の為に進んで困難を乗り越える経験をさせようという親心を見せ、若い命を預かる指揮官として、自分の息子だけを危険から遠ざけるのは筋が違うと続ける。
さらに、アシリパに戦う術やサバイバルの技術を仕込んだのっぺら坊もまた娘を利用しようとしていたのではなく、率先して先頭に立つ必要があったのだと自分の立場と重ねて事情を察する。
それを聞いた杉元がアシリパに伝えなきゃいけないことがたくさんある、と言うこの会話の流れ。
じーんときた。
杉元は早くアシリパと再会して、アイヌを殺していないと告白したウイルクの言葉も伝えなくてはならない。
しかし、以後、杉元は鶴見中尉たち第七師団と協力体制になるという流れなのか。
これまで散々敵対していたけど、割とあっさりしてるな。
杉元、谷垣、インカラマッは鶴見中尉に救われた形になるけど、どうやら集めていた刺青人皮は接収されるみたいだ。
鶴見中尉が杉元たちの集めた刺青人皮を抱きしめて頬ずりしている。
杉元は鶴見中尉に、協力する代わりに二百円を要求した。
梅子がアメリカで最先端の治療を受けられる額なんだろう。
そういえば、元々杉元は、現在価値にして何千億もの金塊を得たかったわけではなかった。
北海道に来たのは、あくまで梅子の病気を治せるくらいの金を稼ぐ――1話冒頭から察するに砂金採りをするため、というのが杉元の目標だった。
それが、後藤から聞いた脱獄囚と金塊の話をリアルに感じ、アシリパと出会い、金塊にはアイヌの因縁がある事を知り、二人は協力して金塊を目指すようになるわけだ。
樺太に舞台を移してどんなバトルが繰り広げられるのか。
パルチザンや帝政ロシアと関わることになったらどんなバトルになっていくんだろう。
ワクワクは尽きない。
以上、コールデンカムイ第139話のネタバレを含む感想と考察でした。
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