第255話 切り裂き杉元
前話第254話 あらすじ
尾形は杉元たちが自分の事を警戒しているように見えなかったのが、自分に対して狙撃手をぶつけたからだと理解していた。
狙撃手の腕前から、樺太で戦った狙撃手を連想した尾形は、樺太から札幌まで追ってくるだろうかと考えるが、しかし、もし自分であれば来るだろうと結論し、反撃可能な高所へと向かうのだった。
工場に逃げ込んだ切り裂きジャックを追い詰めた土方たちだったが、ジャックが藁苞に火を点けたことで取り逃がしてしまう。
門倉は宇佐美上等兵から必死で逃げていた。
しかし捕まってしまい、腹部に隠しておいた刺青人皮を奪われてしまう。
宇佐美上等兵は事前に鶴見中尉から土方は刺青人皮を信用できる数名の人間に預けていると聞いていたのだった。
他にも刺青人皮を持っていないかと門倉のシャツをめくり上げた宇佐美上等兵は、門倉の背中を見て動きを止めるのだった。
「……え?」
次の瞬間、宇佐美上等兵は、階下から誰かが駆け上がってくるのに気づく。
上がってる何者かを静かに待っていると、姿を現したのは尾形だった。
宇佐美からの腹部への蹴りをまともに食らう尾形。
続けて宇佐美上等兵から突き出された銃剣を、尾形はギリギリでかわす。
そして尾形は、壁に刺さった銃剣の横腹に銃床を叩きつけ、真っ二つに折るのだった。
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アシリパは工場内で、切り裂きジャックに話しかけられていた。
ジャックはアシリパをアイヌだと判断し、アイヌの言い伝えである、女性しかいない島の話を始めるのだった。
東の風にお尻を当てるだけで子供が出来るという話に、女性はひとりで子供が生める、とジャックは感動する。
アシリパは幼少期に父ウイルクと交わした会話を思い出していた。
自分もそうやって生まれたのかと問いかけるアシリパに、ウイルクは、自分と、アシリパの母リラッテがウオラムコテしたからと答える。
ジャックは、聖書にも聖母マリアという同じような話があると答える。
アシリパは目の前の男がジャック・ザ・リッパーだと確信していた。
ジャックは、女達は間違ってると言って、自分が女性たちの罪を赦さなければならない、と主張する。
そんなつまらないことで女たちは殺されなければならなかったのか、と怒りを滲ませるアシリパ。
ジャックは、自分を非難するアシリパに、東の風にお尻をあてて、子供を授かるところを見せろと要求するのだった。
あなたもそうして生まれたアイヌでしょ? と問われたアシリパは、自分は父と母が愛し合って生まれたと答えて、ストゥで素早くジャックの膝を打つ。
そして膝を折ったジャックの顎を、今度はフルスイングするのだった。
第254話の感想記事です。

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第255話 切り裂き杉元
オルトログ戦決着
ビール工場が燃えていることに気付いた住民たちは、野次馬となっていた。
その野次馬たちの中で、一人でテンションを上げているのが上エ地だった。
官憲が蒸気ポンプで燃え盛るビール工場に向けて放水する。
上エ地はビール工場周辺に土方や海賊たちがいることに気付き、はしゃいでいた。
「いいぞ~ やっぱり新聞でウワサの罪人を捕まえに来たんだ!!」
「よーしッ ここしか無いッ」
そう言って、上エ地はビール工場に向けて長く梯子を延ばしたはしご車を見つめる。
「はははあ~」
オルトログの脚をストゥで痛撃したアシリパは、うずくまっているオルトログを置いてその場から去ろうとする。
しかし、アシリパの毛皮を掴み、足止めをするオルトログ。
「愛し合って生まれた子供? 嘘ダ!! あの女と…同じことを!」
離せ! と必死で抵抗するアシリパ。
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オルトログは街角で一人の年かさの娼婦に話しかけられた過去があった。
その薄汚れた娼婦から、王族と自分が愛し合って生まれた息子がオルトログであること、そして自分の子なら痣があるはずと言われ、オルトログは衝撃を受ける。
娼婦から生まれた事実を認められなかったオルトログは、自分が処女から生まれた神の子だと称し、街の娼婦を殺し続けて今に至るのだった。
手を離さないと毒の付いた矢尻で刺すとオルトログを牽制するアシリパ。
しかしオルトログは手を離さない。
「ワタシは処女の母から生まれた神の子だ……」
アシリパにナイフを向けようとするオルトログ。
危機が迫ってもなお、アシリパは矢尻をオルトログに突き立てることができない。
その脳裏には意図せず尾形の右目を矢尻で奪ってしまった光景が思い浮かんでいた。
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「おい相棒 そいつは俺の仕事だろ?」
アシリパの背後から着剣した銃を構えた杉元が立っていた。
「何が『処女』だこの野郎 気持ち悪い理由で殺しやがって 人殺しの風上にも置けねえぜ」
「誰から生まれたかよりも何のために生きるかだろうかッ」
オルトログの凶刃が杉元に一直線に伸びる。
しかしそれが届くのよりも先に、杉元はオルトログの腹部を銃剣で割いていた。
振り上げた銃剣がオルトログの腸を引っ掛け、ピンと張っている。
そして間髪入れず、杉元はオルトログの喉に銃剣を突き刺すと、オルトログを蹴って窓を突き破り、下に落とすのだった。
落ちたオルトログのすぐそばには、工場に入ろうと入り口に立っていた牛山がいた。
牛山は仰向けになって死にかけているオルトログを見て、彼こそが連続殺人犯だと理解する。
「やれやれ お前のなかじゃあ娼婦は罪人だろうがな 俺にとっては観音様じゃい!!」
オルトログの顔を足で完全に踏み潰すのだった。
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宇佐美上等兵の怒り
尾形の顔を何度も殴りつける宇佐美上等兵。
「百之助~ 誰が『安いコマ』だ? ええ?」
宇佐美上等兵は尾形の銃のレバーを引き、弾を薬室から全て抜くと、床に散らばった弾を足で蹴る。
尾形はすぐさま腰元の残弾を入れている入れ物に手をかける。
しかし尾形が弾を取り出すよりも速く、宇佐美上等兵は尾形に一本背負いを見舞うのだった。
強かに背を打ち、うつ伏せになってうめき声を上げる尾形。
「ほらな……銃が使えなきゃお前は何も出来ない!!」
宇佐美上等兵は床に這いつくばった尾形を嘲笑う。
宇佐美上等兵は尾形の腰元の銃剣を抜く。
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這いつくばった状態の尾形は、宇佐美上等兵に気付かれないよう、こっそりと口に弾を咥えていた。
しかしそれは立って尾形を見下ろしていた宇佐美上等兵には見えない。
「商売女の子供の分際でッ 誰に向かって安いコマとかぬかしてるんだ!?」
うん、と納したように頷く宇佐美上等兵。
「ふう……それだけはどうしても言っておきたかった」
その間にも、尾形は銃の薬室にこっそりと口に咥えている弾を込めていく。
宇佐美上等兵が銃剣を振り上げようとしたまさにその瞬間、先に弾込めを終えた尾形はうつ伏せのまま素早く銃口を背後の宇佐美上等兵に向ける。
バンッ
尾形の放った一発は宇佐美上等兵の腹を貫く。
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感想
何のために生きるか
見事にオルトログを倒した杉元。
銃に腸を引っ掛けるところがグロい。そして容赦なく首に一撃。
そして完全に留めを刺したのは牛山による顔面へのストンピングだった。
案外あっさりと、オルトログは退場した。
しかし後述するが、彼が引き出したと言える杉元の名言は、結構重要だったと思う。
やはり杉元は、アシリパさんのピンチには確実に駆けつける男だった。タイミングが良い男はモテる(?)。
人殺しの風上にも置けないとか、物騒極まりない発言内容に反してあまりに爽やか過ぎて惚れたわ。
杉元は自分をきちんと人殺しであると認識しているが、開き直っているわけではない。
戦争を経験し、もはや人殺しとしての一生から逃れられない。
その業を背負って生きていくという現実を受け入れていて、尚且つアシリパさんに殺人を犯させないための発言だからなのかなと思った。
守るべき女の子のため、既に汚れ切った自分が全ての泥をひっかぶる。
格好良すぎるんだよ杉元……。
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そして名言は続く。
誰から生まれたかより、何のために生きるか。
実はオルトログのみならず、尾形、そしてアシリパさんにも言っている言葉であるように思った。
まだ赤ん坊の、坂本慶一郎の息子にもその言葉は重要だと思う。
尾形が歪んだ根本は自分が父と母に望まれなかった不要な子供であるという自覚からではないかと思う。
しかしそんなことは忘れて、何のために生きるのかもっと前向きに考える方が充実した生に繋がるだろう。
尾形はあまりにも後ろ向き過ぎる。
ウイルクという偉大な父から生まれたアシリパもまた、アイヌを守ろうとしたウイルクに影響され、金塊争奪戦に自ら身を置いている。
杉元からすれば、アイヌを守ることは重要だが、まだ少女のアシリパさんがわざわざ血みどろの戦いに身を投じる必要はないと考えていると思う。
杉元は、アシリパさんにはヒンナヒンナしていて欲しいのだ。
捨て子だったオルトログ。立派に成長した彼の前に、親だと名乗り出たのは娼婦だった。
自分がこんな娼婦から生まれたと信じたくなかったオルトログは、自分は処女の母から生まれた神の子だと称し、神の裁きの代行として娼婦を殺しまわっていた、ということか……。
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オルトログがやったことを考えると、彼に同情は出来ない。
オルトログは娼婦の子という動かせない過去に囚われ、その過去を改変すべく現在を歪ませていった。
もったいない。孤児から立派に育ったのであれば、自分が何を出来るかを考えて前向きに生きて欲しかった。真面目そうな男だったのに……。
とはいえ、他者から見て合理性に全く欠ける生き方であっても、それが人間である、という諦めに近い納得感もあるんだよな……。オルトログの生き方や思想に共感は出来ないが、もし、今更この道を引き返せないという気持ちが彼の中にあったかもしれないと思うと、そこはちょっとわかる。
過去に囚われるのもまた人間だからこそ。人間、全てを忘れて今を前向きに生きることが出来る人ばかりではない。
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尾形VS宇佐美、決着
絶体絶命の窮地に陥ってもなお、冷静に切り抜ける尾形。
しかしその冷静さの裏に、何としても生きようとする執念を見た。
冷静に口で弾込めを実行するところに、とにかく生き残ろうとする力の凄まじさを感じる。
まぁ、生きようとしているとはいえ、およそ前向きな動機ではない感じがするけど……。
逆に宇佐美は感情を制御し切れずに敗けたように思う。
宇佐美は間違いなく接近戦で尾形を圧倒していた。
尾形よりも優位な状況のまま、すぐさま尾形を仕留めれば良かったものの、余裕を見せすぎた。
宇佐美の視点からこの勝負を総括すると、尾形に対して溜まっていた鬱憤を晴らし、スッキリすることと引き換えに、尾形に勝利を奪われてしまったという印象を受けた。
一本背負いでぶん投げた後、すぐに尾形に圧し掛かってトドメを刺せば良かったのに……。
尾形に言ってやりたいことがあったなら、うつ伏せの尾形の首を裸締めで絞め落として拘束してからでも良かった。
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結局、尾形と宇佐美の勝負は、何を以て勝利とするかの両者の違いが顕著に表れたような気がする。
宇佐美は自分の感情を害した者にはたとえ今すぐに殺してやりたいくらいに憎い相手であっても、その前に感情面でリベンジしなければ気が済まない。
それに対しスナイパーである尾形は、とにかく相手を仕留めるかが勝負だった。
純粋な殺し合いなら当然感情を排して目的に一直線の尾形に分があるということなのだろう。
ある意味、ベクトルは明後日の方向に向いているが、これもまた生きる事に純粋ということでもあるのかもしれない。
宇佐美は少年時代、その気性から、友人を殺してしまった。
尾形少年も大概病んでいたが、感情の爆発を抑えられない宇佐美と同じような過ちは犯さないだろう。もしやるならバレないようにやる。毒を盛る、あるいは流れ弾など……。
宇佐美はとにかく自分の気を害したから友人をつい殺してしまった。
尾形が花沢中将を仕留めた時は、冷静さと狂気、さらに父への密かな愛憎があった。
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当たり前のことだが、やはり尾形と宇佐美は全くタイプが異なる。
正直、この両方のケースを比べてみた場合、まだ尾形の方がかろうじて理解できるかな……。
宇佐美のケースはマジでダメ。尾形も怖いけど、爆発型の宇佐美はもっと怖い。
狂気のぶつかり合いを制した尾形。次の相手はヴァシリなのか?
ビール工場周辺は人が集まってきている。戦いはまた別の機会に持ち越しになりそうだなと思った。
刺青人皮はついに残り2枚となった……。その内1枚を己が背に持つのは上エ地。
上エ地はそこまで戦闘能力が高そうではないけど、何とも言えない邪悪さがあるんだよなー。
果たして上エ地の刺青人皮を手にするのは誰か。
以上、ゴールデンカムイ第255話のネタバレを含む感想と考察でした。
第256話に続きます。
