第254話 窮鼠
目次
前話第253話 あらすじ
土方は工場内に逃げ込んだ犯人の顔が外国人であったことから、刺青脱獄囚に間違いないと判断し、花火のミスがあったことなどから犯人を確保し急いで撤退する方針で行動を開始する。
勇作の霊に驚き仰け反った瞬間、狙撃を回避した尾形は、自分の頭部の身代わりとなって破壊された銃の代わりに、宇佐美上等兵が忘れていったらしき銃を回収に向かう。
杉元、鯉登少尉たちは大量のビールが撒かれた工場内で完全に酔っぱらっていた。
酔いでまともな戦いにならない中、杉元はビール塗れの自分の銃を拾い、アシリパと合流すべく工場の外に出る。
その頃、アシリパは菊田特務曹長から鶴見中尉からアイヌの話を聞くために自分たちの元に来ないかと説得されていた。
自分を連れていくための嘘、でまかせではないかと疑うアシリパに、菊田は、アイヌの金貨を見たことがあるかと問う。
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アシリパの表情の変化を受けて、知ってるようだなと話を進める菊田。
金貨はアイヌたちの遺品から見つかっていた。すぐ盗まれてしまう金貨を発見できたのは、最初に現場を調べた人間にしか不可能であることをアシリパは理解していた。
そして菊田は、金貨からアイヌの埋蔵金の存在を確信できたこと、さらに鶴見中尉が、アイヌたちが持ち寄って集めた砂金でつくられた金貨だと言っていたと説明する。
そうやって、鶴見中尉であればもっと他に知りたいであろうことを知っているとアシリパを誘うのだった。
しかしアシリパは、アチャの汚名を返上することよりもアチャから託されたアイヌの未来を優先させる、と拒絶するのだった。
アシリパの背後から宇佐美上等兵がそっと迫るが、門倉がその背にタックルをかましてアシリパに逃げるよう促す。
工場に逃げるアシリパ。
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尾形は男に金を握らせて宇佐美上等兵が落としていった銃を拾わせる。
その人物を狙撃し終わったヴァシリが次弾を装填している一瞬の間に、尾形は宇佐美の銃を回収して建物に逃げ込む。
何度も撃ち損じたな、と笑う尾形。
「機会はそうそう巡って来るもんじゃねえぜ」
ヴァシリはフンフンと鼻を鳴らし、狙撃の機会を窺う。
土方たちはオルトログを追って工場内に侵入していた。
音による抜群の探知を働かせた都丹庵士は、工場に何者かの存在がいると土方たちに警告する。
オルトログは工場に逃げ込んでいた。
そして物陰に潜み、工場に入ってきたアシリパをつけ狙うのだった。
第253話の感想記事です。
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第254話 窮鼠
逃走するジャック
尾形は走りながら、自分を攻撃した狙撃手のことを考えていた。
杉元たちが自分の事を警戒した動きを見せなかったのは、狙撃手の仲間に自分の相手を任せていたからだと尾形は理解する。
そして、先頃自分を狙った銃撃は誰にでも出来るものではないと考えた尾形は、すぐに樺太で戦った狙撃手を連想していた。
尾形は、まさか樺太から札幌に追ってくるはずはない、と浮かんでいた考えを否定しようとするが、もし自分であれば札幌まで来ると考え直すのだった。
(どちらかが死ぬまで追いかけて行く)
反撃できる高所へと向かう。
工場に逃げ込んだ切り裂きジャック(オルトログ)を追う土方と夏太郎。
気配を感じた夏太郎はピストルを撃って敵の存在をアピールする。
都丹庵士と有古一等卒が発砲の聞こえた地点に向かう。
辺りに隠れていると声を上げる夏太郎。
夏太郎の言う通り、切り裂きジャックは身体を屈めて工場内の荷の影に隠れていた。
追い詰められた切り裂きジャックはすぐそばにビールを包む緩衝材として使用される予定の藁苞(わらづと)の束に火を点ける。
追跡を中止し、工場の外に逃げる都丹庵士と夏太郎。
切り裂きジャックも外に逃げ出すことに成功していた。
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門倉の背中
門倉は階段を必死で駆け上がり、宇佐美上等兵から逃げていた。
やがて力尽き、宇佐美上等兵に捕まった門倉は壁に押し付けられて動きを止められてしまう。
宇佐美上等兵は門倉の腹の膨らみに手を置き、土方から預かった刺青人皮だろうと門倉に囁く。
門倉は否定するが、宇佐美上等兵は土方が刺青人皮を信用できる数名の人間に預けていると鶴見中尉から聞いていると言って門倉の服を脱がせていく。
その読み通り、門倉の隠し持っていた刺青人皮を回収する宇佐美上等兵。
「誰かの写しかな? よしよし」
そして宇佐美上等兵はもっと刺青人皮を持っているはずだと門倉を折檻し始める。
興奮しながら門倉のシャツをめくり上げる宇佐美上等兵。
そして宇佐美上等兵は、門倉の背中を見て驚きのあまり動きを止めるのだった。
「……え?」
そして宇佐美上等兵は、階下から何者かが駆け上がってくるのを察知していた。
刺青人皮を懐に入れ、門倉の折檻を止めて、上がってる何者かを待つ。
姿を現したのは尾形だった。
宇佐美上等兵は、ちょうど右目を失った尾形の死角となる右側に位置していた。
一瞬宇佐美上等兵の察知が遅れた尾形は、宇佐美からの腹部への蹴りをまともに食らう。
続けて腹部を一刺しせんと突きだされた銃剣を尾形は、身体を横に折ることで、ギリギリでかわしていた。
そして尾形は、壁に刺さった宇佐美の銃剣の横腹にすかさず銃床を叩きつけて折るのだった。
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VSジャック
工場内で行き止まりに行き着いたアシリパは、切り裂きジャックに話しかけられていた。
服のデザインから、ジャックはアシリパにアイヌだろうと確認する。
ジャックはアイヌの言い伝えである、女性しかいない島の話を始める。
東の風にお尻を当てるだけで子供が出来るという言い伝えに、やっぱり女性はひとりで子供が生める、と感動するジャック。
アシリパは幼少期のウイルクとの会話を思い出していた。
東からの風で子供を作るメナシパ(女性のみの島)があると伯母から聞いたというアシリパは、自分もそうやって生まれたのかと問いかける。
それに対しウイルクは、自分と、アシリパの母であるリラッテがウオラムコテしたからだと答えるのだった。
アシリパはジャックに、その話を誰から聞いた? と問いかける。
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ジャックは、聖書にも同じ話があると答える。
「聖母マリア!!」
アシリパは、お前がジャック・ザ・リッパーだな? と目の前の外国人に訊ねる。
「ダカラあの女達は間違ってる!!」
自分が女性たちの罪を赦さなければならない、と主張するジャック。
それを受けて、そんなつまらないことで女たちは殺されなければならなかったのか、とアシリパは怒りを滲ませる。
ジャックはそんなアシリパの言葉を無視し、東の風にお尻をあてて、子供を授かるところを見せろとアシリパに要求するのだった。
「あなたもそうして生まれたアイヌでしょ?」
「私は父と母がウオラムコテ(互いに 心 つける)…愛し合って生まれたんだ!!」
アシリパはストゥでジャックの膝を打つ。
そして今度は、膝を折って床に座り込んだジャックの顎をフルスイングするのだった。
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感想
アシリパVSジャック
オルトログ=切り裂きジャックの顎を打ち上げたアシリパさんの見事なスイングは、ホームランを量産する選手のそれだと思う(笑)。
モデルとなった選手はアッパー気味の豪快なスイング、構えている時にバットを回す、歯を剥くのが特徴のようだ。
モノマネであることは一瞬で理解できたのだが、あいにく野球はデータしかチェックしてない。
実際の試合を観たことがないから最近の選手なのか、昔の選手なのかすらわからないんだよな……。
北海道を舞台にした物語だし、日本ハムファイターズの誰かなのかな?
切り裂きジャックの膝に、そして崩れ落ちた所を顎にストゥをヒットさせてノックアウトしたように見えるが、果たしてこれで戦いに決着がついたのだろうか。
これで終わったらあまりにも簡単すぎる。おそらくまだ戦いは続くと思う。
ここまで結構引っ張ってきたし、もっと暴れることで切り裂きジャックとしての存在感を示してきそうな感じがする。
続けて戦うのはアシリパさんではなく、駆けつけてきた誰かかな?
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アイヌが東の風に吹かれて子供を宿すという言い伝えがあることに切り裂きジャック感動していた。
もうおっさんなのに、こんなおとぎ話みたいな話を本当のことだと信じているとしたら、完全にイカれている。
ジャックは本当に聖母マリアの処女懐胎を盲信しているのか。
それともそれを盾に、自らの殺人衝動を売春婦にぶつけることを正当化しているだけなのか。
ごく自然に、自らを「罪を犯した女性たちを赦す者」と認識しているのが狂気以外の何物でもない。
あまりにも傲慢だ。
アシリパさんは、そんな狂人に身勝手な理由で命を奪われてしまった女性たちを想い、静かに怒った。
自分は父と母が愛し合って生まれた子供だと主張する。
明らかにヤバイ狂人を前にして、こんな啖呵が切れる度胸は凄いと思う。
これが、リーダーとして活躍できる器なんだろうな。
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宇佐美上等兵は門倉の背中に何を見たのか
宇佐美上等兵が門倉を執拗に追ったのは、鶴見中尉から「土方は信用している仲間に刺青人皮を分散して預けている」と聞いていたからだったのか……!
その目論見通り、門倉が腹に隠し持っていた刺青人皮を回収することに成功した宇佐美。
その後、もっと刺青人皮は無いかと門倉を責めるシーンの汚さよ(笑)。
しかしそうやってシャツをめくって、見えた門倉の背中に何かを発見して固まる宇佐美上等兵……。
一体何を発見したのだろう? まさか刺青人皮?
だってのっぺら坊が24人の囚人に入れたのが全てだったはず。
その当時看守として働いていたであろう門倉の背中に、まさかのっぺらぼうが刺青を入れられるだろうか?
しかし刺青でないなら宇佐美上等兵は何を発見したのか。
例えば、傷があるとしたら、そんなのは百戦錬磨の軍人からしたら珍しくは無いだろうし……。
一瞬で冷静になってしまったということは、それだけのインパクトがあるものだったと思われる。
それが明かされる時が楽しみだ。
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尾形VS宇佐美の上等兵対決
狙撃手の腕から、ヴァシリのことをすぐに思い浮かべた尾形はさすがだ。
やはりヴァシリは尾形にとって印象的な強敵だったようだ。
そして、ヴァシリがまさか樺太から札幌まで追ってくるはずがないと思いつつも、「俺なら来る」と考え直し、即座にヴァシリとの戦いに頭を切り替える尾形が勝負師って感じでかっこいいわ。
しかしヴァシリとの戦いの前にまさかの宇佐美上等兵との戦い!
もうめちゃくちゃだ。次に誰が誰と戦うのか、あまりに目まぐるしい展開に目が離せん。
尾形と宇佐美は仲が良いとは言い難い。そもそも尾形に友と呼べる人間がいるのかどうかが疑問だが、とりわけ宇佐美とは折り合いが悪そうなんだよな……。
尾形が宇佐美の先制攻撃となる蹴りを胴にまともに受けてしまったのは、宇佐美が階下から誰かが駆けてくるのを察知していたからだ。
門倉の体を抑えつけて、静かに何者かがやって来るのを待てたのは、間違いなく宇佐美のアドバンテージだった。
しかし尾形の潰された右目が死角となり、一瞬、宇佐美を認識するが遅れたのもあると思う。
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それがなければ蹴りをよけていたかもしれない。その後、持ち直した尾形の反応速度を見ると、そう思える。
普通なら蹴りで態勢を崩したあとの、宇佐美の銃剣による追撃を食らって死んでる。
でも尾形は宇佐美の一突きを超反応でよけて、壁に刺さった銃剣の横腹にすかさず銃床を打ち付けて折ってしまう。
やはり尾形の戦闘能力は高い。
そして宇佐美も本気で尾形を殺しにいってる。
これでどちらの命も失われない展開で終わるのか? というくらい殺意が漲っている。
果たして尾形と宇佐美との戦いは、そして尾形とヴァシリの戦いはどう決着するのか。
以上、ゴールデンカムイ第254話のネタバレを含む感想と考察でした。
第255話に続きます。