第237話 水中息止め合戦
目次
前話第236話 王様のあらすじ
杉元VS海賊
海賊は、接近してきた杉元に銃口を向ける。
起きている撃鉄が下せないよう、杉元は左手で海賊の銃を掴むと、右手で抜き放った銃剣で、銃を持つ海賊の手を切りつけようとする。
銃から手を放し、ギリギリで杉元の銃剣を避ける海賊。
杉元の腹を前蹴りで思いっきり蹴って杉元を柵まで吹っ飛ばす。
「地獄行きの召集令状を届けるぜ 悪党ども!!」
郵便配達人は妙に芝居がかった台詞を叫びながら杉元の銃を海賊の部下に向けて撃っていた。
残り一人となった海賊の部下は、腰を屈めて死角に身を隠しながら、郵便配達人の隙を突こうとしていた。
「こいつ 絶対に殺してやる」
でたらめに撃っていたため、弾切れを起こした郵便配達人にアシリパが声をかける。
「予備の弾はこっちだッ 早く早くッ」
アシリパに客室から外に誘導された郵便配達人。
アシリパは、弾はどこだと訊ねてきた郵便配達人の背中を足の裏で押し、川に落とす。
「逃げろ!!」
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海賊の部下は、郵便配達人が川に落ちて、どんどん上川丸から離れていく事に気付き、その背中に向けて発砲する。
しかし弾は当たらない。
海賊は杉元に向けて錨を振り下ろす。
転がって避ける杉元。錨が甲板の床板を破壊する。
「杉元ッ」
「アシリパさん ケガは無い?」
客室の上に登ってきたアシリパを見つけた杉元が訊ねる。
海賊の背後では、海賊の部下が登ってきて、郵便配達人が金を置いて逃げたことを海賊に報告していた。
「杉元ッ 聞きたいことがあるだろがッ」
戦いが中断した隙に白石が呼びかける。
海賊は、自分の銃を奪った杉元に笑顔を向ける。
「お前…杉元っていうのか」
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質問
白石は海賊が言っていた「暗号は解けない」という噂について詳しく聞かせてくれと訊ねる。
「あんたはそれを聞いて刺青人皮探しをあきらめたってことなのか?」
海賊は一年ちょっと前に刺青人皮を持つ二十四人の脱獄囚の内に一人である若山にあったことを話しだす。
若山を殺害した上で刺青を剥ごうとしていた海賊だったが、逆に若山の手下に捕まってしまう。
若山は海賊に、入れ墨の暗号は解けないと切り出す。
脱走した直後に一人の刺青人皮を手に入れたが、茨戸の賭場で大負けした際に手放したのだという。
なぜだと訊ねられ、若山は二十四枚の内、魚やヒグマに食われたり、他の誰かによって刺青が台無しにされてしまうかもしれないからだと答えて立ち去ったのだった。
そして海賊は、捕まえていた自分の入れ墨を剥がさなかったという事は、それだけ刺青人皮が役に立たないと若山が確信を持っていたのだと続ける。
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アシリパは海賊の証言を聞いて、歌志内で遭遇した飴売りの言っていた言葉を思い出していた。
(「若山の親分のがっかりした顔もいい顔だったな~」)
白石も、海賊の証言がアシリパの証言と繋がっていることに気付いていた。
だから俺も刺青人皮を集めるのはやめた、と海賊。
白石はアイヌが金塊を隠した場所は分かったのかと訊ねる。
海賊は、埋蔵金に近づけるものの、だからと言って簡単に見つけられる場所にのっぺらぼうが隠すとは思えないと言って、杉元と白石の背後から二人の肩を抱くように両腕を回す。
「だからよ 手を組まねえか? シライシは面白いから好きなんだよなぁ」
杉元みたいな強い男はもっと好きだ、と続ける。
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「モメるぜ~? 分け前で」
目を細め、朗らかに返す白石。
「上級の家臣はどうだ? 俺に国の」
海賊は杉元達に語り始める。
それは、東南アジアの小さな島で王様になるという夢だった。
「子供をたくさん作って俺の家族の国を作るんだ 良いだろ?」
「はは…」
白石は半ば呆れ半分の、愛想笑いを浮かべていた。
「なんでみんな国なんてそんなで買い物背負いたがるのかね」
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海賊は杉元に訊ねる。
「杉元…家族は?」
いねえよ、と即答する杉元。
「死んだのか?」
「まあね…結核さ」
海賊は自分の親も疱瘡にやられたと言ってお前なら分かるだろ? と訊ねる。
「俺が王様になればだれも俺の家族を疎まない 子供心に思ったね」
そして朗らかに笑う。
「いつ自分が疱瘡にかかるか怯えて暮らすのはやめにして…夢を持って前向きに明るく…そのおかげか俺は生き残った 気持ちで跳ねのけたんだな」
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回想
杉元は海賊の話を聞きながら、過去に交わした父との会話を思い出していた。
杉元の自宅。
やつれた父親が床に臥せ、しきりに咳をしている。
父親は診療所の病床が空くまでには自分はもたないので期待するなと切り出すと、杉元について話を始める。
「お前は優しい…そのせいでいつもそんな役割を引き受ける」
「私も…おせっかいな性格だった そんな性格はなかなか変われないものだが…」
杉元は縁側に座り、黒猫と戯れていた。
黒猫が立ち去った後、杉元は裸足で地面に立ち上がる。
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(「家を出なさい 結核に捕まるな」)
(「自分のために生きるのは悪いことではないんだぞ佐一…」)
父の言葉を思い出す。
杉元は門に向けて駆けだしていた。
門のあたりで立ち止まって、目を閉じる。
「負けねえぞ…俺は生きてやる 殺してみろッ 俺は不死身だ!!」
力強く言い放ち、歩みを進める。
海賊が杉元に訊ねる。
「金塊を見つけたら杉元は自分の幸せのために何をするつもりだったんだ? 何か夢は無いのか?」
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発見
海賊の部下が、あと少しで江別に着くことを報告する。
「みなさま お騒がせしました」
海賊は客室を訪ねていた。
「おわびと言ってはなんですが皆様から金品を頂戴するのは遠慮させていただきます」
「わたくし共は現金書留だけで結構でございますので」
海賊は床に落ちているバッグの中に、平太の持っていた、熊の装飾が入った入れ物を見つける。
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第236話 王様の振り返り感想
杉元は何をしたいのか
海賊との会話から、思いもよらず、杉元の本質的な部分にスポットライトが当たった話だった。
杉元の回想で出てきたのは父親だけだった。母親は既に結核で他界してしまったのか?
想いを寄せていた梅子を同じく幼馴染のトラジに譲ってしまうので、今回の話での父親による「損な役回りを引き受ける」との指摘は完全に当たっている。
そしておそらくこの回想が、杉元が自らを不死身と称した初めての場面かな?
つまり不死身の杉元誕生の瞬間?
自分に降りかかる理不尽なこと全てに抵う意思こそが、杉元が死の瀬戸際で見せる鬼神の如き強さの根源なのではないか。
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そして海賊からの、自分の幸せために何をするつもりだったのか、夢はないのか、という問いに杉元は今後、どんな答えを出すのだろう。
今回即答できなかったのは、杉元が人のために動いてしまうため、自分の気持ちに鈍感だからだと思う。
これまで杉元は梅子の治療費のため、アシリパを守るために戦ってきた。
しかしそれによって果たして自分が何を得ようとしているのか、何が得られると期待しているのか、その気持ちを語ったことはなかった。
おそらく杉元は、自分が何に突き動かされて梅子やアシリパのために死の危険に何度も直面しながらも頑張っているのか、自覚がないどころか意識すらした事が無いのだと思う。
そもそもそれを確認することが大切だと思っていないのではないか。
しかし、それをきちんと自覚して生きることは、人生を充実させる上で決して損にはならない。
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杉元と海賊との関係は、少なくとも上川丸に乗り合わせただけでは終わりそうにないと思っていた。
しかし海賊は今後、思いの外重要な役回りを演じていきそうに思える。
味方として動くか、敵に回るかはまだ未知数だが、先の質問に代表されるように杉元の生き方、人生のスタンスへの変化のきっかけを与えていくのかもしれない。
今のところ、杉元たちにとって海賊は金塊争奪戦の強力なライバルだ。
しかしこれから頼りになる味方として暫定的にパーティーを組むかもしれない。
少し前に鶴見中尉の部下である鯉登少尉と月島軍曹と共に樺太を旅したくらいなのだから、海賊とその部下たちと行動を共にするという展開は普通にあり得ると思う。
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温度差
しかし杉元はもちろん、意外に白石も海賊に対してそこまで気を許していないのが気になったかな。
白石と海賊の相手への好意の度合い、温度がかなり違うように感じる。
海賊は白石について面白いから好きだとサラッと明言した。
しかし、その発言を受けての白石の反応はかなり薄めだった。
自分には、白石が海賊に対してそういう態度をとったのは、海賊が凶悪な犯罪者だからというよりも、かつて網走監獄で一緒に過ごした経験から、その人間性自体を警戒しているからであるように見えた。
海賊は理性的な会話が出来るし、乗客から金をとることを控えたりと、白石が説明したような数々の海賊の罪状から連想する印象とは大分違う。
だが自分は、白石、そして直前まで殺し合いをしていた杉元へのフレンドリーさなどから、海賊から底知れない強さ、器を感じている。
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海賊は自分の国を作るという自分の目的達成のため、そう易々と金塊を分ける気はなさそうだ。
金塊の代わりに、自分の作る国の上級の家臣を打診してくるというその大変な自信家ぶりは、おそらく海賊の肉体的、精神的な強さに裏打ちされていると思う。
味方にすれば頼りになるが、敵に回すと恐ろしい。
そもそも互いに仲が良かったら網走を出た直後から一緒に行動しててもおかしくない。
白石にとって海賊の無邪気さは、杉元ほどには信頼できるものではないらしい。
海賊は乗客の荷物の中に、特徴的な装飾が施された平太の入れ物を発見した。
これが杉元たちのものだと一瞬で悟ったのではないか。
果たして次回、海賊は何を仕掛けてくるのだろうか。全然予想がつかない……。
236話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
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第237話 水中息止め合戦
現実味を増す金塊の存在
杉元と白石は海賊はアイヌからの情報で金塊の隠し場所は知っているが、それだけではその場所に到達できないのだと海賊の状況を分析していた。
そして杉元は海賊が言っていた刺青人皮が役に立たないという噂に左右されることなく、刺青探しの継続を選択するのだった。
白石は、ひとまず海賊と手を組むふりをして情報を引き出すことを決めていた。
海賊は客室で杉元の荷物を開いていた。
その中にあった平太の情報から杉元たちが自分の事を探していると知る。
江別への到着が近づく。
海賊はアイヌから聞いた金塊の具体的な量の話をし始める。
金塊が詰まった鹿皮の袋。
それを腰の高さまで積んだ山が4つ。
白石はその金塊が手に入ることを想像してポーッととろけた表情を浮かべる。
その頃、アシリパは客室で杉元の荷物が荒らされている事に気付く。
海賊は杉元たちに、ロマンがあるよな、と楽しそうに呼びかける。
「一緒に夢を追えなくて残念だよ」
海賊の部下が杉元の後頭部に銃口をつきつけている。
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開始
矢尻がリボルバーの隙間に挟まるように矢を放ったのはアシリパだった。
「背嚢の中身を見られたぞッ」
白石は部下と取っ組み合う。
杉元は海賊に向けて素早く銃剣を突き出す。
頭を後ろにそらす、最小限の動きでかわす海賊。
その時、船員が勢いよく舵を切る。
甲板で争っていた杉元たちを、川の端から生えている枝で船から落そうという船長の試みだった。
それは見事に狙い通りになり、杉元、海賊、海賊の部下は川に落ちる。
外輪の進行方向に落ちた海賊の部下は、外輪に体を巻き込まれ絶命して川底に沈んでいく。
杉元は海賊を銃剣で追撃しようとその姿を探す。
しかし海賊はいち早く杉元の背後に回っていた。
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海賊は杉元の服を掴んで、真っ逆さまに川底に向けて潜水していく。
なすすべなく海賊に引きずり込まれていく杉元。
甲板に残されていた白石は、アシリパに泳げるかどうかを聞いていた。
「あ…足が届けば!!」
「そこにいてッ」
白石は川に飛び込む。
杉元は背後にまとわりつく海賊に対して銃剣を振るう。
しかし苦労もなくかわす海賊。
息が苦しくなり、必死に水面に向かって上昇しようとする杉元。
しかし海賊は狙い通りの展開とばかりに杉元の足を掴み、最小の力で杉元の浮上を阻止していた。
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チョウザメ
もがき続ける杉元。
しかし一向に水面に上がれない。
そこに白石がゆっくりと沈んでくる。
白石は杉元の顔を掴み、息を吹き込むべく杉元の口に自分の口を近づけていく。
白石の体を遠ざけ、口づけを拒否する杉元。
白石はそれでも構わず杉元に迫る。
とうとう杉元に殴られた白石は、脱力した状態で水面に浮上していく。
海賊は余裕の表情で杉元の足を掴んでいた。
苦しくなる杉元。
しかし次の瞬間、大量のチョウザメが杉元たちのすぐそばを通り過ぎていく。
それを見ていたアシリパが叫ぶ。
「ピシコロカムイチエプ!! ユペだ!!」
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杉元は高速で泳いでいくチョウザメの一匹に銃剣の先を突き立て、猛烈な勢いでチョウザメに引っ張られていく。
しかし杉元の足を掴んでいる海賊もついてくる。
チョウザメは杉元と海賊を牽引する形で泳ぎ続け、船の外輪を潜ろうとしていた。
水中に海賊の長髪がなびいている。
それが外輪に巻き込まれ、海賊は杉元の手を放していた。
船体に足を置き、自分が巻き込まれないように踏ん張っていた。
海賊の手から逃れた杉元は水面に顔を出して呼吸していた。
杉元は一瞬考えた後、再び川に潜る。
外輪に体ごと巻き込まれようとしていた海賊の髪を銃剣で切り離し、命を救うのだった。
白石は水面に顔だけ出して、口から水を噴いていた。
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第237話 水中息止め合戦の感想
これで暫くは協力関係か?
ギリギリのところで海賊の命を救った杉元。
直前まで自分のことを殺そうとしたのに、冷静にその相手を助けられるのはスゲーと思う。
ただそれは、おそらく道徳心などからではなく、刺青人皮を失うリスクがあったからだろう。
刺青人皮収集を継続すべきという方針は、アイヌからの情報だけでは金塊に至ることができない海賊の状況を見ての判断でもあると思う。
刺青人皮集めが難しいのは敵対する相手であっても下手な倒し方をしてはいけないところだ。
以前も杉元は姉畑先生が熊に襲われて刺青人皮がズタズタになることを恐れていた。
ただ倒すことだけを考えれば良いというわけではないところに面白さがある。
海賊を助けたことで、ひとまず、この場は収まる。
ただその後も海賊と協力関係が続くかどうかはわからない。
海賊はそのあまりにも大きな野望の達成を簡単に諦められるように見えない。
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海賊が説明する金塊の量がとんでもない……。
でもそんな量の金塊をどこに隠したのだろう。
こんな大量の金塊。間違いなくメチャクチャ重いんだよなぁ。
それがヒントにならないのか?
運ぶのに苦労するような場所なのか。
金塊の在処を知っている人ならかなりスマートに金塊を運び出せる、何かしらの仕掛けがあるようなイメージがある。
そういう意味でも金塊が出てくる時が今から楽しみだ。
以上、ゴールデンカムイ第237話のネタバレを含む感想と考察でした。
第238話に続きます。