第202話 狙撃手の悪夢
目次
前話第201話 あばよロシアのあらすじ
帰路
犬橇に乗った杉元たちは樺太とロシアの国境付近を南下していた。
樺太に入ったことを示す石碑を確認して、白石が叫ぶ。
「あばよロシア!!」
そして杉元たちは樺太アイヌの集落で休憩する。
その住居に住むお婆ちゃんが水を吸わせたお米を噛み砕き、皿に吐き出すのをじっと見つめる杉元たち。
お婆ちゃんは、皿に溜めた米を捏ねて形を円形に平たく整えて囲炉裏で焼いた団子を杉元たちに振る舞う。
とびっきりの笑顔でお婆ちゃんの口噛み団子を食べる杉元。
白石もそれに倣って夢中で団子を頬張る。
「ねえねえ~お婆ちゃんのお団子もっとちょうだ~い?」
お婆ちゃんの膝に頭を置いて甘える白石。
「お婆ちゃ~ん もっと作って~? ねえ~」
杉元もまた白石と同じように甘えている。
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団子を見て、秋田のきりたんぽのようなものだな、と評する谷垣。
味噌を塗ったらうまいはず、という谷垣に、それ絶対うまいやつ!! と杉元。
味噌を入れていた曲げわっぱが自身の荷物から消えていたと悔しがる杉元をよそに、団子を頬張るアシリパを白石がもの言いたげに見つめている。
「あぁ~? あれぇ?」
残念だな杉元、とアシリパ。
白石はもう団子が焼けるのを待てないから直でちょうだい、と仰向けになる。
開いた白石の口に杉元が直で噛み砕いた米を吐き出していく。
「ひどいなこいつら」
冷静につっこむ谷垣。
鯉登少尉が月島軍曹に問いかける。
「ロシア語でバル…バルチョーナクとはどういう意味だ?」
「貴族の少年とかそういうものをからかう感じで つまり……ボンボンです どこでそれを?」
鯉登少尉の脳裏には、自分に向けたそれを言い放った尾形の顔が浮かんでいた。
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狙撃手
静香に着いた杉元たちは、日用品の買い出しをしていた。
そんな杉元たちを双眼鏡で観察する人影がある。
月島軍曹たちは、買ったものを早々に犬橇に荷物を載せていた。
明るいうちにと早速出発しようという月島軍曹。
しかしアシリパが、杉元がいないことに気づく。
その頃、杉元は小脇に抱えられるほどの大きさの味噌の入った桶を購入していた。
「アシリパさん喜ぶだろうな」
(「いっぱい出たな杉元!!」)
アシリパの喜んでいる光景を思い浮かべる杉元。
白石は杉元を探しに犬橇から離れて道の真ん中で辺りを見回していた。
「さっきまでそばにいたのにどこ行ったんだあいつ」
シュパアア
突如、白石の足を銃弾が貫く。
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伏せろ!! と月島軍曹が叫ぶ。
谷垣はチカパシとエノノカを圧し潰すようにうつ伏せになっていた。
「シライシ」
アシリパは顔が真っ青にして叫ぶ。
「シライシ動けるか? 建物の影に逃げろッ!!」
「脚を撃たれた!!」
返事をする白石。
谷垣がすぐそばの店の中へ避難するように指示するが、それをさせないかのように扉に銃弾が撃ち込まれる。
さらにもう一発、日用品の影に伏せていた月島軍曹に向けて一発狙撃が行われるが、ギリギリのところで地面に外れる。
谷垣は再びエノノカとチカパシを覆い隠すようにしてうつ伏せになっていた。
「そこから動くなアシリパ」
白石を助けに行こうとするアシリパにすかさず声をかける。
脚を撃ったのは、助けに出てくる仲間を狙う狙撃手の常套手段だと忠告するのだった。
谷垣の言葉を聞いてアシリパは、狙撃手、と呟く。
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「撃ってるやつが見えたか?」
犯人を確認しようとする鯉登少尉に、顔を上げるなと注意する月島軍曹。
鯉登少尉は月島軍曹に相手を確認する為に手鏡を出すよう指示する。
「てか…がみ?」
手鏡も持ってないのか、汚い顔しおって、とつっこむ鯉登少尉。
そして自分の荷物から出すように命じる。
手鏡を差し出す月島軍曹に再び鯉登少尉がつっこむ。
「指紋がつくだろバカタレッ」
手鏡を受け取った鯉登少尉は鏡を見て自分の髪を直してからおもむろに狙撃手を確認しようと手鏡を掲げる。
パキャアアン
手鏡は即座に撃ち抜かれる。
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「かなりの距離から撃っている」
荷物の影に身をひそめたまま月島軍曹が呟く。
「こんなことが出来るのはアイツしかいない」
「尾形百之助だ」
「尾形がもう戻ってきた」
家の二階。
犯人は小窓から銃身を僅かに出した銃を排莢し、もう一度月島軍曹たちを狙い直していた。
「我々は一歩も動けんぞ どうするんだ月島ァ!!」
鯉登少尉の問いに対して、月島軍曹は沈黙するのみ。
その時、白石の倒れている場所めがけて疾走する人影が現れる。
それは杉元だった。
「あたまカチ割ってこの味噌突っ込んでやるッ」
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第200話 あばよロシア振り返り感想
この犯人の姿はひょっとして……
途中までのほほんとした樺太南下の旅だと思ったらこの急展開!!
いきなり白石被弾……!! 痛そう。
杉元たちは狙撃手を尾形だと判断していたけど、狙撃手は右目を怪我していない。
ちょうど右目が見える角度で犯人の姿が描かれているのは偶然ではなく、少なくとも彼が尾形ではないことを示す狙いがあると思われる。
目元や髪型から、ひょっとして以前ロシアと樺太の国境付近で尾形との狙撃手対決で敗れたロシア人スナイパーのヴァシリではないか?
確か尾形はヴァシリの顎を撃ち抜いて勝利を収めた。
その際、命を落としたところまでは描写されていなかったから、再登場したとしてもおかしくはない。
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そして今回出てきた敵は顎のあたりがちょうど隠れている。
仮に彼がヴァシリだったとして、その狙いは、やはり帝政ロシアの宿敵であるキロランケとその仲間の殺害か?
ヴァシリはキロランケが死んだことを知らないから、まずは彼と同行していた白石を狙ったのか。
それともそれを知っていて、その仲間までも殲滅しようとしているのか。
あの時キロランケと一緒にいたのは白石、アシリパ、尾形、そして道案内のオロッコ。
まず白石を狙ってもおかしくはないな……。
尾形との対決に敗れたものの、ヴァシリの腕は相当なもの。
あれは勝者と敗者の立場が違っていてもおかしくない戦いだった。
苦戦は必至だろう。
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色々と察した鯉登少尉
月島軍曹に尾形から言われたロシア語『バルチョーナク』の意味を問いかけた鯉登少尉。
五稜郭で犯人から投げかけられたロシア語も同じ発音だったと覚えてたのか……。
良い記憶力してるというより、あの時はまさに死ぬ間際だったわけで、一瞬一瞬を克明に覚えていたとしても何の不思議もない。
月島軍曹からバルチョーナクの意味がボンボンだと聞いた鯉登少尉の反応……。
これは……、頭の中で色々と結びついちゃった感じ?
ひょっとしたら鶴見中尉が黒幕だと気づいて、反旗を翻す展開があったりするのかな。
そういえば月島軍曹は鶴見中尉が鯉登親子をはめたやり口を目の当たりにしながら、それでも鶴見中尉に従っている。
自分も騙されている可能性に思い当たらないはずはないんだが、見ないフリをしているのかな?
それとも鶴見中尉のカリスマ性が絶大ということなのか。
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鯉登少尉も月島軍曹と同様、胸の内に生じた疑念を見ないフリしてこれまで通り素直に鶴見中尉に従うとはちょっと思えない。
直接問い質すまではしなくても、密かに当時のことを調べることくらいはしそう。
そして真実を知った時、純粋に鶴見中尉に憧れていた分、その反動として反発は大きいのではないか。
もしそんな流れが出来たら、鯉登少尉が鶴見中尉から離れたタイミングで月島軍曹も離反するとか有り得るかもしれない。
鯉登少尉はもう金塊争奪戦から抜けていい。
陸軍を離れてサーカスやった方が世の中のためになる(笑)。
冗談はさておき、果たして杉元たちはこの窮地を誰の犠牲もなしに突破できるのか?
杉元たちを狙うヴァシリの動機は何なのか?
201話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
第202話 狙撃手の悪夢
犬橇の陰に隠れていた月島軍曹は、杉元が狙撃手のいる方角に向けて走って行く事に気付いていた。
鯉登少尉は、狙撃手が尾形であると考えており、彼が杉元を見落として接近許している現状に疑問を抱いていた。
白石に、脚の手当のために何とか自分でこちらに来るように月島軍曹が指示する。
しかしその指示を断る白石。
傷から出続ける血を止めるために、脚を布で縛って圧迫する。
アシリパは隣で一緒に犬橇に隠れている谷垣に、この犬橇を押して狙撃を防ぎつつ白石の元へ行くことを提案する。
「アイツを助けなきゃ…!!」
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谷垣は、尾形の狙いはアシリパだとアシリパの作戦を却下する。
それでも助ける、と言うアシリパを白石が止める。
「アシリパちゃん 来るなッ」
白石は犬橇の犬を誘き寄せようとお菓子をチラつかせる。
しかし犬を行かせないために、エノノカとじいちゃんが犬を抱いて止める。
「俺より犬がだいじかッ!!」
白石は次の作戦を既に思いついていた。
電線にとまっているカラスを呼ぶために、口噛み団子用に持っていた米をばら撒く。
しかし白石の周りに集まって来たのはカラスではなくスズメだった。
「んぐう…カワイイ」
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連携
狙撃手は、白石たちを双眼鏡で観察し続けていた。
狙撃手はかつて尾形と戦ったロシア人スナイパーヴァシリだった。
あの時尾形と一緒にいた白石たちを狙いながら、尾形が現れるのを待っていた。
月島軍曹は、犬橇から軍帽をチラつかせてヴァシリに銃を撃たせていた。
その様子に、からかって遊んでいるのかと谷垣。
それに対して月島軍曹は、こちらに注意を向けさせ続ける、と答える。
「…連携作戦のためにな」
月島軍曹は狙撃手が気づかぬ内に敵に距離を詰められるのは怖いだろう、と呟く。
「ましてやそれが不死身の杉元なら悪夢だ」
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対決
杉元は狙撃手のいる建物への侵入に成功していた。
素早く階段を上がっていく。
ヴァシリは何者かが家に侵入してきた、その気配に気づく。。
草むらに熊が潜んでいるように、なにか狂暴なものが自分に飛びかかろうと様子を窺っていると感じていた。
杉元も襖を開けた先に敵がいるのを確信し、銃に銃剣を装着する。
杉元は銃で撃ち合いになるよりは、相手に一発撃たせて、次弾を装填している内に敵の懐に飛び込む白兵戦を決行し、確実に敵を無力化しようと考えていた。
(尾形…俺の手でカタをつけてやる!!)
襖を開く。
同時に、ヴァシリが銃弾を撃つ。
用意していた姿見で銃弾を受けた杉元は、一気に部屋に飛び込む。
しかしヴァシリは接近戦を想定していた。
杉元にピストルをつきつける。
ドゴッ
ヴァシリの顔に杉元が投げた味噌桶が当たる。
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味噌桶の直撃を受けて、のけぞるヴァシリ。
杉元はそのスキを見逃さず、ヴァシリのピストルを払い落とすと、ヴァシリの上に圧し掛かる。
「誰だよテメェ」
喉元目がけて銃剣を突き出す。
ヴァシリはその一撃を味噌桶で防ぐと、急いで部屋から逃げていく。
(「距離だ 距離がさえあれば私は負けない…」)
杉元は左手で襖をぶち抜くと、襖の先に隠れていたヴァシリの胸倉を掴む。
そして銃剣をヴァシリの顔の位置目がけて襖越しに何度も突き刺していく。
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ヴァシリは顔をそらして連続突きをかわしていた。
しかし杉元の攻撃は止まらない。
ヴァシリの襟をぐいと引き寄せて、柔道技”肩車”で畳に背中から叩きつける。
仰向けなったヴァシリの腹の上に乗り、銃剣を振り下ろそうとする杉元。
そして杉元は、掴んでいたヴァシリの襟元から見える絵に気づく。
「なんだよこれ…」
紙を取り出す杉元。
「お前が描いたのか?」
それは尾形の似顔絵だった。
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第202話 狙撃手の悪夢の感想
白兵戦
やはり犯人はヴァシリだった。
顎のあたりが布で覆われていて見えないけど、まともに見られるような状態ではないということなのかな……。
下顎が無い可能性がある。グロイ。
どうやら尾形へのリベンジが杉元たちを狙った理由らしい。
なるほど。そういえば尾形と戦った時、一緒にいたのは白石とアシリパだった。
月島軍曹、鯉登少尉、谷垣は、白石と一緒にいるところをヴァシリに見られたらしい。
杉元が別行動している最中にヴァシリが白石たちを見つけたということなのか?
てっきり静香に到着する前から杉元たちの後をつけていたのかと思ったけど、でもそれだと杉元が狙撃されなかったのはおかしい。
ヴァシリは静香で張っていたということかな?
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杉元が強すぎる。
接近戦では牛山とまともに柔道が出来るくらいの膂力があるから、大概の相手であれば杉元が有利なんだろうな。
しかし杉元の強さは、フィジカルという武器はもちろんのこと、そのメンタルにあると思う。
銃での撃ち合いを避けて、白兵戦を仕掛けることを瞬時に決められるその決断力が良いなぁ。
自分なら襖越しに銃の撃ち合いになりそうだ。
運良くヴァシリを仕留めることが出来ればいい。
でも、当たらなかったら事態は悪化する。逃がす可能性も十分あるだろう。
しかし杉元は、決めた通り、懐に飛び込んでヴァシリを制圧した。
戦いは区切りがついたが、尾形の似顔絵が出てきたことで次回は杉元たちとヴァシリの会話になる?
次回が楽しみ。
以上、ゴールデンカムイ第202話のネタバレを含む感想と考察でした。
203話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。