目次
前話第165話 旗手のあらすじ
203高地の勇作と尾形
日露戦争旅順攻囲戦。
203高地陥落を前に、第七師団はロシア軍と山頂を巡る白兵戦が行われていた。
「前進!!」
旗手である勇作が兵を伴い、勇ましく号令をかけながら敵陣に向かって突撃していく。
ロシア兵の撃った弾が勇作や近くの兵を掠めるが、勇作は全く怯むことなく兵たちを鼓舞する。
「どうした!! とどまる時ではないぞッ」
その勇作の言葉に兵たちは士気を高める。
「勇作殿のおかげか弾に当たらんわ」
「うはははッ」
スポンサードリンク
両手で柄を握り、旗を大きく翻す勇作。
兵は銃剣で目の前のロシア兵と戦う。
その兵の中には杉元の姿もある。
尾形は銃を構え、無表情で戦いをじっと見据えていた。
スポンサードリンク
日没後、尾形は一人塹壕からロシア兵を淡々と、正確に狙撃していた。
「尾形上等兵」
鶴見中尉が尾形の背後から声をかける。
「勇作殿は思った以上に勇敢な人物のようだ 皆の心が掴まれている」
尾形は排莢しながら返事を返す。
「では殺さない方向でということですか……分かりました」
スポンサードリンク
セワ
高熱を出し倒れた尾形はオロッコのテントの中で、体を横たえ眠っていた。
その頭には”アーリプトゥ”という病魔を払う鉢巻きが巻かれている。
アシリパは尾形の額に手を当て、先ほどよりは熱が下がったと口にする。
「アグダプシュー(ありがとう)」
キロランケがサマに感謝を述べる。
スポンサードリンク
「アヤーアヤー」
サマは何てことないと手を顔の前に上げ、首を横に振る。
アシリパがサマから”セワ(偶像)”というお守りを受け取る。
頭痛がすると言っていた尾形の為に用意されたそれは人を象った人形に似ていた。
それを身に着けると頭痛が治るのだそうだとキロランケが説明する。
さらにセワは白石に向けて形の異なるセワを渡す。
「シライシには子供の男性器のお守りをあげるといってるぞ」
スポンサードリンク
キロランケの説明にドキッとする白石。
「どうして俺がときどき遊郭に行ったあとオ〇ン〇ンが痛くなることを知ってるんですか?」
いやらしい下品な顔をしているからだ、とアシリパ。
キロランケも、さっきから赤ん坊におっぱい飲ませるのをジロジロ見てるだろ、と指摘する。
「失礼な事言うなッ」
大声で突っ込んだ後、白石はすぐ脇でお母さんが赤ん坊におっぱいを上げている光景をじっと見つめる。
テントに笑い声が響く。
スポンサードリンク
花沢中将の愛情
203高地の夜更け。
勇作は尾形に話があると呼び出されていた。
尾形は、小隊長に見つかったら大変だと心配する勇作を、こちらです勇作殿、と誘導していく。
無数の死体が転がる中を歩いていく二人。
スポンサードリンク
「……」
勇作は死体を見て息を呑む。
尾形が、ここです、と示した場所には、後ろ手に縛られているのに加えて両足も拘束され、身動きが一切とれずにいるロシア兵がいる。
どうしてここに捕虜がいるのか、という勇作の質問を無視し、尾形が問い返す。
「勇作殿…旅順に来てから誰かひとりでもロシア兵を殺しましたか?」
「…え?」
スポンサードリンク
戸惑っている様子の勇作に尾形は言葉を続ける。
「確かに旗手は小銃すら持たず前線に突撃して味方を鼓舞する役割です」
「ただ他の旗手は刀を抜いて戦っているのに勇作殿はなぜそうしないのか」
それは…、と勇作は目を伏せる。
「天皇陛下より親授された軍旗の死守が第一と…」
スポンサードリンク
「旗手であることを言い訳に手を汚したくないのですか?」
勇作の言葉など全く無視し、尾形は勇作をじっと見据えて問いかける。
違います、と否定する勇作に、尾形がロシア兵の捕虜を一瞥して命じる。
「ではこの男を殺して下さい」
その手には銃剣が握られている。
捕虜であると指摘し、遠回しに断ろうとする勇作。
スポンサードリンク
「自分は清いままこの戦争をやり過ごすおつもりか?」
尾形は銃剣を勇作に向けて差し出しながら問いかける。
そして、言葉を失っている勇作の手に銃剣を握らせようとする。
「勇作殿が殺すのを見て見たい」
少しの間の後、勇作は、出来ませんッ、と声を大きくする。
「父上からの言いつけなのです 『お前だけは殺すな』と」
スポンサードリンク
軍旗は兵士にとって神聖なので、その旗手はゲン担ぎの為に童貞を守る。
そして勇作は、これは軍のしきたりではなく父上の解釈であると前置きして、敵を殺さないことで勇作が偶像となり勇気を与えると言われたのだと説明し、その理由で締めくくる。
「なぜなら誰もが人を殺すことで罪悪感が生じるからだと…!!」
「罪悪感? 殺した相手に対する罪悪感ですか?」
尾形は全く表情を変えることなく勇作に言葉を返す。
「そんなもの…みんなありませんよ そう振るまっているだけでは?」
勇作をじっと見つめたまま尾形が続ける。
「みんな俺と同じはずだ」
スポンサードリンク
勇作は尾形を抱きしめていた。
その目からは涙が流れている。
「兄様はけしてそんな人じゃない」
「きっと分かる日が来ます」
「人を殺して罪悪感を微塵も感じない人間がこの世にいて良いはずがないのです」
尾形は勇作にひしと抱きしめられたまま、無表情でその言葉を聞いていた。
スポンサードリンク
勇作とアシリパを重ねる尾形
シュパアァ
旭日旗を掲げ戦地を行く勇作の後頭部を銃弾が貫く。
撃ったのは尾形だった。構えている銃口から硝煙が立ち上っている。
腹違いの弟を撃った尾形の表情はやはり何の変化もない。
頭を打ち抜かれ即死のはずの勇作は、崩れ落ちそうになったにも関わらず、額から流れる血を散らす様にくるりと尾形に振り向く。
スポンサードリンク
そして、その場に立ったまま、じっと尾形を見下ろす。
尾形は銃を構えたまま勇作を見上げていた。
「尾形 目が覚めたか」
直前まで勇作に見下ろしていたのと同じ角度でアシリパが尾形に呼びかける。
尾形は何も言わず、アシリパをじっと見返していた。
スポンサードリンク
第165話 旗手の振り返り感想
尾形は何人仕留めてきたのだろうか
強過ぎる。
こんな味方がいたら士気が相当上がると思うんだけど、でも尾形はそんな事は一切気にせず、また周りに気付かれずにただただ淡々と標的を撃っているような印象を受ける。
こんな敵がいたらいやだわ~。狙撃兵ってマジで怖いんだよね。
スポンサードリンク
調べてみると、20世紀の伝説のスナイパーって100人以上殺害していたりする。
それで軍の士気が上がって英雄として担ぎ上げられているんだけど、尾形は全くそういうのに頓着が無さそう。
実際戦争を終えても上等兵のままだったし、戦果はあくまで自分で報告しないと昇進のきっかけにはならないものなのかね。
実際彼は何人仕留めてきたんだろう……。
ロシア兵をマシーンの様に狙撃している描写があるけど、このペースは相当なものだと思う。
実際100人以上仕留めていても全くおかしくない。
スポンサードリンク
でも尾形には別に昇進するつもりはなく、何人仕留めたかも興味がないんだろうな。
これまでの尾形の行動を振り返ると、それが自然に感じる。
そんなところが尾形のアウトサイダーっぷりを浮き彫りにしていて、魅力を引き上げているように思う。
怖いけどカッコいいわ。
勇作は尾形の怒りを買った
勇作が手を汚さないのは父親である花沢中将に言いつけられていたからだった。
こういうことって実際に例があったのかな……。
スポンサードリンク
てっきり自分は、軍の幹部を父親に持っていたら息子は名誉を守るために勇猛に戦うことを強制さるのだとばかり思っていた。
尾形が言っていたけど、旗手も刀を抜いて戦いに参加するものなのだという。
でもこの旗手は前線に出るから死ぬ可能性は高い。
そもそも戦争では殺すことよりも殺されることを恐れるものだから、全線で自らの命を顧みずに旗を振ることは人を殺さずに名誉を守る為にはうってつけの役目であると言える。
それを勇作に命じた花沢中将の深い愛情を感じる。
スポンサードリンク
尾形は、花沢中将が勇作を、むしろ自分の大切な息子だからこそ罪悪感を抱かせないよう、旗手として必要だと理由づけして勇作に人殺しをさせないように仕向けていたことに気付いた。
花沢中将の言いつけは、勇作が戦後も気持ちよく生きられることを強く望んだ、親としての愛情にほかならない。
尾形は自分には決して向けられることのなかった花沢中将の愛情を目の当たりにして、自覚はしないながらも相当な怒りを抱いていたと思う。
スポンサードリンク
全くの無表情だったけど、その胸の内に渦巻いているのは間違いなく怒りだったはずだ。
そして勇作が、人を殺すことで誰もが罪悪感を抱くという花沢中将からの教えを信じて疑っていない様子で、それを尾形に向かって愛情を以って説いた。
「兄様はけしてそんな人じゃない」
「きっと分かる日が来ます」
スポンサードリンク
「人を殺して罪悪感を微塵も感じない人間がこの世にいて良いはずがないのです」
勇作にその意図は全くなかっただろうけど、最後の発言は尾形を深く傷つけただろう。
尾形の身になって考えると、尾形が勇作を背後から撃ったのは全く納得は出来ないけど理解は出来る。
スポンサードリンク
尾形の人間性
しかし、わかってたことではあったけど……。
本当に尾形は自らの手で勇作を殺してたんだな……。
いや、既に第103話でわかってたことではあるんだけど……。
あの時は、あくまで花沢中将にそう騙ってみせただけで、実は尾形が殺したわけではなかったという可能性もゼロではないと思ってたから改めて複雑な想いを抱いている。
スポンサードリンク
まぁ良く考えてみれば、実は殺してなかった、なんてことになったらキャラがブレてるしなー。
尾形は必要とあれば誰でも躊躇なく撃てる。それもあって、優れたスナイパー足り得るのだと思う。
しかしこれは辛いわ。いくらなんでも勇作が不憫過ぎる。
精々殴り倒すくらいで収める事が出来ないのが尾形の恐ろしいところであり、弱い所だと思う。
尾形は事前に鶴見中尉とは勇作を殺さない方針を決めていた。
スポンサードリンク
それにも関わらず、勇作との会話で彼が花沢中将に本当に大切にされているのを知り、加えて勇作から、自分が罪悪感を持たない、人間として失格であるという烙印を全く無自覚に押されてしまった。
それをきっかけに、自ら鶴見中尉との合意を破り勇作の後頭部を撃ち抜いたわけだ。
本当は勇作を生かして懐柔を続け、彼のカリスマ性の活用を模索していくはずだったのに……。
振り切れてるからこそ尾形に魅力がある。
たとえ親族であろうとも躊躇なく葬ることが出来る容赦のなさ、冷徹さが尾形の一番の強みだ。
スポンサードリンク
しかし今回の話は、要するに尾形が勇作を殺したことに罪悪感を持っていたという事だろう。
尾形自身は勇作に対する罪悪感に苦しんでいるが、その苦しみは人間としては極めて正しい。
尾形はゴールデンカムイの登場人物の中ではあまりにも寂しい、孤高のポジションにいる。しかし今回の話のラストにちょっと救いを感じた。
アシリパに勇作を重ねているとすれば、尾形がアシリパを手にかけるような事態はない。
むしろ彼女を救うことで彼自身が己の人生を掬い上げることにはならないか。
スポンサードリンク
でも、母を躊躇なく殺せるような尾形であれば、逆にきっかけがあればアシリパに銃口を向けてもおかしくない。
金塊を得る為にはアシリパの存在は極めて重要だということは分かっている。
でも鶴見中尉と勇作を活かす方向で話していたはずなのに、尾形は自身の衝動を優先させて、勇作を撃った。
スポンサードリンク
色々書いてきたが、ただ一つ言えることは、尾形の行動には引き続き要注意ということだ。
何をきっかけにどう動くのかが非常に読みづらく、いざ行動を起こした時にはそれが非常に重大な事態を引き起こしていたりする。
尾形は再びアシリパの、そして杉元たちの味方となるのだろうか?
それとも凶悪な敵となり杉元たちの前に立ちふさがるのか。
スポンサードリンク
後者の場合、個人的には明らかに虚しい人生になっていくんじゃないかと思うんだけど、尾形は選択しかねないんだよなぁ。
良いキャラだから長く出て欲しいし、実際野田先生から大切にされているキャラなんだけど、だからと言って幸せな姿が全く思い浮かばない。
非業の最期を迎えても全然おかしくない。というかそれが自然に思える。
果たして尾形の心はどこに向かうのだろう。
人間性を取り戻すのか。それとも、より怪物と化していくのか。
スポンサードリンク
165話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
第166話 頼み
ウイルタ式占い
ウイルタ民族の男が、キロランケ達の今後を占う為にトナカイの肩甲骨の肉を削いでいた。
肩甲骨を焼き、そこに表れた亀裂によって様々な事を占うのだとキロランケが説明する。
「それで結果は?」
緊張した様子で白石が問う。
占いの結果は『後方から人が来る』だった。
スポンサードリンク
決して不吉な結果ではない、と占いを行った人物は顔を横に振る。
キロランケは他の占い用の肩甲骨を持ち、不吉な亀裂はこんな形、と亀裂を指さす。
「意味は…『誰か死ぬ』」
白石は顔を緩ませてそんな亀裂が出なくてよかった、と胸を撫でおろすのだった。
スポンサードリンク
白石、パーティーからの離脱
翌朝。
キロランケ達はテントを後にしようとしていた。
ウイルタの好意により、今後役に立つだろうというということでキロランケ達は彼らの北に住むという兄弟に届けるという名目で飼馴鹿を一頭借りることになっていた。
「ブー シュッタイ オルキンバ アンドゥチプ(あなた方には申し訳ないことをした)」
負傷させてしまったおじさんを見つめて誠実に謝罪するキロランケ。
頭に包帯を巻いたおじさんは、アヤーアヤー(いいよいいよ)と笑いながら答えてキロランケの肩に手を置く。
スポンサードリンク
キロランケは白石に、お前ともここで別れよう、と切り出す。
自分は白石が恐れる通りロシアという国から追われるお尋ね者であり、一緒に行動すると危険が伴うと前置きする。
「俺から『逃げる』必要なんかねえんだぜ」
白石の肩をに手を置く。
尾形もまた、白石の刺青の写しは土方歳三と鶴見中尉が持っているので引き止める理由も無いとキロランケに同調する。
黙ってそのやりとりを見つめるアシリパ。
「確かに命あっての物種ってな」
白石は、自分とアシリパでは背負うものが違う、と目を伏せて答える。
スポンサードリンク
アシリパは笑顔で白石を見つめる。
「お前にはいろいろ助けられた シライシありがとう」
白石は晴れやかな表情でキロランケたち3人を見送っていた。
「さてと…」
ウイルタたちと共にテントのある地点に残っていた白石は、ウイルタに得意気に講釈を垂れ始める。
「俯瞰で見て誰がこの金塊争奪戦に勝ち残るのか見極め…勝ち馬にダニのようにしがみついて美味しいとこを頂く 分かるかい?」
そして、北海道に戻って鶴見中尉にすり寄るか、といやらしく笑ってみせる。
スポンサードリンク
白石の選択
雪原を懸命に走る白石。
その脳裏には、かつて杉元からアシリパの事を託された際の映像が浮かんでいた。
旭川で銃弾を身体に受けながら自分と共に逃げていた杉元の頼み。
(俺の…足が止まったら…お前がアシリパさんを網走監獄まで…)
網走監獄で壁の内側から白石の襟を掴み、必死な表情を白石に向ける。
(アシリパさんを頼むぞッ白石!!)
「待ってくれッ」
白石は叫んでいた。
物音にアシリパが振り返る。
スポンサードリンク
そこには雪上に転げている白石の姿があった。
白石は起き上がりキロランケ達を呼び止める。
シライシだ!! とアシリパ。
キロランケが、気が変わったのか? と白石に問う。
白石は両掌を胸の前で広げ、おどけたような表情を見せる。
「ロシア側には…金髪のおネエちゃんと遊べるところが…きっとたくさんあるんだろ?」
「『白石由竹 世界を股にかける』なんつって」
か~え~れ~、と突っ込む気にもならない様子のキロランケ。
「ったく…またチンポ痛くなっても知らないぞ!!」
嬉しそうな表情のアシリパ。
「これがあるから大丈夫ッ」
白石が掲げたのは、チンポを象ったウイルタ民族の人形、セワだった。
スポンサードリンク
『誰か死ぬ』
ウイルタのテント。
占いで使用した肩甲骨に新たな亀裂が生じ始める。
『後方から人が来る』という結果の亀裂に追加で新しく表れたのは、『誰か死ぬ』という、白石が恐れていた不吉な兆候を示す結果だった。
自然の猛威
「トホトホトー!!」
その頃、杉元たちは二台の犬橇で雪原を進んでいた。
「トホトホトー!!」
一生懸命掛け声をかける杉元。
二台の犬橇の内、先行するエノノカの祖父が操る犬橇は、その後ろにエノノカ、鯉登少尉、最後尾に月島軍曹が乗っている。
後に続く犬橇には、杉元、チカパシ、最後尾に谷垣が乗車していた。
スポンサードリンク
「頑張れーッ」
激しい雪に降られ、杉元は犬たちや自分、チカパシ、谷垣を鼓舞するように大声を上げる。
サーカスを終え北上していた杉元たち。
現在は、豊原とロシアとの国境のほぼ中間地点に差し掛かっていた。
急に天候が崩れてきた、と鯉登少尉。
避難しないとまずい、と月島軍曹が続く。
強い風が吹く。
そうこうしている内に、あっという間に降雪が辺りを覆い隠していく。
スポンサードリンク
あまりに激しい雪と風に周囲はほぼ完全にホワイトアウトする。
そしてエノノカの祖父が駆る犬橇が杉元から見えなくなってしまう。
杉元の目には、もはや自分の橇を引く犬たちの姿以外には見えていなかった。
その時、犬橇を引く犬の列に混じっていたリュウが進路から外れようとする。
「キャンッ」
首に繋がっていた紐がピンと張り、リュウは鳴き声を上げる。
杉元は、列から外れるな、とリュウを窘める。
スポンサードリンク
しかし谷垣はリュウの様子から、彼が列から外れようとした事に何か理由があるのではないかと口にする。
杉元は、リュウは猟犬であり、橇を引かせるのには向いていないのだと谷垣の言葉を暗に否定する。
杉元たちの犬橇は直進する。
しかしリュウはただ一匹、左へ左へと進路をとろうとしていた。
実は、リュウの進みたがっていた方向こそが先行する犬橇の向かった先だった。
雪上に残る犬橇の跡から、杉元たちの犬橇は大きく右にそれていく。
スポンサードリンク
「アフッ」
首を引っ張られ、鳴き声を上げながらも孤軍奮闘するリュウ。
しかしリュウの頑張りも虚しく杉元たちは誤った方向へ突き進んでいき、ぐんぐん鯉登少尉たちから離れていく。
「……」
月島軍曹は背後を気にしていた。
そしてついに月島軍曹が停止を呼びかける。
「杉元たちがついて来てないぞ」
スポンサードリンク
停止した犬橇から一人降りた月島軍曹は杉元を大声で呼ぶ。
しかしその声を強風が掻き消していく。
月島軍曹は銃口を天に向ける。
タァーン…
強風の中、谷垣はかろうじて月島軍曹の放った銃声を聞き取れていた。
銃声を聞き取った谷垣により、ようやく杉元も先行する犬橇と逸れたことに気付く。
「銃声はどっちから聞こえた?」
スポンサードリンク
多分あっち、と指を差すチカパシ。
そして谷垣もまた位置を知らせる為、天に向かって銃弾を撃つ。
「何か聞こえましたか?」
月島軍曹がすぐ背後の鯉登少尉に問いかける。
すぐそばにいるのにも係わらず、何だって? と月島軍曹に問い返す鯉登少尉。
谷垣の銃声は、強風によって掻き消されていた。
スポンサードリンク
月島軍曹たちを見つけるより避難、と杉元は視界一面が白の中を犬橇を走らせていた。
「風をよけられる場所を探すんだ」
ホワイトアウトの中を突き進んだ杉元たちが行き着いたのは海岸だった。
杉元、谷垣の唇はひび割れている。
呆然と周囲を見渡す谷垣とチカパシ。
「まずい…何とかしないと死ぬぞ…!!」
杉元が呟く。
スポンサードリンク
第166話 頼みの感想
男を見せた白石
なんだかんだ言ってアシリパを見捨てられない白石最高。
いくら杉元から頼まれていたと言っても、戦闘能力に長けているわけでもない白石がこの先ロシアという国を相手取って極めて危険な旅路を行くことを決意したというのはもうかっこよすぎる。
一国を敵に回すとか正気の沙汰ではない。
いくら金塊の為といっても命に勝るものでもあるまいに……。
つまりこれは、白石にとっては金塊よりも、命よりも大事なものがあるということだろう。
思い出したのは杉元からアシリパの事を託された時の光景。
白石は、自分を信頼してアシリパを託してくれた杉元を裏切りたくないのではないか。
スポンサードリンク
白石には、杉元には自分のことを信じてくれた恩、そして杉元が自らの命を顧みずに助けに来てくれた恩がある。
一時期、読者によって”ひょっとしたら白石が黒幕か?”なんて説が流れたことがあったけど、白石には裏切ることなんて出来なかったということだろう。
さすが人気キャラだわ。好感度高いのも納得。非常にイカしたキャラだと思う。
白石が素晴らしいのは、あくまで自分の女や遊びが好きなキャラを貫くことを表向きの理由にして、その実、杉元の信頼を裏切らない為という男としてあまりにもシンプルでカッコイイ真の理由を覆い隠したことだ。
”ロシア美女と遊ぶため”というのは本心ではあるけど、でもそれだけが本当の理由ではないことは明白だ。
ロシアを相手にするという危険を前に、あくまで遊び好きという自分の表向きのキャラを貫くが、実際はもっと熱い理由を持っている。
こんなヤツを読者が好きにならないわけがないんだよなぁ。
スポンサードリンク
キロランケの心遣い
おじさんへの謝罪は本当に心からの謝罪だと感じた。
おじさんが撃たれた直後、おじさんを救うべく淡々と行動するキロランケの様子から、彼を見捨ててまで生きている理由はない、という想いを見た。
金塊や民族が最重要ならこんな危ない行動はとらない。
あと、白石の心情を汲んでパーティーからの離脱を促したのも良いよなぁ。
ロシア皇帝の暗殺の実行犯になったのも、ひとえに不遇の仲間たちの為だったわけでしょ? その心の奥底にあるのは間違いなく正義の心だろう。
今後、まだまだ杉元たちと再度同行する可能性はある。
というか、なってほしい。死んでほしくない。
スポンサードリンク
誰が死ぬ?
時間差で表れた不吉な兆候。
まず表れたのは『後方から人が来る』の後、『誰か死ぬ』ということを表す亀裂。
『後方から人が来る』は、杉元たちの事かなと思っていたけど……。
『誰か死ぬ』というのが、『後方から人が来る』と繋がっているなら、キロランケたちを狙う何者かが追いかけてきているということか?
となるとロシアからの刺客か……?
鶴見中尉の動きが気になる。
彼にはロシアとのパイプがあるっぽいし、実際ヴァシリたちがキロランケを襲ったのも、鶴見中尉からの情報があってこそだったはず。
『誰か死ぬ』という凶兆は果たして実現してしまうのか?。
その犠牲者は誰なのか。
誰が退場するのか全く予想がつかない。少なくとも杉元、アシリパではないと思うけど……。
とりあえず杉元、チカパシ、谷垣は果たしてどうやってこの窮地を切り抜けるのか?
167話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
自分はゴールデンカムイのアニメをこの方法で観てます。