目次
前話第169話 メコオヤシのあらすじ
新問
杉元たちはロシアとの国境まで140キロの地点にある新問(にいとい)付近の樺太アイヌの集落に滞在していた。
杉元は樺太アイヌの子供たちにアシリパの写真を見せて、アシリパ、と繰り返す。
「クワンテカハンキー(知らない)」
即答する子供。
じゃあこっちは? と続けて燈台守の夫婦の娘の写真を見せる。
「名前は えーと…何だっけ」
杉元は背後の月島軍曹からの助け舟によりし、その名前を発音する。
「スヴェトラーナ」
「クワンテカハンキー(知らない)」
樺太アイヌの、カマクラの様な外観に煙突や窓をつけたような家の中。
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エノノカが、チカパシ聞いて、と楽しそうにチカパシに話しかける。
「こないだこの村 メコオヤシ出たって!」
なにそれ怖いやつ? とチカパシはちょっとビビったような表情で訊き返す。
「プー(食料庫)のまわりに足跡いっぱいあったって」
エノノカはメコオヤシを樺太アイヌの昔話に出てくる猫の化け物で、毛皮に赤と白のブチがあって犬の様に大きな猫だと説明する。
浜で仕事をしていた人が追いかけてくるメコオヤシから荷物を放り出して逃げた。
その人が舟に乗ってさらに逃げると今度は浜いっぱいにメコオヤシが現れ、メコオヤシたちはその人を睨んで鳴いていたのだという。
「オオヤマネコだな…」
月島軍曹が呟く。
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オオヤマネコと尾形
「ふん…尾形百之助じゃないのか?」
不敵に笑う鯉登少尉。
「いよいよ奴らに追いついたか」
なんで尾形なんだよ、という杉元の問いかけに、答えるかどうか逡巡する谷垣。
「『山猫の子供は山猫』…」
鯉登少尉の呟きに、どういう意味だ? と杉元が問う。
月島軍曹は、山猫とは「芸者」を指す隠語であり、師団の一部が口にしていた軽口だと斬って捨てる。
「本当にくだらねえな…」
目を伏せ、うんざりしたような表情をしてみせる杉元。
「あの性格だ 嫌ってる人間も少なくない 私も大嫌いだ」
鯉登少尉は、「山猫」という言葉は「山猫会社」をはじめとした”いんちき”、”人を化かす”などの意味合いの隠語であると説明する。
そして、それはくだらない軽口でありつつも、しかし案の定ではないか、違うか? 杉元、と同意を求める。
杉元はただただ仏頂面で押し黙っている。
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チカパシがエノノカにメコオヤシがどうなったのかを問う。
エノノカはメコオヤシから逃げた人が後から荷物を取りに行くと、そこにはただただ足跡だけが無数にあるだけで服、靴、袋、荷物の全てが一切無くなっていたのだという。
食べちゃったの? と恐々訊ねるチカパシに、かもね、とエノノカが返す。
タバコ入れも? とチカパシ。
エノノカは、タバコ入れはくさいから食べないと思う、と答える。
「こわい…」
やはり怖がるチカパシ。
「その変な話に教訓があるとすれば……『泥棒猫は撃ち殺せ』だ」
鯉登少尉が口にするのを、黙って聞いている杉元。
眼光を鋭く光らせる。
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亜港監獄
アシリパは雪上に大きな足跡を発見していた。
「メコに似てるけど大きすぎる!!」
メコって何? と言う白石に、猫のことだと答えるアシリパ。
「寒さで死ぬるもの」という意味だと補足する。
「もっと可愛い名前つけてあげてぇ~?」
その足跡はオオヤマネコだ、とキロランケ。
アシリパは、もしかしてこれがメコオヤシ? と顔を輝かせる。
アチャ(ウイルク)が昔話してくれた「ネコの化け物」はこのことだったのかと興奮を隠さない。
(靴も服も袋も背負い縄も全部消えてしまった メコオヤシが食べてしまったのかも)
木の根元に仰向けに寝転がり、楽しそうに話すウイルク。
アシリパは、タバコ入れも? と真剣な表情でウイルクに問いかけながらその腹に拳を叩きつける。
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キロランケは、一度だけウイルクとオオヤマネコを獲った、と言い、毛皮がものすごく高く売れたなと振り返る。
「味は!?」
アシリパが真剣な表情でキロランケに問いかける。
アクが多くて参った、とキロランケ。
「お前の親父はマズそうな顔してた」
「そうか ネコお化け美味しくなかったか」
アシリパは、それも初めて聞くアチャの話だ、と表情を緩める。
キロランケは一瞬の間をおいて、もっと知りたいか? とアシリパに問いかける。
「昔のウイルクをよく知っているひとがいる 会いたくないか? アシリパ」
「……」
アシリパは呆然とキロランケを見つめた後、問いかける。
「どこにいるんだ?」
キロランケは、アレクサンドロフスクサハリンスキー、通称「亜港(あこう)」だと答えて、その人は亜港監獄に収監されていると続ける。
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金の手
亜港監獄の一室。
小さな台に両腕を枷で繋がれたまま上半身裸で俯せに伏せている巨体の人物の背に、看守らしき男がまるで鞭の様に何度も細い棒を叩き付けていた。
「ハラショー!!」
打たれた人物が叫ぶ。そして台から身を起こし、囚人服を手にしながら看守を威嚇するように言う。
「(もう おしまいかい?)」
証拠が一切ないので処刑ができず、しかし密かに亜港監獄に幽閉されている、とキロランケ。
「俺たちが実行した皇帝暗殺の首謀者だ」
「(あんまり優しく撫でるから…寝ちまったよ!!)」
拷問を受けていた巨体の人物は中年の女性だった。
囚人服を肩にかけながら、活き活きとした表情で看守を揶揄う。
「ソフィア・ゴールデンハンド」
キロランケは亜港監獄に捕まっている女性の名を口にする。
そして、その女性が義賊であり、法廷でつけられた「金の手」という愛称で呼ばれているのだと続ける。
「Xa Xa Xa Xa」
ソフィアはさっきまで拷問されていた部屋を豪快に笑いながら去っていく。
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足跡
「女囚?」
親玉は女だったのか、と白石。
「彼女なら俺も知らないウイルクを知っているはずだ」
キロランケを少し驚いたような表情で見つめるアシリパ。
キロランケやアシリパたちより少し離れた場所で、ずっと黙って別の方向を見つめていた尾形が何かに気付く。
尾形の視線の先には、堂々たる風格のオオヤマネコが尾形を見つめ返していた。
尾形とオオヤマネコは暫し視線を合わせる。
「尾形」
アシリパが少し離れた所にいた尾形に話しかける。
尾形は肩に背負っていた銃を下ろそうとしていた。
銃を手にしながらアシリパを見つめる。
「行くぞ… 亜港へ向かう」
尾形がオオヤマネコに視線を戻すと、そこからもうオオヤマネコは姿を消していた。
尾形が何かを探している様子を察したアシリパが、なにかいるのか? と尾形に問いかける。
尾形は何も言わず、銃を肩にかけ直す。
そして、既に歩き始めていたアシリパたちを追って歩き始める。
尾形は雪上に残るオオヤマネコの足跡とは別の方向に足跡を刻んでいくのだった。
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第169話 メコオヤシの振り返り感想
終わり方の余韻
たまらんね。
詩的なものを感じた。
ラストで尾形はオオヤマネコを撃ち取ろうとしていた。
結局撃ち取れはしないものの、まるで先を行くキロランケ、白石、アシリパに導かれるようにして、ヤマネコの残した足跡とは別の方向に前進していく……。
あれは過去の自分が歩んできた道と決別していく尾形のこの先の運命を表現しているのかなと思った。
洒落た表現だよな~。最高だわ。
杉元たちは前半でヤマネコについて会話していた。
まずこの会話で見えたことは、前提として実は全員、山猫は尾形を評するのにしっくりくる表現でもあると感じているような節があるということ。
でも、その後の態度は様々だ。
ヤマネコは芸者、いんちき、人を化かすと言った意味もある隠語だと説明し、それを尾形に用いるのはくだらない軽口だと月島軍曹が切り捨てる。
多分、尾形を好きでも嫌いでもないのが月島軍曹かな。
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鯉登少尉も月島軍曹の”くだらない軽口”という言葉を肯定しつつ、しかし一方で尾形がいんちきを表す隠語である山猫と呼ばれる事を否定もしなかった。
このメンバーの中では鯉登少尉が一番尾形を嫌っているようだ。
谷垣は一切口を開かなかった。
その表情から、尾形が山猫と揶揄されていたことは知っているが、それには決して与せず、陰口を言うような連中とは距離を置いていたんだろなぁ、と推測できる。
あと、姉畑の時に尾形に助けられたという感謝もあるだろう。多分、尾形のことはそこまで嫌いじゃない。
杉元は今回も主人公してたなあ。
頭を撃ち抜かれるという、ある意味尾形に一番分かりやすく象徴的な形で裏切られたというのに、尾形が第七師団において山猫と陰口されていたことに一番怒りを見せていた。
お人好し過ぎるだろ。………でも主人公はこのくらいが良いと思う。
こういう主人公好きだわ。別に詰めが甘くて見ていたイライラするわけではないし、普通にかっこいいと思う。
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何より、尾形自身のことを一番嫌いのは尾形自身なんじゃないかなと思った。
もちろん尾形は第七師団の中で自身が山猫と揶揄されていたことは知っていただろう。
山猫は尾形からしてみればイラつくと同時に、常に意識してきて気になる対象であってもおかしくない。
肩から銃を下ろし、山猫に向けようとしたのは、自身を撃とうとしていたのだろうか。
その後、アシリパに注意を向けた直後に山猫は逃げてしまった。でもそれで良いのかもしれない。
尾形が山猫と評されるような生き方をしてきたのは、紛れもなく尾形自身の人生の一部だから、それを丸ごと捨て去ることなど出来ない。
出来るとしたら、これまで歩いて生きた山猫としての生き方から少しずつ外れていくこと。
ラストでキロランケたちに着いていくことで山猫の足跡から反れていく表現はかなり前向きに感じた。
ただ一方で、そこに人生を変えようという明るさよりも、むしろ尾形の後姿に忍び寄る死の匂いを感じてしまった……。
いんちき、人を化かすといった山猫の示す意味を煎じ詰めればズルいってことだと思う。
ズルさを持つ人間は人から嫌われるものの、短期的には不利益を被らずに済むことが多い。
ある意味、処世術としてはかなり優秀ともいえる。
尾形がもし自身の生き方を改めることを意識するようになったら、何かの拍子に命を失う羽目になるかもなー、なんてふと思ってしまった。
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豪傑ソフィア
出ました新キャラ。
まさか女だとは思わなかったなー(笑)。
まさに豪傑、女傑と呼ぶに相応しい態度がかっこよくて、男として惚れそう。
男が男に惚れるってやつ。
拷問を受けた後、立ち上がったソフィアの表情と言動からリーダーとしての揺るぎないカリスマ性を感じる。
そしてこんなに嬉しくないおっ〇い描写は久しぶりだ(笑)。
皇帝暗殺の首謀者で義賊とかメチャクチャかっこいいな……。
政府に虐げられていた民衆からしたら押しも押されもせぬ、紛うこと無き英雄だ。
ウイルクとの関係とは一体何だろう。
母……いや、姉かな? 少なくとも恋人ではないだろうな。
これからソフィアを亜港監獄から脱獄させる展開になるのか?
皇帝暗殺の首謀者と睨まれているような女性と面会なんて叶うわけないし、そもそもキロランケはバリバリに指名手配されているし………。
やはりアシリパとソフィアと会わせようと思ったら、ソフィアを脱獄させるか、アシリパたちが忍び込むかのどっちかになってくるんじゃないかな。
ロシア政府を相手どって暴れまわることになるかもしれないと思うとワクワクする。
きっと今後、杉元たちもスヴェトラーナを追って結果的に亜港監獄に行き着くんじゃないかと思う。そこでアシリパたちと再会になると予想……いや、妄想してる(笑)。
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第170話 亜港監獄の女囚
シロイルカ
シロイルカの頭部を撃ち抜き狩る尾形。
キロランケたちは漁猟を生活の中心としているニヴフ民族と行動を共にしていた。
「クジラ肉を喜ぶ白石だったが、自分が思い描いていた”くじら汁”には味噌が欠かせないので、ロシアには売ってないよなぁ、と諦め気味に呟いていた。
そこにアシリパが白石に味噌の入った容器の蓋を開ける。
シロイルカ肉、じゃがいも、アシリパが干したギョウジャニンニク、ニリンソウを味噌で味付けした”くじら汁”が完成する。
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「ヒンナ」と言った
キロランケ達は浜辺で鍋を囲んでいた。
アシリパは空になってしまった杉元の輪っぱを見ながら呟く。
「杉元のオソマ ついに無くなってしまった」
日本に戻ったら買い足せば? と白石。
「杉元のオソマじゃなきゃ嫌だッ!!」
「ヒンナ」
尾形が呟く。それを驚きをもって見つめるアシリパ。
「ヒンナ」
再び呟く。
「尾形お前…今ヒンナっていった? もう一回言えるか? ほら…!!」
驚きながらも再び言うように仕向けるアシリパ。
しかし尾形は何も言わない。アシリパに視線すら向けない。
そんなアシリパの様子を白石とキロランケがじっと見つめる。
白石がキロランケに、いつまで自分たちは亜港にいるのかと問いかける。
もうしばらくと答えるキロランケ。
女囚ソフィア・ゴールデンハンドに面会しに行くわけではないよな、と白石が再びキロランケに問う。
キロランケは何も答えない、
アシリパから、ウイルクのことをよく知っているソフィアのことをもっと教えてくれと言われ、キロランケは視線をアシリパに向ける、
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ソフィア奪還計画
過酷な労働環境から逃げ出した囚人は鞭打ちの計だった。
一方、女囚には苦役はない。
彼女達のほとんどは島民の召し使いか花嫁候補となるのだという。
キロランケは白石に対しソフィアをこう評価する。
「ソフィアは貴族の生まれで教養があり勇気があった」
「そしてとても美しく 若かった俺は彼女に憧れたよ」
アシリパは、あってみたいな、と呟く。
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ソフィアはベッドに腰掛け、タバコを吸っていた。
紫煙を吐き出し、傍の女性に話しかける。
「スヴェトラーナ」
若いんだからさっさと結婚してここを出ればいいんだよあんたは、と声をかけた相手は杉元が灯台守の夫婦から捜索を請け負った娘のスヴェトラーナだった。
しかしスヴェトラーナはソフィアからの提案に首を横に振り、それをなかったことのように別の話題を振る。
「サンクトペテルブルクはどんなところ?」
ソフィアは煙草の煙を吐くのみ。何も答えない。
入植囚である自分たちはもはや樺太から出ることはできない。
その時、艦種によって扉の下の隙間からソフィア宛の手紙が差し込まれる。
送り主に見覚えはない。内容は叔母家族の近況が書かれているが、ソフィアはそもそも会ったこともない人たちだった。
手紙の匂いを嗅ぐと、かすかに牛乳の香りがするのに気づき、ソフィアは傍のロウソクの火に手紙をかざす。
不思議そうにその光景を見つめるスヴェトラーナ。
炙り出しにより表れた文字は”ユルバルス”。
それを見てソフィアはニヤリと笑う。
「(ユルバルス 戻ってきたね坊や)」
キロランケはソフィア一人を脱獄させると看守はこぞってソフィアを追う為、亜港監獄の囚人250人を脱獄させるという。
脱獄した250人それぞれがバラバラに逃げ回れば、追っての勢力は分散し、ソフィアは逃げやすくなる。
白石は冷静に、250人もどうやって逃がすのかと問かける。
キロランケは複数箇所を同時に外壁に用いて同時に爆破すると答える。
爆薬を手に入れるにしても、そこからアシがついてしまうと突っ込む白石に、キロランケはある方向を示す。
そこには灯台があった。
亜港の岬にある灯台だと答えるキロランケ。
灯台には日本軍が攻めてきたらすぐに灯台を破壊できるよう監視員を置いていた。
「あとは待つ…あれが来れば脱獄の条件が整う」
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第170話 亜港監獄の女囚の感想
ソフィア
今回は、1にも2にもソフィアの変貌ぶりが一番面白いところだったと思う。
ソフィアの捕まる前の状態がかわいくて凛々しい。
そりゃウイルクもキロランケも気になるわな。
そんな彼女の姿を知るキロランケが、今後、現在の彼女を目にした時にどんな感慨を抱くのかがとても楽しみ。
171話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
自分はゴールデンカムイのアニメをこの方法で観てます。