目次
前話第158話 大トリのあらすじ
真剣に気付いた杉元の決断
サーカスの舞台に太鼓の音が鳴り響く。
右腕を刀で斬る素振りを見せる杉元を、観客達は固唾を飲んで見つめている。
「うぇへへ~い」
刃が腕に触れるか触れないかで、勿体付けるようにして刀を持ち上げて体を揺らす杉元。
変顔で観客にアピールする。
観客から安堵のため息が漏れる。
再び腕に刀をあてようとする杉元の姿に、観客の緊張が高まる。
「ふぇ~い」
再度勿体付けて斬らない杉元に対して、焦れた観客から早く斬れと野次が飛ぶ。
エノノカも無邪気にそれに同調し、斬れーッ、と叫んでいる。
「いよしッ 斬ります!!」
気合を入れ、構える杉元。
「『痛い』って言わなきゃいいけど…」
舞台袖で見守っている山田座長が不安そうに呟く。
「痛だだッ」
「んも~!!」
腕に刃を滑らせ、顔を歪める杉元の様子に怒る山田座長。
「あれ?」
練習とは異なり杉元の腕はザックリ切れ、血が流れている。
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杉元の覚悟
観客から、わあ、と悲鳴が上がる。
「これ…ホントに痛いけどマジで斬れてる?」
杉元が顔を強張らせ何気なく舞台袖に視線を走らせると、そこには鯉登少尉と月島軍曹が仕込み刀の刀身を掲げている。
(真剣かよッ)
杉元は事態に気付き、中断すべきか、それとも鯉登少尉の持つ刀身と取り替えるのか考えていた。
しかし演目は既に始まっており、この流れで刀身の交換をするのは不自然な為、観客が盛り下がることに思い至る。
杉元は意を決し、右足のふくらはぎ辺りを斬りつける。
演目を続行するという杉元の意思表明に驚く鯉登少尉と月島軍曹。
杉元の足から流れる血を目の当たりにし、観客から悲鳴が上がる。
(こんな大舞台で引き下がるわけにはいかんッ)
「ホントの血みたいだナ~」
杉元の背後に立つチカパシが呑気に呟く。
「ホンモノじゃいッ」
ヤケになってツッコむ杉元。
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乱入
太鼓の音がリズムよく響き渡る中、杉元は着物の前をはだけて、正座になり右手で刀身を持って腹の前で構える。
いよいよラストの切腹を前にして、観客の緊張がピークになる。
(ハラワタだけは…傷つかないように…)
下唇を噛み、杉元は覚悟を決める。
(アシリパさんを見つけるためだ…!!)
「い…いくぞッ」
太鼓が鳴り響き、観客の視線が杉元に集中する。
杉元は腹に刃先を入れ始める。
その時、舞台袖の鯉登少尉、月島軍曹、山田座長は、舞台に何者かが入場してくるのに気付く。
「なんだ? あのロシア人」
杉元の前に立ち見下ろしているのはロシア帽を被り、コートのポケットに手を突っ込んだロシア人。
自分の腹を斬るのに集中していた杉元は、ようやく目の前のロシア人に気付く。
ロシア人がポケットから出した手にはピストルが握られている。
演目継続
自分に向けて銃口が向けられる瞬間、杉元は腹に突き立てようとしていた刀をロシア人の手に向けて斬り上げる。
指を失い、銃ごと手が地に落ちていく。
そして杉元は、手を失ったロシア人に今度は刀を振り下ろす。
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冷酷な視線で、斬り倒したロシア人の背後にいる別のロシア人を睨む杉元。
ドンコドンコと太鼓は鳴り続ける。観客は目の前で急遽始まった殺陣を固唾を飲んで見つめる。
ロシア人が発砲するが、杉元はしゃがんでそれを躱す。
続けて連続で杉元に向かってピストルを撃つが、転がって躱す杉元。
杉元は立ち上がり、刀を投擲する態勢をとる。
ドドドドド、と太鼓のリズムが早まり、演目の盛り上がりを演出する。
杉元が投げた刀はロシア人の胸の中央に深々と刺さる。
同時に、ドドンッ、と決めの太鼓が鳴り、観客が大いに盛り上がる。
「すごい仕掛けだ」
立ち上がる観客たち。
すっくと立ち、観客からの歓声を受ける杉元。
まだ杉元をピストルで狙うロシア人がいる。
しかしその背後から月島軍曹が忍び寄って顎を殴りつける。
「全員でご挨拶!!」
舞台袖の山田座長が指示する。
「そのスキに遺体を回収だ」
わーッと谷垣が舞台に駆けていく。
ヤマダ曲馬団の面々は舞台で輪になって観客に挨拶する。
大歓声の中、公演は成功に終わるのだった。
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スパイ
その夜。
杉元たちと山田座長は舞台袖に拘束したロシア人を前にしていた。
ロシア人を尋問した月島軍曹は、本当は彼らが山田座長を狙うつもりだったようだと説明する。
ロシア人たちに山田座長殺害を依頼した人間は、ハラキリ芸を演じるのが山田座長、とだけ伝えていたため、杉元が演じるというイレギュラーな事態に対応出来なかったのだという。
依頼主がロシア政府の人間だと知り、杉元は何故山田座長がロシア政府から殺し屋を送られるのかと呟く。
「スパイ…ですね?」
月島軍曹の問いかけに肯定の意思を示す山田座長。
山田座長は、自分が元は陸軍将校であり、ヤマダ曲馬団座長として日露戦争前からロシアを何年も巡業しつつ、しかしその裏ではロシアの情報を日本陸軍の特務機関に報告してきたのだと答える。
「ロシア政府は私の正体に感づいたのでしょう」
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「…ッたく三流スパイだよあんたは」
フミエ先生が煙草を吸いながら呟き、拘束されたロシア人の前に立つ。
そして煙草を咥えてピストルをロシア人の頭に2発躊躇なく撃ち込む。
その鮮やかな手際に目を剥く月島軍曹。
「3つともテントの下に埋めときな」
煙草の煙を吐き出すフミエ先生。
「明日の朝にはわたし達も立ち去ってここは元の空き地さね」
谷垣はフミエ先生の慣れたその振る舞いにただただ驚愕している。
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別れ
翌朝、豊原に残る紅子先輩を少女たちと谷垣が取り囲んでいる。
みんな元気でね、と笑う紅子先輩。
「ゲンジロちゃん アタイのことも少女団のことも忘れないでね」
涙を流す谷垣。
「うん!!」
無表情でその光景を見つめる月島軍曹。
月島軍曹が樺太新聞の記事の中に公演のものが掲載されているのを見つける。
杉元は、俺のことはなんて書いてある? と慌てて記事を覗き込む。
樺太日日新聞豊原版の最も大きな見出しが『彗星のように現れたヤマダ曲馬団の王子』だったのを見つけ、あ~~、と脱力したような声を上げる。
月島軍曹は杉元に関する記述を見つける。
『大トリは不痔身の杉元ハラキリショーだった。』
「誤字ッ!!」
ツッコんだあと、ちきしょーッ、と叫びながら地べたを転がる杉元。
それを無言で見つめるチカパシと月島軍曹。
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山田座長は鯉登少尉を口説いていた。
ヤマダ曲馬団は日本に戻ったあとアメリカをまわると前置きし、曲馬団の座長として鯉登の可能性が見たい、世界が鯉登の軽業にひれ伏す、と必死に鯉登少尉を口説く。
「鯉登くん頼む!! ヤマダ一座に残ってくれ!!」
それは出来ない、と即断る鯉登少尉。
「なぜ?」
必死に食らいつく山田座長。
「鶴見中尉殿に叱られてしまう…!!」
鯉登少尉は2枚のブロマイドを指に挟み、決め顔をする。
地面に両手をつき、がっくりと項垂れる山田座長に月島軍曹が、我々はある男たちを追っている、と声をかけていた。
その中の一人はアムール川流域の少数民族で構成されるパルチザンの男であり、樺太島の北の仲間と合流すると予想しているが、何か情報は無いかと尋ねる。
心当たりがある、と山田座長。
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次の目的地
豊原から北へ約530キロ、国境を超えたロシア領の港町に樺太最大と言われるアレクサンドロフサカヤ刑務所がある。
そこには帝政ロシアに対する解放運動で捕まった極東の少数民族が、数年前に懲役囚として大量に移送されたという話を聞いたことがあるのだという。
「キロランケの目的地はそこで間違いなさそうだな」
確信を持って口にする杉元。
月島軍曹は、樺太公演は失敗だったが山田座長からは貴重な情報を得られた、と総括する。
失敗じゃねえよ、と杉元。
少しの記述で、しかも誤字だったが、アシリパは賢いから読めば気付く、ひょっとしたら見つけてるかも、と期待する。
(いまこの瞬間にアシリパさんの奇麗な青い目に俺が生きてる証拠が映っていますように…)
その頃アシリパは白石に、見ろこれ、と呼びかけていた。
「ウ〇コだ!! まだ湯気が立ってる!! 近くに大きな獲物がいるぞ」
嬉しそうな表情でウ〇コを指さす。
「それさっき俺が出したウ〇コだよ」
白石がさらっとツッコむ。
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第158話大トリの振り返り感想
杉元がかっこいい
うぇへへ~い、とか、ふぇ~い、とか言って勿体付けてたムカつく杉元。
しかしその後、刀身が仕込みの物ではない真剣だと知りながも、客が盛り下がらないようと決死の覚悟を演目を続けてみせた杉元のカッコよさとの落差が良い(笑)。
真剣だと知らずに刃を滑らせた腕、本当に見事に斬れてる。
刀身が本物だと知ってからも、演目の流れ通り足を斬るとかとんでもないヤツだと思う。
ロシア人の殺し屋が来て流れたけど、やはりその後、腹を内臓が傷つかない程度に掻っ捌くつもりだったのだろう。
(こんな大舞台で引き下がるわけにはいかんッ)
杉元は芸人ではないが、根性を見せてくれる。
アドリブというより、最後まで仕事を完遂しようとする心意気が男前なんだよ。
マジで見習いたいと思った。
杉元が正座して腹に刀を突き立てようとしている絵や、ロシア人に向けて刀を投げて突き刺した後、すっくと立つ絵といい、今回は杉元がとにかくかっこいい。
完全に杉元の回だったな。
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演目として成立
ハラキリショーはロシア人の乱入によって当初の段取りとは全く違う演目になった。
しかしそれを成立させてしまったのは、演出の太鼓奏者がいい仕事をしていたと言える。
杉元とロシア人との戦いの最中にも太鼓を叩くことをやめず、それどころかイレギュラーな事態を楽しむように太鼓のリズムを戦いの流れに合わせて変えていき、最後に杉元がロシア人に向けて投げた刀が刺さった後、ドドン、と締めるのはプロの技だと思う。
だからこそ、観客はイレギュラーな事態にも関わらず演出だと思い込み、演目として最後まで楽しむことが出来た。
大盛り上がりの理由は杉元の見事な大立ち回りと、太鼓を叩いていた人の技だろう。
あと月島軍曹が3人目のロシア人をさり気なく成敗していたのはさすがだと思った。
実にいい仕事するわ。
ロシア人との生死を賭けた戦いを目の当たりにしても、谷垣が少女団の一員として挨拶の為に飛び出して行ったのには笑ったなぁ。
でも挨拶も巡業を締めくくるには重要な仕事だから(笑)。
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山田座長は……
実は元陸軍将校だったとは……! そしてロシア国内の情報を陸軍に送るためのスパイだったのか。
全然予想すら出来なかったわ。面白い。
しかしスパイはあくまで”ついで”という感じかな。
別れ際で鯉登少尉を必死に口説いているあたり、サーカスの仕事に真剣に取り組んでいるのが分かる。
いつか鯉戸少尉が公演で一身に受けた歓声を思い出し、ヤマダ曲馬団に入る日が来るのだろうか……。
そして、フミエ先生は何者なんだろう。
山田座長の正体を知ってたみたいだし……。この人、山田座長の妻だっけ? そんな描写あった?
煙草を咥えながらロシア人を躊躇なく撃つその姿はヤクザかマフィアそのもの。
山田座長と一緒に巡業でロシアをまわる前から修羅場をくぐり抜けてそう。
年季の入った風格があるんだよね……。
3つともテントの下に埋めときなと言い捨てるフミエ先生に、まだ衣装を着たままの谷垣が引き気味なのが納得だけど笑える。
月島軍曹とっくに着替えてるのにいつまで着てるのかと(笑)。
紅子先輩を送る谷垣も笑うしかないわ。
もみあげと繋がったヒゲで毛だらけになった顔をくしゃくしゃに歪めて、さらにゲジ眉を寄せて泣いている姿が、いかつい体と相まってゴリラみたいに見える。
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不痔身
痔にならないなら良いよな~。羨ましいわ。
新聞の見出しは、当初危惧した通り、貴公子鯉登少尉に持ってかれてしまった。
加えて「大トリは不痔身の杉元ハラキリショーだった。」の一文はひどい(笑)。
ラストでアシリパが見ていたのは新聞の記事ではなく白石のウンコだったのもあり、杉元が全然報われてないというオチも笑いを誘う。
杉元の記事を本当にアシリパがこのまま発見せずに終わるオチだったら……ごめん、やっぱ笑うわ。
今までの話は何だったのかと(笑)。
ただ、山田座長から情報を得られたから、巡業に出た意味が無いことは決してない。
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アレクサンドロフサカヤ
山田座長から得た情報により、次の目的地が決まった。
山田座長が元陸軍将校でスパイだと知れたからこそ、山田座長から情報を得ることが出来た。
それも今度はキロランケの向かう場所に直で向かえる可能性がかなり高そう。
樺太探訪編も、次から佳境に入っていくのかな。
アレクサンドロフサカヤ刑務所にパルチザンがたくさん収容されているとして、キロランケはひょっとして彼らを逃がすつもりなのかな?
キロランケがそこに向かうとして、一体何をするつもりなのか。
樺太を旅する中で、アシリパの記憶を呼び覚ますのがひとつの目的だということは尾形に明かしたが、どこに向かって何をするかまでは明言していないんだよなー。
収容されているパルチザンのリーダーから指示を受けるとかって話か?
果たして樺太の旅の果てに杉元たちは何を得て、何を失うのか。
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158話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
第159話 ウイルタ民族
敷香
キロランケたちは豊原より約300キロ北の、ロシアとの国境近くである敷香(しすか)に到着していた。
敷香まで走らせた犬橇の代金で路銀が乏しくなったキロランケたちは獲物を狩ろうと森に入る。
以前、毛皮を高く売ることが出来た”黒貂(クロテン)”を獲ればいい、と白石が言うと、アシリパは小川が凍り付いているのを見て、貂は獲れにくいだろうと答える。
それは貂が水を嫌うという習性を利用した罠を使用できないことによる推測だった。
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アシリパは木で簡素に組まれた台の上に、木の棺が載っていることに気付く。
キロランケはそれがオロッコ(ウイルタ民族)の天葬用の棺だと答える。
樺太には3つの少数民族がいると説明を始めるキロランケ。
樺太アイヌ、オロッコ(ウイルタ民族)、ギリヤーク(ニブフ民族)の三民族で、これまで会って来た樺太アイヌの生活圏は敷香まで、以北はオロッコ及びギリヤークが生活しているのだという。
キロランケは、天葬を行うのはオロッコのみだが、近年はその文化も消えつつあると続ける。
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トナカイ
尾形が銃を撃つ。アシリパは尾形に駆け寄り、何に向けて撃ったのかと聞く。
エゾシカだと答える尾形に、キロランケは樺太にエゾシカはいないと否定する。
仕留めた獲物は馴鹿(トナカイ)だった。
ユクに似ているが見たことがない、というアシリパに、キロランケは馴鹿だと答える。
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アシリパは馴鹿が首にベルトで木の棒のようなものを下げているのに気付き疑問の声を上げる。
キロランケはこの首輪は”ウラーチャーンガイニ”と言い、馴鹿の首にかけておくことでぶら下げた棒がスネに当たって痛む為、遠くへ逃げないようにする道具なのだと答える。
それを聞いたアシリパは、シライシの首につけておけばいい、と首輪を白石の首にかける。
「勝手に遊郭に行けなくなるよう〇〇〇に当たる長さに調節しよう」
ノリノリのキロランケが首輪に提げてある棒を吊るしている紐の長さを調節する。
ウラーチャーンガイニを装備して歩く白石。棒で股間を痛打して呻き声を上げる。
「あだだだッ 〇〇〇ガイニィ」
そんな白石を尾形はじっと冷静な目で観察していた。
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オロッコ
白石は尾形に撃たれた馴鹿が首輪をしていることに気付き、飼育されているのかと指摘する。
オロッコ(ウイルタ民族)は夜に馴鹿を放牧し、日が昇るのとともに馴鹿を集めるので、飼い主がこの近辺にいるはずキロランケが答える。
「たぶんあれだ」
キロランケは少し離れた場所で馴鹿を呼ぶ声が聞こえる場所を指さす。
「あ~あ 知~らないッ 尾形怒られる♪」
白石が表情とセリフで尾形を煽る。
白石の煽りを正面から受けつつも、無表情のまま髪を撫でつけている尾形。
キロランケは尾形に対して、謝ればいい、タバコをあげたら喜ぶから、とアドバイスを送り、その肩に手を置く。
「尾形! 一緒に謝ってやる 心配するな」
アシリパも尾形を元気づける。
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オロッコの元へ向かったキロランケたちは”アウンダウ”という、天幕式のテントと、その周辺に馴鹿の群れと彼らを管理するオロッコを発見する。
オロッコたちは馴鹿と一緒に移住しながら天幕で生活をしているというキロランケに、アシリパは、決まったところに住まないのか、と興味深そうな表情で呟く。
「ウラーバ ワーピッサー ウラーッジェーリ カッラウルシュ」
「ウラーラ アナー? シロンボ ワーンジェーシュ」
オロッコは飼馴鹿を撃ってしまっことの謝罪に対し、馴鹿を殺したなら馴鹿で返せ、(飼馴鹿がいないなら山馴鹿を狩りに行こうと答える。
こんなに馴鹿がいるのにわざわざ狩りにいくのかと面倒くさそうにため息をつく白石。
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キロランケの語るウイルクのエピソード
キロランケは飼馴鹿はオロッコにとって唯一の財産であり、狩りで殺すのはあくまで野生の馴鹿だと説明した後、ウイルクの話題を出す。
「実は…アシリパの父親も若い頃尾形と同じように飼馴鹿を撃っちまってな」
すぐにその話に食いつくアシリパ。
キロランケは、ウイルクは南樺太に住んでいた為に、オロッコの放牧の存在も、馴鹿でさえも知らなかった。なので飼馴鹿を撃ってしまったのだと説明する。
そして結局、ウイルクはオロッコに謝罪した後、山馴鹿狩りに参加することになったのだという。
その話も初めて聞いたかも…とアシリパ。
「一緒に行くか? アシリパ…」
尾形がアシリパに呼びかける。
アシリパは笑顔を浮かべて肯定する。
「何かアチャのことを思い出せるかも」
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アシリパの記憶
キロランケはオロッコたちが飼馴鹿を”ウラー”、山馴鹿を”シロ”と区別しているのだと説明。
その上で、尾形が双眼鏡で覗いている馴鹿の群れが”シロ”の群れだと指摘する。
シロたちは雪の下にある、彼らの大事な餌となるトナカイゴケを食べるのに夢中だった。
その様子を見ながらキロランケは、馴鹿たちは冬の間はそれを求めて移動を続けるのだと説明する。
シロの群れをじっと双眼鏡で観察する尾形に、キロランケは馴鹿の狩り方に関してアドバイスする。
スキだからけの状況でトナカイゴケを食べているように見えるが、実は群れの中には”ヌガ”と言う見張り役の番兵が必ずいる為、まずはヌガを仕留めること。
それに成功すれば群れが混乱して群れが逃げないので。
その間にすかさず他のシロを撃つ。
キロランケの説明に、そこは人間と同じか、と尾形は微かに笑う。
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キロランケは続けて、ヌガに見つからないよう飼馴鹿に先導させ、その背後に隠れてシロに接近するのだと簡単な狩りの手順を説明する。
「オロチックウラー」
アシリパが突然呟く。
キロランケは、どうしてそれを? と穏やかに問いかける。
山馴鹿狩りの囮に使う”化け馴鹿”、と答えるアシリパ。
「アチャが話してくれたのをいま思い出した」
笑顔で続ける。
そんなアシリパの様子をじっと見つめていたキロランケは口元を緩ませる。
「よし! 化けトナカイ作戦行くぞッ」
早速、飼馴鹿の背後にキロランケたちがスタンバイする。
「馴鹿狩りだぜ」
ぽつりと呟く尾形。
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目論見通りの展開
白石が馴鹿に頭を噛まれたのを見て、アシリパが駆け寄る。
「大丈夫がシライシ」
白石は、尾形が飼馴鹿を撃たなければこんな面倒なことはせずに済んだ、とブツブツ言いながら尾形を睨む。
「バカ正直にあやまんないでさっさと逃げてりゃよかったんだよ」
やっぱり最低だなシライシ、とアシリパ。
「いいや…これは予定通りなんだ」
キロランケは、自分たち一行にとって、敷香から先に進むにはオロッコとの接触がどうしても必要だったのだと答える。
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第159話ウイルタ民族の感想
文化描写
1900年代前半、樺太に生きる民族の生活をここまで詳しく描写した作品は珍しいのではないか?
元よりアイヌ民族自体を漫画でここまで描いた作品もこのゴールデンカムイが最初では?
実際それが本当かどうかは分からないけど、連載前に比べて飛躍的にアイヌ文化に注目を集めたのは間違いない。
色々と魅力がごちゃ混ぜになっているが、オロッコの生活風景の描写とか、キロランケの説明も相俟ってまるでドキュメンタリーでも見ているような気分になるのもそんな魅力の中の一つだろう。
所変われば風習が全く違うというのを改めて感じた。
オロッコの住み家が天幕なのと、馴鹿と共に移住しているという行動様式から、モンゴルの遊牧民と似ているのを感じた。
何か関係があるのか? 好奇心が湧く。
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記憶
キロランケはアシリパの内にあるウイルクの記憶を刺激して金塊に関する情報で他の陣営の上を行こうとしている。
アシリパを確保し続ける事で金塊を追う他の陣営の金塊奪取の邪魔が出来るし、樺太の旅を通じてアシリパのウイルクとの思い出を刺激することで何か金塊に繋がる情報を得たいというのがキロランケの本音だろう。
148話で尾形と悪巧みをしているシーンがある。
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ただ今回尾形が発揮したアシリパに対する優しさを感じる呼びかけや、キロランケの口元を緩ませて穏やかな視線をアシリパに向けているのも、金塊の情報を得る為のご機嫌取りだけでやってるとは思えない。
尾形は結構狂気を孕んでいる男だし、キロランケについてもまだ得体の知れないところがあるけど、二人ともゴールデンカムイには欠かせないキャラだ。
樺太編が終わった後は、また杉元やアシリパの仲間として同行して欲しい。
キロランケの目論見通り、アシリパはウイルクの記憶を思い出していく。
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それを見て笑顔を浮かべるキロランケの様子からは、決してアシリパをただの情報源として見ているようには思えない。
キロランケにしても尾形にしても杉元を裏切ったが、しかし下衆、外道の類にまで堕ちたわけではない。
だからまだ先の展開がどうなるか全くわからない。
キロランケも尾形も杉元の仲間となるのか、それとも敵対を続けるのか。
この先、杉元たちがキロランケたちに追いついた時にどんなやりとりとなるかが楽しみだ。
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