第222話 刺青人皮
目次
前話第221話 ヒグマ男のあらすじ
死刑囚の平太について
酔っぱらった門倉は、キラウシに網走刑務所にいた死刑囚松田平太について話をしていた。
門倉は平太は時に女性のようになるのをはじめ、口調が頻繁に変わって気持ち悪かったと振り返る。
平太は門倉に、自分の中に何人も人間がいて入れ替わることを打ち明けていた。
そして平太はヒグマが自分の舎房の周りをうろついていると怯えていたのだった。
人を食う悪い神様、なんちゃらカムイだという門倉の話に、ウェンカムイ、とキラウシが補足する。
門倉は、そのウェンカムイが平太の頭の中の人間を一人一人襲って食べていくのだと続ける。
平太は、ウェンカムイがそうやって一人一人殺していった最後に自分が食われることで体を乗っ取られ、今度は自分が誰かを襲い、殺さないと収まらないのだという。
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現実の人間を殺すと自分の身体がバラバラの肉片となって山に飛び散って、元の自分に戻る。
それを何度も繰り返すのだと門倉は平太から聞かされた話を振り返る。
「なんで飛び散るんだよ」
机を叩いて笑う門倉。
門倉の話をじっと聞いていたキラウシは、自分の地元では倒したウェンカムイの肉や毛皮は細かく切り刻んで「改心しろ」と説教しながら山にばら撒くのだと説明し、平太の言っていることは、おそらくそれのことだろうという推測を述べる。
門倉は網走刑務所に収監されて平太が、自分は捕まって良かった、と言っていたことを思い出す。
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平太の、「あれ」がなければウェンカムイに食われない、安心したという言葉に疑問を覚える門倉。
「あれ」とは何かと門倉が尋ねても平太はそれには答えず、ウェンカムイが自分を完全に乗っ取ろうとしていること、自分を操って脱獄させようとしていると続ける。
「見てください」
囚人服を脱ぐ平太。
「いつの間にか私の体に入れ墨が彫られているんです!!」
門倉は、じっと話を聞いているキラウシに、平太が死刑判決を受けた裁判の記録には平太はヒグマの毛皮を被って被害者男性をズタズタにしてその肉を食べていたとあったと説明する。
「『道東のヒグマ男』松田平太 奴のいうことが本当なら今もどこかでそれを繰り返しているはずだ」
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杉元VS平太
右手で銃を振り回す杉元。
杉元は右腕に噛みついてきた平太と一緒に坂を転がり落ちていく。
「杉元ッ」
アシリパは木の枝の上に落ちていった彼らを見送ることしかできなかった。
そんなアシリパの元に、平太師匠はどこ? と白石がやってくる。
アシリパは平太が入れ墨を持つ脱獄囚だと叫ぶ。
杉元の銃は木の枝に引っかかっていた。
襲い掛かってくる平太に対して杉元は銃を持たず、徒手空拳で、それも左腕は折れているので右腕のみで応戦しなければならなかった。
ウェンカムイと化した平太に肩のあたりを掴まれ、杉元は平太の怪力を脅威に感じていた。
「ブオオオオ!!」
平太が大口を開けて杉元に噛みつこうとする。
杉元は平太の左肩を自分の右足の裏を押し当てて平太との距離を保ちつつ、右手に構えた銃剣を何度も平太の身体に突き入れていく。
「ギャアッ!!」
まるで熊の様に叫ぶ平太。
平太は被っていた熊の毛皮、その熊の顔の部分の口から両腕を出し、ちょうど杉元の頭の上に貼られているアマッポの仕掛けを引っ張る。
発射された毒矢を、まるで杉元を守るように自らの首で受ける平太。
「…!?」
杉元には何が起こっているのか分からなかった。
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平太の最期
倒れた平太をどかして杉元は起き上がる。
「杉元 無事か?」
坂の下に降りてきたアシリパと白石。
「やった…」
平太が呟く。
「あいつに勝ったぞ」
アシリパは今自分たちがいるところが、さきほど危うくヴァシリが引っかかりそうになったアマッポの仕掛けがあるところだと気付く。
「あいつに気付かれないようにここへ誘い込みました」
平太は仰向けになって声を絞り出す。
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白石は真っ青になってアシリパに毒矢の処置を頼む。
しかし平太はそれを断り、最期の力で話を続ける。
平太は12歳の頃にアイヌから聞かされたウェンカムイの話が恐ろしく、いつも空想していたのだと言う。
そして自分が苦労して採った砂金がその日のうちに家族によって浪費されてしまうことに怒りを覚えていたことで、彼らにバチを与えて欲しかったのだと続ける。
そしてそれはある日、平太の内にあるウェンカムイの目覚めと共に家族の皆殺しと言う形で実現するのだった。
「そして欲深い私も罰として食べられ…ウェンカムイとなった私は誰かを食べに行く」
誰かに止めて欲しかった、という平太の言葉を、杉元たちは黙って聞いていた。
「杉元さんが戦ってくれたおかげで自分でとどめを刺すことが出来ました…ありがとう」
事切れる平太。
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アシリパは、自分たちの住む地方ではウェンカムイに殺された人間はカムイに好かれたから連れていかれたと考えられており、平太の言うようにウェンカムイは罰を与えるために人殺しをするのではないと説明する。
平太は中途半端にアイヌのことを聞き齧ってしまったために、間違ったウェンカムイが彼の中で育ってしまったと結論する。
「正しく伝えることは大切だ」
杉元が呟く。
「砂金への欲望が人生を狂わせたのか…あるいは砂金に狂わせる魔力があるのか…」
白石は平太の死体を抱いてわめいていた。
「死なないで平太師匠!! 次はどこを掘ればいいんですかぁ!! 平太師匠おおお!!」
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第221話 ヒグマ男の振り返り感想
多重人格
平太は自ら人生の幕を下ろした。
元の平太の人格はただの好青年のため、何だか寂しい感じもするが、その最期は自分の内なる怪物との戦いに勝った充実感の内に逝けたようだ。
多重人格者は、人格が変わると実際に顔つき、体つきまで変化するのだという。
平太は熊を演じていたのではなく、熊そのものだった。
不意打ちとはいえ杉元の腕を、振り下ろしただけの自分の腕で折ってしまうその怪力っぷりは間違いなくこれまで出てきたキャラの中で随一の力の持ち主だったのではないか。
あのガード破壊攻撃はさすがに牛山でも無理だろう。
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自分の設置したアマッポで自殺しなければ、杉元は危なかった……。
でも左腕が使えなくなっても、平太の怪力に手を焼いても、諦めなかったからこその杉元の勝利と言える。
銃剣で何度も平太の身体を刺し、それにより何とか自分を取り戻した平太が自らアマッポを起動させて、毒矢を自ら受けることができた。
平太は多重人格者である自分を決して良しとはしていなかったんだな……。
機会があれば自分の内にいるウェンカムイを倒そうとしていたわけだ。
制御できない怪物が自分の内にいて、隙あらば他者を殺害しようとしているのを止められない。
それって一体、どんな感じなのだろう。
きっと、常人には想像がつかない恐怖だと思う。
これまでたった一人で己と戦っていたが、最期は望み通り死ねたのだから良かったのだろう。
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嵩たちは実在した?
原因は12歳の時に聞いたウェンカムイの話だったようだ。
その恐ろしさのあまり、何度も何度も空想し続けていたことが平太の内にウェンカムイを生んだ。
恐怖に飲み込まれないように自らが恐怖そのものになったということなのか?
多重人格者が自分の内に別の人格を作る原因は直視できない現実に向き合わないようにするために別人格を作ると聞いたことがあるが……。
多分、平太はイメージする力が強過ぎるのだと思う。それは一種の才能でもあると思うんだが、彼には良い方向に活かす機会がなかった。
正気に戻った時の彼の好青年ぶりを考えると、寂しい結果だよなー。
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父、三郎、嵩、ノリ子は平太の人格だったことは前回明らかになったけど、でも結局わからないのが、彼らが実在したのかということ。
平太がとってきた砂金を散財する家族というのがつまり父、三郎、嵩、ノリ子のことだと思ったんだけど、違うのかな?
平太がバチを当てたという”家族”と、嵩たち4人は全く違った存在なのか?
自分の採った砂金を浪費する彼らに自らバチを与える形でウェンカムイと化したということだと思った。
砂金に対する執着が自分の内のウェンカムイを目覚めさせたとも言えるのではないか。
杉元の言う通り、砂金が平太を人生ごと狂わせたということなのか。
はっきり描写されていなかったから、家族は全く別で、その4人もまたウェンカムイと同様に平太の空想の産物であり、多重人格だったのか?
門倉の話の中で平太に襲れていた被害者は彼ら4人の内の誰でもなかったが……。
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正しく伝えること
アシリパさんの最後のまとめ方がとてもメッセージ性が強いと感じた。
正しく伝えることの大切さというのは非常に示唆に富んでいると思う。
間違った情報が伝わっていくことで起こる問題は現実にたくさんある。
それは時に大きな国際問題に発展したりする……。
平太はウェンカムイのことを中途半端に知ってしまったがために、自らの内により凶悪なウェンカムイ像を育ててしまった。
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アシリパさんが解説した通り、ウェンカムイに殺害されてしまったということが『カムイに好かれたから連れていかれた』とされており、罰を与えるために人を殺すのではないことを平太が知っていたら、そもそも彼は囚人になっていたのだろうか。
砂金を家族に奪われたその復讐をウェンカムイになるという形で果たしただけで、仮にウェンカムイにならなくても別の存在として家族を襲っていたのかもしれないが……。
杉元は平太の最期から、自分たちが追いかけている”金”の持つ魔力について考えることになったようだ。
また新しく刺青人皮を一枚手にして、金塊に迫る杉元たち。
果たして次はどんな困難が彼らを待ち受けているのか。
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第222話 刺青人皮
鯉登少尉の容態
インカラマッはベッドで横になっている鯉登少尉に請われ、今日の運勢占いを行っていた。
今日の運勢を吉と言われて、「キエ~イ!!」と奇声を上げて喜ぶ鯉登少尉。
鯉登少尉は次に月島軍曹の運勢も占うようにとインカラマッに頼む。
月島軍曹を占った結果を「凶」とインカラマッが言うのを楽しそうに聞いていた鯉登少尉。
「キエ~イ!!」
鯉登少尉は月島軍曹を煽るが、当の月島軍曹は鯉登少尉からそっぽを向くのみ。
インカラマッはそんな二人を微笑ましく見つめていた。
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人質
谷垣は菊田特務曹長に金塊争奪戦から降りると宣言して立ち去ろうとしていた。
歩き出した谷垣の行く手に立ち塞がる鶴見中尉。
鶴見中尉からインカラマッを網走から別の場所に移したと言われ、谷垣は自分が抜けるなら女を殺すというのか、と鶴見中尉に訊ねる。
鶴見中尉は、まさかまさかと首を振る。
「そんなむごいことをさせないよな? 谷垣源次郎は…」
谷垣は真摯に、あくまでも自分が金塊探しも政権転覆にも向いていないことを主張する。
しかし菊田特務曹長は命懸けで戦った兵士を見捨てるのかと谷垣の主張を受け入れようとしない。
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自分がいれば士気を下げるだけ、と谷垣は鶴見中尉への協力を断ろうとする。
しかし鶴見中尉は折れるどころか次の手を谷垣にぶつける。
「『あの女のことだから回復すれば自分で逃げ出すだろう』とたかをくくってるんだろうがもうそれは難しいぞ」
「インカラマッに何かしたんですか?」
谷垣は声を荒らげる。
「谷垣源次郎の子を宿している」
鶴見中尉からの思わぬ一言に谷垣は呆然としていた。
そして鶴見中尉は、アシリパを連れ戻せば谷垣とインカラマッを解放すると谷垣に交渉を持ち掛ける。
そもそも谷垣の役目はフチの元へアシリパを帰すことであり、その当初の目的を行えば全ては丸く収まると谷垣に囁く鶴見中尉。
「谷垣…お前なら杉元佐一に警戒されずに近づけるはずだ」
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目的
杉元たちは平太の刺青人皮の処理を終えていた。
杉元は新しく平太の刺青人皮を手に入れたことで本来の目的である金塊探しに立ち直れたと呟く。
それを受けてアシリパは、金塊に辿り着けば金塊強奪事件の真相も明らかになるかもしれないと続く。
白石も杉元も、砂白金をちまちま集めている場合ではないと表情を引き締めるのだった。
しかしアシリパが平太が腰に下げていた熊の掘られた入れ物を開けて、その中から砂白金が転がり出てきた途端に杉元と白石は血相を変える。
醜く砂白金を奪い合う杉元と白石を、アシリパはじっと見つめているのだった。
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尾形が合流したのは
花札に熱中する門倉とキラウシ。
キラウシは門倉が賭け事に向いてないと笑っていた。
門倉がチラッと山札の一番下の札を覗き見る不正行為を行ったのをキラウシは見逃さなかった。
「いま『尻のぞき』した~!!」
しかし門倉は不正を認めない。
「尻の穴のぞき野郎が!! 『尻のぞき』するって…!」
「うるせえこの野郎」
あまりにも激しくバカにされた門倉は、キラウシに飛びかかる。
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「こいつら毎日ダラダラと…」
門倉とキラウシの二人に呆れているのは、帰ってきたばかりの永倉だった。
「おや」
永倉と一緒に帰ってきた牛山は、火鉢のそばで尾形がまるで猫のように寝転がっていることに気付く。
「のら尾形が帰ってきてる」
永倉、牛山と一緒に帰ってきた土方は尾形に、網走監獄から今日まで何をしていたのかと訊ねる。
尾形は、杉元とのっぺら坊は流れ弾に当たって倒れたこと、アシリパの記憶を呼び覚ますためにソフィアに会わせようと樺太に向かったキロランケに自分が同行したこと、樺太で杉元にアシリパを奪われたこと、キロランケが殺されて、自身も負傷したことを報告する。
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どうして杉元がキロランケを、と疑問を口にする牛山に永倉は、杉元がアシリパ奪還のために鶴見中尉らと協力して樺太に来たからと答える。
そして杉元たちが収集していた刺青人皮は鶴見中尉に奪われているが、鶴見中尉を樺太で裏切り、アシリパと一緒に北海道に逃げ帰ってきていると続ける。
樺太土産は二つある、と尾形が切り出す。
一つ目として尾形が報告したのは、アシリパを奪いに樺太からやってくるソフィアという新興勢力。
そしてもう二つ目は、アシリパが金塊の暗号を解く鍵を思い出したこと。
アシリパを探さなくては、と焦る門倉に対して尾形は、杉元たちも刺青人皮を集めているので、向こうからくる、と冷静に答える。
「刺青人皮の枚数はもはや土方陣営か鶴見陣営かの二極化しているんだからな」
現状、土方陣営は9枚、鶴見陣営は14枚、杉元陣営は2枚。
刺青人皮は残り4枚。
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第222話 刺青人皮の感想
濃い内容だった。
いよいよ刺青人皮が残り4枚。
もちろんこの4枚が出てきたところで、まだどの勢力も24枚揃えたわけではないのですぐに金塊を手に入れられるわけではない。
とはいえ、囚人が残り4人か……、と考えると物語は着実に終わりに向かっているのだなと感じてちょっと寂しくなる。
杉元陣営は鶴見中尉にこれまで集めていた刺青人皮を全て奪われたとは言え、今回手に入れた平太の刺青と、何よりも金塊の暗号を解く鍵であるアシリパがいる。
今後も鶴見中尉はもちろん、土方からも狙われるだろう。
だからこそ杉元たちにもチャンスはある。
杉元陣営は勢力としては小さいのでまともにぶつかったら鶴見陣営にも土方陣営にも歯が立たない以上、全ては作戦次第だろう。
現状から杉元たちがどう逆転していくのか。
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鶴見中尉が次の手を打ってきた。
インカラマッを人質として、杉元たちからの信頼を得ている谷垣にアシリパを奪還させようとするとは……。
鶴見中尉、さすがの容赦なさだわ。
インカラマッの妊娠を知り、谷垣は余計に鶴見中尉に従わざるを得ないだろう。
谷垣は杉元の敵に回りそうだけど、鯉登少尉と月島軍曹はどうなるのだろうか。
鯉登少尉は鶴見中尉に敵愾心を抱きつつあった。
月島軍曹にそれを諫められたが、当の月島軍曹も、鯉登少尉が刺された後の鶴見中尉の冷淡さを目の当たりにしてついに我慢の限界を越えたように見えた。
今後、鯉登少尉と月島軍曹は鶴見中尉の命令に素直に従うのだろうか。
ひょっとしたら杉元たちの味方になる展開があるかもしれない。
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土方陣営に尾形が合流した。
そういえば尾形は元々土方陣営にいたっけ。
だから尾形が土方の元にいること自体はおかしくはないんだけど、尾形は報告の中で嘘をついていることは気になる。
杉元とのっぺら坊を撃ったのは尾形だろうに。
それにキロランケについていったのも事前に打ち合わせがあったと思うんだよなー。
果たして土方は尾形の裏切りまで想定しているのだろうか。
土方陣営の動向にも注目したい。
次回は月島軍曹の話のようだ。
早速月島軍曹と鯉登少尉が自分たちの行動をどうするのか知れるかも……?
楽しみ。
以上、ゴールデンカムイ第222話のネタバレを含む感想と考察でした。
第223話に続きます。