第148話 ルーッ
目次
第147話のあらすじ
正気を失った杉元と殴り合う岩息。
岩息は自分を殴りつけて来る杉元の拳に自分への憎しみではなく他の何かに対する怒りを感じ、その怒りが誰に向けて、何に向けているのかと問う。
その岩息の問いかけにより杉元の脳裏にこれまで自分が守れなかったものが思い起こされる。
俺は役立たずだ、と絞り出すように口にする杉元。
それを聞いた岩息は、ボロボロになってでも頑張っている自分を許せと杉元に呼びかける。
杉元のクロスカウンターを受け、片膝を落とす岩息。
勝負がついたと谷垣たちが二人に駆け寄ると、体重が集中して足元の氷が割れ、みんな湖に落ちる。
バーニャに駆け込む一行。
湖の冷たさで正気を取り戻していた杉元は、岩息に金塊を見つけて刺青を追う意味を無くすと説き、刺青の写しを要求する。
月島軍曹はユーラシア大陸の西の果てに逃げろとアドバイスする。
それらを受け入れた岩息は、正気を欠いた杉元が口走っていたアシリパという名前に聞き覚えがあると呟く。
岩息は、何故か樺太にいた白石と行動をともにしていたアシリパが話していたのは恐らく杉元の事だったと言う。
その頃、アシリパたちは樺太の海岸線でトドを狩っていた。
トドの眉間に銃弾を撃ち込むも、斃せないことに驚く尾形。
アシリパは、トドはヒグマと同様に頭骨が厚く、狙うなら目か耳だと説明する。
そして、今度強い奴を倒すときは頭を狙わないことだな、と続ける。
杉元は岩息に情報の話の続きを促す。
白石と村の酒場に入ったアシリパは、白石にほとぼりが冷めたら遺体を探そうと元気づけていた。
アシリパは父の死は一度乗り越えた事だが、アイヌを裏切っていた事に関してはどう乗り越えたら良いのかわからないと肩を落とす。
アシリパだけでも父ちゃんの味方になってやれ、と白石に励まされて同意するアシリパ。
そして白石は、根拠は無いが杉元は生きているのではないか、と口にする。
岩息はその後にアシリパが言った言葉を杉元に伝える。
「杉元が死んでるわけがないだろッ あいつは『不死身の杉元』だぞ」
自分の生存を信じるそのセリフに、杉元は穏やかに微笑むのだった。
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第148話 ルーッ
現金調達
キロランケが樺太アイヌのおじさんと会話している。
その傍らでは、トドの皮をアシリパと白石の二人がかりで広げる。
その作業を横目で見つめる尾形。
これどうすんの? と問いかける白石に、アシリパはトドの皮から革紐を作るためだと答える。
さらに、トドの皮は渦巻き状に細く切り裂いていくと、『トトラ』という家具などを縛る事が出来る丈夫で長い革紐になるのだと詳しく説明していく。
無駄にしないねぇ、とニッコリ笑う白石。
それを受けてアシリパは、トドから採取した油は調味料として使えるのだと返す。
樺太アイヌのおじさんと会話していたキロランケが、トドの皮を何かと交換してくれるとアシリパに声をかける。
トドの肉、内臓に関しても買い取りをしてくれる人を紹介してくれるのだという。
「現金が必要だもんなぁ 小遣いくれるジイちゃんももういないし」
土方を思い出す白石。
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養狐業
「狐の飼育場?」
アシリパが呟く。
キロランケ一行の着いた場所には、樺太養狐株式会社と書かれた看板が立てられている。
そこで働くおじさんが狐はキロランケ達の持ち込んだトドの肉も良く食べるのだと喜ぶ。
飼育されている狐が黒い狐「シトゥンペカムウイ」ばかりだと呟くアシリパ。
飼育員のおじさんは煙草に火を点けながら、黒い毛に白い差し毛が入っているのは銀狐っていって毛皮として高級品なのだと説明する。
「外国から輸入した狐でね 樺太は寒いから良質の毛が出来るのよ」
儲かってていいね、と白石。
キロランケがおじさんに、樺太アイヌの村があったが知らないか、と問いかける。
20~30年前にはアイヌの村があったらしいが、飼育場を建てる頃には何もなかった、とおじさん。
沈黙しているキロランケにアシリパが問いかける。
「誰か知り合いがいたのか?」
飼育場を見据えるキロランケ。
「ここにはお前の父親…ウイルクの生まれた村があった ウイルクの母親も…そのまた両親も」
みんなどこへいったんだ? とアシリパが問いかける。
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翻弄された樺太アイヌ
「日本とロシア 2つの国の間ですり潰されて消えてしまった」
キロランケは樺太に関してアシリパに説明していく。
昔は樺太はロシアのものでも日本のものでもなかったという。
約30年前、千島を日本領にするのと交換で樺太をロシア領とする条約が結ばれる。
樺太に住んでいた和人は撤退するが、南部沿岸で漁業に従事して生活していた樺太アイヌは日露のどちらかの国籍選択を迫られた。
結果、北海道への移住を決めた樺太アイヌは当時約2000名いたと言われる内の841名だという。
ウイルクは母親は樺太アイヌだったが父親がポーランド系の為に日本に行けず、住んでいた村の大半が北海道へ移住したにも関わらずウイルクの一家は樺太に残る。
しかし樺太アイヌの間で伝染病が流行って半数近くが亡くなる。
生き残った樺太アイヌは樺太に戻るが、ウイルクの村には誰も戻って来なかったのだとキロランケはウイルクから聞いていた。
「日本とロシアの勝手な都合で翻弄された結果がこれだ………北海道アイヌもいずれこうなる」
飼育場を見つめるアシリパにキロランケが語り掛ける。
「だが光はある ウイルクはその光をお前の中に見ていたんだ」
どうしてウイルクはアイヌを裏切ったのか、奪った金塊を自分に託そうとしたのか、と切羽詰まった様子でアシリパが問いかける。
「その答えはこの樺太の旅の中で見つかるはずだ」
キロランケはアシリパの頭を撫でる。
「お前の知らない父親の足跡をたどっていけばかならず…」
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尾形とキロランケ
アシリパがキロランケのそばを離れて狐を眺めている。
それを見計らったかのように尾形がキロランケに話しかける。
「のっぺら坊がウイルクであることは確認した ウイルクは娘でなければ解けない暗号を残したということはいまアシリパの頭の中には暗号を解くかぎがあるはず……でいいな?」
誰かの手によって刺青人皮が全て収集されてもアシリパさえ確保しておけば誰にも金塊は見つけることが出来ない。
尾形は、今のうちに金塊奪取のカギとなる情報をアシリパから聞き出しておけばもっと有利になる、と確認するように口にする。
本人は心当たりがないそうだがな、とキロランケ。
「思いつかんのかそれとも…知らないふりをしているのか?」
キロランケは尾形の問いに対して、無理に聞き出すのは良くない、確かな情報を引き出す為には不信感を与えるのはダメだと答える。
「この樺太が彼女を成長させれば…アシリパのほうから俺たちにカギを教えてくれるはずだ」
白石がおじさんにトド肉の高値での買取を要求する。
拒否されるも、景気が良いんでしょ? と食い下がる。
おじさんは、今は景気が良いが、10年後には狐も養狐業も無くなっているかもしれない、と答える。
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二階堂の現在
網走近郊の病院。
鶴見中尉が、ベッドで布団を被っている二階堂に食事を摂らない事を咎める。
宇佐美上等兵は杉元の死を聞かされて以来、この状態なのだと説明する。
「ほらほら出ておいで二階堂」
鶴見中尉は手に持った小瓶を人差し指でコツコツ叩く。
「ちゃんと食べたらご褒美にモルヒネをやるぞ」
二階堂が布団から顔を出す。
「ほらそこにあるから食べなさい 早くお箸もって…」
食事を指さす鶴見中尉。
二階堂は右手を吹っ飛ばされてます、と宇佐見上等兵に言われ、おっと…、と呟く鶴見中尉。
布団から包帯をがっちり巻かれた右手を出す二階堂。
再び布団に潜り込む。
フォーク持ってこい、とため息をつく鶴見中尉。
鶴見中尉は宇佐美上等兵から受け取ったフォークと、もう片方の手にはモルヒネの小瓶を持ち、ちゃんと食べたらモルヒネをやる、と二階堂に声をかける。
二階堂は、布団から顔だけ出して鶴見中尉の様子を窺っている。
見てます見てます、と宇佐見上等兵。
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義手
「鶴見くんッ」
大声に怯えたように二階堂は布団に潜り込む。
有坂閣下!! と鶴見中尉。
「二階堂くんに贈り物があるよッ!! 新しい手だよッ」
有坂は義手を掲げている。
素晴らしい手じゃないか、と鶴見中尉が二階堂に声をかける。
再び布団から顔だけ出す二階堂。
その二階堂の様子に、見てる見てる、と宇佐見上等兵。
「有坂閣下!! この義手はただの義手ではないのですよね?」
鶴見中尉は二階堂の様子を横目で窺いながら有坂に問いかける。
もちろん仕掛けがあるよッ、と有坂。
二階堂は顔を揺らして二人のやりとりに注目している。
めちゃくちゃ見てます!! と宇佐見上等兵。
「中指の関節を開くとぉ……」
有坂は義手の中指の関節を逆に曲げる。
「お箸入れになっておるッ」
空洞になっている中指から箸が出て来る。
勢いよく布団に包まる二階堂。
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感想
樺太アイヌの悲劇
キロランケの話に、国境に住む人たちの悲哀を感じた。
ロシアとの国境付近に位置する樺太に関して、それまで領有権がきちんとしていなかったのが近代になってそれをはっきりさせる必要が出てきた。
それが、明治8年(1875年)5月7日に締結された樺太・千島交換条約(からふと・ちしまこうかんじょうやく)。
日本と帝政ロシアとの間で国境を確定する為、サンクトペテルブルクで署名され、1875年8月22日に東京で批准され締約された条約だという(wikipediaより)。
日本史で習った記憶がうっすらとあるなぁ……。
授業中には特に何か感じたわけではなかったからこんなに記憶が無いんだと思う。
しかし今回の話から、国境付近では国と国の約束事によって人生を翻弄される例はいくらでもあったんだろうなと感じた。
樺太・千島交換条約によって北海道移住を決めた樺太アイヌは伝染病にかかってしまったとのことだが、それはつまり北海道土着の病原体に対して免疫が無かったということなのか……。
樺太でそのまま生活していれば何事も起こらなかったのかもしれないと思えば、キロランケが、日本とロシアの間で翻弄された末に死んでしまった、と捉えてもおかしくはない。
死んでいたのがキロランケだったかもしれないわけで、キロランケには樺太アイヌとして強い当事者意識があるのだろう。
キロランケは国というものに対して反発を覚えているのかもしれない。
キロランケがパルチザンだと指摘した土方の情報に信憑性を感じられるようになった。
その設定は世界観を広げるのに有効だと思っていただけだったけど、土方が指摘していただけであり、実際そこまで実感が無かったというのが本音だった。
今後、樺太の旅の果てにさらにキロランケの真実の姿を見出す事が出来るようになるだろう。
謎の多い人物だったので楽しみだ。
アシリパに優しいのは信憑性の高い情報を得たい為だけではないだろう。
ウイルクの娘をぞんざいに扱うようなことは無いはず。
ヤバそうなのは尾形かな。抱えている闇も深いし、案外ラスボス化するかも。
白石はマイペースだった。
気楽そうに振舞っているけど、パーティーの和ませ役としては重要だな(笑)。
杉元陣営の一員として活躍してくれるだろう。
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二階堂
ガッツリ心閉ざしてて笑った(笑)。
右手を吹っ飛ばされたのもそうだけど、何より杉元の死が堪えているようだ。
本当に、杉元への復讐が生きがいだったんだな。
そして、有坂による四肢の武器化が進んでいく(笑)。
お箸が出てきたけど、実際は刃物で切りつけられるようにするのか。それとも針でも飛ばすのだろうか。
足の仕込み銃。そして義手の武器が二階堂にプラスされ、益々戦闘マシーンになっていく。
杉元が生きていると分かったら狂喜するだろうな。
鶴見中尉が杉元の生存を教える事で二階堂の精神はすぐに回復するだろう。
四肢の改造は一体どこまでいくんだろう。
いつか、その全てが機械化されるのか?
いやいや、さすがにそこまではいかないかな。
どう変わっていくか楽しみ。
以上、ゴールデンカムイ第148話のネタバレを含む感想と考察でした。
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