第147話 トドを殺すな
目次
第146話のあらすじ
チカパシとエノノカは犬橇のリーダー犬を盗んだ犯人のロシア人の後をつけて家を突き止めていた。
ロシア人が納屋にエサをもっていくのを監視していると、納屋内から犬の吠える声が聞こえることからイソホセタがいることを確信するチカパシとエノノカ。
窓から部屋の中を覗くとテーブルの上に納屋の鍵を発見する。
クズリに襲われてバーニャに逃げ込んだ谷垣、鯉登少尉、月島軍曹、そして岩息。
稼働するバーニャ内のあまりの暑さに意識が朦朧となる谷垣たち。
岩息は一人余裕の様子でタライから掬った水を傍らの暖炉にかけてバーニャ内の湿度と体感温度を上げる。
さらに、ヴェニクと呼ばれる白樺の葉を束ねたもので谷垣たちを鞭打ちの要領で叩きまくる。
谷垣は外のクズリに協力して対処するべきだと岩息を諭そうとするが、岩息は刺青を狙っているとして話を聞き入れない。
バーニャの暑さに耐えられずにクズリの待つ外に出て行くのは誰か、と煽る岩息。
鯉戸少尉、月島軍曹はヴェニクを手に取り岩息をしばき始める。
チカパシたちはロシア人が酒を飲んで寝てしまったのを確認し、棒きれを少し開けたの窓から差し込んでテーブル上の鍵をとろうとするが、ロシア人を起こしてしまう。
しかし、玄関で足元の位置に張られたロープにロシア人が引っかかって派手に転び、さらにロープの先に仕掛けた落石をモロに頭に食らう。
納屋の南京錠を谷垣の銃で破壊するチカパシ。
正気を失っていた杉元はその銃声に気付く。
イソホセタに引かせた犬橇で杉元たちの元に向かうチカパシとエノノカだったが、途中で杉元に出会う。
その異様さに気付いたチカパシは杉元の横を通り過ぎるが、追いかけられる。
バーニャの外にいるクズリは犬橇に気付き、エノノカたちに向かって行く。
犬橇がバランスを崩し、雪上に投げ出されたチカパシを襲うクズリ。
しかし追いついていた杉元がクズリに鎌を振り下ろす。杉元とクズリは互いに威嚇し合う。
その隙に谷垣の銃を取り出すチカパシ。
チカパシは、向かってくるクズリの姿に慌てて、銃の弾薬装填に手間取る。
谷垣がチカパシを抱くようにして銃を支えるように持ち、チカパシに指示する。
チカパシは谷垣の指示通り、クズリを銃で仕留める。
そして、谷垣と同様に全裸で外に出ていた岩息は、正気を失った杉元と相対するのだった。
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第147話 トドを殺すな
杉元の本音
正気を欠いた杉元は岩息を連続で殴りつける。
岩息は殴られながらも、杉元の拳には怒りが込められている、と言って澄んだ瞳で杉元を見つめる。
「でも私への憎しみではないだろう?」
杉元の頭部から顎にかけて脳汁が垂れ伝っていく。
半裸の杉元と全裸の岩息の殴り合いを遠くから見つめる鯉登少尉、月島軍曹、谷垣。
鯉登少尉の、助太刀すべきか? という問いに月島軍曹はどっちのですか? と問い返す。
杉元はアシリパを取り返すのに必要だからとにかく止めるべき、と強く主張する谷垣。
岩息は杉元を殴りながら、その”怒り”が何故あるのか、誰に、何に怒っているのかと問いかける。
その問いかけにより、杉元の脳裏にフラッシュバックが起こる。
泣く梅子、死にゆく寅次、凛と立つアシリパ、守れなかったのっぺらぼう。
拳を振るう杉元は堪えきれなくなったように、俺は役立たずだ、と口走る。
岩息は杉元をじっと見つめる。
「許してやりなさい 頑張ってるじゃないですか そんなにボロボロになるまで」
杉元のクロスカウンターを受けて片膝を落とす岩息。
谷垣たちが止めに入ろうと駆け寄ると、体重が一点に集中して地面――氷が割れ、湖に落ちる。
そのあまりの冷たさに正気を取り戻す杉元。
何とか湖から這い出た一同はバーニャに駆け込む。
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岩息の話
バーニャで暖まりながら、鯉登少尉はずっと気になっていた杉元の”妙案”に関してそれが一体どういうものだったのかと訊ねる。
なんだっけ、と何も覚えていない様子の杉元。
外ではエノノカが、クズリを倒したチカパシを褒めている。
谷垣が手伝ってくれた、というチカパシにエノノカは、目つぶってた、と同意する。
杉元は岩息に、殺したくないが、刺青は誰かに狙われるし、殴り合いが強くても銃には勝てないと告げる。
そして、金塊を見つけて刺青の意味を無くすためにも刺青を写させて欲しい、と頼む。
月島軍曹は、ユーラシア大陸の果てまで行けば誰も追ってこない、本場でスチェンカをやればいい、と杉元の言葉を補足する。
もっと強い奴を探しに行く、とその言葉を受け入れる岩息。
そして岩息は、ところで、と話題を変え、杉元が殴り合いの際に言っていた名前、アシリパについて知っている告白する。
驚く杉元に、岩息はその子を覚えていたのは連れの男が刺青を持っていたからだと続ける。
それが白石だと看破する谷垣。
岩息は、一体なぜ樺太に白石がいるのか、何の目的で村に来たのか探ろうと後をつけていたのだという。
アシリパは何を話していたのか、と問う杉元に岩息は、多分あなたのことだと答える。
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狩りをするアシリパたち
海岸線にトドの群れがいる。
尾形は一頭のトドの眉間に銃弾をヒットさせる。しかしトドは倒れる事無く海に逃げ込む。
手応えがあったにも関わらず息がある様子のトドに気付く尾形。
尾形と一緒に小舟に乗っていたキロランケがアシリパに”手負い”がそっちに逃げた、と叫ぶ。
双頭の銛を掲げて登場するアシリパ。
キロランケが狩ったトドの解体をする。
アシリパは、トドはエタシペと呼び、小樽でも獲れるのだと尾形たちに説明する。
そして、珍味だ、と脂身を一切れ尾形に差し出す。
ニチャニチャと脂身を噛みながら、ヴェッ、と微妙にえづく尾形。
ヒンナか? と問いかけてくるアシリパに尾形は何も答えない。
同じく脂身を頬張った白石は、ものすごく臭い脂身、と感想を言う。
尾形は獲ったトドを横目で見つめながら、頭部に命中したのに斃せなかった、と呟く。
アシリパは解体を続けながら、ヒグマと同じく頭部の骨が分厚いトドを銃で狙う際は目か耳を狙えと言われている、と説明する。
「キムンカムイとエタシペはどっちも強いカムイだから喧嘩する物語がたくさんある」
「今度強い奴を倒すときは頭を狙わないことだな」
そこまで言って、口に入れていた脂身でえづくアシリパ。
白石が、脂身食べ過ぎ、と笑顔で突っ込む。
その光景を微かな笑みを浮かべて見つめるキロランケ。
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杉元の生存を信じるアシリパ
杉元は、アシリパが自分の事を話していたという岩息にその続きを促す。
情報集めを尾形、キロランケの二人に任せ、自分たちはお茶をしようと酒場に誘う白石。
尾形はグラスを片手に、ほとぼりが冷めたら遺体がどうなったか探そう、とアシリパを元気づける。
アシリパは、アチャが死んだことは一度は乗り越えた事だが、アイヌを裏切っていたことに関してはどう乗り越えたら良いのかわからないと肩を落とす。
事情があったんだ、事情を知る人間がどこかにいるかも、と慰める白石。
「アシリパちゃんだけでも父ちゃんの味方になってあげなよ」
そうだな、とアシリパ。
そして白石は、杉元のことだけど、と前置きする。
「あいつまだ生きてんじゃねえかなぁ? 根拠は全く無いんだけど」
目を伏せ、頭をシャリシャリ触る白石。
「俺はあんな野郎が簡単に死ぬとは思えないんだよ」
岩息は、アイヌの子はこう言ってた、とその後のアシリパの言葉を杉元に伝える。
「何言ってるんだ!? シライシ 杉元が死んでるわけないだろッ」
笑顔で白石に人差し指を突きつけるアシリパ。
「あいつは『不死身の杉元』だぞ」
岩息の言葉で、そんなアシリパの姿を鮮明に思い描いた杉元は穏やかに微笑む。
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感想
岩息との友情
杉元の吐露した想いはアシリパを除けば岩息じゃないと引き出せなかった。
殴り合いを通じて芽生えた友情。こういうの好きだ。
お互いそれほど深い会話をしたわけでもないのに分かりあってる感じに憧れる。
今思えば、そもそも出会った時からお互いに感じるモノがあったように思える。
細かい理屈抜きで殴り合ってみたいとか冷静に考えてみると本当にヤバイ奴らだと思うけど、何故羨ましいのか不思議……(笑)。
杉元は牛山とも彼の土俵である柔道で真正面から受けて立ってたし、肉体派と相性が良いような気がする。
戦いを終えて入ったバーニャで杉元は岩息に殺したくはない、刺青を無意味にする為にも金塊を見つけると告げる。
岩息の身を案じているようにすら見える。
そして月島軍曹が岩息に、樺太を出てユーラシア大陸の果てまで逃げろ、本場のスチェンカをやればいい、とまで言っていたあたり、岩息は無害であり、また殺すのは惜しいと判断したのだろうか。
鶴見中尉なら問答無用で岩息を殺害して刺青を剥ぎ、他の誰かが刺青を手に入れる可能性を完全排除しそうだし、月島軍曹がその意を汲んで行動してもおかしくない……。
杉元と同様、岩息に友情を感じているから、と理解したい。
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無力感に苛まれていた杉元
俺は役立たず、と絞り出すように言った杉元の頭部から流れる脳汁が、まるで涙のように演出されていたのは切なくなった。
そもそも北海道までやってきた杉元がこれまで頑張ってきた、その駆り立てられていた想いがどんなものなのかを確認出来たという意味で、このエピソードは重要だと感じた。
幼なじみの寅次をむざむざ死なせ、梅子は幸せになれず。
アシリパに関してはその父の命を目の前で奪われてしまい、直前にウイルクから聞いていた真相を伝える前にアシリパはさらわれた。
大事なことは、何一つ上手くいかない。
無力感に苛まれていたんだろうな。男としてこんなに辛いことは無い。
しかし杉元はそんな愚痴を誰かに吐ける男ではなかった。
だから、一時的に正気を失っていたことと、真正面から殴り合う、ある意味信頼出来る相手である岩息から問いかけがあったことの二つが重なった事でようやく吐き出せた。
(殴り合っていて信頼とか良く考えなくても意味がわからないけど(笑))
杉元のガチな弱音は貴重だ。
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久々のアシリパサイド
さらわれたにも関わらずアシリパは、白石はともかくキロランケ、尾形とも仲良しだった(笑)。
とりあえず元気な様子が見れて良かった~。
双頭の銛を持つアシリパは元気一杯でほっとした。
根拠なく杉元の生存を口にする白石に、アシリパは疑い無くそれに同意する。
強がりに見えない。アシリパは強い子だ。
頭に命中したはずなのに斃せなかった、という尾形や、その尾形に対して、強い奴を倒す時は頭を狙わないことだ、と返すアシリパがトドではなく杉元のことを話しているように思えた。
しかし果たしてキロランケ達は一体どこまで行くのか。
あと、樺太から出ることを決めた岩息が暫く杉元たちと同行する展開になるか?
鈴川も暫く同行してたし、十分あり得ると思う。ちょっと期待したい。
以上、ゴールデンカムイ第147話のネタバレを含む感想と考察でした。
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