第136話 最後の侍
第135話のあらすじ
杉元は二階堂の頬に拳をヒットさせ、銃床で顎をカチあげる。
さらに杉元は、自らの頬から抜いた銃剣を二階堂に突き刺し、蹴り倒す。
寝転がった二階堂を銃で狙う杉元。しかし二階堂は起き上がるどころか不自然な恰好で右足裏を杉元に向ける。
その行為に違和感を覚えた杉元は銃口を向けるのを止めて銃床で二階堂の足を打ちつける。
それと同時に二階堂の足の裏から銃が炸裂。ふくらはぎをえぐられる杉元。
二階堂は杉元の顔に銃を仕込んだ右足を乗せるが発射の瞬間、杉元はその右足を真逆に折って足の裏を二階堂に向ける。
発射された仕込み銃の銃弾は二階堂の手を吹っ飛ばし、そのまま二階堂の右足から義足を奪い取った杉元は、それで二階堂を滅多打ちにする。
背後に第七師団兵の気配を感じて近くの建物の床下に逃げた杉元は、脚の重傷の苦痛に耐えながらものっぺら坊を目指して教誨堂へと這い進むのだった。
一方、お互いに左手首を鎖で繋いだ土方と犬童は激しく互いのプライドをぶつけ合い刀を切り結ぶ。
鎖の扱いに長けた犬童の立ち回りに劣勢の土方は左肩にサーベルを受け、出血する。
優勢を悟り、自分に服従せよと気色ばむ犬童。
土方は冷静に、犬童が自分たち旧幕府軍人を恐れていることを喝破する。
屈服させることが出来ずいよいよ苛立ちが限界を迎え、鎖を引いて土方を引き寄せようとする犬童に対し、土方はその力に逆らわずに会話の最中に左掌に溜めていた血を犬童に向かって投げつける。
血を顔面に被り、視界を塞がれて身を屈める犬童の左胴を土方は冷静に斬り上げる。
犬童に振り返りながら一言。
「生け捕りに出来るほどまだ老いちゃいない」
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第136話
「止まれッ 誰か来る」
白石が複数の人影を発見し、建物の陰に隠れながらアシリパを制する。
見えてきたのは谷垣、インカラマッ、牛山、夏太郎の姿だった。
みんな揃って正門に行き、待機している白石達の元へさらにキロランケが合流する。
アシリパが開口一番キロランケに、杉元は? と問い質す。
キロランケは杉元を舎房から出したが、その後はのっぺら坊を連れてきて必ずアシリパに会わせるべく、ひとりで教誨堂へと向かったと報告する。
教誨堂には土方と犬童もいると言うキロランケの言葉に夏太郎が助太刀しなくては、と牛山に呼びかけながら走り出す。
待てといいながら夏太郎を追う牛山。
さらにその後を追おうとするアシリパの頭をキロランケが掴む。
「お前は言ったらダメだ」
アシリパはキロランケを見上げながら、でも、ともどかしそうな表情で訴える。
谷垣がふと傍らを見ると、インカラマッが外壁に備え付けてある梯子を上り始めている。
「インカラマッ!?」
インカラマッは、梯子は屋根の雪を下ろすために登るための梯子で、高所から見下ろせば確認できるかもしれないと説明し、梯子をどんどん登っていく。
屋根に登ったインカラマッが辺りを見回す。
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介錯
教誨堂。
犬童が土方の前に跪いて握りこぶしを固めた両腕で土方の腹にもたれかかってうめき声を上げる。
犬童が土方の服をポケットに手を入れるようにして掴んだために、ポケットが破れ、そこからアシリパの写真が床に落ちる。
土方は崩れ落ちる犬童を静かに見下ろしている。
犬童が手を降ろし、土方と繋がっている鎖が音を立てる。
その腹からは床に向けて内臓が飛び出ている。
「やれ」
床に跪き俯いたまま、犬童は一切取り乱すことなく静かに土方に介錯を頼む。
「最後の侍…」
土方は無言で犬童の首に向けて刀を振り下ろす。
その切り口は見事に皮一枚を残し、犬童の首が床に落ちる。
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杉元、本物ののっぺら坊との邂逅
二階堂を連れて行った第七師団兵から姿を隠していた杉元が床下から這い出る。
その目の前には杖をつき膝をついている囚人の姿。
照明弾が降り、のっぺら坊の顔が照らされると、杉元はその目が青い事を確認する。
膝歩きで杉元からゆっくりと離れていくのっぺら坊に、背後から杉元が声をかける。
「これが何かわかるか?」
杉元の右手にはアシリパから預かっていたメノコマキリ。
振り向いたのっぺら坊が答える。
「アシリパのマキリ…どうして…それを持っている?」
やっぱりか、と杉元は確信する。
「やっぱりのっぺら坊はアシリパさんの父親だったのか…」
のっぺら坊は杉元にアシリパがここに来ているのかと問いかける。
「来いッ」
杉元がのっぺら坊の囚人服の袖を掴む。
「全部話してもらうぜ」
のっぺら坊は袖にかかった杉元の手を払いのける。
「金塊……知りたければアシリパを連れて来い」
「金塊?」
杉元は、それも聞かせてもらうけどよ、と断り、あんたにはずっと言いたいことがあったと先を続ける。
「本当はなぁ…あんたをアシリパさんに会わせたくねえよ!!」
杉元は、アシリパが、もし本当にアイヌ殺しと金塊強奪をやってのけたのっぺら坊が自分の父親だったらどうしようと怯えていたと指摘する。
そして、なぜ土方に直接金塊の在り処を伝えずに「胡蝶部明日子」という和名を土方に教えたのか、独立云々でどうしてアシリパを巻き込む必要があった、とのっぺら坊を指さし声を荒げる。
「…未来を託すため」
のっぺら坊が口を開く。
「アシリパは山で潜伏し戦えるよう…………仕込んだ」
「私の娘は……アイヌを導く存在…」
アイヌを導くだって? と杉元が呼吸を荒くしながらも反応する。
土方歳三が新聞記者(石川啄木)にアシリパの事について書かせるつもりであることを白石から聞いたという杉元は堰を切ったようにのっぺら坊に言い募る。
「新聞を使って世論を誘導しアイヌの独立運動にアシリパを利用する気か?」
「アメリカ南北戦争のように北海道と内地は下手すりゃ戦争だ」
「あの子をジャンヌ・ダルクにでもしようってのか?」
その頃、舎房では第七師団と囚人たちとの戦いの趨勢がほぼ決していた。
火事の煙が房内を満たしつつある。
「どうしたこっちは遊び足りんぞ!!」
囚人の死体に囲まれながら鶴見中尉が逃げ始める囚人たちに向けて叫ぶ。
「有坂閣下の『坊や』に挨拶しろ!!」
膝をつきながら、囚人たちに向けて銃口の狙いを定めた機関銃を発射する。
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ついにアシリパとのっぺら坊が……
「あの子を俺たちみたいな人殺しにしようってのか!!」
杉元がのっぺら坊の囚人服の襟を掴んで訴えかける。
大義はご立派、誰かが戦わなくてはならないかもしれないが、それはアシリパではなくてもいいだろう、と言う杉元。
「アシリパさんには…山で鹿を獲って脳みそを食べてチタタプしてヒンナヒンナしていて欲しいんだよ俺はッ!!」
「シサムよ…あの子に随分と仕込まれたようだな…」
のっぺら坊が静かに口を開く。
そして、杉元を見据えていた青い目が高所の何かを視界に捉える。
「あの着物は…」
のっぺら坊が見つけたのは屋根の上で辺りを見回しているインカラマッだった。
同時に、インカラマッも赤い囚人服と一緒にいる杉元を見つける。
「アシリパちゃん上に来てくださいッ のっぺら坊と杉元ニシパがいますッ」
大声で地上のアシリパ達に知らせるインカラマッ。
「どうだ見えるか?」
杉元はのっぺら坊の目に自身の双眼鏡を当てて屋根の上を確認させていた。
「…………インカラマッ」
一言だけ口を開くのっぺら坊。
土方は負傷した肩の血の止血の為に、二の腕に巻いた布を絞っていた。
駆けつけた夏太郎と牛山に向けて、のっぺら坊が近くにいるはずだ、探せと命じる。
インカラマッと同様に屋根の上に登るアシリパとキロランケ。
アシリパは大きくなる自身の胸の拍動を感じながら双眼鏡を覗く。
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感想
犬童は意外と潔い散り際だったなと思った。
典獄としての権力を濫用し、散々な目にあわされても屈することなくどこまでも幕府に尽くした土方こそが最後の侍であると認めた。
やはり犬童にも武士としての誇りがあったんだなあ。
そして、土方の首の皮を一枚残して介錯という技は高い技術が無いと出来ないことで、土方は自分を不当に苦しめた相手である犬童相手にさえ礼を尽くした。
監獄に閉じ込められていた期間を含めれば何十年にも渡る土方対犬童の長い戦いはここに決着した。
土方は表情を一切変える事無く、淡々としているのがかっこいいと思った。
自分を不当な理由で閉じ込めていた相手を討てたんだから、何らかの感慨が湧いても良いはずなのに……。
土方は本当に「侍」なんだなと思った。
別に正しい定義を知ってるわけじゃないけど、イメージにぴったり合う振る舞いだと感じた。かっこよすぎ。
そして杉元ののっぺら坊――アシリパの父であるウイルクとの邂逅。
杉元は金塊の在り処よりもアシリパの事を案じ、なぜアシリパを血なまぐさい金塊争奪に巻き込んだのかをのっぺら坊を問い詰める。
1巻冒頭でも描かれているように、元々は杉元がアシリパに金塊争奪のために協力してもらっていた。
でも土方がのっぺら坊からアシリパ「胡蝶部明日子」が金塊を手に入れるために必要だと聞いていたことにより、アシリパに接触を図っていたわけで、どちらにせよ金塊争奪戦に巻き込まれていたわけだ。
杉元に出会っていなかったらもっと危険な目にあったかもしれない。
そう考えると杉元とアシリパは出会って良かったんだと思う。
杉元以上にアシリパの事を大切に思っている人物はフチくらいだろう。
のっぺら坊――実の父であるウイルクもまたアシリパの事は大切に想っているようだが、アシリパの先にアイヌ民族を見ているような感じがする。
アイヌを守るための責任ある立場がウイルクにそうさせているのかもしれないが、ここまで読んできた自分は、それがどうしても納得できないという杉元に感情移入してしまう。
「アシリパさんには…山で鹿を獲って脳みそを食べてチタタプしてヒンナヒンナしていて欲しいんだよ俺はッ!!」
この叫びには読者も共感しているのではないか。
金塊の在り処よりアシリパに関する怒りをぶつけた杉元がまたひとつ好きになった。
というか、そもそもここまでの杉元を見る限り、それは自然な振る舞いではあるんだけど。
来週でいよいよのっぺら坊とアシリパが会うのかな……。
それとも第七師団に邪魔されるのか?
刺青人皮はまだ残り枚数が結構あるけど、のっぺら坊から直接教えてもらえるならそれが一番楽で良い。
でも物語的には面白くないからやはり先に疑問を述べたように何らかの邪魔が入ると思う。
ひょっとしたら、のっぺら坊が死ぬかも……?
その前に刺青人皮を集めきった後に金塊を探すためのヒントを出して物語から退場するなり、何かしらの進展はあると思う。
早く次の脱獄囚――ニュータイプの変態or強者が見たい。
あと、ここまで協力関係だったけど杉元と、杉元からのアシリパの引き剥がしを図った土方との仲はどうなるんだろう?
水に流してまた協力関係を続けていくのか?
来週も見逃せない展開が続く。
以上、ゴールデンカムイ第136話のネタバレを含む感想と考察でした。
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