第226話
※第225話のみ。第225話はヤングジャンプ発売後に更新予定です。
目次
前話第225話 貧民窟のあらすじ
通り魔殺人
札幌。
貧民窟と呼ばれた東地区には女が街中に立って男に声をかけている。
一人の山高帽を被った男に女が後ろから抱き着きながら、どこから来たの、と話しかける。
「無口なひと好きよ」
何も答えない男の顔を見つめる娼婦。
「死んだ旦那も無口でね」
「あれ? あんた日本…」
男は右手で娼婦の口元をふさぐように下顎を手で掴み、左手に持った短刀で首を切り裂く。
途端に勢いよく女の首から大量の血が溢れ出す。
女は倒れる間際に男の外套を掴んでいた。
男の外套の一番上のボタンが外れ、首元が露わになる。
そこには刺青が彫られていた。
男は地面に仰向けに倒れ、動かなくなった女の服を裂き始める。
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取材
大勢の野次馬に、下がれ、と注意する警官。
新聞記者として働く石川啄木は、警官に今回の事件について取材していた。
喉を切り裂かれ、さらに腹から引き出された腸が右肩にかけられた状態で女が絶命していたという話に対して、啄木は先月31日の貧民窟での殺人と手口が似ていると返す。
「同一犯ですか? 警部どの」
かもな、と言ってその場を後にしようと踵を返す警官に啄木はさらに質問する。
「目撃者は? 誰か目星はついてるんですか? 飯おごるんで何かネタくださいよ」
警官は、うるせえ、と啄木の方に視線さえ向けずに吐き捨てる。
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新囚人
啄木は土方陣営の逗留する寺を訊ねていた。
永倉を前に、札幌で起きている連続殺人事件の話題に声を弾ませる。
「私も調子に乗っておどろおどろしく書き立てるもんだから新聞がもう売れて売れて…!!」
ウハハ、とひとしきり笑ったあと、永倉に情報料として駄賃をねだる啄木。
「新聞に書かれてない情報を持ってこいクズ」
痛烈な一言を浴びせる永倉。
ひどい殺し方だ、娼婦に恨みでもあんのかねと牛山が新聞を見つめて呟く。
「許せませんね」
早く捕まえて欲しい、と真剣な表情で牛山の呟きに応じる啄木。
「いまお気に入りの遊女がいるんで殺されたらがっかりですよ」
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「お前はドブで転んで背中打って死ね」
心底軽蔑し切った様子の永倉が啄木に突っ込む。
土方に刺青脱獄囚の中で札幌の連続殺人犯の心当たりがあるかと問われ、門倉は、いますね、と即答する。
それは10年ほど前に横浜で遊女を刃物で何度も刺して網走監獄に収監された囚人だと続ける門倉。
土方は、犯人が脱獄囚だとしたら、騒ぎがここまで大きくなってしまうと警察が必死になって犯人を探すので刺青人皮収集の障害になるのに加えて、第七師団の鶴見中尉たちもまた連続殺人犯の噂から刺青脱獄囚を関連付けて札幌にやって来ると考えていた。
尾形は川岸で飛行するマガモを狙撃していた。
マガモは飛行を続けていたが、撃ち抜かれた二枚の羽だけがひらりと舞い落ちていく。
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札幌に向かう
鶴見中尉、宇佐美上等兵、菊田特務曹長たちはオホーツク海沿岸の集落で情報を収集していた。
「誰だ 俺の馬を殺したのはッ」
馬の飼い主らしき男が叫んでいる。
宇佐美上等兵は息絶えている馬を冷たい目で一瞥し、立ち去っていく。
鶴見中尉は、新聞で報じられている札幌連続殺人事件から刺青脱獄囚の気配を感じていた。
自分たちはアシリパの捜索を続ける一方、菊田特務曹長には宇佐美上等兵と共に札幌に向かうように命じる。
菊田特務曹長と行くの嫌だなぁ、と宇佐美上等兵。
実は俺もだよ、と菊田特務曹長。
「宇佐美はきっと札幌で役に立つ」
鶴見中尉の呟きに、菊田特務曹長は不思議そうな表情を浮かべる。
鶴見中尉は続けて、ここまで新聞で取り上げられれば土方たちも調べに来る可能性が高いので、鉢合わせに気をつけて行動するように念を押すのだった。
だったら好都合ですよ、と宇佐美上等兵。
「スパイの有古一等卒も期待できないし僕が皆殺しにして全て奪ってやる」
土方陣営と、菊田特務曹長、宇佐美上等兵は囚人狩りのために札幌に向かうのだった。
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宇佐美時重14歳
鶴見中尉は昔のことを思い出していた。
明治28年の新潟県新発田。
まだ日露戦争で前頭部を負傷する前の鶴見は道場を訊ねていた。
武道の師から戦地の感想を問われた鶴見は、面白いものが見れましたよ、と返す。
鶴見は長期間訓練してきたはずの兵士が戦闘で「発砲するふり」をすることを話題にする。
ひとりやふたりではなく、大勢の兵士が銃を撃たない、もしくは撃ったとしても敵兵を狙わないという行動は、アメリカの南北戦争でも同様のことがあったのだと続ける鶴見。
「例外をのぞいて圧倒的多数の兵士は殺人に抵抗があり避けようとするのです」
道場を出た鶴見は馬のそばに子供たちが集まっているのに気づく。
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子供たちは馬に興味津々な様子で、馬の背後に立っていた。
「これこれ 馬の後ろに近づくと危ないよ」
子供たちを諭すように鶴見。
「武田先生の馬はとくに気難しい」
そして鶴見は続けて、馬が後ろに立った奴を蹴ろうとして常に足を揃えている、と説明する。
「篤四郎さん!! 帰って来てたんですね!!」
「やあキミか 久しぶり」
振り向いた鶴見の前に立っていたのは、鶴見を尊敬の眼差しで見つめている14歳の宇佐美時重少年だった。
「また背が伸びたね トキシゲくん」
「はい…」
頬を赤らめる宇佐美少年。
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第225話 貧民窟の振り返り感想
またも新たな囚人!
どうやら今回出てきた刺青囚人は海賊房太郎とはまた別の囚人のようだ。
娼婦を刃物で惨殺……。
被害者も殺害の手口も、切り裂きジャックを連想せざるを得ないだろう。
別に切り裂きジャックに関して全然詳しくはないけど、犯人の被っている山高帽もそのイメージに適ってると感じた。
門倉曰く10年前に横浜で遊女を滅多刺しにして網走監獄に収監された男らしい。
明らかに手口が鮮やかで慣れているように見える。
おそらく犯行は10年前の一件だけというわけではないのでは?
何十件もの殺人を犯している海賊房太郎並とまでは言わないが、それなりに犯行を重ねているのではないか。
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この流れだと、どうやら菊田特務曹長、宇佐美上等兵と、土方陣営が刺青囚人を巡って札幌で激突する可能性が高い。
この囚人は残忍かつ狡猾な相手だと仮定できる。
さすがの刺青争奪戦に参加している猛者たちであっても簡単に倒せる相手ではないだろう。
切り裂きジャックは複数犯説があるらしいが、おそらく囚人は一人で行動している。
だからグループで対処できる第七師団、土方陣営には有利だとは思うけど……。
何か海賊といい、今回の囚人といい、これまで出てきた囚人と比較すると凶悪度が跳ね上がっているように思う。
残り二人がどんなヤバイ奴なのか今から気になってくる。
どうやら鶴見中尉は菊田特務曹長、宇佐美上等兵を札幌に送り出す一方、自分は引き続きアシリパさんの捜索にあたるらしい。
杉元たちは海賊房太郎を追っているので、ひょっとしたら札幌で第七師団と土方陣営がぶつかる可能性があるのと同様に、杉元陣営と鶴見陣営がぶつかり合うかもしれない。
ただでさえ海賊房太郎は強敵っぽいのに、海賊との戦いに加えてもし鶴見中尉が出てきたとしたらとんでもない混戦ぶりだ。
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鶴見篤四郎と宇佐美時重少年
次回は回想になるようだ。
それも宇佐美上等兵の過去!
月島軍曹にも感じたことだけど、初登場時はここまで深堀りされるキャラだと思ってなかった……。
月島軍曹、鯉登少尉、そして宇佐美上等兵。
鶴見中尉が出てくる回想は、どうやって部下を懐柔したか、その匠の技をまざまざと見せつけられるものばかりだった。
この流れだと宇佐美上等兵もまた鶴見中尉による人心掌握術によってガッチリと心を掴まれたんだろうなぁ、と想像できる。
一体どういう方法を用いているかという点が気になるわけだが、どうやら鯉登少尉や月島軍曹よりももっと自然に接触しているような雰囲気を感じる。
おそらく宇佐美上等兵は鶴見中尉と出身地が同じ新潟の新発田?
そして関係性は、通っていた道場の先輩と後輩か。
宇佐美少年は鶴見篤四郎に対して先輩としての尊敬の念を抱いている……という印象だ。
つまり今のところ、まだ鶴見中尉による鯉登少尉や月島軍曹に対して行っていたような工作の痕跡は特に見られない
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憧れの鶴見篤四郎が軍人だから自分も軍人になる、というのは職業を選択するにあたって至極自然な動機のひとつだろう。
微笑ましい関係性だと思う。
……ただ、鶴見中尉というのはその人心掌握の力がとにかく妖怪じみている。
鯉登少尉のケース、そして月島軍曹のケースでもとにかく長期間、あらゆる手間をかけてじっくりと対象を懐柔していく。
彗星のように現れた人気者の人気は、割と簡単に落ち込みやすい。
しかし長年脇で地味に活躍してきた人はその後も人気が持続する傾向にある。
これも人間の心の性質というのかな……。
時間をかけて人の心に浸透すると、それは簡単には抜けないのだと思う。
鶴見中尉はおそらくそれがきちんと頭で理解できているから、懐柔したいターゲットに対して長期間じっくりと接触する方針をとっているのではないか。
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今回の話のラストのコマに出てきた宇佐美少年は、もっと幼い頃から鶴見中尉に接触しているだろう。
宇佐美少年の鶴見に向けた尊敬の眼差しを見るに、すでに鶴見中尉による懐柔が済んでるっぽいんだよなー。
最近の話の中では鯉登少尉、月島軍曹に関しては鶴見中尉に対する忠誠にヒビが生じてきている。
しかし宇佐美上等兵に関しては子供のころから鶴見中尉との交流があった分だけ、特に鶴見中尉に嘘をつかれたとか騙されたとか、ましてや利用されているなどとは思い辛く、より鶴見中尉に対して狂信的なのかもしれない。
鶴見中尉の部下の中で一番ヤバイ奴は宇佐美上等兵で決まりか?
次回、鶴見中尉が如何にして宇佐美上等兵の心を掌中に収めていくのか、その過程が見られる。
宇佐美が一体どんな少年だったのかも含めて興味がある。楽しみだ。
225話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
第226話 聖地
愛ゆえの…
コタンで風貌がリュウに似た犬を見つける杉元。
アシリパは、リュウに似てると呟いた杉元に、似てるだけだと返す。
白石は二瓶の銃はリュウたちのところ置いてきたからどこにも行かないだろうと呟く。
それを受けて、あの銃を忘れるくらいチカパシたちに可愛がられてるといいな、と杉元。
アシリパはセタ(アイヌ犬)は飼い主への忠誠心が深いが、それは嫉妬深さや気性の荒さに繋がっていると説明する。
そして、あるアイヌ犬を飼い犬として可愛がっていた猟師が、犬を叱って猟に出て帰宅すると、飼育していたニワトリの全てが犬に殺されていたのだ続けるのだった。
人間も同じ…愛ゆえの…、と白石。
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宇佐美少年と智春少年
宇佐美少年は稽古を終えて道場から出てきた鶴見と会話していた。
歩いて二時間の道のりだが、何となく稽古の無い日も来てしまうのだと宇佐美少年。
「なんの変哲もない道場の敷地の片隅ですけど…僕らの聖地ですから」
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2年前。宇佐美少年12歳。
父から道場での調子を訊ねられた宇佐美少年は、今まで見た子供のなかで最も才能があると鶴見に評価されたと答える。
仲の良い家族との時間を過ごし、笑う宇佐美少年。
「かなりの重労働だ…ありがとうトキシゲくん」
宇佐美家の田んぼの排水用の水車を踏んでいた鶴見は足を止めて一息ついていた。
「これは足が強くなるね」
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宇佐美少年が、この辺りは低地で春には排水すると説明していると、宇佐美少年の友人、高木智春がやってくる。
智春少年は宇佐美少年ととても親しく、一緒に道場に行っていた。
二人は柔道の乱取りの相手として鶴見を奪い合ったりと、ライバル同士として切磋琢磨する仲でもあった。
稽古を終えた帰り、宇佐美少年は鶴見の後を歩いていた。
今年で卒業だと呟く宇佐美少年に鶴見は、道場へは通えるのかと問いかける。
父の野良仕事の手伝いをするからわからないという宇佐美少年に、鶴見は続ける。
「キミはもっともっと強くなる 続けなさい 同年代じゃかなう奴はいない すぐに私を追い越すだろう」
宇佐美少年の背後に、一緒に帰ろう、と智春少年から声かかる。
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乱取り
春。
その日の稽古を締めくくる宇佐美少年と智春少年の乱取りは、宇佐美少年の勝利で終わる。
稽古を終えようとする宇佐美少年に、乱取りを求める智春少年。
もう少しだけ、と食らいつくが宇佐美少年は、帰らないといけないから、と着替えに向かう。
「智春くんどうした」
道場で座りこんでいた智春少年に訊ねる鶴見。
「結局一度もあいつに勝てなかった」
智春少年は今日で道場に通うのが最後だと鶴見に答える。
宇佐美少年は道場の外で二人を待っていた。
道着のままで外に出てきた智春少年は、東京の学校に行ってひとりで寮に住むようになるので、宇佐美少年との乱取りが最後になるのだと告白する。
「自分からは言い出せなかったそうだよ」
鶴見が智春少年の代弁をする。
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しかし宇佐美少年は全く動じない。
「知ってました」
当然のように答えて、少しならいいと友の最後の願いを受け入れるのだった。
「僕に勝って行きたいんでしょ? ホントはやりたくないけど…だって気を使って負けたくないから…」
あたりまえだ、と声を張る智春少年。
「そんなことしたらお前なんて親友じゃない 絶交だからな」
鶴見は道場は鍵がかかっているので、道場の敷地で乱取りを見届けると提案する。
そして始まる宇佐美少年と智春少年の乱取り。
(時重に勝てたらオレ…東京でもひとりで頑張れると思うから)
乱取りの最中、智春少年の脳裏には笑顔で宇佐美少年と並んで歩く光景が思い浮かんでいた。
涙を流しながら乱取りをする智春少年。
智春少年は宇佐美少年に投げらる。
それでも、まだまだと次の一本を始めようとする意思を見せる。
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そんな智春少年を、宇佐美少年は憤怒の形相を浮かべて睨みつけていた。
「え?」
智春少年は仰向けのまま、友の顔を見上げていた。
宇佐美少年は高々と足を持ち上げると、思いっきり智春少年の首に踵を落とす。
「ごぉぶッ!!」
「!!」
目の前の光景に驚く鶴見。
智春少年は泡を吹き、体をピンと伸ばして痙攣していた。
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第226話 聖地の感想
天然
宇佐美は鶴見の影響で狂気を伴った戦士に変貌したのではなく、元々その素質があった!?
あまりにも恐ろしいその表情にも関わらず、初見で笑ってしまった。
だってそれまでの流れが少年同士のピュアな友情物語のテンプレそのままで、あまりにもギャップが大き過ぎたから……。
このあまりにも唐突な表情の変化は笑ってしまう……。
怖いんだけど、この流れはね……。
宇佐美は少年の頃から超ヤバイ奴でした。
鶴見がどうやって宇佐美を惑わせていくかと思っていたら、意外にも鶴見の宇佐美少年に対する振る舞いはまともだった。
しかしあまりにも牧歌的な話の流れだったので、このままで終わるわけがないだろう、とは薄々感じていた。
そうしたらこれ!
まんまと野田先生の狙った通りの反応をしてしまった。
とりあえず宇佐美は天然でヤバイ奴。
これはほぼ決まりだろう。
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サイコパス診断
「次号、理由を述べなさい」
これはさながらサイコパス診断だ。
おそらく宇佐美少年は予想外の答えを出すのではないか。
そして、そんな宇佐美少年と直感的に同じ答えを出した人はサイコパスと評価されると(笑)。
一体宇佐美少年の行動の動機はなんだろう……?
自分よりも鶴見と親しそうに見えたから?
自分よりも先に鶴見に、今日が最後であることを告白したから?
自分から本気の勝負を申し込んだ智春が、泣いてしまい勝負に集中していなかったから?
ただ単に本気を出しただけかも?
これまでの智春との乱取りは手を抜いていたとか。
智春少年は喉を潰されて、果たして生きているのか?
この後、鶴見が医者の元に彼を運んで、すぐに治療を受けられたから生きていると思いたい。
まぁ、宇佐美が智春を踏みつけたのは回想からさらに2年前で、それまで地元にいられたということは智春は一命をとりとめた可能性が高いと思う。
冒頭で道場の敷地を指して、「僕らの聖地ですから」と宇佐美が鶴見に答えたのは、智春を傷つけた事件を経てからだし……。。
ひょっとしたらここから鶴見が宇佐美を自分の忠実な手下にするように画策していくのかもしれない。
以上、ゴールデンカムイ第226話のネタバレを含む感想と考察でした。
第227話に続きます。