第273話 鶴見劇場
前話第272話あらすじ
菊田特務曹長と有古一等卒は戦地の塹壕で、月を見上げていた。
菊田特務曹長から、気分が前向きになる前向きな話をしろと命令された有古一等卒は、マキリを作る練習をしたいと返事をする。
それは、アイヌについて特別な興味を持っていなかった自分が、父が自分に伝えたかったであろう代々自分の家に伝わるマキリの文様に関して、自分に見せるようにして掘っていたこと、そして自分が兵役に行った後も、父が自分に対して、実物があればいつか真似して作れるようになるという想いでマキリを残そうとしていた。
しかしマキリを作ってる途中で死に、さらにそのマキリも行方不明だと続ける有古一等卒。
涙を流して、菊田特務曹長に対して自分の心の内を告白する。
「もっとしっかり見ておけば良かったなって…」
有古一等卒が教会に入るのとほぼ同時に、アシリパはホロケウオシコニと喋っていた。
鶴見中尉はそれを聞くと、即座に持っていた刺青人皮を床にぶちまけ、目をギョロギョロと高速で動かし、金塊の暗号を解こうとするのだった。
教会に入った有古一等卒は鶴見中尉に、土方歳三のアジトを発見したこと、そして今なら一網打尽にして向こうの刺青人皮を奪えると提案する。
その言いながら、アシリパの手首のロープをマキリで切断しようとする。
「有古力松…… お前の選ぶ道はそれでいいんだな。」
有古一等卒に背を向けている鶴見中尉。
「その刺青人皮を全部…こっちへ!!」
鶴見中尉に拳銃を突きつける有古一等卒。しかし優位な状況にあるはずの有古一等卒の表情には余裕がなかった。
月島軍曹と鯉登少尉が飛び出し、有古一等卒との間で銃撃戦が始まる。
スポンサードリンク
アシリパとソフィアが教会を出たタイミングで杉元が運転するビール宣伝カーがやってくる。
ギリギリ車に追いつけないアシリパを、有古一等卒は彼女の服を掴み白石に差し出す。
ダァン
足を撃たれる有古一等卒。
有古一等卒は、月島軍曹たちに拳銃を撃つ。
「止まるな!! 行け!! アシリパ行け!!」
走り去っていくビール宣伝カーを見ていた菊田特務曹長の目が運転席の杉元と合う。
「やっぱノラ坊だ…」
(やっぱり菊田さんだ)
杉元もまた菊田特務曹長に気付いていた。
そして菊田特務曹長は有古一等卒が倒れていることに気付く。
「有古か!? なんでここに!?」
スポンサードリンク
有古一等卒もまた、菊田特務曹長に気付いていた。
「菊田特務曹長殿…」
ドン
有古一等卒の横を通過しようとしていた月島軍曹が、有古一等卒の左胸に迷いなく銃弾を放つ。
その瞬間を目撃して菊田特務曹長は硬直する。
立ち尽くしている菊田特務曹長の隣を、月島軍曹が小走りに通り過ぎていく。
月島軍曹は何の感情もなく、宣伝カーを追う。
有古一等卒は血だまりの中で倒れたままだった。
第272話の感想記事です。
スポンサードリンク
第273話 鶴見劇場
ヴァシリ
ヴァシリは高所から下を窺っていた。
ビール工場の火災を消火し終えた火消したちが歩いていく。
その中の一人が列から離れて走り出す。
咄嗟に銃を構えるが、その瞬間、樺太で自分が尾形に顎を撃たれ敗北した時のことをフラッシュバックし、引き金を引くことが出来ない。
「迷ったかな?」
見事にヴァシリの銃の射線から脱した尾形は、火消しの服を脱ぎながら呟く。
狙撃のタイミングを逸して、フンー、と荒い鼻息をつくヴァシリ。
尾形は民家の中を土足でずかずかと横切っていく。
「茨戸の土方歳三のマネだぜ」
外に出ると、ちょうど門倉とキラウシの背中を発見する。
スポンサードリンク
ショックを受けるアシリパ
アシリパを後部に乗せ、杉元は車を走らせる。
アシリパはさきほど自分を逃すために撃たれた有古一等卒や、寝かされている海賊房太郎の死体にショックを受けていた。
頭を抱え、思わず崩れ落ちる。
杉元は、そのアシリパの体を運転席から手を伸ばして支える。
杉元のハンドル操作を補助する白石。
アシリパは辛そうに目を閉じ、杉元の腕を抱きしめる。
杉元はそんなアシリパを真っ直ぐ見つめていた。
牛山を発見し、声を上げる白石。
アシリパは気を取り戻し、車から外に向けて顔を出して、土方を呼んできて、と叫ぶ。
「偽物の判別方法が分かった」
スポンサードリンク
間一髪
菊田特務曹長は有古一等卒の身体を背負って、病院の扉を叩いていた。
医師と協力して有古一等卒を病院の寝台に横たえる。
「死ぬなよ有古ッ」
そして目を閉じている有古一等卒に声をかけて、目を覚まそうとする。
「お前まだ自分のマキリを作ってねえだろ!!」
ぶはっ、と息を吹き返す有古一等卒。
有古一等卒の傷口を確認しようと上着をめくった菊田特務曹長は、あることに気付く。
「有古…親父さんに守られたな」
後年、郷土資料館に展示された有古イポプテ作の先祖伝来のマキリの文様には、有古一等卒による銃痕に似た形のオリジナルの文様が一部付け加えられていた。
有古一等卒は菊田特務曹長に助けてもらった恩を伝えた後、手当を済ませたら中央ではなく、あくまでアシリパたちに付くと宣言する。
外に出るまぁまぁ、と笑う菊田特務曹長。
「その傷じゃしばらく歩けねぇぜ ゆっくり治せ」
有古一等卒は、また一緒に温泉に入ろうな、と言って病院を後にする菊田特務曹長を見送るのだった。
スポンサードリンク
鯉登少尉の気付き
鶴見中尉は床一面に広げた刺青人皮をじっと見つめていた。
鯉登少尉は薩摩弁で鶴見中尉に話しかけるが、全く振り向いてもらえない。
二階堂を呼び、彼の口を使って、月島軍曹がアシリパを追跡している事、応援に何名か連れて行かないかと進言する。
しかし鶴見中尉は、月島軍曹と連れ戻すようにと答える。
鶴見中尉はアシリパから聞き出した暗号の鍵が正しい気がするとして、アシリパはもう必要ないと言い切るのだった。
(ホラ見ろ 鶴見中尉殿はすごい)
鯉登少尉は鶴見中尉のさきほどの話はアシリパに暗号の鍵を吐かせるための鶴見劇場だったのだと納得し、そのすごさに感銘を受けていた。
その時、別の兵士が二階堂に酒を飲んでいるのかと質問する。
二階堂は自分のにおいを嗅いでみるが、特に異変を感じ取ることができない。
スポンサードリンク
兵士は、さきほどまでビール工場にいたのでわからなかったが、ビールを頭から被ったようににおうと指摘する。
それを聞いていた鯉登少尉は、月島軍曹もまたビール工場でビールを被り、非常に強いビールの香りを纏っていたことに気付く。
そして、強い匂いを放った状態で、部屋の外に人がいないことを確認しに来た鶴見中尉が、果たして月島軍曹に気付かなかっただろうか、と鯉登少尉は青ざめるのだった。
(我々が隣の部屋で聴いている事を知っていたとして 全部ウソだったとは限らないじゃないか)
そして鯉登少尉は、鶴見中尉の本当の目的が日本の防衛と繁栄のためだと信じてもいいじゃないかと自分い言い聞かせる。
(何よりすべてを捧げてきた月島軍曹はあの台詞が『飛びつきたいほど』欲しかったはずなんだ)
そう自らに言い聞かせながら、鯉登少尉は教会の外に出て、扉を閉めていく。
スポンサードリンク
感想
有古一等卒まさかの………
有古一等卒生存!
月島軍曹から繰りだされた、あのあまりにも容赦ない一撃を受けて生きていたとは……。
有古一等卒が遺したマキリに新しく加えられていたのは、恐らく銃弾の痕をモチーフとした文様?
つまり懐中に入れておいたマキリが弾の衝撃を受け止めていたということか。
自分を死から救ってくれたわけだし、そんな縁起の良いものなら先祖伝来の文様の中に付け加えたくもなるよなー。
見事な文様のマキリを彫ることが出来たということは、その技術を身に付けるまでにそれなりに時間が経過しているはず。
そう考えると、おそらく有古一等卒は金塊争奪戦を生き抜いたのではないか。
生きていたとはいえ、月島軍曹から受けた傷はすぐさま行動できるほど軽くはない。
もう戦線に復帰することはないか、復帰したとしてもこの話の最後の最後になるんじゃないかな。
しかし生きてて良かった。
前回、有古一等卒が月島軍曹からあまりにも無慈悲な一撃を食らった、あの衝撃的なラストシーンから、まさかこんな展開になろうとは……。
あの銃撃を食らって、まさか生き残るとは思わなかった。
スポンサードリンク
果たして戦線に復帰するかどうかは不明だが、生きていて良かった。
逆に有古一等卒を医者に運び、生存を確認した菊田特務曹長は何だか退場しそうな雰囲気を感じる。
有古一等卒への対応といい、何より杉元との浅からぬ因縁を感じさせるなど、初登場時の頃の危険な感じとは大分印象が違う。
鶴見中尉のやり方に疑念を抱いているように見えるし、素直に鶴見中尉に従ったままとは思えない。
彼は今後どのような役回りになるのか。楽しみだ。
打倒尾形に執念を燃やしているヴァシリ。
しかし火消の中に紛れた尾形を撃てなかった。
スナイパーとして大切な資質である集中力を少々欠いてしまっているように見える。
スポンサードリンク
また尾形を見失ってしまったヴァシリは、果たして尾形に一矢報いることができるのか。
そしてアシリパさんを救った杉元が男前すぎた。
攫われた自分を救うために海賊房太郎や有古一等卒を失ったという事実に、アシリパさんは車の後部座席で崩れ落ちそうになった。
杉元はそんなアシリパさんの身体を、運転しながら支えたわけだ。
それにより気を取り戻したアシリパさんは、偽物の刺青人皮の判別法がわかったと報告を始める。
その詳細が明かされるのは次回かな。確か鉄に反応するはず。どうやってそれに気づいたのか? 次回以降の楽しみにしておく。
スポンサードリンク
ビール
やはり鶴見中尉は鯉登少尉や月島軍曹がすぐ近くに潜んでいたことを知った上でソフィアやアシリパと会話していたのか。
全身にビールを浴びた月島軍曹が潜んでいることを、鶴見中尉は匂いで気付いていたのではないかと気付き、鯉登少尉は戦慄した。
もし二階堂がビールくさいと指摘されていなかったら、鯉登少尉は気付けていなかった。
月島軍曹は全く気付かず、鶴見中尉の言葉に心底安堵し、改めて鶴見中尉についていく決意を固めたようだが、鯉登少尉は危機一髪のところで踏みとどまることが出来た。
鶴見劇場に魅了された月島軍曹。魅了されかけて、逆に鶴見中尉の恐ろしさに気付いた鯉登少尉。
鯉登少尉が月島軍曹に自分の気付きについて話したところで、月島軍曹が欲しくてたまらない言葉を鶴見中尉が言ってくれたことを果たして月島軍曹は、それが自分たちを騙す為の演技に過ぎないかもしれないと疑念を持つことが出来るだろうか。
前回から月島軍曹の表情があまりにも晴れ晴れとしているのが怖い。鶴見中尉について行って正解、もう迷いはないという感じで、非常に危うい印象を持った。
鯉登少尉はここからどう動くのか。注目したい。
以上、ゴールデンカムイ第273話のネタバレを含む感想と考察でした。
第274話に続きます。