目次
前話第177話 長谷川写真館のあらすじ
長谷川幸一
長谷川幸一はカメラで丘の上から町を俯瞰で撮ろうとしていた。
その時、背後から聞こえてくる遠吠え。
振り向くと、そこには狼の姿がある。
長谷川が慌ててカメラの被写体を町から狼に変えようとするも、既にそこに狼の姿はない。
狼を被写体として逃した長谷川は、こんな民家の付近まで狼が出て来ることは珍しいと感じていた。
長谷川が帰宅すると椅子の上でまだ幼い子供を抱いている白人女性が出迎える。
”フィーナ”と呼ばれた女性は、娘――オリガを抱いたまま長谷川に視線を向け、客が来ていると伝えるのだった。
「(こんにちは ハセガワです)」
玄関で来訪者を迎える長谷川。
長谷川の元を訪ねたのはウイルク、キロランケ、ソフィアの三人だった。
ソフィアはまず、ここに来た理由を、写真を撮ってもらうためではないと切り出す。
「(日本人がいると聞いて来ました)」
ウイルクは長谷川に、日本に興味があるので報酬を出すから日本語を教えてほしい、とソフィアと同じくロシア語で長谷川に依頼する。
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穏やかな時間
キロランケがアシリパ、白石、尾形に向けて、長谷川の素性について説明する。
長谷川は10代で父の仕事の関係でロシアにやってきて、知人から写真館を譲り受けた。
以来ウラジオストクで写真師として働き、地元の女性と結婚した。
突然長谷川の元を訪ねて、日本語を教えて欲しいという唐突なお願いにも関わらず、長谷川がそれを引き受けてくれたのは久々に日本語に触れる懐かしさからか、とキロランケは振り返る。
アシリパ、白石、尾形は黙ってキロランケの話に耳を傾けていた。
皇帝暗殺からキロランケ、ウイルク、ソフィアの三人は10年以上の逃亡生活を送る。
日本語を習得する為に、長谷川写真館に近くの農家に潜伏して通う日々は束の間ではあったが、穏やかな時間だったとキロランケ。
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ソフィアは自分の事をまるで弟のようにかわいがってくれていたのだという。
「ワタシ デブ女…好き…デース」
「”フィリップ”さんはふくよかな女性が好みなんですねぇ?」
キロランケに訊ねる長谷川。
「ウンコ」
ソフィアはニヤニヤ笑いながらキロランケを指さす。
ウンコォ? とキョトンとした様子で復唱するキロランケ。
「なんですか? ”ゾーヤ”さん ダメですよ 失礼ですよ」
ソフィアに注意する長谷川。
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長谷川の反応に同調するように、ウンコだめッ とキロランケはソフィアに注意する。
しかしそんなキロランケ達の反応に構わず再びウンコ、と呟くソフィア。
キロランケも再びウンコだめッとやり取りを繰り返す。
「辞めなさい二人共」
困った様子で仲裁する長谷川。
「チョット! あなたタチ…仲良くネ~」
ウイルクが仲裁に入る。
「『和を以て貴しとなす』デショ!!」
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日本語習得の傾向
長谷川はオリガとフィーナの写真を撮る準備をしながら、ウイルク、キロランケ、ソフィアの三人の日本語習得の進捗度合いに関して話していた。
男二人(ウイルクとキロランケ)に関しては習得速度が非常に早い。
特に”グレゴリー”(ウイルク)に関しては長谷川は恐ろしいほど頭が良いと感じていた。
それに対し、”ゾーヤ”に関しては日本語は向いていないようだと長谷川は続ける。
「(日本人は物乞いだって日本語を上手に話すでしょう?)」
それまでじっと長谷川の言葉を聞いていたフィーナが口を開く。
「(頭の良さじゃないわ 彼女は日本語に興味がないのよ)」
どうぞ、とテーブルについている”ゾーヤ”(ソフィア)の前にお茶を置いた長谷川。
「メルシー」
長谷川は何気なく言った彼女の感謝の言葉がフランス語だったことを心に留め置いていた。
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川辺に出た一行。
”グレゴリー”(ウイルク)は貂を捕まえる罠を設置し、その仕組みを長谷川に説明してみせる。
「毛皮高く売れマス」
長谷川はへえ~と感心し、その罠をたくさん仕掛けて新しいカメラを買おうかなと笑顔で返事をする。
「取らぬ狸のカワザンヨウですヨ~」
”グレゴリー”は朗らかに笑い飛ばす。
いつの間にそういうの憶えたの、と長谷川。
バキッ
森から聞こえてきた音に、”フィリップ”(キロランケ)は”グレゴリー”(ウイルク)が素早く意識を向ける。
長谷川はそんな二人の様子から、常に周囲を警戒しているのを感じ取っていた。
狩猟に詳しいんですね、と切り出してから二人の素性を探る質問を投げかける。
「あなた達はどこから来たんですか?」
「”ゾーヤ”さんのような貴族階級出身ではなさそうですね」
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革命家とそれを利用する者
キロランケは、ソフィアは農民の恰好をしていたがロシア語の読み書きが出来、さらにはとっさにフランス語が会話の中で出て来ることがあったため、長谷川はソフィアが何者かに関して想像がついていたのではないかと述懐する。
その時代では、ロシアの貴族や知識人層の一部は農民のような恰好をして、農民の生活に入り込んでロシアの近代化を目指し、君主制打倒のための啓蒙活動をしていた。
しかしソフィアのような革命家と農民の価値観は違い過ぎていた。
農民の心の内に深く浸透した信仰はそのままロシア皇帝崇拝に結びついていたので、それが原因で農民たちは変わろうとしないのだという分析を行う革命家たち。
その考えの果てに、皇帝が”神の代理人”ではなく、”単なる人間”と証明する為、暗殺を企て実行したのだった。
そこまで聞いていた白石が、ちょっと待て、と切り出す。
「キロランケとウイルクは少数民族の独立運動のために戦っていたんじゃなかったのか?」
「そうさ……」
キロランケは白石の言葉を否定しない。
「俺とウイルクはソフィアたち過激派組織を利用したんだ」
町に降りた長谷川。
長谷川はそこで、キロランケ、ウイルクの名前と顔が載った手配書を目にしていた。
それらを手に取り、じっと眺める。
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第177話 長谷川写真館の振り返り感想
ここからの長谷川の行動は?
ラストのコマ、キロランケとウイルクの手配写真を見つめる長谷川幸一の胸中が気になる、という引きになっている。
これは回想だから、回想している本人の認識が間違っていない限りは変わらない過去の話になる。
ウイルクたちが日本語を習いに長谷川の元を訪ねたのは、ロシア政府の手から逃れるべく日本に身を寄せるためだったのかな。
そしてこの後事実としてウイルクとキロランケは北海道に逃亡し、ソフィアは捕まるわけだ。
長谷川が通報したのか、それとも三人を庇った事がロシア政府にバレて、妻と娘もろとも反逆者としてソフィアと同様に収監されてしまったのか。
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次回で描かれるだろうが、今回のような穏やかな時間はもう無いだろうな……。
長谷川はビラを見て、ウイルクとキロランケが自分に対して偽名を使っていたこと、偽名を使っていた理由に気付いたはず。そして彼らがロシアから指名手配を受けるほどの”犯罪”、つまり皇帝暗殺を実行していたの知った。
そもそもそれ以前から長谷川は普段から3人を観察して、怪しく感じていた節はあった。
長谷川はソフィアが日本語に関心がなく、たまにフランス語が出ること、ウイルクやキロランケが外では常に周囲を警戒していること、描写されていないが、恐らくまだ細かいことがあったのかもしれない。
それら全てが長谷川の脳裏で、手配書によって一気に繋がった感じかな。
果たして長谷川のとる行動は通報か保護か。
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キロランケの好みの女性は妻
「ワタシ デブ女 好き…デース」
これには笑った。いかにも日本語覚えたての外国人という感じと、無自覚に失礼な発言。
でも実際キロランケは結婚していて、その相手の女性はアイヌのふくよかな女性だったりする。
キロランケにとっては妻が好みの女性であり、子供たちと家を守ってくれると頼りにしている。妻がキロランケのことに言及している描写はなかったが、キロランケが家を空けているのを認めていることから互いに信頼し合っているのだと自分は解釈している。こういう夫婦関係っていいよなぁ。
やはりキロランケは杉元たちにとって最終的には敵にはならない、仲間に戻ると思いたい。
そして無事に妻と子供の待つ家に帰宅して欲しい。
しかし長谷川が”ふくよかな女性”と訂正しているけど、デブなんて単語をキロランケはいつ覚えたのか(笑)。
これもウイルクの諺や慣用句と同様ギャグだから深く考える必要はないけど(笑)。
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頭が良いウイルク
長谷川曰く、ウイルクは特に頭が良いのだという。
長谷川が教えていないことわざを使えるのはギャグだとしても、実際キロランケがまだ日本語が覚束ない様子の時もキロランケとソフィアの仲裁に入るウイルクの言葉は既に日本語してきちんとした体を為していた。
それはいかにも外国人が操るカタコトっぽさが残る日本語だったが、その後北海道に渡り、インカラマッを始めとしたアイヌとの出会い、そしてアシリパの母となるアイヌの女性との結婚を経て、よりその日本語会話能力は磨かれていく。
アシリパの回想や、網走監獄で杉元に救出された際はネイティブな日本語だった。
この知能の高さはアシリパに受け継がれているんだろうなというのは感じた。
今、アシリパはキロランケを通じて自分の父の過去を知っている真っ最中なわけだが、何か思い出したりするのかな。
それはキロランケの思惑通りの展開ではあるけど、アシリパにとっては知りたい、思い出したいこと。
果たしてこの後の長谷川の行動は? そしてキロランケ、ウイルク、ソフィアはどういう経緯を経てそれぞれの人生を辿るのか。
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177話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
第178話 革命家
維新の三傑
ウイルクたちの集合写真を撮る長谷川。
撮影の最中、長谷川は三人に向けて、小久保利通、木戸孝允、西郷隆盛の、維新の三傑それぞれについて一人ずつ説明してみせる。
大久保利通は時に冷酷に、強い意志で決断、行動する人間。
剣の達人、木戸孝允は陽気かつ合理的で柔軟な視線で権力に対抗する。
西郷隆盛は誠実かつ義理と情を持ち合わせ、人望がありながら、指揮官としての才能に長けている。
長谷川はウイルクたち三人向けて、彼ら維新の三傑は革命を成した中心人物であり、おかげでアジアにおいて日本は唯一近代化を進めることができたのだと続ける。
その時のことを振り返っていたキロランケは、アシリパたちに、長谷川がそんな話をしたのは、ウイルクら三人がロシアでの活動家だと分かっていたためかもしれない、と呟く。
長谷川はウイルクやキロランケの手配書を見ていた。
そして妻のフィーナに、実家に帰るようにと切り出す。
自分が帰るまで絶対に帰って来てはいけない、とフィーナに言い聞かせるのだった。
フィーナはその有無を言わせぬ様子に言葉を失っていた。
「(絶対に戻ってこないと約束してくれ)」
フィーナの目を真っ直ぐ見て長谷川は繰り返す。
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長谷川の意外な言葉
ウイルクとキロランケは長谷川写真館に向かっていた。
ウイルクはキロランケに向けて、そろそろ日本に渡る頃合いだと呟く。
それを受けてキロランケは、ソフィアはまだ日本に行くかどうか迷っているものの、ウイルクが”一緒に来て欲しい”と言えば彼女は来ると返すのだった。
その二人の視線の先にはソフィアが、にこやかな表情で立って二人を迎えている。
ウイルクたちとは逆に、フィーナは荷物を背負って、胸には赤子を抱き、長谷川写真館を後にしていた。
そんな彼女と入れ違いになるように、怪しい一団が長谷川写真館へ向かう。
今日も日本語を教わる為、顔を出したウイルクたち。
竈に何かをくべている長谷川に挨拶するソフィア。
しかし長谷川は挨拶を返すのではなく、予想外な言葉を返す。
「もうここへ来てはいけない… 今すぐ出ていきなさい」
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写真館にやってきたのは……
玄関の方から扉をノックする音が響く。
長谷川が玄関で、訪ねて来た男と会話する様子を、ウイルクは壁の陰に隠れて観察する。
「(オフラーナ)」
ウイルクはキロランケとソフィアに小声で伝える。
”オフラーナ(ロシアの秘密警察)”と聞き、キロランケとソフィアの表情が一瞬で冷静になる。
キロランケは窓からこっそり外を窺っていた。
外にいる人間の配置から、長谷川写真館が既に秘密警察により包囲されていることを知るのだった。
玄関で長谷川と会話している男が、何者かの気配を感じてふと家の中に視線をやる。
同時に、やってきたソフィアが銃床で男の顎を思いっきりかち上げるのだった。
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長谷川の真の仕事
ソフィアの一撃を食らった男をすぐにキロランケが背後から拘束する。
ソフィアは、男を家に引きずり込んでいくキロランケを援護するために、玄関から外に向けていつでも銃を発射できる態勢をとって警戒しながら家の中に後退すると、玄関の扉を閉めるのだった。
ウイルクは捕まえた男を椅子に座らせると、彼に向けて銃を突きつけて問いかける。
「(何人でここへ来た? 外に何人いる?)」
答えない男に向けて、ウイルクは無表情で何度もピストルを振り下ろしていく。
しかし次の男の言葉でウイルクたちは呆然としてしまう。
「(あんたたちは誰だ?)」
不思議そうな表情のウイルクに向けてさらに男が言葉を重ねる。
「(我々は日本人を捕まえに来た)」
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長谷川は、まるで動じることなく男を見下ろしていた。
そんな長谷川に、ウイルク、キロランケ、ソフィアの戸惑いを含んだ視線が集まる。
長谷川写真館から、長谷川の指示に従う形で実家に向かっていたフィーナは、足元に落ちていたウイルクの手配書を拾い上げてじっとそれを見つめていた。
そして不安そうな表情を浮かべると、元来た方向を振り返る。
キロランケは、フィーナが、まさか自分の夫が日本軍のスパイだったとは思わなかっただろう、と振り返る。
長谷川は、実はウイルクたちがやってくる直前まで、長谷川は竈でこれまで撮った風景写真を燃やしていた。
数か月一緒に長谷川と過ごしたのにまるで気付けなかったと述懐するキロランケ。
長谷川写真館に秘密警察が来たのは、捕まった他の日本軍のスパイが情報を吐いためだろうとキロランケは推測していた。
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捕まえた男を盾に、ウイルクは玄関から出る。
周辺で待機していた秘密警察が一斉にウイルクに向けて銃を突きつけ、戦闘が始まる。
ソフィアはすかさず家の中から秘密警察を狙撃する。
見事にヒットさせたあと、すぐに身を隠して、やってきた反撃の銃弾を涼しい顔でやり過ごす。
長谷川はキロランケを二階に誘導していた。
そして写真撮影のスペースに置いてあった三脚からカメラを取り外して、また素早く何かを組み上げていく。
その光景を前にして、機材の中に隠してた? と驚くキロランケ。
「出来ましたよ さあどうぞ」
長谷川は普段よりももっと落ち着いた雰囲気でキロランケに呼びかける。
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キロランケは二階の窓を勢いよく開け放つと、秘密警察に向けて機関銃を掃射していく。
秘密警察は銃弾の雨の前に次々と倒れていく。
キロランケは水平に照準を合わせ、機関銃の掃射を行っていく。
ウイルクの視線には腕を撃たれて逃げていく秘密警察がいた。
その秘密警察を見つけたウイルクが、ひとりも逃がすな、と叫ぶ。
「逃がすと仲間を連れて追ってくる」
ソフィアが銃を持って外に飛び出し、銃弾を二発撃ち込む。
男の死亡を確認して、長谷川写真館に戻ろうとしたソフィアは、秘密警察以外の人間が、銃で腹部を撃ち抜かれて倒れているのに気付く。
それは、長谷川から”実家にいて欲しい”と言われて家を出ていたはずのフィーナだった。
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第178話 革命家の感想
予期せぬ被害
これ、フィーナは亡くなってるっぽい……。
本人は、長谷川が日本軍のスパイだなんて知らなかったし、ウイルクが手配書に記載されるほどの悪人だと知ってしまった上でのある意味では当然の帰結なのかもしれない。
少しずつ歯車がずれてこうなってしまったという感じ。
妻と子を一斉に亡くしてしまったとしたら、もう彼にこれ以上生きる意味を見出せるようになるのか疑問だ。
機関銃のとんでもない威力を身体の中心にまともに受けてしまったら、それはもう致命傷なんじゃないかな。
生きているという未来を信じる方がは難しいか。
果たして来週、長谷川は正気を保っていられるのだろうか。
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革命を為した者たちの強さ
ウイルクたち”革命組”はいずれも強い。
戦うその表情からは、闘志などの激しい感情は一切なく、ただ彼我の戦力差と状況を踏まえて最適化された行動をとっているように見えた。
それも、活動家としてこれまで長い間ずっと地道に貯めて来た経験値のおかげなのかな? と思った。
ウイルクもキロランケもすごかったけど、今回、アグレッシブで印象に残ったのはソフィアだった。
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彼女は、玄関で長谷川と話している最中の秘密警察を問答無用でブッ倒した。
最初はこの演出は単に彼女が先走ってしまっただけなのかなと思ったけど、そのあとすぐにキロランケが男を拘束したので、この作戦の先陣を既に切ったということだろう。
狙撃、つまり銃自体が相当うまいし、これまた見事なんだよなぁ……。逞し過ぎる。
ソフィアの頼りがいはマックスを振り切ってる。
ウイルクやキロランケが信頼を寄せるのも分かる気がする。
あと同性にもモテるだろうな。
美しいこの当時の姿での戦いの姿もいいけど、現在のゴツくなったソフィアの戦いっぷりは、さながら鬼神なんだろうな(笑)。
メインのキャラたちより、運悪く、誤って妻を傷つけてしまった長谷川が気になる。
以上、ゴールデンカムイ第178話のネタバレを含む感想と考察でした。
第179話に続きます。