目次
前話第197話 ボンボンのあらすじ
脱走
亜港の医院で治療を受ける尾形。
その間、杉元たちは外で施術が終わるのを待っていた。
やがて手術を終えた医者が杉元たちのもとに報告にやってくる。
できるだけのことはしたが、呼吸も血圧も弱くなってきているため、明日の朝までもたないとエノノカが医者の言葉を訳して杉元たちに伝える。
医院の中に戻っていく医者をアシリパは悲しそうな表情で見送っていた。
どうする? という谷垣の問いに、待つ、と鯉登少尉。
杉元は何かを自分の心の内で決めたようにひとつ頷くと、医院に入っていく。
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杉元? と言外に何をするつもりなのかと訊ねる白石に、杉元は答える。
「……なんとか助けられないか頼んでみる」
杉元は廊下を歩き、手術の行われている部屋のドアを開ける。
本来ベッドで寝ているはずの尾形の姿はなく、その下には医者が血を流して倒れていた。
窓は全開になっており、カーテンが風にはためいている。
「尾形が逃げた!!」
杉元は医院の外まで走ってアシリパに向かって叫ぶ。
「尾形が逃げた!!」
杉元は白石と谷垣と連携して、まだ遠くに行っていないであろう尾形を包囲すべく素早く行動を開始していた。
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その頃、尾形は
その頃、鯉登少尉は手術室で医者を介抱していた。
床の血溜まりにうつ伏せに倒れていた医者は、鯉登少尉の背後に視線を向けて、微かに何かを呟く。
鯉登少尉の背後、開いたドアの陰に、尾形は看護助手の喉元にハサミを突きつけて立っていた。
鯉登少尉は振り向きつつ、尾形にピストルの銃口を向ける。
「〇〇〇〇!」
突然ロシア語を発する尾形。
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「!?」
鯉登少尉には尾形が何を言っているのかが分からない。
「(この女を刺すぞ! その男を殴り倒せ!)」
尾形の言葉に従い、医者は背後から鯉登少尉の頭を殴りつける。
不意打ちを食らい、床に倒れた鯉登少尉。
尾形は鯉登少尉の手にあるピストルを足で踏みつけると素早く拾い上げて、うつ伏せに倒れている鯉登少尉の頭につきつける。
「(ボンボンが)」
鯉登少尉を見下ろす尾形。
鯉登少尉は伏したまま尾形を見上げる。
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回想
14歳の頃の鯉登少尉の回想。
鹿児島。
鯉登は学校の運動場で原動機付の三輪車を乗り回していた。
その様子を校舎の中から子供たちや教師が見ている。
スゲー、と驚くばかりの子供たち。
「鯉登どんところん次男坊じゃ」
教師が呟く。
「あんボンボンめ」
鯉登は学校の敷地内を出て、学校の外に三輪車を走らせていた。
調子よく道を走っていると、ちょうどタイミングよく石垣の角から現れた男に危うくぶつかりそうになる。
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急いでハンドルをきり、三輪車を止める鯉登。
男は尻もちをついてしまう。
「すみもはん」
男に謝罪する鯉登。
「怪我はあいもはんか」
男は飛び出した私も悪いと言いながら、お尻を払いつつ立ち上がる。
「まさかこんなすごいのが走ってくるとは」
そして鯉登に対して特に怒ることもなく、親しげに声をかける。
「面白い乗り物だね 君のかい?」
父がフランスの知り合いからもらったものと答える鯉登に、男は勝手に乗り回してるの? 叱られない? と問う。
「がられもはん(叱られません)」
即答する鯉登。
男は、西郷隆盛の墓の行き方を鯉登に訊ねる。
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お詫びに案内すると鯉登は三輪車(ドディオンブートン)の車輪のシャフトに男を立たせて、道を走り出す。
登りは遅くて馬の方がいい、と言う鯉登に男が答える。
「馬は急な下り坂は走れない… 帰りは速いさ」
西郷隆盛の墓に案内を終えた鯉登に男は、ありがとう、と礼を言いつつ包みを開く。
「景色がいいから一緒に食べよう」
ひとつ手に取り、鯉登に差し出す。
「月寒(つきさっぷ)あんぱんです」
月寒とは何か、とあんぱんを食べながら問う鯉登に、男はあんぱんを作っている土地の名だと答える。
そして、鹿児島は何が美味しいのかと訊ねる。
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うーん、と一つ唸ってから、桜島大根と答える鯉登。
そしてあんぱんを二つに割ると、それを墓に備える。
「どなたのお墓ですか?」
手を合わせている鯉登に男が訊ねる。
「兄さあです」
鯉登は兄のことを、母に似て色白だったので桜島大根のようだとからかったが、一度も怒らない優しい兄だったと振り返る。
「オイが死ねば良かった」
「話してごらん?」
男――、鶴見中尉が鯉登に話の続きを促す。
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第197話 ボンボンの振り返り感想
尾形の謎の語学力
やはり尾形が簡単に死ぬはずはなかった。
でもこの展開は驚いたわ。
医者が助からないと判断するほどの重傷だったにもかかわらず、杉元たちを翻弄する判断力と動きを見せるとは……。
実際かなり弱っているようなんだけど、気力で奮い立たせている感じ。
しぶといなぁ。
しかし何より驚いたのは尾形のロシア語だ。
ロシア語をかなり流暢に話せているのは一体どういうことなんだろう?
そこにたどたどしさはない。
かなり喋りなれているという印象を受けた。
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日露戦争を戦ったからといって、ロシア語を学ぶことが当時の日本兵の必修だったわけではないはずだ。
杉元や谷垣も尾形と同様にロシアで激戦を生き残ったが、ロシア語は全く分からないし……。
月島軍曹は鶴見中尉に言われてロシア語を身に着けた。
そこには相応の努力が必要だっただろう。
では尾形は、一体何のためにロシア語を身に着けたのだろう。
語学に関して飛びぬけた素養があったというだけなのか……?
尾形がロシア語を話せることは、金塊を探す目的と何か関係があるのだろうか。
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鶴見が会いに来たのは誰?
鯉登少尉の回想開始。
どうやら尾形に「ボンボン」と言われたことがトリガーになったようだ。
ボンボンというのはあまり良い意味で使われる言葉ではない。
というか、罵倒の文脈でしか用いないと言っても良いだろう。
今回の回想では教師らしき男が鯉登の暴走を止めることが出来ず、「ボンボンが」と吐き捨てるように呟くのみに留まっているが、おそらく鯉登少年は事あるごとに誰かから「ボンボン」と陰口を叩かれてきたのではないかと思う。
海軍の上層にいる父は地元でも名士だ。
その息子が好き勝手していても、教師は他の生徒に対するように雷を落とすことはできないらしい。
そんな鯉登少尉が鶴見中尉と出会ったのは14歳だったのか……。
最初は父親の鯉登少将に会いに来たのかなと思ったんだけど、月島軍曹の回想の回の鶴見中尉を思い出すと実はその息子を懐柔しにやって来たのではないかと思ってしまう。
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鯉登少尉を忠実な手下にしておけば、いざという時に海軍で権力を持つ父親を自分の味方にできる。
実際、鶴見中尉が網走監獄を攻めた際に、その進軍を助けるべく砲撃したのは鯉登少将率いる艦だった。
鯉登少尉の存在は、鶴見中尉にとっては海軍の力を自分のために行使するために必要だったのではないかと思えてくる。
まさか本当に、鹿児島に西郷隆盛の墓にお参りのためにやって来たというわけではないだろう。
出会って間もない少年の心の奥底にあるものをこうも巧みに掬い取れるのは、もはや鶴見中尉の才能なんだろうな。
次回で鶴見中尉が鯉登少年のどう堕とすか怖くもあり、楽しみでもある。
197話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
第198話 音之進の三輪車
代わり
兄の墓の前。
鯉登少年は、鯉登家の落ちこぼれで兄の代わりにはなれないと心の内で寂しそうに呟いていた。
「溜まっているものは吐き出した方がいい」
鶴見中尉はまるで鯉登少年の心の独白を見透かしているかのような態度を見せる。
鶴見中尉に話を促されるが、鯉登少年は初めて会った人に話過ぎたと答えるのみ。
しかし鶴見中尉はさらに彼の心に踏み込んでいく。
「君が父上のためにいなくなった兄上の穴を埋める義務はないと思うがね」
自分の心に触れる言葉を受け、鯉登少年は鶴見中尉に驚いた表情を向ける。
「海軍少尉鯉登平之丞 明治27年9月17日没」
鶴見中尉は墓石に彫られた文言を読み上げる。
その墓石の日付から、日清戦争の黄海海戦により亡くなったと鯉登少年に理解を示してみせる。
「兄さあとは13も離れていたから…オイが8歳んときでした」
鯉登少年は、兄の死因が清国の砲弾であること、そして兄が乗艦していた戦艦「松島」が炎上している間、父は別の艦から「松島」の沈んでいく様子を眺めていたそうだと続ける。
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「帰ってきてから父はオイを叱るどころか笑うた顔も見せたことはあいもはん」
鯉登少年は寂しそうに呟く。
そして父が見たであろう「松島」の甲板上の惨状を想像したことを告白する。
「オイは船に長時間乗っちょっと兄さんのことを考えてしもうて ひどく酔うようになりました」
「一日しか船に乗れんものが立派な海軍将校になれるはずがなか」
そして、これから自分が父の仕事の関係で函館に引っ越しすると鯉登少年。
それを聞いた鶴見中尉は、函館は桜島に似ているから気に入ると思うと丁寧に言葉を返す。
月寒は北海道にあると鶴見中尉。
鶴見中尉は鯉登少年に礼を言い去ろうとする。
「また会えますかねぇ?」
寂しそうな笑みを浮かべた鯉登少年の質問に、鶴見中尉が答える。
「また偶然会えたのならお互い友人になれという天の声に従おうではないか」
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誘拐事件
16歳に成長していた鯉登少年は、函館の街を三輪車(ドディオンブートン)で走っていた。
街中では彼に関して良くないうわさをが広がりを見せる。
その時、突如鯉登少年の行く手を遮る馬が現れる。
口元を布で隠した馬に乗っている人物は邪魔だ、とすごむ鯉登少年を無視して鯉登少年と見つめ合う。
その隙に、鯉登少年は馬車から降りてきた男たちにさらわれてしまうのだった。
4日後の夕方、函館の鯉登少年の母親、鯉登ユキは心配そうな表情で海軍大尉の中山に陸軍から招聘される将校の人となりを問う。
中山大尉は、その人物が切れ者であると伝聞調で説明する。
屋敷にやってきたのは鶴見中尉だった。
到着するなり挨拶もそこそこに、息子さんの奪還作戦が筒抜けなのでカーテンを閉めるよう指示を出す。
鯉登少年の乗っていた三輪車はロシア領事館の門の内側で見つかっていた。
しかしロシア領事館には鯉登少年はいないと即座に断言する鶴見中尉。
目的はお金なのか、とユキから質問を受け、鶴見中尉は、金持ちの子供がたくさんいると答える。
「ロシアが誘拐に関与しているならば…事態はかなり深刻でしょう」
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その頃、鯉登少年はどこかの建物の一室で柱に後ろ手に拘束されていた。
そのまま、誘拐犯から差し出された水を飲む。
鯉登少年は顔を布で隠している犯人がロシア語をしゃべっていることに気づき、日本語がわかるかと問いかける。
「(黙れ!)」
誘拐犯の答えを受け、鯉登少年は特に取り乱すことはなかった。
そして父が函館の対岸に完成を控えた『大湊水雷団』の監督であることが関係しているのではないかと前置きする。
「父上はオイのためにロシアの言いなりになることは絶対に無い」
鶴見中尉は、誘拐犯の正体がロシア人ならば、なぜ鯉登少年を誘拐をしたのか自分の考えを述べていく。
まずロシアから太平洋に出ようとするなら、日本の北海道と青森の間の海峡を通る必要がある。
そこには大湊水雷団、函館要塞があるため、現状ではそれは現実的ではない。
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もし誘拐犯がロシアならそれらを破壊して一時的にそれらを無力化すること。
それが今回の誘拐の目的だと鶴見中尉は考えていた。
それなら脅迫が来ていたもおかしくない、と中山大尉。
鶴見中尉がその言葉を受けて次のアクションを示唆する。
「では動きましょうか なにか起きるかもしれない」
領事館の外で鶴見中尉たちが待機している。
すると突然領事館の中の電話が鳴る。
それを素早くとろうとする鯉登父。
しかし鶴見中尉はそんな父を、おやめなさい、と制止する。
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犯人からの電話を取らなければと冷静さを欠く鯉登少将。
鶴見中尉はロシア領事館が犯人に監視されていて、自分たちの行動を知られている可能性が高いと言って、冷静な対処を促す。
「常に先の先を読んで行動しなければいけません 手順を間違えればこちらの詰みです」
鶴見中尉は函館の電話加入者320件の内、ロシア領事館が見える範囲で犯人の潜伏先に適した箇所で50件程度に絞りこんでいた。
部下に命じ、絞り込んだ1件1件の建物に突入していた。
しかし未だに鯉登少年を確保できていなかった。
鶴見中尉は、今度電話がかかってきた際には鯉登少年を電話口に出させて無事を確認すること。
そして、その電話を即切って交換手に番号を聞き、電話の発信された場所を特定するとの方針を定める。
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鶴見中尉たちはロシア領事館で犯人からの連絡を待っていた。
鯉登家にも電話はあったが、ロシア領事館は場所が函館山の坂の一番上であり、街の広範囲から監視がしやすいことからここを待機場所に選んだのだった。
鯉登父はおそらくは犯人が要求するであろう大湊水雷団、函館要塞といった要衝の無力化要求に従ったなら、それをきっかけにしてロシア艦隊が攻め込んでくると理解していた。
ロシアとの戦争は何百万もの国民が犠牲になることを意味している。
「音之進には死んでもらうしかなか」
静かに呟く鯉登父。
その頃、犯人により拘束中の鯉登少年は誘拐実行犯からアンパンを差し出されていた。
そのアンパンを一齧りして、鯉登少年は何かに気づく。
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第198話 音之進と三輪車の感想
誘拐犯
随分と緊張感のある展開になってきた。
鯉登少尉にこんな過去があったとは……。
結果としては鯉登少尉は無事に家族の元に戻り、水雷団も無力化されず、ロシアとの戦争も起こらなかった。
それは分かっている。
この誘拐事件は鯉登少尉の心に何を残したのだろうか。
この事件を機に鶴見中尉に心酔するようになるのかな?
予想としては、鯉登少将と鯉登少尉との親子関係が改善したとか?
そうすると鯉登少尉が鶴見中尉に寄せる信頼や、鯉登少将が網走監獄を攻めることに協力したことにも繋がっていくような気がする。
とりあえず、ここからどうやってこの誘拐事件が解決するのか楽しみ。
以上、ゴールデンカムイ第198話のネタバレを含む感想と考察でした。
第199話はこちらです。