目次
前話第174話 湖の中心で突っ走るのあらすじ
罵り合い
門倉とキラウシは関谷の元へと急いでいた。
しかしすぐに体力の尽きた門倉は足を止める。
ゼーゼーと激しく呼吸をする門倉。
「ちょっと…キラウシ……いったん休も?」
足を止め、前を行くキラウシを止める。
「ん…ジジイ~!!」
キラウシが呆れた様子で突っ込む。
「早く永倉ニシパ見つけないと!!」
門倉は息を整えながら、関谷が自分たちが一体何枚刺青を持っているか知らないはずなので、そこでハッタリをかますことで土方の居場所を聞き出そうとキラウシに提案する。
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しかしキラウシは門倉のアイデアがあまりにもいい加減な為、その提案には乗らない。
それを受け、他にいい手があるなら言ってみろ、とキレ気味の門倉。
「思いつかねえだろ貧乏人ッ」
「お前だって無職で貧乏だろッ 肛門ほじりジジイ!!」
キラウシは両手の人差し指と親指を胸の前で合わせて肛門を取り調べる格好をする。
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関谷は見逃さない
(僕のまちを守らなければ…僕が…殺るんだ!!)
チヨタロウは、背後で「ゲロリ」を履いて自由自在に湖面を滑っている牛山に視線を送りつつ、思いつめた表情をしていた。
そして、すぐ目の前にある湯壺と呼ばれる温泉の湧いているところに空く穴を見ながら桃の乾物を取り出す。
「おいでオベンチョ」
関谷は阿寒湖に一人やってきた門倉を、湖面に置いた木桶に腰を下ろして待ち受けていた。
「門倉看守長どの そこで止まって服を脱いで投げろ 丸腰で来たか確かめる」
関谷の言葉通り、服を脱いでいく門倉。
「肛門に猟銃を隠してきたぜ 覗いてみるか? 関谷」
そんな軽口を言いながらも、門倉は関谷が慎重で頭の回る男だと感じていた。
関谷が指定してきた阿寒湖の真ん中という位置は、湖のほとりまで1キロ以上あるため、そんな距離を狙撃することはまず不可能。
つまり、関谷は自分が狙撃される可能性をほぼ完全に潰していたのだった。
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門倉は靴以外の全ての服を脱ぎ捨てて、局部だけを両手で隠した格好で阿寒湖に立っていた。
「で…刺青人皮は?」
関谷が問いかける。
あるよ、と門倉。
「そこの外套の中にあるから探せよ」
「怪しい動きをすれば取引は不成立になるぞ」
関谷は門倉をじっと見つめながら会話を続ける。
「それは困るね」
頭をボリボリとかく門倉。
その際、さりげなく斜め後方に視線を走らせる。
「……」
関谷はその門倉の仕草を見逃さない。
「いま…斜め後ろを見たな?」
その指摘を受け、門倉は表情を強張らせる。
「いや…え? なにが?」
門倉の見た方向に関谷が指を差す。
「向こうの岸にあんたと一緒にいたアイヌが待機してるのか?」
「尻に挟んで隠してる刃物はそのアイヌに借りたのか?」
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キラウシから借りたマキリを挟んでいる門倉の尻がギクッと反応する。
回想。
(父に彫って貰った大切なものだから気をつけろ)
マキリをキラウシに渡すキラウシ。
どこに隠すんだ? とキラウシに問われた門倉は、うんわかった、とだけ言って、キラウシの質問を無視する。
キラウシは再び、どこに隠すんだ? と問うが、門倉は答えない。
回想終了。
おもむろに立ち上がる関谷。
「力づくで俺から土方歳三の居場所を聞き出そうってことか…雑な男だな相変わらず」
門倉はマキリを抜いて胸の前に構える。
「門倉さん…あんたどう思う?」
関谷は突然、思いつめた表情で門倉に質問をする。
「神様って本当にいるのかね?」
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阿寒湖にダイブ
「ほら早く取りに来ないとこの桃捨てちゃうぞっ」
チヨタロウは桃の乾物を牛山に見せつけながら声をかける。
「いいのかい? 急げッ ほら 捨てちゃうぞ」
ア~、と呻き声を上げながら湖面を滑ってチヨタロウの元に向かう牛山。
チヨタロウの脳裏に、崖から落ちそうになった自分を助けてくれた場面や、一緒に本を読んだ場面といった牛山との思い出が甦る。
「取りに行けッ」
両目から流れる涙を振り乱し、勢いよく桃の乾物を湯壺に向けて投げる。
牛山は桃の乾物を追って湯壺に滑っていき、腕を後ろに振って勢いをつけて湖面を踏み切ったかと思うと、まるでフィギュアスケートの選手のように美しい回転ジャンプを行う。
「ごめんよ!!」
この後起こる惨劇を正視できず、チヨタロウはその場を逃げ去る。
牛山は回転の最中に見事に桃の乾物を口でキャッチしていた。
しかし湖面に着氷することはなく、湯壺に飛び込んでしまい湖に沈んでいく。
「ごめんよオベンチョ 僕を許してくれぇ」
チヨタロウは、ワアアア、と泣きながら振り向くことなく逃げ去る。
湖に没した牛山は浮上しようとするものの、凍結した湖面に頭をぶつけて顔を出せずにいた。
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思惑通りの交渉決裂
立ち上がった関谷は、自身の下半身を覆っていた布をとる。
その足に「ゲロリ」を履いていることに気付くキラウシ。
関谷は門倉を残して反対側へと湖面を勢いよく滑り始める。
「くっそやられたッ」
コートを羽織る門倉。
「待てえ 関谷ああッ」
しかし、門倉にとって事態は思い通りの方向に進んでいた。
阿寒湖に向かう道中、息が上がってしまいその場での休憩を余儀なくされた際、門倉はキラウシとのやりとりで、わざと取引に失敗して逃がした関谷が刺青を剥がす為に土方と牛山の元に戻るのを追いかければいいという策を得ていた。
まてー!! と叫ぶものの、門倉の声の真剣味はどこか薄い。
関谷とのやり取りの際に何気なく斜め後ろに走らせていた視線は、関谷をその逆方向に誘導する為の策だった。
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予想外の事態
関谷を追いかける門倉。
ゼェゼェと息を弾ませながらもニヤリとほくそ笑む。
「来たッ」
関谷が近付いてくるのを待ち構えるキラウシ。
「計画通りにうまく行ったッ」
背後の門倉を気にしつつも、湖を軽快に滑っていた関谷だったが、突如目の前の湖面から牛山の顔が出てきた事に驚く。
「牛山!?」
牛山の意識を朦朧とさせていたチョウセンアサガオの効果は切れていた。
「関谷…!! てめえッ」
怒りを滲ませる牛山。頭を出している周囲の氷が徐々に割れていく。
「牛山さん!?」
門倉はその状況に驚愕していた。
「よりにもよって…なんでそんなところから現れるんだッ」
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「まずいッ」
キラウシが叫ぶ。
「逃がすな 捕まえろ門倉ッ」
関谷は湖面から顔を出している牛山の直前で急ブレーキをかけたかと思うと、方向転換する。
門倉は関谷に飛び掛かり、その上着を掴みかけるが、惜しくも手を離してしまい湖面にうつ伏せの状態で投げ出される。
「いだだッ 剥けるッ」
氷に勢いよく自分の一物を擦り付ける形になる門倉。
息を弾ませつつ、門倉は颯爽と滑り去っていく関谷の後姿を見つめていた。
「なんで大誤算だ ついてねえ!!」
その背後では牛山が顔を出している周囲のヒビがどんどん大きくなっている。
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第174話 湖の中心で突っ走るの振り返り感想
牛山の超フィジカルはネタ枠
やはり牛山はとことん人間じゃないな(笑)。
まず何回転アクセル中に桃の乾物を口でキャッチしてるのか。
そして湯壺から落ちたとはいえ、冷たい湖の中で普通に生きていて、凍り付いた湖面から顔を出すとかおかしい。
湖に飛び込んだのは、実際はただ時間の経過によって回復しただけなんだろうけど、チョウセンアサガオの効果をより早く消すリフレッシュの効果をもらたしたんじゃないかとすら思えてくる。
牛山はネタ枠だなぁと感じる。死ぬところが想像できない(笑)。
牛山を退治出来なかったチヨタロウ。
桃の乾物を湯壺に向けて放る直前の二人の思い出の走馬灯はおかしいだろ。
崖から落ちるところを助けてもらったり、本を一緒に読んだりしてたのか。
短期間で濃密な時間を過ごし過ぎ。
牛山はチヨタロウのことは覚えてないだろうけど、この後二人が再会したならチヨタロウのトラウマにはなるまい。
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関谷はこのまま逃げ切る?
引き渡し場所を湖の中心に設定する慎重な関谷。
「ゲロリ」を履いておくという、逃走の準備に関しても万全の抜け目の無さを見せた。
関谷は門倉とキラウシによる誘導にハマりつつも、牛山の湖面からの登場によって知らぬ内に方向を変えることに成功した。
今のところ、運は関谷にあるようだ。
しかしこの後、意識を取り戻した牛山があっという間に追いつく展開になりそうな気がする。
スケート靴「ゲロリ」を履いたままならそんな展開は十分あり得ると思う。
でもそうならずに関谷が湖から逃げ切った場合、関谷が退場するのは少なくとも来週より先になりそうだ。
関谷は岩息みたいに背中の刺青を写してもらうだけで済ませてもらえるタイプの囚人ではない。
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「神様って本当にいるのかね?」
↑このセリフから単なる近視眼的な悪党ではなく、色々考えていることが伺えるが、毒に詳しく、その使用を一切躊躇わないという能力が凶悪なので、死という形をもってしか物語からの退場は免れないと思う。
でもこんな自分の拙い推測を完全に裏切る形で、関谷が土方チームから刺青を奪って逃げ切るという展開はあるのだろうか。
そうなるとかなり予想外な展開で、状況はよりカオスになって面白いんだけどなー。
来週のアオリが「次号、迷宮入りだっ!!」なのも、その期待を膨らませる。
個人的に、最もゴールデンカムイに期待するのは”想像を裏切る展開”なので、ちょっと期待してもいいかも。
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門倉の悪運が発揮されるか?
ただ、門倉には運が非常に悪いと見せかけて、実は運が良いというわけのわからない複雑な特質がある。
173話でそれが描かれたのには必ず意味がある。
今のところは門倉は牛山の唐突な湖からの登場というアクシデントによって関谷を逃がしているが、門倉の悪運気質が、これが実は最良の展開だったという結果を招き寄せることも十分にあり得るだろう。
この状況でどうやって門倉たちが関谷を追い詰めるのか想像が出来ない以上、門倉の運命力に期待するしかない。
湖の中心まで1キロ以上、ということだったけど、尾形なら狙える距離だったりするのかな……。
そんな距離を狙撃できるやつはいない、という門倉の言葉は一種のフラグじゃないかと一瞬感じたけど、でも今は物語中最高クラスの狙撃の名手である尾形は樺太にいるわけでフラグではないと断定していいだろう。
もし尾形が樺太にいなくて、姿を隠したままだったらここで颯爽と登場したのかもしれないなーと妄想した。
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想像がつかない展開で門倉にとって有利な状況になるから門倉のキャラは「悪運に恵まれた男」。
実は、引き渡し場所を湖の中心に設定した関谷の思惑に即座に気付いた門倉もきちんと頭は回っている。
でも門倉は頭で考えたことが上手くいくより、運命に任せた方が良い結果が出るのだと思う。
もしそうなら、牛山登場と言う想像外の出来事により関谷を逃がしたのは最終的に関谷を追い詰める最良の結果を生むのかもしれない。
果たして門倉の悪運は、今後関谷との対決にどんな影響を及ぼし、どんな結末をもたらすのだろうか。
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門倉の悪運に呑まれるキラウシの知恵
わざと取引失敗からキラウシが関谷を追いかけるという策を提案するあたり、キラウシは頭が良い。
ただ門倉の悪運にはかなわないようだ。
それこそ、キラウシが門倉に貸した父に彫ってもらったという大切なマキリが門倉の尻に挟まれていることが、キラウシと門倉の関係性をどことなく象徴しているような気がする……(笑)。
キラウシの門倉の肛門調べいじりも定番ネタ化しようかという勢いだし、この二人は関谷とのエピソードが終わった後も組んで欲しいくらいに面白いコンビだと思う。
大切なものだって言ってるのに構わず尻に挟むとか、門倉は本当に面の皮が厚すぎる。
でもこの行為はなんとなくだけど、門倉だけじゃなくて、杉元でも同じ状況で違和感なくやりそうな気がした。
所詮、これは全くの偏見に過ぎないけど杉元も運は強いし、そういう奴はどこか似た雰囲気があるのように感じる。
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そういう奴に周囲は振り回されるんだよね。
リアルでもそういう奴っていると思う。何故か事の中心になっているような奴。
いつも振り回されがちの自分は、そういう奴が羨ましかった(笑)。
さて、個人的には、果たして門倉の悪運がこの展開にどう作用していくのかという点が次の見所。
案外、永倉が不審な行動をとっている関谷を見つけて、その後を追う内に土方の棺が隠された建物に辿り着く、とかだったりするのかな。それも運と言えば運だろう。
果たして次はどうなるのか。期待したい。
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174話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。
第175話 繭
牛山から得たヒント
凍結した湖面から顔だけ出している牛山を引き上げる門倉。
門倉は凍えている牛山に、土方も牛山と一緒にいた可能性を指摘し、どこにいたのかを訊ねる。
「わからん! 気付いたら氷から頭を出してた」
震えながら答える牛山。
そして牛山は、女郎にぶつぶつと文句を言い始める。
「関谷にカネで頼まれたのかな 『精力剤』だと言われてなにか飲んだところまではおぼえてるんだが」
すかさず、このチンポ頭野郎が!! と門倉がツッコむ。
「また女郎に裏切られた」
牛山が濡れた上着を脱ぐと、繭が零れ落ちる。
それを門倉が発見して、摘まみ上げる。
「これは土方さんの目撃現場にもあった白い殻… 行方不明だった牛山さんの背広からも出て来るということは…」
門倉は一つの結論に達していた。
「謎は深まった!!」
素っ裸の上にコートのみを着た門倉は、コートをはためかせてポーズを決める。
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門倉に対し、蚕の繭だろ、とキラウシがツッコむ。
「牛山ニシパが捕まっていた場所で偶然服に入ったのかも…」
「冬は蚕業の時期じゃないから建物には誰もいないところもある」
「それだぁ!!」
門倉が叫ぶ。
「点と点がひとつの線に結ばれた!! カイコの糸だけにッ!!」
「近くにある農家はあっちと湖の反対側のあっちだ」
キラウシは近辺にある蚕業農家のある方向を指さす。
門倉は、よし! と弾かれたように駆け出す。
「もう時間がない 手分けして関谷を捕まえるぞ」
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関谷を発見
門倉は、関谷が建物からスコップを片手に出てきたところを、捕まえていた。
壁に押し付け、片方の手で握った小刀を関谷の顔に突きつけながら土方のいる所に案内しろと凄む。
しかし関谷は全く慌てない。
無表情で門倉を見つめながら、自分の居場所を突き止めたことを褒める。
「よくここがわかったな 門倉看守部長どの」
門倉は小刀を突き立てて、さらにすごむ。
「名探偵門倉を舐めんじゃねえ」
「こっちだ」
関谷は何事もなかったように、全く落ち着き払った様子で建物の中に入っていく。
「こいつを今ちょうど今試していた」
関谷が門倉に見せたのは、「種繭雌雄鑑別器」という蚕の雄雌を繭の重さで判別するための機械だった。
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関谷の持ちかけた”試練”
関谷は今自分たちがいるこの建物が「蚕種製造所」という、蚕の品種改良及び、大量生産した卵を養蚕農家に販売するための施設なのだと切り出し、続けて門倉にその作業工程を説明していく。
幼虫を育成し、繭を作るようにまで成長した機械でその繭から雌雄を判別した後、雌雄で分別する。
次に成虫になったところで一斉に交配させ、厚紙に卵を産みつけさせる。
関谷は、今自分たちが居る建物は、その工程順に分かれていると説明する。
そして、部屋の数は隣の家屋と合わせて10個以上あると前置きし、門倉に”試練”を持ちかけるのだった。
「そのどこかに土方歳三は埋まっている 門倉看守部長どの あんたに試練を与えよう」
種繭雌雄鑑別機の繭を置く部分全てにトリカブト、フグ毒、ストリキニーネ、青酸カリなどが致死量含まれている丸薬を入れた繭が置いてある。
丸薬は毒入りと無毒の丸薬が半々で、毒の入った丸薬の対角線上に置いてある繭の中の丸薬は必ず無毒の丸薬が入っている。
門倉が丸薬の入った繭を選び、その対角線上にある繭に入っている丸薬を同時に関谷も飲む。
すると、どちらかが必ず毒を飲み、また同時に片方は無毒の丸薬を飲むことになる。
関谷は当然自分が毒を飲めば死ぬ前に土方を埋めた場所を教えるし、逆に門倉が毒を飲んでしまったとしても、その場合関谷が生き残るので、土方を助けると勝負を持ちかける。
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正座している関谷の腿に小刀を突き刺し、叫ぶ門倉。
「ヒジカタさんはッ どこにいるんだぁ!!」
「経験上 棺の空気はもう残ってはいない」
もってあと30分…、と門倉を真っ直ぐ睨む関谷。
関谷は門倉から視線を外すことなく語り始める。
「俺は意志を持つ人間の運命に興味がある」
「門倉さん…あんたの行く道が正しければ運命は俺なんかじゃなくてあんたを生かすはずだ」
刺青にも金塊にも興味がないんだな、と若干呆れたような表情の門倉。
「それに群がる俺たちが狙いだったのか」
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門倉は、緩慢に回転する繭種雌雄鑑別機を眺めながら考えていた。
関谷の行動原理が”試練”と呼ぶ命をかけた運試しであること。
そして、自分がこういう時に悉くハズレを引く星の下に生まれたということ。
(たとえこの中の一個だけが毒だったとしても俺は引く自信がある!!)
(でも…)
門倉は、ゆっくりと回ってきた繭の一つを選び、その中の丸薬を取り出すと口に入れる。
(そうだとしても俺の命と引き換えに土方さんが生きるのなら…)
門倉が丸薬を飲んだのを確認した関谷は、その対角線上にある繭の丸薬を飲んでぎゅっと繭を握る。
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関谷の直面した残酷な現実
関谷は昔話を語り出していた。
ある日曜日の朝、まだ幼い娘と一緒に家に帰る途中、関谷は突然爆発に見舞われた。
失った意識を取り戻した関谷は、すぐそばに頭と足の先が弾けた状態で倒れていた娘の姿を発見する。
関谷は、時間をかけて、ようやくそれが雷の直撃を受けたことによる被害だと理解したのだった。
「どうして娘が選ばれたのか… どうして俺じゃなかったのか」
「『運』とは神の意志なのか… 俺のような人間を生き残らせるということは神など存在しないのではないか?」
淡々と語る関谷。
一方、関谷と向かい合っていた門倉の顔からは大量の脂汗が流れていた。
「10分で効き出したということはトリカブトだな」
事も無げに呟く関谷。
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「約束は…守れよ…土方さんを…」
苦しそうに言葉を振り絞る門倉。
「いますぐ掘り起こす」
関谷は門倉を見下ろしながら、すっくと立ち上がる。
「俺は…死ぬまで…どのくらいかかる?」
「数時間は苦しむ」
関谷はスコップを片手にひょこひょこと歩きながら土方の元へ向かう。
「冗談じゃねぇや…」
門倉は正座した状態のまま、おもむろにうつ伏せになると、伸ばした左手を種繭雌雄鑑別機に、まるで無造作に手をかけるようにして当てて、床に丸薬入りの繭を落とす。
落ちた繭の内二つから転がり出た丸薬を一息に飲み込む。
(土方さん 申し訳ないです お供できるのはここまでです)
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関谷は、床下に埋めた土方の棺を掘り出していた。
「土方歳三はまだ使えるな フグ毒が効いてるうちに移動させよう」
「次はあのアイヌか牛山にもう一度試練を与えるか」
次の瞬間、棺の蓋を勢いよく持ちげて現れた土方が、棺の前に立っていた関谷の喉をガッチリと鷲掴みにする。
土方が元気なのは、フグ毒がほぼなくなっていたからだった。
土方は関谷との”試練”において、フグ毒を飲んで倒れる。
その際、土方はフグ毒と拮抗して作用を失わせるというトリカブトの毒を、徐々に薄れゆく意識の中で摂取していた。
それはちょうど、フグ毒の致死量を下回る程度の量のトリカブトであり、土方はそれを意図的に行っていたのだった。
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そして門倉も土方と同様に毒の作用から逃れて見事に生還していた。
本来、門倉自身、死を早めるために飲んだつもりの二つの丸薬は、幸い、門倉が苦しんでいたトリカブトの効果を丁度打ち消してくれる量のフグ毒だった。
土方は関谷を壁に押し付けて、そばにある包丁を掴んで関谷の首元あたりに、関谷の左耳を切断しつつ深々と切り込む。
「若い頃に薬売りをやってた経験が役立つとはな… この時代を生き抜くには運だけでは事足りん」
「あれ… なんかおさまったみたい」
知らずに毒を克服していた門倉は、先程までの脂汗が嘘のように、ケロっとした表情を浮かべている。
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第175話 繭の感想
関谷の哀しい過去
どうやら関谷はキリスト教に帰依していたのかな?
日曜朝のお祈りを教会で済ませた帰り、まだよちよち歩きの娘と一緒に歩く家路で悲劇は起こった。
突然の爆発音が、まさか雷とは気づかないよな……。
落雷による死亡という、天文学的な確率の悲劇に遭ってしまった娘。
関谷はこれまで信じてきた神とは一体何だったのかと考えるようになり、その思考はやがて”試練”を生み、やがて関谷の生きがいへと形を変えていく。
悲劇が生んだモンスター。
関谷にとっては”神”及び”運”を試し続けることが彼の生きる目的と化してしまった。
門倉に太ももを刺されてもほとんど動じていなかったのは、単に肝が据わっているからだけではなく、もういつ死んでも良いと思っていたのだと思う。
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あまりにも理不尽な仕打ちを受け、その答えを命ある限り、死ぬまで求め続けたであろう関谷の生き方は寂しいね……。
そんな生き方が、一体何を生み出すというのか。
本来ごく普通の親であり、家畜獣医に過ぎなかった。たった一発の雷が彼の全てを変えてしまった。
それ以来、勝手に他人の運命を”試練”と称して毒で試し続ける内に、そんな彼の邪悪な所業が世間に露見して、網走監獄へ投獄されるに至ったというところか。
やってる事はサイコ以外の何物でもないんだけど、そうなってしまうまでのきっかけがあまりにも辛い。彼は生来のサイコパスなんかではなかった。
ただ過去に娘を失った事故以来、人間性を捨てて一般大衆に対して”試練”を課し続けるだけの機械になってしまった。
やってる事は決して擁護出来ない一方で、人斬り用一郎とはまた全然違った悲しさがある。
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土方の運命
土方が見事に関谷の”試練”を止めたけど、土方の言わば”運命力”が関谷を上回った。
過去に薬売りに扮していた経験があったことは、土方にとっては非常に運が良かったと思う。
土方自身は、この時代を生き抜くには運だけでは足りん、と運だけではなく経験することの重要さを指摘していたけど、その「経験をする」ということを選択したこと自体が土方の運以外の何物でもない。
色々な扮装方法はあったと思うし、実際色々やってるはずだ。
もし他の、別の何かに変装することが気に入っていたとして、その技術に長けていたとしたら、今回のように事態が収集することは困難だったのではないだろうか。
強い人間は運にも恵まれる。自分はマジでそう思っている。
この漫画なら、今回の土方もそうだけど、尾形に頭を撃ち抜かれた杉元だってそうだった。
頭を撃たれた場合、普通は即死が大半だというのに、網走監獄を出た後は大して休みもせずに樺太に旅立った。
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ふと、杉元と土方がもし対決するとしたら、果たしてどうなるんだろうな、と思ってしまった。
正直、初めは杉元が負けても驚かない。
何度か戦って、最終的には主人公である杉元が勝つ、みたいな感じがいいのかな……、何て妄想してしまった。
次回は関谷編の締め+次回の導入って感じかな。楽しみ。
以上、ゴールデンカムイ第175話のネタバレを含む感想と考察でした。
第176話に続きます。