目次
第151話 ジャコジカたちのあらすじ
豊原を前に樺太アイヌの村に滞在
豊原という樺太で最も大きい街を前にして樺太アイヌの村に滞在する事を決めた杉元たち。
鯉登少尉は立派な旅館があるだろうに、と豊原に向かわなかい決定に不満そうな態度を示す。
そんな鯉登少尉に豊原には明日寄っていきましょう、とフォローする月島軍曹。
エノノカが両手の掌に載せた飾りをチカパシに見せ、このホホチリを着けて良いかと聞いている。
それが何のことか分からない様子のチカパシに、北海道のアイヌは知らないのかと問うエノノカ。
そしてエノノカは樺太の男の子は10歳くらいまで額につける飾りであると説明する。
これは自分のオナハ(父)が着けていたホホチリであり、チカパシに着けてほしいのだと続ける。
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麝香鹿
大木の下にいる獣を、初めて見る、と興味深そうに見つめるアシリパ。
キロランケは獣の名が樺太アイヌがオポカイと呼ぶ、麝香鹿だ答える。
そして、牙の生えている様子から雄であることを付け加える。
キロランケ達に気付き逃げる麝香鹿に向けて尾形が銃を構える。
尾形の銃撃で仕留めた麝香鹿の解体の為にキロランケがマキリを取り出す。
麝香鹿は美味いのか、と問うアシリパに、キロランケは肉は美味くないし皮も弱くて使えないと答える。
ただ、雄の麝香鹿には「麝香腺(じゃこうせん)」と呼ばれる分泌物を出す部分があるのだ、と毛皮ごと切り取った麝香嚢(じゃこうのう)をアシリパに嗅がせる。
「くっさいッッ オシッコとアチャのワキのにおい」
顔を歪めるアシリパ。
キロランケは尾形にも嗅がせる。
口を半開きにして放心する尾形。
キロランケは、この麝香嚢の余分な毛を焼き乾燥させることで香嚢の中の透明な粘液が黒い粉になり、麝香という漢方として高く売れるのだと説明する。
「薄めると香水として異性を惹きつける効果があるそうだ」
俺は香水なんぞ無くても女が寄ってくるけどな、と襟を開く真似をしてキメ顔をするキロランケ。
「ふあーうッ 全身が麝香ッ」
白石が煽る。
キロランケは、麝香鹿が決まった寝床を持たないことから樺太においては季節労働者の事を「ジャコジカ」と呼ぶのだと説明する。
そして、ウイルクも自分も若い頃は樺太を放浪していたからそう呼ばれたのだ、と続ける。
「アチャが…?」
アシリパは、キロランケがウイルクに言及したことに反応する。
「そういやウイルクが初めて獲ったのも麝香鹿だったって話してくれたな その場でホホチリを切り落としたんだと…」
ホホチリが何のことか分からない様子のアシリパに、キロランケは、男の子が前髪につけ、ひとりで獲物を斃せたら切り取る小さなガラス玉をつなげた三角の飾りだと説明する。
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ホホチリで思い出すウイルクとの記憶
樺太アイヌの小屋の中。
「クチリ撃ったの谷垣ニシパ助けたでしょ」
エノノカがチカパシの背後に回ってチカパシの額にホホチリをつけている。
「ひとりで獲れたら切ってね」
その様子を見つめる谷垣。
幼い頃、アシリパはウイルクから、前髪に何か飾りをつけてもらっていた。
さらにその際、これは自分がつけていたものだと説明を受けていた。
アシリパは、もう少し大きなったら狩りに行くので、それまで前髪に結んでおきなさいとウイルクに言われていたのだった。
その記憶を思い出したアシリパは、あれがホホチリか、男がつけるものだったのか、と思い当たる。
麝香鹿のおかげで自分の知らないウイルクに会えた気がする、と麝香鹿を前に呟くアシリパ。
「それに忘れていたアチャとのこともひとつ思い出せた」
「……そうか」
キロランケはぽつりとつぶやく。
「良いことだ」
そのやりとりを黙ってじっと見つめる尾形。
釧路で情報収集する土方
釧路。
海岸には小舟がたくさん停泊しており、大勢の漁業関係者が働いている。
そんな中、背負子を担いだ一人のアイヌの恰好をした男がギョッとした表情で何かを発見する。
そこには大量の荷を平気な表情で担ぐ大男――牛山がいる。
周りの女性たちに笑顔で、力持ちね、と等と話しかけられている。
「もっと持てるよぉ~?」
惚けた顔で、しかし大量の荷物を持っている牛山。
お嬢ちゃんたちも一緒に担いでいっちゃうよぉ? と冗談を言い、女性たちを笑わせている。
「お嬢さん方…ちょっとこれを見てくれないか?」
土方は、これが何なのか教えてほしい、と掌の上の何かを女性たちに見せる。
白い何かを見て、見当がつかない様子の女性たち。
何かの爪なのか、植物なのか、と答えは出ない。
土方、牛山、永倉の3人は網走監獄の隠し部屋にあったその白い何かについて情報を得ようとしていた。
犬童四郎助の情報から、刺青を持った囚人の一人である”土井新蔵”が隠し持っていた物だったという。
八年前に土井新蔵は、ここ、釧路の海岸で捕まって網走へと収監された。
その為、土方たちは土井を追う手がかりとして白い何かに目を付けて情報を収集していた。
しかしまだ白い何かが、一体何なのかを知っている人間を見つけられずにいたのだった。
「そこのアイヌの”やん衆”さん」
牛山が自分たちの事を見ているアイヌの男に、今日の寝床を探しているのだがどこか知らないか、と話しかける。
アイヌの男は、ついてこい、と一軒の家に土方たちを迎える。
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エトピリカ
シシャモを振舞うアイヌの男。
男は、本来、釧路のアイヌはシシャモを獲る習慣は無いが、今の時期は一週間ほどだがシシャモが釧路川に押し寄せるのだと説明する。
そして、昔話の中には、アイヌが飢饉で苦しんでいる際に、カムイが柳の葉をシシャモに変えてくれるという話があるのだという。
「いま俺のコタンはひもじくてね 昔話のとおりにシシャモに助けられている」
「うまい!!」
炉で焼いたシシャモを食べる牛山。
「獲って食って感謝してやんなきゃバチが当たるぜ」
「そうそう…ところで」
土方が白い何かをアイヌの男に見せる。
「あんたこれがなんだか知らんか?」
アイヌの男はそれを手に取って眺めた後、土方たちを見つめる
「エトピリカだ」
なんだって? と怪訝そうな表情の牛山。
土方はアイヌの男を真っ直ぐ見つめている。
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人斬り用一郎
アイヌの男は、エトピリカとはアイヌ語で「くちばし」が「美しい」という意味の海鳥の事を言い、そのくちばし部分なのだと答える。
エトピリカの異性を惹きつける為の飾りで、繁殖期が終わると剥がれ落ちるのだという。
良く知ってるな、と永倉。
「和人はエトピリカなんて獲らないからな」
アイヌの男は、自分たちは毛皮を使って”チカプ・ウル(鳥皮衣)”といった服を作ったりするのだと答える。
さらに男は、北海道の太平洋側でしか獲れないシシャモと同様に、エトピリカは釧路よりも東の「根室」の方にしかいない鳥なのだと続ける。
それを聞いた土方は、奴に近づいているのかもしれんな、と呟く。
気を引き締めておけよ、と牛山に呼びかける永倉。
「あのジイさんあんたらよりもさらにいくつか上だろう?」
牛山が永倉に問いかける。
「あんなヨボヨボでも用心しないといけないのか?」
「土井新蔵は偽名だ」
土方が鋭い表情で牛山に、大昔に京都であの男に会った事があると答える。
「『人斬り用一郎』 幕末に要人など何人もの暗殺を行った殺し屋だ」
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第152話 人斬り
ヨボヨボのじいさん
冬毛を蓄えたエトピリカが飛んでいる。
根室の漁場では、労働者に混じってヨボヨボのじいさんも働いていた。
魚で満たされた容器を背負い、往復している男たちの中に、同じように背負ってヨタヨタ歩くじいさん。
魚を運び、新しい魚を求めて海岸に向かう男とじいさんがすれ違う瞬間、じいさんは男にぶつかり地面に倒れ、背中の魚を零してしまう。
ぶつかった男はじいさんに文句を言う。
じいさんの後ろを歩いていた髭の男が、じいさんとぶつかった男に対して、若いんだから避けろよ、と言う。
そして、じいさんの体を後ろから支える。
髭の男に食って掛かる、じいさんとぶつかった男。
髭の男は、大丈夫か、と親切にじいさんを立たせてやる。
すまんのぉ、と呟くじいさん。
口をモゴモゴさせて再び歩き始める。
じいさんとぶつかった男はじいさんを睨みつけながら、あのジジイ見てると気が滅入る、と背中を睨む。
そして、アイヌでもないのになぜアイヌの服を着ているのか、と続ける。
近くを通った別の男が、アイヌの厚司(あつし)は乾くのが早い、と答える。
知らないのか? と言われ、男は今度は別の男に食って掛かる。
休憩。
髭の男が地面に座っているじいさんに、家族は? 故郷は? 名前は? と矢継ぎ早に質問する。
じいさんは口をモゴモゴさせ、さあ…何だったかな、と呟く。
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追っ手
根室の街中。
スーツに身を包んだ男たちが会話している。
「人斬り用一郎」を探して殺そうとしている男たち。
たとえ用一郎を殺したとしても、犬童典獄が死んだ事により、引き渡す相手がいないのだと説明する眼鏡の男。
しかし説明を受けた片目の男は、ここで手を引いたら依頼人から報酬がもらえないと答える。
眼鏡の男は「人斬り用一郎」が網走監獄に入っていた頃の看守だった。
別のいかつい男は、眼鏡の男だけが用一郎の顔を知っている為、金を払うから最後まで付き合うようにと言う。
眼鏡の男は、他にも用一郎の捜索を命じられた看守がいるので急いだほうが良い、と答える。
さらに、犬童は幕末に用一郎に暗殺された要人の遺族にも声をかけており、地位が高く金持ちな彼らからも刺客が送られているだろうと続ける。
手がかり
根室アイヌのコタン。
土方たちは村長から、土井新蔵がこのコタンに住んでいた事を知る。
土井の事を良く知っているという村長は、土井は30年程前にコタンにやってきてアイヌの女と結婚したと説明する。
その後、しばらく静かに暮らしていたが、8年前、土井に恨みを持つ和人がその妻を人質にさらう。
妻を取り戻す為に誘拐犯を殺した土井新蔵は網走監獄へ収監されるが、病気の妻の死期が近い事を知った土井は脱走したのだという。
そして、妻の死を看取った後、コタンを出て近くの漁場で働いているのだという。
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解雇される
漁場。
労働者が働いていが、じいさんは働かない。
あらぬ方向を向き、ブツブツと何かを呟く。
そんなじいさんの様子に労働者たちは文句を言う。
今朝、寝小便をしたというじいさん。
男は、自分のじいさんも似たような感じで寝たきりになり死んだと別の男に言う。
建物の中でわいわい賑やかに食事をしている労働者たち。
しかしじいさんはその輪から外れ、ぽつんと座っている。
その前に二人の男が立っている。
二人の男はじいさんに、昼飯を食ったら荷物をまとめてくれ、と告げていた。
じいさんを雇用している二人の男は不愛想な表情で、自分で歩けるうちに出て行って欲しい、と続ける。
じいさんは返事をせず、口をモゴモゴさせている。
労働者たちはその光景を横目で見ながらため息をつくばかり。
じいさんを庇った髭の男も、黙ってその光景をじっと見つめている。
建物の扉が開く。
入口に立ついかつい男たち。
ちょび髭の男がじいさんを指を差す。
いかつい男が建物にズカズカと上がり込む。
「貴様が『人斬り用一郎』か?」
男はじいさんの目の前に立って問う。
「…『人斬り』!?」
労働者がブーッ、と吹き出す。
他の男も、そのもうろくジイさんが? と揶揄うように笑う。
いかつい男は二人に睨みを利かせて黙らせる。
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土方登場
人違いじゃないのか? と髭の男がその場を諫めようとする。
「人斬りとは真逆の人間だぞ」
ちょび髭の男は、用一郎の上半身に刺青があるはずと指摘。
いかつい男が取り巻きの鼻の高い男に確認させると、じいさんの上半身には刺青がある。
労働者たちの間に動揺が走る。
髭の男もそれが信じられず絶句する。
「『池田孫七郎暗殺事件』をおぼえているか?」
いかつい男が刀を抜き放つ。
「父上の仇だ」
取り巻きの鼻の高い男も手斧を構える。
「死んでわびろ」
いかつい男の掲げた白刃が光る。
それに反応するように、じいさんは両目もギラつかせる。
じいさんの視界に入っている男たちの姿がギラギラと変わっていく。
本来はスーツを着ているはずなのに、着物を着てちょんまげをした姿に変わっていく男たち。
用一郎は鼻の高い男の手の親指を反対に折り、手斧を奪い取る。
奪い取った手斧を男たちの爪先に無駄のない動きで容赦なく振り下ろす。
悲鳴を上げて一斉に床に倒る男たち。
「列に並べ」
さきほどのヨボヨボ具合とは打って変わって、用一郎の目に殺気が宿る。
「この『人斬り用一郎』を殺したい奴なんぞたくさんいる」
爪先に手斧を食らった男が、用一郎に向けて刀を振り上げる。
突如、その頭に打ち込まれる銃弾。
建物の入口には一人の男が銃を構えて立っている。
男が用一郎の視界に入り、その姿が変化していく。
「私が『列の先頭』だ」
用一郎の目に映っていたのは若き頃の土方歳三だった。
「新選組副長 土方歳三」
用一郎は鋭い目で土方を睨み上げる。
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152話の感想
かっこいい爺さんたち
人斬り用一郎が強すぎる。動きに無駄が無さ過ぎ。
幕末に名を馳せた暗殺の達人は、土方と同じく老いてもなお強い。
用一郎の視界に入った標的が着物にちょんまげ姿に変わっていくのは人斬りモードへの切り替えではないか。
幕末、暗殺を繰り返していた頃の感覚を思い出している?
標的の姿がギラッギラッと切り替わっていく演出からはSFっぽさを感じた。
しかし、そんな用一郎の持つ過去は哀しいものだった。
人斬り用一郎として生きた幕末の後、明治維新後は根室アイヌのコタンにまで流れた。
おそらく、穏やかな生活を望んだのだろう。
しかし、暗殺稼業に身を染めてきたことによりあらゆる人間から買ってきた恨みは多かったようだ。
それは、根室アイヌのコタンで慎ましく生きていた用一郎から、彼が享受していた幸せを奪っていった。
おそらくは還暦かそれ以上の歳で妻をさらった犯人を追跡し殺すという壮絶な人生。
網走監獄に収監されるが、妻の死期が近い事を知って脱獄して妻の最期を看取る。
しかし、妻に先立たれるのは用一郎にとっては想定外だったのかもしれない。
おそらく、妻となったアイヌの女性は年下だったのではないか……。
その後、漁場で働きながら生きてきたというが、それはさながら死んでいたのと同然の人生だったのか……。
悲惨だが、それでも人は生きてる限り、生きなくてはいけないんだな……。
老いと人生というものを考えさせられた気がする。
次回は人斬り用一郎と土方の戦いか。すぐに決着がつくのかな。楽しみ。
以上、ゴールデンカムイ第152話のネタバレを含む感想と考察でした。
153話の感想記事は上記リンクをクリックしてくださいね。